魔法少女リリカルなのは外伝   作:紅@あの丘の向こうへ

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17.受け継がれるもの

 

0068年十二月二十日。ミッドチルダ地上本部。

 

 

『我々の同胞、我々の生活、そして人々の自由そのものが、一連の意図的で殺人的な犯罪行為によって脅かされた』

 

 

あの歴史的な戦いから、一週間が経った日の夜。

 

ライリー・ボーン二等空尉、並びに死亡したサイファー隊の隊員たちの告別式は、ミッドチルダ地上本部の多目的ホールを貸し切って厳かに催された。簡素な祭壇に、地球の日本に伝わる方式従った、菊や蓮華、色とりどりの華々が几帳面に飾られ、中央には、一連の事件の始まりでもあった、あの合同演習直前に撮られた機動一課サイファー隊の集合写真が豪勢な額縁に納められ飾られていた。

 

そして、その祭壇の前には、遺体無き棺桶がサイファー隊に所属していた人数分の数だけ置かれている。

 

 

『尊き命が、この邪悪で排除すべき犯罪の犠牲となった』

 

 

告別式には、新生サイファー隊のメンバーであったティーダ・ランスターやヴィータに、シグナムと、あの合同演習現場からの唯一の生き残りであるサイファー隊、隊長グラハム・アーウィン三佐を始め、殉職した隊員たちの遺族や、長年親しみのあった者、そして、ミッドチルダ地上本部防衛戦に参加した魔導師たちも参列に訪れた。

 

 

『燃える炎、愛すべき友人や同胞を次々と墜とし、死に追いやった憎むべき行為は、我々の心に忘れること無い悲しみを残し、そして決してやむことのない、かつてない怒りの念を残した』

 

 

訪れた誰もが悲しみに暮れる中、管理局中将であるレジアス・ゲイツの表明演説が、モニターに写し出されていた。

 

 

『今回の事件は、我々、時空管理局を混乱と恐怖に陥らせ、退かせようという狙いによるものだろう。だが、敵はすでに失敗していると言える』

 

 

そう勇ましく語るレジアスを写すモニター。式に参列していた私は、それをぼんやりと眺めていた。

 

今回の事件、ダインスレイヴ事件は、管理局側による勝利で収束した。ライリーが、ダインスレイヴを持ったアーチャー・オーズマンを止めた後、各空域でヘイズレグ制圧の報が次々と地上本部や、地上拠点へ届いた。ミッドチルダで初めてとなった都市型テロは、あっけなく幕を閉じた。

 

 

『今回、ミッドチルダまでの侵入を許してしまった犯罪行為は、我々、時空管理局を揺らがすことはできても、我々の敗北を手にすることはできなかった。我々の同胞の血を流すことはあっても、我々の決意を砕くことはできない』

 

 

首謀者であるアーチャー・オーズマンは、捜索隊が海上沖で発見され、保護及び逮捕となったらしい。捕縛されたアーチャー・オーズマンの裁判は、近い内に執り行われることになるだろう。

 

 

『我々、時空管理局が標的となったのは我々が世界における自由と規律を示すモノだからだ』

 

 

アーチャー・オーズマンが持っていたとされたロストロギア、ダインスレイヴは、〝あの戦闘〟を境に消息を断ち、捜索から二日が経過した今でも反応は感知されず、アーチャー・オーズマンの供述通り、「破壊」されたと管理局の捜査本部によって結論付けられた。

 

 

 

『故に、その明かりを愚かな犯罪などという悪意ごときで消すことなど、何人たりともできはしない!』

 

 

そして、ダインスレイヴを破壊した当人であるライリー・ボーン二等空尉は、二度と管理局に戻ってくることはなかった。

 

 

****

 

 

0068年十二月十三日。ミッドチルダ上空。

 

直前まで繋がっていたライリーとの音声通信は、凄まじい爆発とノイズで遮断されてしまった。ライリーとアーチャーが戦う空域の直ぐそばまでファーンは到達していた。

 

「ライリーさん!」

 

いきなり響いた爆音にファーンは思わず両手で耳を塞いだ。ノイズの中に問いかけた返事は返ってこない。ファーンの身体中の血の気が失せていく感覚を覚えた。

 

【―…大丈―!…だやれる!―】

 

ノイズの中、微かにライリーの言葉が途切れ途切れに聞こえてきた。良かった、とほっと安堵したファーンは、再びライリーに声を掛けようと口を開いた。と、そのとき、張り裂けそうな爆音と、スピーカー越しにまで届いてきそうな衝撃音が、ファーンの鼓膜を突いた。

 

【ダインスレイヴから強大な魔力反応を確認! 各員、衝撃に備えろ!】

 

あまりの音に、再び耳を塞ぐファーンへ、爆音の中からオペレーターや隊員達のオープン回線が聞こえてくる。

 

「ライリーさん! 応答してください!」

 

雑音の中、ファーンは必死にライリーへ呼び掛けた。ファーンの向かう先から光が見えた。遠くの方ではあるが、蒼と緑の混ざったような大きな光が見えた。光が広がっていく最中、後からやって来た爆音と爆風が飛行するファーンの体を揺さぶる。

 

【ダインスレイヴからの放出エネルギーが収束していく…? なんだ、この暖かな光は…】

 

暖かさを孕んだその光は辺り一面をまるで太陽のように照らしながら広がって行った。その光は、その場にいた航空部隊や地上部隊、更には敵であるヘイズレグをも照らし、戦いによって研ぎ澄まされた感覚を持つ全員が、その違和感を感じ取った。

 

その違和感は何だったのか、未だに分ることはないが、それは確かに暖かく、優しい温もりを感じさせるものだった。

 

【光が、消えてゆく…】

 

光は少しずつ収束し、やがて一線の筋となって完全に消え失せた。

 

【ダインスレイヴの反応、ロスト!】

 

光が閃光となって消え去った直後、レーダーから今まで激しく反応していたダインスレイヴの魔力反応が跡形もなく消えた。

 

【繰り返します!ダインスレイヴの反応、ロスト! ダインスレイヴの反応、ロスト! 脅威は去った!私たちの勝利です!】

 

繰り返されるその報告に、オープン回線で繋がっていた隊員たちや空戦魔導師たちが凍り付いていた様子から一変して歓喜の声を上げ始めた。

 

【やった…! やったんだ!】

 

ファーンはあまりの出来事に、全身が震えるような感覚を覚えた。あの人は、ライリーさんは本当にやってのけたのだと。

 

「やったんですね! ライリーさん!」

 

ファーンは通信先であるライリーの回線へ、心から嬉しそうにそう語りかけた。だが、帰ってくるのは先ほどと変わらない、ノイズの音だけ。

 

「ライリーさん? ライリーさん、応答してください! ライリー・ボーン二尉!」

 

何度呼び掛けても砂嵐のようなノイズの中から、帰ってくる言葉は無かった。

 

 

 

 

〝レストランの予約、忘れんなよ?〟

 

 

 

 

ファーンの頭に、出撃直前に交わしたライリーの笑顔が過ぎ去った。

 

「そんな…嘘と言って…ライリーさん…!」

 

そのどれもがもう思い出にしかならないんだ、と。そのどれもがもう、二度と戻ってこない出来事なのだ、と。心のどこかで、そんな最悪の答えを見つけてしまったことを拭い去るように、ファーンは返事が返ってこないモニターに向かって、無力に小さく、何度も彼の名を叫んだ。

 

 

****

 

 

『最初の攻撃の直後、私は我が時空管理局での緊急対応計画を発動させた。我々は強く、即応できる設立された特務隊は、迅速かつ正確に負傷した管理局魔導師や現地での救援活動、および治安維持を勤め、それを全うしている』

 

 

防衛戦が収束したあと、ファーンは動ける特務隊メンバーと、現場に残っていた航空隊員を率いて、連絡が途絶えたライリーの捜索に向かった。何度も探した。

 

どこまで続く海原を、変わりの無い景色を、海面に映る陽の光ひとつも見逃すことの無いように探した。

 

朝も、昼も、夜も。

 

 

『我々の優先事項はまず負傷者を助け、これ以上の犯罪による被害から市民、引いては世界を守るため、あらゆる予防措置を取ることだ』

 

 

大規模な魔力爆発の中心にいたんだ。遺体なんか残っていない。仮に生きていたとしても。誰もがそう諦め、管理局へ帰投していっても、ファーンは探し続けた。捜索隊が編成され現場から離れるように言われても、同僚である女性魔導師から休むように言われても、ファーンは晴天とは変わって、今にも雪が降りそうな真冬のミッドチルダの空の下でライリーを探し続けた。

 

何度も、何度も、何度も。

 

 

『時空管理局の管理機能は滞りなく働き続けており、既に、この邪悪な行為の背後にいる者たちの捜索は進んでいる。私は司法当局に対して、責任ある者を発見し、裁きを受けさせるため全力を挙げるよう指示した。我々はこれらの行為を犯した犯罪者どもと、彼らをかくまう勢力を区別はしない』

 

 

管理局上層部の下した判断は、《捜索期間は二日間のみ》という、あまりにも冷たいものだった。

二日に及ぶ捜索の末、ついに彼は発見できなかった。彼の遺体すら。

 

 

『今回の事件で尽力してくれた管理局魔導師全員に、そして、ミッドチルダを守り通し、散っていった英霊に、私は感謝の言葉を送りたい。この時から我々、管理局は平和と安定を求めるすべての勢力と一緒になり、世界に蔓延する凶悪犯罪に対する戦いに勝つために立ち上がる』

 

 

上層部として、ライリーは死んだ方が良かったのではないだろうか?

 

彼が死んだほうが、彼をミッドチルダを守り通した英霊と昇華させ、英雄に祭り上げて、人々の人気や注目を集められるのだから。

 

民間からの支持が低迷していた管理局にとっては都合が良かったのではないか?

 

だから、捜索期間は二日間という限定されたものにされたのじゃないのか?

 

 

『今日この日は、人々が、正義と平和実現のための決意の名の下に団結する日だ。我々はこれまでも敵に立ち向かってきた。そしてこれからも我々は敵に立ち向かい続ける』

 

 

遺体の無い棺の前で、散々泣き通したファーンの頭の中に残ったのは、そんな下世話な思考だけだった。演説するレジアス・ゲイツを、ファーンはぼんやりと無気力な瞳で見ていた。

 

「ファーン・コラードさん」

 

ふと、参列していたグラハムがファーンに声をかけてきた。彼もまたファーンと同じように、途方もない後悔と無力さに打ちのめされたような表情をしていた。

 

「お互いに、辛いですな…まったく」

「引退、されると聞きました。グラハムさん」

 

しばらくの沈黙の後、ファーンは穏やかな口調でそう告げた。それに続くように、今度はグラハムが気まずそうに口ごもった。が、答えは早かった。

 

「私はもう、飛べませんよ。残すべきものに気づきながら、それも一緒に全部失ってしまった…。この左腕と一緒に」

 

グラハムは左腕の再生治療を受けないと決めていた。

 

自分に対する戒めだとか、罰なだとか、そんなことは考えていない。ただにこの傷は証だった。自分の力不足差が招いた結果なのだと言い聞かせるための。二度と同じ過ちを犯さないという証。

 

沈黙の中、ファーンは過ぎたライリーの面影を辿っていた。

 

彼は言った。〝仲間を守るために空を飛ぶ〟と。

 

ならば自分は、どう彼に答えてあげればいいのだろうか。一人で大勢を守ることに限界を感じている自分は、彼の信念になんと答えればいいのだろうか。ファーンは自分にできることは一体何かを考え、その答えを決めていた。彼の居ない棺の前で。

 

「グラハムさん」

 

ファーンの声を、グラハムは黙って頷いて聞いていた。彼女が決めるであろう道は、直観的ではあったが心当たりはあった。もう手配も終わっている。

 

「以前、貴方に声をかけて頂いた訓練学校の教導官のお話ですが―――」

 

 

****

 

 

『我々はこの日を二度と忘れはしない。我々は前進し、自由と世界中の善と揺るぎ無き正義を守るのだ!』

 

 

モニターの中の演説が終り、拍手の中、レジアスは舞台を降りていく。それを見届けずに、ファーンは足早に式場を後にした。歩幅を緩ませずに歩き続けると、式場の空気や、管理局内の喧騒はやがて聞こえなくなっていった。

 

 

この日。

 

戦技教導隊第一航空中隊所属のファーン・コラード一等空尉は、第一線である空から、降りることを決断したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0076年4月。ミッドチルダ衛星軌道拘置所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たい監獄の中にいるアーチャーが腰かける簡素な丸椅子が、ギシッと軋んだ。その音は、窓ひとつ無い面会室の壁中に反射して、ガラス越しに監獄の外にいるなのはには、低く響いて聞こえてきた。

 

「これが、お前が知りたがっていた八年前の事件のすべてだ」

 

あの日から、もう八年の月日が流れた。面会室で、分厚いガラスの向こう側にいる高町なのはへ、アーチャーは気だるそうに昔話の終わりを告げる。喜劇とも、悲劇とも取れる、なんとも皮肉な昔話のあっけない終わり。

 

「俺はあれから投獄された身、あの事件に関わったやつらのその後は知らねぇ。聞きたいんだったら、他を当たりな」

 

反管理局武装組織ヘイズレグ。

 

その首謀者であり、生き残った男であるアーチャー・オーズマン。彼は管理局の司法裁判に掛けられ、ミッドチルダ衛星軌道拘置所に投獄された。皮肉なことに、多大な犠牲を支払った管理局とは裏腹に、ヘイズレグの死傷者は、自爆特攻した数人を除くと怪我人だけという被害で治まっていた。

 

アーチャーが愚かだと嘆き、ないがしろにした「非殺傷設定」に生かされたのだ。捕らえられたヘイズレグのメンバーは、それぞれミッドチルダの司法によって裁かれ、ある者は未だに投獄され、またある者は釈放され自分達が否定した矛盾した平和の中を生きている。

 

アーチャーは未だに前者のままであったが、当の本人にとって、そんなことは、もうどうでもよかった。

 

「過去を洗いざらい調べられてな。情状酌量の余地はあると、誰かが進言してくれたらしいが、そんなもん長い間ここに居れば、気休めにもなりゃしないさ」

 

投獄されてから八年。

彼の 精神を磨り減らすにはあまりにも時間がありすぎた。いや、自分がここまで「アーチャー・オーズマン」という人格を磨り減らしたのには、もっと別の理由もある。

 

「…アーチャーさん。貴方は、後悔しているんですか?」

 

ガラスの向こう側で、悲しげな表情をする高町なのはの言葉に、アーチャーの表情は少し変わった。

 

「…お嬢さんよ。それを聞くのは、野暮ってもんだぜ?」

 

茶色の眼光で自分の目の前に座るなのはに向けた。アーチャーはさっきまでの虚ろな目付きとは違い、一切の後悔も見せない顔つきで彼女と向き合った。

 

「…あの日、アイツに敗けたあの瞬間に、アーチャー・オーズマンって男は死んだんだ」

 

八年前、持てるすべてを、全身全霊を持って挑んだ戦いの中で、閃光の中で垣間見た敗北。それは、アーチャーの身体を傷つけた訳ではない。ましてや、死に追いやるような恐怖を与えられた訳でもない。

 

「そうだ。俺は死んだんだよ。身体でもなく、敗けた焦燥感でもない。けれど確かに、アーチャー・オーズマンは殺された。今の俺はただの犯罪者のろくでなしだ」

 

ライリーに折られた心も、諦めさせられた信念も、もう二度と猛るように甦ってはこなかった。過去に捕らわれ続けた想いも、憎しみも、悲しみも。目の前に広がったあの暖かな閃光にすべて持っていかれたような感覚で、あの日以来、その気持ちはすっかり萎えてしまっている。

 

あれだけ答えを求め続けた、「本当の正義」を探す気力も。

 

「高町なのはさん、そろそろ…」

 

ガラスの向こう側にいる彼女の背後。扉を隔てるように立っていた強面の警備員が、控えめに彼女へそう促した。面会時間が終わる頃合いなのだろう。

 

「…お話を聞かせていただき、ありがとうございました」

 

なのはは、神妙な面持ちでアーチャーを見据えるとそれだけ言って席を立った。

 

「おい」

 

局員に促されるまま面会室を出ようとしたなのはを、アーチャーは引き止めた。促していた局員に、小さく一礼すると彼女は再びアーチャーと対面する。

 

「聞くだけ聞いといてなんだが、アンタはこれからどうするんだ?」

 

アーチャーのその問いに、なのはは少しだけ言い辛そうな表情をして答えた。

 

「ライリーさんの…お墓参りに、行くつもりです」

 

申し訳ないようにそう答えた。過去に切り捨てた焦燥感がほんの一瞬、アーチャーの脳裏を掠めた。「気に掛けてくれてありがとう」それに似た言葉が喉まで出掛けたが、アーチャーはグッと抑え込んだ。俺には、そんなことを言える資格なんて無い。自分はライリーを殺し、ライリーは自分を殺した。その漠然すぎる過去に今も向き合うこともできず、自分は死んだようにこの監獄の中にいる。毎日を単調に生き、ただ息をしているだけの有機物に成り下がっている。今の自分に彼女へそんな言葉を掛ける資格なんて無い。これまでも、そしてこれからも。

 

「そうかい、なら俺からの最後の質問だ」

 

いきなりそう言い出したアーチャーに、なのはは驚いたような表情をした。こちらからの問いかけがそんなに予想外だったのだろうか? なのはの反応にアーチャーは呆れた様子でクスリと笑う。

 

「昔話を聞かせたんだ、最後に俺の質問くらい答えてくれよ」

 

恐らく、自分は彼女と会うことはもう二度と無い。罪の贖罪に生きる自分と、管理局のエースオブエースである彼女。生きる道も、生きる場所も違いすぎる。だったら最後なんだ。アーチャーには、最後にどうしてもこの場に訪れた「高町なのは」に問いたい言葉があった。

 

「高町なのは、あんたは、何のために管理局の魔導士をやってるんだ?」

 

アーチャーの、真剣さを帯びた眼が、まっすぐとなのはへ向けられた。八年前。あれだけの怪我を負って尚、なぜお前は空にいる? 何を思って空を飛ぶ? 頑なにその気持ちと思いが腐りきったアーチャーの心に久しく衝動を与えた。

 

なのはのアーチャーからの最後の問いかけにしばらく思いを巡らせた。

 

八年前の大怪我。

 

過酷なリハビリを乗り越えて、なのはは再び管理局へと戻った。その時は、ただがむしゃらに戻ることを望んだ。そこが自分の居場所、自分が望んだ場所であり、選んだ道だったから。

そして半年前の「JS事件」解決の時。あのときも、ヴィヴィオを救うために、また無茶をしてしまった。それが祟って身体に後遺症を抱えてしまった事。そのときに主治医でもあるシャマルに長期の療養を勧められるた事。この手の傷は休んでも完治しない可能性がある事。

 

けれど、八年前の大怪我の時とは違った。今は自分で見つけ出した答えがある。

 

落ちてから後悔しても遅いとよく言われるけれど、そもそもずっと飛び続けていることなんて誰にもできない。だから、飛ぶことをやめるときまでに何を残せるか。それが、「高町なのは」が第一線を退かないという決意を表した言葉だった。

 

そして何より、なのはには空を飛ぶ理由がある。今まで、出会ってきた人たち。厳しい人も、優しかった人も、支えてくれた人も。そのすべての人が与えてくれた、高町なのはが信じる『善』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲間を、大切な人を守る為に、私は管理局で魔導士になりました。そしてその心を部下や皆に伝える為に、私は魔導士を続けます。飛ぶことができなくなるまで―――」

 

ニコリと微笑んで言うなのはが、一瞬、アーチャーには誰かと重なっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アーチャーは魔導士として夢とかあるか?』

 

掠れかけた、遠い記憶の中。

 

訓練所の後片付けをしながら、ライリーはアーチャーに何気なく、そんなことを言った。

 

『夢ぇ?』

 

アーチャーは道具を掃除しながらライリーにそう聞き返した。管理局の魔導士になって持った夢を彼は聞いてきたのだ。

 

『あるだろ?管理局に入ったならさ』

『…さてな、お前から言えよ。相手に聞くならまず自分から、だろ?』

 

その時のアーチャーは、自分を誤魔化すのに必死であったが、当の聞いてきた本人は、どこか楽しそうだった。

 

『そうだな…俺の夢は』

 

蒼く写る空を見上げながら、彼はどこか照れ臭そうに、しかし偽りはなく、まっすぐとした声色で答えた。

 

 

 

――――変わることのなかった、彼がずっと貫いた信念を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、ははは」

 

なのはが去った面会室の中で、アーチャーは可笑しそうに小さく笑っていた。

 

「あの嬢ちゃん、よりにもよってお前とおんなじこと言いやがった」

 

過去に過ぎ去った相棒と同じ言葉。彼女と彼の中での意味は違えど、目指す場所は同じ空。こんなに簡単で、こんなに明確で、こんなに単純な解にたどり着くまで、自分は一体どれだけ遠回りをして、どれほど大切なものを取りこぼして、失ったのだろうか。

 

「あぁ、そうか。そうだったんだな」

 

気持ちは、思いは伝わり、繋がっていく。

 

本当に、自分は何もかも気付くのが遅い質らしい。アーチャーは冷たい監獄の中、空を仰ぐ。見上げた先は確かに、冷たい天井だが、アーチャーには、はっきりと見える。どこまでも蒼く、どこまでも続くようにある―――。

 

 

「相棒、お前は飛んでいるか? あの日のような突き抜けそうな―――蒼い空を」

 

 

澄み切った、青きミッドチルダの空を―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――NEXT

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