魔法少女リリカルなのは外伝   作:紅@あの丘の向こうへ

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エピローグ

 

 

そう遠くない未来。冬、ミッドチルダのどこかで。

 

 

 

 

ミッドチルダにも、アイツが好んだ「地球」と同じように、四季と言う季節がある。その中でも「冬」というのは寒いものだ。そしてこの時期になると俺は否応なく思い出す。

 

あの冬の記憶を。

 

久々に戻ってきたミッドチルダの冬は、あの日の冷たさを感じられないほど、穏やかなものだった。

 

もっとも、この世界の気候は、どんな世界の人間であったとしても比較的過ごし易い。

 

見上げた空は、まるであの日と変わらない晴れ渡ったものだった。頬を打つ風は穏やかで、降り注ぐ陽の光は、身をすっぽりと埋めているような陽気だ。

 

空を見上げながら俺は想う。その暖かさはどこか、いつかの光の中で感じた温もりに似ていた。この風を、アイツも今同じように何処かで感じているのだろうか。綺麗な墓石に埋め込まれた名前を指先で辿る。

 

そこに刻まれたのは、相棒だった男であり、親友だった男であり、俺が殺してしまった男の名。

 

「…あぁ、久しぶりだな。元気だったか?…相棒」

 

遺体のない墓の前で、俺は精一杯優しくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

俺は、今までこの場所を頑なに遠ざけ続けた。

 

すべてを捨て、失ってから気が付いた、かけがえの無い友の存在の大きさ。

 

そして、この場所に訪れる資格など自分には無いんだと、ずっと思い続け、咎め続けてきた。記憶に残る暖かい記憶。今でも叶うことのない考えに取り憑かれそうになることもある。自分に残っているものなんて、わずかに霞める思い出の残像と、未だに拭いきれない喪失感と痛みだけだ。

 

いつの間にか歳月は簡単に過ぎていて、すべてを失ったのがもう遠き過去に思えるほどの歳月が経過していた。

 

そして、俺は、この場所に来る事を決めた。

 

 

墓標の周りに供えられた小さな花びらが少しばかり温かな風に乗り、ふわりと揺れていた。

 

彼の名ばかりの墓は手入れが行き届いていた。まるで誰かがよくここにきては手入れをしているような、そんな清潔感があった。

 

きっと、誰かが忘れないでいてくれている。彼の魂は受け継がれて、今も灯火として生き続けている。

 

名も知らぬ、魔導士たちの中に。

 

「…悪いな、相棒。俺はまだお前のようには成れないみたいだ」

 

今はもう話すことも出来ない、遠い過去の友に、俺はそう告げた。

 

この瞳には、もう迷いはない。真っ直ぐとした光が灯っている。

 

これからは、何回も思い出しては、後ろを振り返るだろう。悩みもする。悲しみに押しつぶされそうにもなる。拭いきれない喪失感はずっと残り続ける。

 

…だけど、大丈夫だ。

 

生きている限り俺は、もうこんな悲劇が誰にも起こらないように、そんな未来を願い、そんな明日へ一歩でも近づけるように進み続ける。

 

あの日のお前と同じように。

 

何時か俺も辿り着くであろう、その先に居るアイツと、また語り合うことを楽しみに、今は前を向いて生きていく。風が吹く。それが、アイツ代わりのようにふわりと微笑んだような気がした。

 

「じゃあな―――ライリー。俺は、行くよ」

 

供えに持ってきた花束を置き、俺は歩き出す。

 

アイツが示した、「明日」と言う道を。

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは外伝 ミッドチルダの空

END.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜のとばりが下りる中で、誰一人として居ない部屋に訪れたレジアスは、僅かだが無数に光る遠くの明かりを眺める「影」と密会を果たしていた。

 

そこには誰もいない。

 

いるのは闇に手を染め始めたレジアスと、まるで影のように揺らめきながら、闇に包まれるクラナガンの町並みを見渡す「彼」だけが居た。

 

 

「見事な演説だったよ。レジアス・ゲイツ中将」

 

 

バルコニーに立つ「彼」は、満足するように明かりが点っていない部屋に佇むレジアスにそう告げた。

 

だが、その声色に喜びや穏やかさは無く、ざらつくような低い声は、レジアスに底知れない不快感を覚えさせていた。

 

「新しい管理局の発展への門出だ。彼らも喜んでいるだろう、監獄の中でな」

 

レジアスは「彼」のその言葉を聞いて眉をひそめた。

 

「ダイン・シーファ。貴様は一体―――」

 

レジアスは食い下がった様子でそう言葉を吐いた。レジアスがダイン・シーファと呼んだ「影」が振り返る。冷たい刃のような眼光で突き刺され、レジアスは言葉を無くしてしまった。

 

「私を貶すのはお門違いだぞ、レジアス中将。君もまた、同じ泥の中で生きるしか術がない、我々と同じ側に居る人間なのだからな」

 

レジアスはダイン・シーファの言葉に全く反論できなかった。レジアスはあの船の中で、この事件の真の目的を理解していた。

 

そして、それに便乗し、自分が理想とする「武力による犯罪行為の抑制」へ繋がるように、自分の好都合になるように事件を処理した。ライリーたちが決死の空中戦を繰り広げる中で、彼は合意の上で造反を企てた派閥の高官を取り押さえた。管理局の一派が、この事件に協力した事実を隠蔽するために。

 

「時間はかかった。が、事は全て理想通りに運ばれて行く。貴方は何も心配することはない、レジアス中将」

 

バルコニーの手すりに両手を乗せるダイン・シーファに、レジアスは苛立つような表情をしたが、しぶしぶ「彼」の言葉を理解する。その表情は堅く、暗く、怒りをはらんでいた。

 

「―――世界の発展には、いつも『闇』が付きまとう」

 

しばらくすると、レジアスは部屋から出ていってしまった。

 

誰もいなくなったバルコニーの中で、ダイン・シーファは光を照らすクラナガンの街並みに這いよるように広がる闇を愛でる。光に這いよる闇の如く、この急ぎ過ぎた発展には必ず闇が生まれる。なら、その闇は何を成すか? それは今までの歴史が証明してきている事と同じだ。

 

「捕縛された高官はどうしますか、マスター」

 

誰も居なかった筈の場所に、いきなり目元まで深くフードを被った線の細い人物が現れた。男女とも区別できない容姿で、まるで機械音声のように聞こえてくる単調なその言葉。そこには既に生気を感じなかった。だが、それは「彼」にとったら合格ラインである証。

 

 

「お前の初仕事をやろう。関わった全員の口を封じて見せろ――フェイク。我が若き『闇』よ」

 

 

背後で控える自分と同じく「闇」に生きる若き者に、ダイン・シーファは目をぎらつかせながら応える。大きな局面を迎える管理局、そして世界は大きく変わる。血を流す争いを続ける限り、彼らは更なる進歩へと歩む。自らの滅びも顧みずに。

 

 

彼は見渡す。

 

小さな光を握り潰すように手を握ると、笑っているだけだった。

 

 

 

 

 

 

――NEXT OPEN YOUR TRUE.

 

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