魔法少女リリカルなのは外伝   作:紅@あの丘の向こうへ

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この小説を、都築真紀様と、全ての魔法少女リリカルなのはファンに捧ぐ。

















Fの鼓動
Fの鼓動 プロローグ


 

 

嘘と言うものは、ひとつ付くと、新しい嘘を重ねてつかなければなりません。

――あなたは、本物の人間の子供に、なりたくないですか?

1883年 カルロ・コッローディ作 「ピノッキオの冒険」より引用。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、遠い昔の時代。

 

町外れに、とても素晴らしい技術を持った人形技師がいました。人形技師は、一人娘と暮らしていて、それは幸せな毎日を送っていました。

 

けれど、ある日から人形技師は仕事で忙しくなり、よく家を空けるようになっていきました。

 

家で一人、人形技師の帰りを待つ一人娘は、毎晩疲れて帰ってくる人形技師を笑顔にしようと、綺麗な花飾りをプレゼントする為に、一人で花を摘みに出かけました。

 

 

 

そして、その帰り道に、一人娘は不運にも、馬車に轢かれて死んでしまいました。

 

 

 

人形技師は、娘を失い、哀しみにくれ、いつしか仕事もしなくなってしまいました。

 

そこにある話が風の噂で流れてきました。

 

「死者を甦らせる術がある」と。

 

人形技師は、その舞い降りてきた希望にすがり付きました。どんなものでも、どんな大金でも迷わずに差出し、ついには国では禁忌とされる『黒魔術』にも、手を出してしまいました。それほどまでに、人形技師は愛する娘を甦らせるために必死になりました。

 

 

やがて人形技師は、人形に魂を吹き込む術を作り上げました。

 

 

生まれたばかりの人形に名はありません。歯車が回されたように、ゆっくりと動き出した人形に、人形技師は――こう言いました。

 

 

『また、失敗した』

 

 

人形技師は、生まれたばかりの人形を掴み上げると、そのまま外に掘られた穴へと放り込みました。

 

生まれたばかりの人形は、何が起こったかわかりませんでした。

 

穴の中には、生まれたばかりの人形と似た姿をする人形がたくさん。ですが、どれも目の色が違っていたり、髪の毛の色が違っていたりと、姿は似ていてもどれも違う容姿をしていました。

人形たちは、生まれたばかりの人形を快く迎えてくれました。中でも、美しい金の髪色をした人形が、とても優しくしてくれました。その人形も、つい最近、この穴へと落ちてきたと、まだ生まれたばかりの人形に話しました。しかし、最近と言うには、身体はところどころに、ヒビやサビが目立っていました。話を聞くと、その人形は、他の人形よりも寿命が短かったのです。

 

 

 

それから長い時間が経ちました。

 

 

 

快かった人形たちが次々と朽ちていってしまい、最後に残ったのは、金色の髪の少女の人形と、生まれたばかりの人形だけでした。

 

すっかり弱り果てた金色の髪の人形を抱きながら、生まれたばかりの人形は、遠く頭に覆いかぶさる穴から空を見上げて思いました。

 

 

 

 

『自分達は、いったい何のために、生まれてきたのだろう』―――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは外伝

Fの鼓動(上)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局。ミッドチルダ地上本部。

 

その日の夜は、満月が冴える静かな夜だった。

 

夕刻過ぎまで食い込んだ会議を終えて、時空管理局二等陸佐であるアーマン・ブリッツは、自身の執務室へと戻っていた。

 

夕方には、家族が待つ我が家へ帰れるだろうと踏んでいたが、管理局の上層部の人間は、誰もが会議好きなのだろうか? そう思えるほど、今日の会議はアーマン二佐にとって長く、退屈に思えた。何度同じ議題の論答を繰り返すのだろうか。重役席に座る彼は、変わり映えない上層部の方針に退屈さを感じていた。彼に仕える補佐官も会議が終わった頃にはすっかり疲れた様子だった。

 

アーマンは、事務処理は明日にでも纏めればいいと伝え、補佐官を帰らせていた為、今は執務室に一人きりだ。

 

長年座る豪勢な椅子に座ると、彼は目元を指でなじった。

 

彼には今日中にやらねばならない仕事があった。重要な事だ。それは、管理局の人間としては非生産なことかもしれない。だが、人間としては間違っていないつもりだ。そう確信できるものを抱いている。もしこれが公の場に出ることになれば、彼は管理局を去らなければならない。彼にとっては、今日が管理局員最後の夜になるように思えていた。自分が居なくなることで、信頼してくれる部下に負担をかけることはできない。

 

彼は、誰も居ないことが逆に幸運だとも思えた。自分がやらなければならない務めを、果たさなければならなかった。自分の過去の過ちを、清算する為に。彼は疲れが残る目元から指を離すと、端末を起動し、その務めを果たし始めた。

 

その日の夜は、満月が冴える夜だった。

 

しばらく、事務処理に没頭していた後、アーマンが気がついた頃には、時間があっという間に過ぎていた。長い時間集中できたおかげで、済まさなければならない仕事も片付けることができた。彼が信頼している同僚にも、アーマン・ブリッツが知る全ての情報を記したデータを送った。これで仮に彼が管理局を去っても、そのデータがあれば問題はないはずだ。送った先の同僚が、彼の意思を引き継いでくれる。

 

アーマンはデスクから立ち上がり、壁に渡って張られたガラス窓から外の景色を眺めた。地上本部は静かで残っている人間もほんの僅かだっただろう。本部棟にも灯りは殆ど灯っていない。執務室から一望でき、いつも賑わっている中庭にも誰も居なかった。

 

「静かな夜だ」

 

美しい物を見たとき、思わず漏らすため息のように、彼は呟いた。この静けさは、まさに芸術のようにも思えた。まるでオペラやミュージカルが始まる直前の劇場に立ち込もったような緊張感がある。

 

ふと、背後のデスクから「カタン」と何かが倒れた音が聞こえた。

 

振り返ると、写真立てが倒れていた。倒れた写真立てをそっと持ち上げる。その写真には、アーマンと妻、そして娘が写っている。彼の大切な宝物だった。

 

 

 

ドンッ。

 

 

 

その写真立てを眺めていた時、急に胸を貫かれたような衝撃が走った。何の身構えもしていなかったアーマンは、急に訪れた衝撃に耐える術なくデスクにうつ向けの状態で、頭から叩き付けられた。

 

何だ?何が起こったんだ?

 

痛みより驚きの方が強かった。

 

あとから痛みが追い付いてくるが、状況が読み込めない。

 

そんなアーマンの首を、今度は背後から何かが掴んだ。人間とは思えない、力強い力で締め付けられ、呼吸は一瞬で絶たれる。空気を吸い込む器官のすべてが、壮絶な力で締め付けられた。そのまま無理矢理うつ向けから仰向けに姿勢を変えられ、上半身だけを起こされる。

 

 

 

目の前には、月を映すガラスを背に、顔を黒いフードで覆った人間が居た。

 

 

 

男のような力強さがあったが、掴む手は異様なまでに細い。月夜を背中に写し出された影は、まるで女性のようなシルエットだった。革の手袋とフードと同じく、漆黒のケープで闇に溶け込んだその姿を見た彼は、全てを察した。

 

私が管理局を去るのは未来じゃない。

 

―――今日なのだ、と。

 

「奴の…差し金か…!?」

 

呼吸が出来ない。無理矢理言葉を紡ぐだけで、肺の中の空気が一気に枯渇した。彼か彼女は、黙ったまま頷く。それがアーマン・ブリッツの命運の最期と言わんばかりに。彼にとって、それは予想外だった。奴は本気だったと、今更になって想い知る。

 

だが、それを覚悟の上で、アーマンは【彼ら】との道を違えたのだ。後悔など無い。

 

 

 

ただ、このまま死んで堪るか…!

 

 

 

それだけの意志が、アーマンを突き動かした。薄れ行く意識の中、もがくように手をバタつかせ、首を締め上げる人間のフードを掴んだ。冥土の土産に、自分を殺した奴の顔を見てやりたかった。その気概と渾身の力で、彼はフードを取った。チアノーゼで、視界がおぼろげになっていたが、微かに見えた。

 

 

満月の夜空には似合いすぎる金色の髪を。

 

影に溶け込むことができない真紅の瞳を。

 

 

「お前は…まさか…!」

 

 

 

ゴキン。

 

 

 

そこで、管理局の役職を持った男は息絶えた。

 

首の骨を綺麗にへし折った。抗おうとした彼の強ばった顔は力を無くし、だらしなくヨダレを滴ながらしばらく痙攣をして、動かなくなった。

 

アーマン・ブリッツの排除。手段は問わない。

 

それが自分に与えられた今回の任務だ。段取り通り、証拠を残さず拭き取り、自分がここに居た事実を消し去る。データの隠蔽や後始末は、自分に指令を出す【彼ら】がしてくれる。これは、何度もこなした作業。人の死など呆気がないもの。重さも、価値も、何も感じない。残ったのは、静かすぎる空間と、足元に横たわる局員の死体だけ。この死にまみれた空間が、吐き気がするほど嫌いだった。そして、その空間で、自分が育ったと言う事実を、酷く思い知る。

 

思い出す、あの暗い地獄を。

 

月の光に反射する金色の髪を隠すように、彼か彼女は、深くフードを被る。

 

窓ガラスから見上げたその夜空に浮かぶ満月は、憎いほどに、美しく冴えて見えた。

 

 

 

 

――NEXT

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