カレイドブルフ・テクニクス社に出向いていたキィナは、可能な限りの情報を集めることに集中していた。
警戒心は緩めなかったものの、ラボや施設を案内され、研究成果や今後の日程などの情報を知らされてから程なくして、キィナは帰路につく事が出来ていたのだ。
潜入捜査――と言うより、キィナ自身も「上層部の人間の代理」という肩書きがある。ましてやここは敵陣でもない。
キィナから見たカレイドヴルフ・テクニクス社は、管理局との提携が機密と言えど、まだ名を出して間もないデバイス開発企業に過ぎなかった。
こうして帰路に着いているというのに彼らかは組織らしい監視も妨害も無かった。そもそも彼らがそういう組織であったならば、自分はこうやって何事もなく帰れるはずは無いだろう。キィナもいくつかの犯罪組織とは面識があるからこそ、その違和感は決定的なものであった。
長い地下通路を抜け、再び高くそびえる壁を抜けると見渡す風景が機械的な壁面から、数時間前まで駆け回っていた山道へと戻ってくる。
人目に付かないこの大規模な研究施設で魔力駆動兵器が研究されている。それらは管理局主導のもと、全てが極秘の中で進められていたものだ。
カレイドブルフ・テクニクス社。
この企業も、あの研究員も、管理局から提案されたプランの元に駆動兵器「テスタメント」を作り上げた「ただの歯車」だ。
魔法を完全に上回る最新技術の確立と製造。
それを達成した彼ら企業に罪意識や罪悪感があっただろうか? キィナが思うところその答えは違う。その先の未来よりも、誰もが成し得なかった技術の開発、それに対する好奇心が罪意識や罪悪感や勝っているのだろう。
作ってしまった事実は抹消できない。その結果にいつか、彼らは直面する時が来る。それが善であれ、悪であれと。
研究員である彼らは、キィナを管理局上層部の人間と完全に思い込んでいた。キィナ自身がそういう風に振る舞ったから尚更だろうが、ここまで上手く行くのだろうかと彼女も事が運ぶにつれて緊張感と警戒心を強めていた。
キィナを案内する研究員に幾つかの質問をしてみたが、肝心のこの計画の【発案者】を突き止めることはできなかった。彼らの発言から出てきた管理局担当の役人の名前や担当所属のどれもが聞き覚えがないものばかりだ。おそらくその名や肩書も信憑性はないだろう。
だが、興味深い事を聞くことができた。
駆動兵器を開発するに至ったこのプロジェクト【ドレットノート計画】が本格的に開始された年が、10年前――つまりフェイトの母親、プレシア・テスタロッサが関わった魔力炉暴走事故の年からだったのだ。
その年に、ドレッドノート計画の基本構想の一つ【魔力を物理エネルギーに変換する】の技術理論が確立された。
これは偶然にしてはできすぎている。
(プレシア・テスタロッサが関わったあの事故に、「何か」があるのだろうか――)
オフロード車のハンドルを握るキィナは、そんな考えを巡らせていた。
そうならば、あの【殺人鬼】が起こした行動や、自殺したアーマン・ブリッツや、殺害されたケイマン・パラメーラも辻褄が合うように見えてくる。ジョン・ドゥ・オールドマン准将が話した「管理局の知られたくない何か」が、この事件に大きな影響を及ぼしている。
そこまでの仮説を予測して、キィナは呆然と考えに耽っていた。
果たしてこれは、一介の管理局員でしかない自分が踏み込んでいい物なのだろうか――。
キィナは背中から黒い影が這い上がってくるような感覚を覚えた。すぐにその感覚は消え去るが、それは間違いなくキィナの背後にまとわりつくものだった。
車のダッシュボードの上に置いていた通信用端末が小刻みに震えながら着信音を鳴り響かせた。山道を走っている為、着信相手が誰なのか確認する余裕もないキィナは、両手で操作するハンドルから利き手を離して、手早く端末を操作しモニターに表示された応答を押した。
『――キィナ!やっと出たか!!』
「やっとって、どういう意味ですか、トレイル室長? 今更電話かけてきて…」
叫ぶような音量で開口一番にそう伝えてきたのは、上司であるトレイルだった。片手間で端末を操作していたキィナは驚いたような、少しふてくされた様な声を出した。
こっちが命がけとは言わないが、危険極まりない潜入調査をしているというのに、労わりの言葉もないのかと。しかし、トレイルの様子もただ事ではなかった。
『こっちはこっちでそれどころじゃ無かったんだよ。いいか?よく聞け。実は――』
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