――――0067年十二月十一日 早朝6時00分。
サイファー隊の生き残りであるライリー・ボーンは、機動一課に所属する他の航空中隊への編入が 決定された。
そしてそのまま、前日の演習エリアで遭遇した謎の武装隊の殲滅作戦へと赴くことなる。
攻撃してきた武装隊は、未だに管理局の演習エリアに潜んでおり、なんと管理局本部へ反攻声明を叩き付けてきた。
武装組織の名は《ヘイズレグ》。
管理局内でも度々捜査線上に上がったことがある大規模な反管理局勢力のひとつだ。
だが、肝心の奇襲目的は不明であり、送られてきた反攻声明も《一方的な正義を押し付ける時空管理局への制裁行動》としか言ってきていない。だが、前線へと駆り出されるライリー・ボーンにとっては、相手の奇襲目的や理由など、どうでもよかった。
彼にとってこの殲滅作戦は、隊長や仲間たち――そして、親友の為の復讐戦でしかなかったからだ。
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ミッドチルダ救急医療センターの一室で、私は意識を取り戻した。
長い間、眠っていたような感覚で、まだ頭の中が夢うつつで、見慣れない天井をぼんやりと見上げていた。目を覚ました私に気付いたのか、すぐに、フェイトちゃんや、はやてちゃん達が声を掛ける。
(あぁ、私…墜ちちゃったんだ。)
まだはっきり覚醒してはいなかったけど、全員の安堵した表情を見て私はそう確信した。
昨日か、一昨日か、一週間前?
体内時計が完全に狂っていて、今日の日付が把握はできてない。意識がはっきりしだして、身体中に痛みが走り出した。それと同じように、少しずつ記憶が蘇ってくる。
あの日――――ヴィータちゃんと一緒に、異世界での任務を終えた私は、そのままクロノくんやリンディさんから言われた演習に参加するため、ミッドチルダの上空に転移した。
そんな私達の前に現れた武装隊。
突然だった。奇襲を受け、そのまま防戦一方へと追い込まれた。当然私も応戦した。応戦するしかなかった。
けど、敵魔導師が近づいてきた一瞬。レイジングハートを握っていた腕に傷みが走って気が逸れて、その瞬間、体にすごい衝撃と痛みが走って――――
気が付いたら海面に向かってデタラメに墜ちて行っていた。
自分の名前を叫びながら真上から追ってきたヴィータちゃんを見たあたりまでは記憶があるが、それから先は朧気で。
誰かが叫んでいたような、そんな声が聞こえた気がした。
ベッドに横たわっている私は、フェイトちゃんたちの後ろから空を覗く窓へと視線を移した。
突き抜けるような晴天。
その雲ひとつ無い空を切るように――――幾つもの飛行機雲が空に浮かんでいた。
十一日、時間は正午に差し掛かろうとしていた頃だった。
その日のミッドチルダの空も、冬空らしく凍てつくような寒さがあったが、澄み渡るような晴天だった。だが、それに反するように、ミッドチルダの空はまさに――――戦場であった。
晴天の空。
ちらほらと雲が点在する空の中を、切り揉み合うように魔力の帯が交差し合っていた。
敵と味方の区別が付かないほど幾人もの空戦魔導師が飛び交い合い、近くのエリアでも怒号のような叫びが上がってくる。
「来るぞ!全隊、構えろ!」
管理局へ宣戦布告を行ってきた組織『ヘイズレグ』が制空権を掌握しているとされるエリア。
そのエリアは管理局により、最前線、第一次防衛線、第二次防衛線、最終防衛線とエリア区分けされており、前線としていされたエリアはまさに激戦区だった。構えた管理局の魔導師たちへ向かって敵からの砲撃魔法が幾つも吹っ飛んでくる。
そんな中、前線で雲の隙間から飛び出したヴィータは、グラーフアイゼンを両手で構え一気に急降下へと入った。急降下に伴う体へ掛かる負担を噛み殺すように、ヴィータは奥歯をギュッと噛み締める。
「ラケーテン…!」
急降下しながら、ヴィータは既にカードリッジを充填し、ラケーテンフォルムへと姿を変えたグラーフアイゼンを構えた。目標は捉えている。
眼下に映る二人の魔導師。
パン!パン!とラケーテンフォルムのグラーフアイゼンが乾いたバースト音を鳴り響かせた。その音に合わさるように、グッとグラーフアイゼンを握る両手に力がこもる。
【Jawohl(了解).】
「ハンマァー!!」
ヴィータの声がトリガーになり、グラーフアイゼンが火を吹き出す。その瞬間、急降下で加速していたヴィータが、更に加速して、眼下にいた二人の敵魔導師の真ん中に滑り込んだ。敵は急に現れた敵に気付くが、ヴィータの方がずっと早かった。振り抜かれた鉄槌は、一瞬で二人の魔導師のうち、一人を仕留める。
もう撃墜を免れたもう片方は防御魔法を展開したが、ヴィータの鉄槌はその防御魔法ごと魔導師を叩き伏させた。その場しのぎの粗末な防御魔法じゃ、ヴィータのラケーテンハンマーの前では無意味だ。二人の撃破を確認してヴィータは直ぐ様に移動する。止まっている暇はなかった。
「ヘイズレグ」側の敵から放たれる『非殺傷設定』を解除された魔力スフィアを受けて、不慣れな管理局魔導師が何人も空域を離脱していた。離脱した魔導師を手当てする救急班も、想像絶するこの状況に上手く手が回らない。後方に設置された作戦本部も現場からの応援、支援通達のせいでパンク状態だ。
全員が全員、目の前で起こる事態に対応することしかできないほど、管理局の指令体制は麻痺している。
何せこれは、ミッドチルダでの管理局で、史上初となる『管理局本部に対する直接的なテロ行為』なのだから。この前人未到のテロ事件に対して、管理局の対応はなんとも粗末なものだった。
上層部直轄の部隊を除く、戦闘可能な空戦魔導師すべてを対象に撃退作戦を敢行された。おかげで、実戦慣れしていない魔導師も多く現場へ出撃させられた。不慣れな魔導師は、次々と敵に撃破されて行く。それはただ、いたずらに被害を拡大させていくだけの愚策だ。
ヴィータたち、ヴォルケンリッターたちも無論、召集が掛かった。「闇の書事件」を良しと見ない上層部の人間は、いくらでもいると、ヴィータたちは知っている。リンディやクロノの計らいがあって、主であるはやては召集を避けれたが、自分たちはそうはいかない。
「闇の書」と共に歩み、長きに渡る戦乱の世界で培った高度な実戦経験を、管理局の上層部が見逃すはずがない。
予想通りに、シグナムとザフィーラはヴィータと同じく最前線へ送られた。
シャマルは後衛として、第一次防衛線で治療スタッフと索敵を担当している。
だが、ヴィータにとってそんな管理局の思惑など些細なことでしかなかった。
ヴィータの目に映る敵は、重腰である管理局が撃墜を認めた存在であり、なのはを窮地へと追いやった存在でしかない。
――邪魔する奴は、ぶっ叩く。
ヴィータにとっては、ただ、それだけがこの場所にいる理由だった。
だが、それを簡単に許してくれる敵じゃなかった。
上昇するヴィータの視界の端を、何かが横切った。それを感じたと同時、嫌な感覚が頭から腹にかけて貫く。
(まずい…!)
その瞬間、ヴィータの真横で爆発が生じた。視界が僅かにシャットアウトされる。
設置型の魔力スフィアによる機雷トラップだとヴィータはすぐに判断した。起爆する直前に、体を反らしていたので直撃は避けられたが、非殺傷設定を解除されてる攻撃だ。まともに当たっていたら危なかった。宙をくるくると舞う体を、無理矢理戻してヴィータは周囲へ目を見張る。
【Gegenstand kommt an.】
敵が近付いているとグラーフアイゼンが警告をし、紅く輝く。すると間を置かずに頭上から魔力スフィアの雨がヴィータの頭上から降り注いできた。
敵は生半可な雑兵ではない。
敵の全員が、いくつもの修羅場を潜ってきたオーラを持つベテラン。
ヴィータが相手にしているのは、管理局で言う少数精鋭の特殊部隊と同じだ。
正面からじゃ分が悪いと、ヴィータは急降下からの奇襲で敵を撃破し、その場から離脱する
「ヒット アンド アウェイ」の戦術を使っていたが、そう何度も見逃してくれない。降り注いできたスフィアに対抗するべく、ヴィータも防御魔法を展開しようとした。
その時だ。
【クラスターバレット】
「ファイア!」
ヴィータの背後から、三発の蒼い魔力スフィアがいきなり飛び出してきた。
ヴィータの防御魔法が展開される前に、蒼いスフィアは雨のように降り注ぐ敵の攻撃へ突っ込んで行き、爆発する。
魔力スフィアにしては大きな爆発だった。
それに誘われるように降り注いでいた敵の攻撃も次々と誘爆して行き、結局一発もヴィータの元には届かなかった。
ヴィータは、振り返る。
その視線の先に、ティルフィングの発射口を正面に構えたライリーがいた。
振り返るヴィータへ視線すら向けず、ライリーは発射口を構えていた手を降ろした。
ライリーの顔を見たヴィータは、戦慄を覚えた。
その表情は、おぞましいほど深く、憎しみに支配されていた眼をしていたからだ。
「管理局の犬どもがぁ!」
「我々ヘイズレグが真に解放する平等たる世界のために!」
ヘイズレグ側の魔導師の叫ぶような怒号が清空に響く。
平等たる世界のために?
笑わせるな。
ライリーは、内心でそんなことを考えながら全身が泡立つような感覚を覚えた。彼自身の感情的な怒りが、最早限界を越えていた。
「そこから動くなよ」
鋭い呼気を吐き出し、ライリーはティルフィングを横一閃と振りながら近くで呆然とライリーを見ているヴィータへそう告げた。足下に魔法陣が広がる。
「設置型は残り三つか」
目を閉じて、宙をなぞるようにライリーは指先で空を曲線を描く。すると一閃と振った軌道上に、さっきヴィータの背後から放たれた同じ誘導弾、蒼い魔力スフィアが三つ出現する。
その三つの蒼い魔力スフィアは、直線的な動きでそれぞれ別の方向へと放たれた。
なにをするんだ?とヴィータが疑問を感じた時、三つの弾は同じタイミングで爆発した。
先ほどと同じく、魔力スフィアにしては大きな爆発のように思えた。だが、それはただ単なる爆発ではない。それは一部始終を見ていたヴィータには、はっきりと見えていた。魔力スフィアが爆発した時、その弾は拡散するように辺り一面へと僅かな欠片をばら撒いていた。それは例えるなら花火のようにも思えた。そのばら撒かれた魔力の欠片に反応するように、設置されていた敵の罠も誘爆して行く。
その光景を見て、ライリーが放った魔力スフィアは、誘爆を誘う迫撃弾なのだと、ヴィータは理解した。
「行くぞ、ティルフィング」
【X-S01を展開します】
同時に、ライリーをぐるりと囲むように小さな魔方陣が七つ展開される。その七つの魔方陣へ、七基のビットが転送された。そこでヴィータは、改めてライリーの操るビットを目撃した。
ライリーを囲むように浮遊する七基ビットの外見は、「闇の書事件」でクロノが使用したデバイス、デュランダルの浮遊支援ビットにも思えた。だが、中身の性能はデュランダルのビットとは桁外れだ。
「行けよ!ビット!」
ライリーの放ったビットの攻撃は、雲の隙間から現れた八人のヘイズレグの魔導師たち目掛けて飛ぶ。不規則な動きを敵に見せつけるように、ビットは飛翔した。
「なんだ?ちょこまかしやがって!」
そんなビットを、嘲笑うかのように八人の内の一人の魔導師が、飛来するビットの内の一基へ狙いを定めた。
「撃ち落としてやる」
簡素な作りのストレージデバイスの発射口を構えた魔導師は、そのまま直射魔法をビットに向けて 放った。迫るビットに向かって放たれたその砲撃は一直線に標的へ向かって伸びて行く。
「当たっ――――うわぁぁぁぁ!?」
嬉々としたような声で言った敵の撃破宣言は、最後まで続かなかった。
確かに射撃魔法はビットに直撃したが――それはまるで鏡に反射した光のように弾き返され、砲撃魔法を放った本人を飲み込んだのだ。非殺傷設定が解除された魔法は、容赦なく主を焼き、空の底へと叩き落とす。
その光景を目の当たりにしたヘイズレグ側の魔導師達は一気に動揺し始め、困惑の空気に呑まれた。
「ま、魔力が跳ね返された!」
「なんだ!?これも魔術なのか?」
ティルフィング本体から遠隔操作する七基の無線誘導端末ビット《X-S01》。
そのイレギュラーな存在は、既存のデバイスを遥かに凌ぐ。ライリーあってこその実戦装備だが、そんな管理局の最新技術を敵が知る由もない。動揺させるなど簡単なことだった。
更に、このビットには魔力スフィアの射出、リフレクターによる反射の機能の他にもうひとつ、別の機能が搭載されている。
「――ティルフィング。ビットをブレイクスルーシフトへ切り替えろ」
【アサルトシフトから、ブレイクスルーシフトへ切り替えを行います】
ライリーの言葉にティルフィングが答えた瞬間、今まで魔力スフィアの射出や相手のスフィアを反射する軌道をとっていたビットの内、三基の軌道が不規則な動きから、直線的な動きへと急激に変わった。
「気をつけろ!管理局の新しい技術かも――――」
叫んだヘイズレグ側の魔導師に向かって、一基のビットが突っ込む。
「え――――!?」
ビット先端から、魔力によるソードを発生させ、あらゆる方向から対象へ直接突き刺す機能。
それが、《ブレイクスルーシフト》。
何が起こったか、わからないような顔をした魔導師は、そんなかすれた声を出して腹に突き刺さったビットともに落下していく。非殺傷設定による過剰攻撃を抑制するリミットが付いているとは言え、その痛みは簡単に相手から意識を奪うものになる。獲物の反応が無くなったを確認するように、ビットは相手へ突き刺さる。反応がないと確認すると沈黙した獲物から離れ、ビットは次の獲物に狙いを定めた。
ヘイズレグ側の魔導師たちの体が強ばったのが、手にとるようにわかった。
「う、うああああっ!くるな!くるなあああああ!!」
ぎらりとソードの切っ先を光らせたビットが再び飛翔する。
その先にいた魔導師たちが恐怖の叫び声をあげ、逃げ惑い、苦し紛れに打ち出された魔力スフィアを撃ちながら方々へ散って行く。敵がデタラメに放った魔力スフィアを、リフレクターシステムで弾き返しながら、ビットが獲物の狩る狩人のように魔導師たちへと次々に襲いかかった。
何人かの敵は、司令塔であるライリーを狙おうと狙撃を試みるが、結果はビットにより防がれるという結末。
敵には最早、逃げ惑うという選択肢しか残されていなかった。
「許さない――お前達だけは――絶対に許さない」
敵の断末魔が響く中、ボソボソと呟きながらライリーを見て、ヴィータは背筋に冷たい何かが走るのを感じた。だが、ヴィータは止める言葉が出なかった。彼がここまで憎悪に身を委ねる理由が自分にあったから。
「残らず狩れ、ティルフィングッ!」
【Tuiscint(承知しました。).】
憎悪を孕んだライリー瞳は、逃げ惑う敵を殲滅せんと容赦なく撤退して行く魔導師たちを捉えた。突き抜けそうな空の下、複数の悲鳴が上がる。とうとう何人かの敵魔導師が、持っていたデバイスを放って両手を上げて喚いた。
「わ、わかった!俺の敗けだ!降参だ!投降す――がはっ!」
甲高い、情けを求める敵の声を……ライリーは容赦なく叩き伏せる。
一人、また一人と降参だと喚く魔導師を空の底に向かって叩き落として行く。その瞳には、人としての情けなど全く残っていなかった。そして最後の一人。戦意を完全に失って、ガタガタと両手で頭を抱えながら怯える魔導師に向かって、ライリーは何も言わずにティルフィングの発射口を突きつけた。
「ひいぃぃぃぃぃ!死にたくねぇ!死にたくないぃぃぃぃ!!」
敵魔導師が一際大きな悲鳴を上げる。
――――お前たちは、そう言った俺の仲間を、どう思いながら殺した ?
目の前で恐怖に震えている敵に、ライリーはそんなことを小さく問いかけた。
ティルフィングを握る手に力がこもる――――その瞬間、ティルフィングを握りしめるライリーの腕を綺麗な手が掴み上げた。
「――――もういい。やめるんだ」
ライリーの手を止めたのは、ヴィータと同じく前線で戦っていたシグナムだった。
「……離せ」
「ダメだ」
ライリーのぞっとするような低い声。
だが、シグナムはそれに毅然とした口調ではっきりとそう答えた。
「離してくれ」
「ダメだ」
「離せ!!」
「断る!!」
全く引かないシグナムに、ライリーは激情に任せてシグナムの胸ぐらを掴んだ。
「コイツらはサイファー隊を殺ったんだ!俺の仲間を殺したんだよ!その気持ちがアンタにわかんのか!?」
「だからといって、貴様がコイツらと同じことをしていい権利などない!」
抗議の意を示すライリーを、シグナムはまっすぐ見据えてライリー以上の声をあげて怒鳴り付けた。
そのシグナムの真摯な言葉を聞いたライリーは、不意に……。
〝――なんで非殺傷設定なんてものがあるか、わかるか? ライリー。〟
昔、そんなことを言われたことを思い出した。
****
『なんで非殺傷設定なんてものがあるか、ですか?』
ライリーやアーチャーが、機動一課に配属されたばかりの頃。
サイファー隊全隊での模擬訓練を行ってる中、訓練での指導官を務めていたグラハムが、ライリーとアーチャーにそう訪ねた。
『あぁ、そうだ。ライリーはどう思うんだ?』
『はぁ…現場で犯人を殺さず捕らえるため、ではないのですか?』
ライリーは、当然そうでしょう?と言った様子でグラハムの問いに答えた。
答えには自信があった。訓練学校時代に、教官からはそう講義で教わったのだから。
だが、その答えを聞いたグラハムの表情は、ライリーの想像とは違って困ったような顔をしていた。
『相変わらず頭固いなぁ、ライリーは』
グラハム隊長の微妙そうな表情から察したのか、隣にいたアーチャーが可笑しそうにゲラゲラ笑った。ライリーが睨み付けると、アーチャーは数回咳払いをして黙るのが最早二人の間での様式美だ。
『まぁ、無難な答えだろう。訓練学校の講義ではそう習ったのだろうが――俺はそれだけでは無いと思う』
と、言いますと?と聞き返すライリーの顔を見て、グラハムはどっしりと落ち着いた声でこう言った。
――非殺傷設定は、人を傷付けないためにあるのと同時に、己を正すためにあるんだ、と――――。
****
「――コイツらには、必ず法が受けるべき罰を与える。だから、貴様がそんなことをしてはダメだ」
静けさを取り戻した晴空の中で、ゆっくりと力強く響くシグナムの言葉をライリーは黙って聞いた。
シグナムの胸ぐらを掴んでいた手が、力無く落ちる。
シグナムも何も言わずにただライリーを見ていた。
普段は寡黙なシグナムが、なぜライリーに声をかけたのか、ヴィータにはなんとなく分かっていた。あの憎悪に身を委ねるライリーの姿が、昔の戦乱の中を生き、宛の無い闇にもがいていた時の自分と、重なって見えたから。シグナムの思いも、ヴィータと同じだったのかもしれない。
言い様の無い何かが、腹の底から沸き上がってくる感覚を覚えた。
「――――くそ!!……俺は!!俺はぁ!!」
ライリーの口からその沸き上がってきたものが溢れた。
殺意? 悔しさ? いいや――――違う。
目の前でさっきまで喚いていた魔導師や、ライリーが撃破した者達が管理局の局員によって捕縛され連行されて行く。
理不尽だ。
なんで。
なんで俺は。
コイツらを――仲間の仇を――殺せないんだ。
「あ"ああああああああぁぁぁッ!!」
ライリーの叫びは、敵が居なくなったミッドチルダの空に虚しく響いて、力なく消えていった。
――NEXT