木村の夢
これは、たしか……ああ、ダメだ名前がでてこない。赤くて綺麗なのは確かだ。人のもつ二面性みたいに汚いそれからあふれ出ている。
空の色は青と黒が混ざった何か。青でもあって黒でもあるけど、どちらでもない。気持ちの悪い空。いや絵かもしれない。どちらでもいい。そう思うとピカソが静かに微笑んだ。
シャボン玉はまだわれてない。早くわれてしまえばいい。右手の銀で殴ってみる。われない。そんなことは知っている、殴ってみただけ。
どうすればわれると思う。三浦に聞いた。
「わすれろ」
電車が静かに揺れている、夕焼けがビルによって一瞬だけさえぎられると、その時世界は闇になる。そのたびに、止まれ、と願うが止まることはない。それも知っている。動かしたのはあいつらだ、どうして止める必要がある。自分に言われた。
あの絵を消すことはできない、ただなにもしないと新しい絵が増えない。あの絵が額縁を埋め尽くしているから。だったら塗り変えればいい、絵の具は右手にある。
重力が僕を押さえつける。重力は僕なのになんで僕を押さえつけるの。答えは返ってこない。きっとみんなそうなんだ。
アナウンスが駅の名前を響かせた。知っているような気がした、でも知らない駅だ。きっとそうだ。絶対そうだ。僕は耳をふさいだ。
銀色を右に振るとまた綺麗な赤にかわった。でも汚いものから出てきたんだ、汚いに決まってる。それは左手のコップにあふれている。
だから、僕はコップを闇に落とす、できるだけ高くから。
われる音が聞こえた。
日生の鼻唄
朝起きると私はあなたの手に触れる、冷たいけど暖かい。
おはよう。
トーストとハーブティ、イチゴジャムをつけて食べるとあなたは色を濃くして言うの。おいしいよ。私も。今日はどこへ行こう。あなたとならどこでもいい。じゃあ海に行こう。あなたとならどこでもいい。
歩き出すと私はあなたの手に触れる、冷たいけど暖かい。
息をする海を見ながら、時間の流れにただ静かに身をまかせる。これ以上の幸せがどこにあるの。
「ええ、あいあおいああい」
赤い漁師が聞いてきた。
さあ、知らないわ。
大丈夫、心配しないで、秘密だもの。
帰路を歩くと私はあなたの手に触れる、冷たいけど暖かい。
野菜がいっぱい入ったトマトスープを食べるとあなたは色を濃くして言うの。おいしいよ。私も。
空が死ぬと、あなたと一緒にベッドに入る。明日はどこへ行こう。あなたとならどこでもいい。じゃあ森にいこう。あなたとならどこでもいい。
私の中で眠るあなたを感じながら、私も眠りに付くの。
ずっと一緒だよ。
意識が消えるさなか私はあなたの手に触れる、冷たいけど暖かい。