ネタ探しに原作小説を読んでいたら、こういうのないかなーと思い付いたので書いてみました。
読み切りです。
鬱蒼と木々が茂る森の中、アルシェはひたすらに飛んだ。常人では歩くことすら困難な闇が広がる森ではあったが、《
油断なく周囲を見渡し、何者も現れないことを祈りながら飛び続けた。
やがて《
しばらく歩いた後、周辺よりも大きな木の根本によろよろと辿り着き、疲労で強張った足を解すためにその場に座り込む。警戒する様に周りを見渡していた頭を下げて、丸まる様にうずくまった。
「――ヘッケラン……イミーナ……ロバーデイク……みんな、嘘つきだ……」
知らず知らずの内に漏れ出た声。
嘗ての仲間達は私一人を逃すために残り、あの強大な魔力を放つ、アインズというエルダーリッチに立ち向かった。未だに連絡は、無い。
――泣き言を言っている場合ではない。だからこそ、私は逃げ切らないといけない。
自らを叱咤し、俯いていた身体を起こすと、目の前には真紅の瞳が特徴的な少女が、覗き込むように顔を向けていた。
その端正な顔立ちに、思わず我を忘れて暫し見入ってしまう。
「べろべろ、ばぁ~」
おどける様に口を開き、舌をぬらぬら動かす仕草を見て、アルシェはようやく身体を起き上がらせて、その場から飛び去った。
《飛行》を使い逃げていくものの、先程の少女もその背に大きな羽を生やして追ってくる。
あれは間違いなくアインズの手の者だろう。だとすれば、足止めとなってくれた二人は……いや、今は置いておく。私が逃げ切れさえすれば――
しかし、その願いは叶わない。後ろに居た筈の少女は、いつの間にか目の前に佇んでいた。
「おんやぁ? 追いかけっこは終わりでありんす? 次は、かくれんぼでもやりなんしょうか? きっちり、百秒後に捕らえて――」
その全てを聞くことも無く、直ぐ様その場から離れる様に飛んだ。
『まったく、下等な人間はせっかちで困りんす。いーち……』と後ろからは、その様な言葉が風に乗って聞こえてきた。
今の間に、何としてでもここから外に出る。
モンスターが近くに見えない事を確認し、横に移動していた進路を一転させ、上空目指して飛んでいく。
薄らと見える雲を突き抜け、輝く星空へ向けて飛ぶ――しかし、アルシェの身体はそれ以上進む事は無かった。
上に手をやれば、壁のような物がある。いくら手で叩いても、横にずれても、変わらずに見えない壁があった。
「――何で、どうして……ここは墳墓の外じゃない……?」
「その通りでありんす。此処は、偉大なるナザリック地下大墳墓が第六階層。つまりは、地下空間という訳。わかりんしたか?」
疑問の声に答える様に現れたのは、先程の少女。
つまり、此処は未だにあの墳墓の中という事。
「――あり得ない。こんな、こんな夜空や空間が地下にあるなんて!」
「……わたしにも仕組みはわかりんせん。しかし、この場は至高の四十一人が創造された世界。偉大なる御方々にとっては当然の技なんでありんすえ」
――世界を創造するなんて……そんなの、そんな、あり得ない。その様な事が出来るなら、正しく神だ!
そう思うものの、あのアインズを見た時に感じた魔力にその技。あながち間違いではないと思えた。だとすれば私は、私達は、とんでもない事を仕出かしたのだろうか。
「――私を此処から、逃がしては貰えないだろうか」
一抹の望みを掛けて交渉を持ち掛ける。
いや、こちらに掛けるものなんてない。これは只の足掻き。仲間が繋いでくれた命を、最後まで捨てない為の抵抗だ。
「アインズ様は『苦痛無き死』を与えると御約束されなんした。それ以外の選択肢は無理ね。諦めなんし」
無理な事は当然分かっていた。
――だから私は最後まで、フォーサイトとして戦う。
「――あああぁぁああぁあ!!!」
もはや魔力すら無く、《
それを発動させながら、この身体を持って目の前の少女へと突っ込む。
そして決死の特攻は、呆気なく終わった。
またもや私の視界から消え、今度は背後から現れた少女が、そっと私を抱き締めたからだ。
「無駄に傷を負って、アインズ様の御用命に反されては困りんすえ。だから、大人しく――おんし、中々可愛い顔立ちをしていんすね」
もがく私を意に介さず少女は、じっとこちらを舐める様な目付きで見定めていた。
その瞳はまるで、粗野な男が女性を品定めするかの様で。私は薄ら寒いものを覚えた。
「……んまあ、アインズ様の御用命が無ければ、味見の一つくらいは考えなんしたが、仕方ありんせん。――せいぜい、良い夢でも見ていなんし」
少女がそう言うと言葉の意味を考える暇もなく、私の意識は落ちていった。
◆◆◆
「――ルシェ、アルシェ!」
声が聞こえふと顔を上げれば、そこには懐かしの友人が少々呆れた顔をして立っていた。
「――フリアーネ? どうして貴女が此処に……ッ!?」
途端に周りを警戒して視線を動かすも、目に入るものは、嘗て通っていた魔法学院の教室そのものであった。何が……どうなって?
――私は何を怯えていたのだろう?
「アルシェ、貴女今日はどうかしたのかしら? 居眠りに挙動不審、全くらしくないわよ?」
「――これは……いや、違う。私の思い過ごし。きっと、夢見が悪かったせい」
フリアーネは怪訝な顔をして目を向けてきたが、そんな事もあるのね、と納得した様だった。
そう、さっきまでのは夢。私は帝国魔法学院に通い、パラダイン様に才覚を買われて弟子入りし、帝国魔法省で研鑽を積む日々を過ごしているのだから。
「久しぶりに顔を出したと思ったらこれですもの。貴女、一足早く魔法省入りしたからって、天狗になってるんじゃない?」
「――フリアーネ、拗ねてる?」
「だ、誰も拗ねてなんかいないわよ!」
「――焦らなくても大丈夫。私は早熟だっただけ。フリアーネもきっと魔法省に勤められる」
フリアーネが私をライバル視しているのは周知の事実。普段は頼れるリーダーシップを発揮する彼女も、今は私の妹達の様に可愛い存在に思える。
思わず微笑を漏らして彼女を眺めた。
「――もうっ!! その小さい子を見るような目は止めなさい! 今に見てなさいよ、直ぐに追い抜いて貴女に認めさせてあげますからね! 後で覚えておきなさいな!」
そう言って、教室から出て行ってしまった。
よくよく見れば、もう講義も全て終わったのだろう。教室に残って居たのは、私とフリアーネの二人だけだった。
……居眠りしていた私を、待っていてくれたみたいだ。今度、顔を合わせた時にお礼でも言おうか。
そう考えた後、ふと弟の様に可愛がっていた存在を思い出した。まだ、残って居るだろうか?
ててて、と小走り気味に教室を出ると、下級生の教室へとその歩みを進める。
すると、何やら言い争う声がアルシェの耳に聞こえてきた。その内の一方は、どうやらお探しの者の様だ。
ふぅ、とため息を一つ吐くと、騒ぎの元へと向かって行った。
「――どうかした?」
教室を覗けば、睨み合っている男子が二人――お探しのジエットと、確か……ランゴバルト?――とジエットの後ろにネメルが居た。
途端、朗らかな笑顔を浮かべるジエットとネメルに対して、ランゴバルトは一瞬だけ忌々しげな表情を浮かべると、直ぐ様微笑をその顔に張り付けた。
「何もありませんよ、フルト先輩。少し、級友に助言と忠告を述べていただけです。それでは、私はこれで失礼を」
ランゴバルトは簡潔に述べると、足早に教室を去って行った。
それを見たネメルが安堵の息を吐き、ジエットは不満な表情をして文句を垂れた。
「ちぇっ、お嬢様を見た途端に逃げ出して……何が助言と忠告だよ、脅迫の間違いじゃないのか」
「――ジエット、平気?」
可愛い弟分が困っているのであれば、最悪は貴族としての力を奮う事も考えて尋ねた。
「はい! ――と言いたい所なんですけど、最近は俺よりネメルに対してちょっかいを掛けてるみたいで……。もしもの時はその、お願いします!」
この子は自分の力量を弁えている。その上で、守る為ならば平気で頭を下げる事も出来る。
だから、手を貸したくなる。
「――了解した。釘は差しておくけど、フリアーネにも一応頼んでおく」
「ありがとうございます、お嬢様」
「あっ、ありがとうございます!」
頭を下げる二人に微笑み掛けて、この後の予定を聞いてみる。
「――今日は二人とも、どうするの?」
ジエットは私の家で、使用人見習いとしても働いている。……専ら、妹達の遊び相手となっているのだが。ネメルも最近は、そんなジエットと一緒に妹達の面倒を見てくれる事が多かった。
「あー……、今日はそのー……予定が……」
「えっ、えっと。今は、ちょっとお使いが……あ、後で行きますから!」
「って、おいネメル!」
「ヒエっ!? あっ、ごごごめんなさい」
あからさまに口ごもる二人を訝しんで、ジトっと見詰める。
一体、何を隠しているのやら。
「そ、そういう訳なのでお嬢様。ご機嫌よう~」
「ご機嫌よう~でしたあー!」
二人は、私の視線から逃げるように退散していった。
はぁ、と再びため息を吐くと、私も帰路に着くために教室を出て外へと足を運ぶ。
――今度あったら問い詰めよう、と心に固く誓うアルシェであった。
帝国魔法学院を出たアルシェは家路へと着く前に、少し寄り道をしようかと考えた。
その性格と才能からか、アルシェはあまり友人が多い方ではない。が、今から立ち寄ろうと思っている場所には、数少ない友人が居る。
――久しぶりに冷やかしてやろう。
よからぬ事を企みながら、進路を友人達が居るであろうお店に向けて歩み出した。
数分程歩けば、あっさりと目的地へと辿り着いた。
そこは、花と小物――主に装飾品――を取り扱う奇妙なお店であった。
アルシェは店頭の花には目もくれず、慣れた手つきで扉を開いてそのお店に入り込んだ。
店内にはこじんまりとした外観に違わず、数点の装飾品だけが飾られていた。
――何度来ても代わり映えがしないその展示品は、いい加減やめるべきだと思う。
そして、たいして流行らなさそうな装飾品に、花だけのお店が潰れないのには訳がある。
このお店の主な収入源は、また別にあるからだ。
扉を開けた際に取り付けられていた鐘が鳴り、客の来訪を告げた為か、店内の奥から一人の女性が姿を現した。
「いらっしゃいま――って、アルシェじゃない。どうしたのよ」
「――気が向いたから冷やかしに来た。用はそれだけ」
彼女――イミーナはハーフエルフであり、そして数少ない友人の一人でもあった。
「はぁ……あんたねぇ。お客さんが入ったと思って、期待した私の気持ちを返しなさいよ」
「――売れない物しか置かない、このお店が悪い。そんなことじゃ、何時まで経っても足を洗えない」
「うぐっ。痛いとこを突いてくるわね……でも、今日は珍しく売り上げがあったのよ! 自分で言ってて虚しくなってきたわ……」
一人で盛り上がり、そして落ち込みだしたイミーナは置いておく。気になる単語が聞こえたからだ。
売り上げ? となると、幾つかの花が売れたのだろうか。トブの大森林に咲き誇っていた花を摘んで栽培している為か、ここの花は多少珍しいから。
それに、装飾品は売れた試しが無いはずだから除外できる。ヘッケランは手先は器用なのに、センスが無い。残念スキルだ。
「――誰かが花束でも買ったの?」
私の考えを伝えると、イミーナは顔を強ばらせて固まった。『しまった』と、表情が物語ってくれている。
「あ、うん。そう。そうよ。年頃の子達が花束を買ってくれたの。互いに渡す為に買ったんじゃないかしら?」
「――そう」
「えぇ、そうなのよ。……あー、そろそろ帰った方がいいんじゃないかしら。遅くなるとご両親も心配して――」
「――イミーナ。何を隠している?」
追い立てようとするイミーナの言葉を遮って、疑問を投げ掛けた。
どうも今日は隠し事をされる日らしい。いい加減に気になる。
「あー……なんの事かしら?」
「――それは私には、仲間には言えない事?」
アルシェの心はズキリと痛む様だった。
私は信頼されては居なかったのだろうか。そんな考えが頭の中を駆け巡る。
「――だぁー!!! もうっ、そんな顔されちゃ秘密になんて出来ないじゃないの!」
イミーナはワシャワシャと頭を掻きむしると、ため息を吐いて説明してくれた。
「要するに、アルシェ。今日は何の日か覚えてるの?」
「――何の日?」
今日は何か特別な日だったろうか?
うむり、と考えるも答えは出ない様であった。
「はぁー。全く、呆れたわ。答えなら教えて上げるから、貴女の家に行くわよ」
「――お店は」
「どうせ客なんて入らないわよ! 兎に角行くの」
言うが否や、イミーナは私の手を取って歩き出す。
そうやってずんずん歩いて行き、早々と私の家まで着いてしまった。
『ほら、さっさと入りなさい』というイミーナに後押しされて、我が家の門を潜り、扉を開ける。
すると――
『アルシェ(お姉さま)(お嬢様)(姉)、誕生日おめでとう!』
パンパン、と小気味良いクラッカーの音と共に、そんな大合唱で迎えられた。
訳も分からずキョトンとしてると、私の後ろから入って来たイミーナが背を押して、皆の待つリビングへと運んでくれた。
「「お姉さまー、お誕生日おめでとー!」」
途端、クーデとウレイが私に抱き着きながら祝ってくれる。
二人を抱えながら、そういえばと思い出す。
「――今日は私の誕生日、だった?」
「いや、どうして疑問系なのかしら貴女は。……もしかして忘れでもしたの?」
フリアーネの問いに、コクリと頷き応える。
すると、彼女は心底呆れた顔をしながら、額に手をやった。
「はぁ~。皆が必死になって隠していた意味が無かった、という事ね。本当、アルシェは――」
「――フリアーネ。今日は待っててくれて、ありがとう」
妹達の頭を撫でながら、彼女に会えたら言おうと思っていた事を早速伝える。家に来てくれたのなら、都合が良い。
「は、え……。――っ、当たり前でしょ! 今日の主役は貴女なの、主役が居眠りなんかで遅れたら、格好が付かないでしょうに。……それと、はい。私からのプレゼントよ。いつも同じカチューシャだったから、たまには気分を変えるのも良いんじゃないかしら?」
普段より顔が赤いフリアーネは、言いたい事を捲し立てるとそのまま離れて行ってしまった。
――やっぱり、フリアーネは優しいし思い遣りもある。彼女ならきっと、狭き門を潜り抜けて帝国魔法省へと入ってくれる事だろう。私がやれなかった事をしてくれるに違いない。
……やれなかった事? 私は魔法省に在籍中だ。一体何の事だろうか。
暫し頭を悩ませていると、仄かに甘い花の香りが漂い、意識を向ければジエットとネメルが花束を持って前に立っていた。
「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。学院ではすみませんでした……これを買うの、バレたくなくって」
「アル姉さん、お誕生日おめでとう! それと、ごめんなさいでした。私達からはこの花束を贈ります」
「――ありがとう。私の方こそ詮索するようで申し訳無かった」
花束を受け取ると、二人はにっこり微笑み、もう一度おめでとうを言うと後ろに下がった。
二人の後に続いて、ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイクの三人が現れた。
私は一旦花束とカチューシャを机に置き、妹達をネメルに任せると、三人と向き直った。
「――皆も今日の事、知ってた?」
「当ったり前だろう! 大事な仲間の誕生日だぞ、祝わなくてどうするよ。おめでとうアルシェ!」
「私はさっきの通りだよ。除け者にする真似をして悪かったね。誕生日おめでとう、アルシェ」
「アルシェ、誕生日おめでとうございます。日々を食い繋ぐのに必死な私達ですが、今日ばかりは奮発しましたよ」
そういって手渡されたのは、四つのリングをあしらったネックレスだった。
「このネックレスは、俺達フォーサイトの証だ。
どうよ、とばかりに自慢げなヘッケランに対して、私はポツリと一言。
「――デザインが、ダサい」
「いやいや、おいおい、そりゃあねぇだろ!? 街の鍛冶に頼んで作らせた特注品だぞ!」
「――ヘッケランは、造形のセンスが無い。自覚して」
ガクリ、と項垂れるヘッケランであったが、私は更に言葉を続けた。
「――デザインはダサい。けど、私に皆との証を預けてくれた事は、素直に嬉しい。ありがとう、ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイク」
私が笑顔を向けると、三人も同じく笑顔で返してくれた。……ヘッケランだけ、少しショックを受けていたけど、事実なのだから仕方がない。
これを機に、お店の装飾品も一新してくれる事を祈ろう。
「お姉さま、こっちー」
「こっち、こっちー」
話が終わるのを待っていたのだろう、クーデとウレイの二人が私の手を引いて案内する。
連れてこられたのは両親が待つ一画、微笑みながら私を見る母と貴族然とした父が居た。
「アルシェや、誕生日おめでとう。お前は我が家の誇りだよ。これからも、その才覚を遺憾無く発揮しておくれ。……そして、こっちは母さんと選んだ物だ。これを着て、たまには女の子らしい事をしなさい」
「お誕生日おめでとう、アルシェ。あなたの可愛らしい姿を見せて頂戴ね。それと、そろそろ浮いた話の一つは聞かせて頂戴な」
「――ありがとう。……考慮する事にする」
歯切れの悪い回答をするアルシェを見た皆が笑う。
クーデリカとウレイリカが、笑顔でくるくるとアルシェの周りを駆け回り、それに釣られてアルシェも笑う。
其処にはとても暖かで、満ち足りた幸せが……私の望んだ幸せがあった。
「――ありがとう。私は
◆◆◆
「ふむ。中々興味深い結果となったな……良くやったぞ」
ゴポリ、と薄気味悪い音を立てて、机に置かれている円柱の水槽が揺らいだ。
それを見ながらアインズは、今回の実験の結果は上々だったと太鼓判を押す。
「有り難き幸せで御座います、アインズ様! 我が創造主の深遠なる策謀の一旦を担え、心が舞い踊る気持ちで御座います」
「そうか……。踊るなよ? 頼むからじっとしててくれよ?」
その大仰な仕草と物言いとは裏腹に、これは只の比喩であり、パンドラ自身にはそんなつもりは微塵も無かったのだが。
多少首を傾げつつも、敬愛する主がそう仰るならばと、これまた大きく動作を取り礼をするのであった。
「しかし、だ。
アインズは、そんなパンドラを視界に入れぬように注意しつつ、今回の実験で得られた情報を吟味していく。
パンドラもそんな主を見て、自らの考えを御伝えするべく口を挟む。
「アインズ様。今回、私はアインズ様も御覧になられた通り、そのアルシェという少女の記憶を垣間見ました。その中で何点か程、気になった部分があるのです」
「ふむ、私は特に思うところは無かったが……答えてみよ」
アインズに促されたパンドラは、サーカスの道化の様に深々と一礼し、そのまま考えを語りだす。
「まず! 一点目は記憶の精度です。アイテムの効果によって御覧になられたアインズ様とは違い、私は彼女――アルシェと呼ばれていた者です――が感じたものを直接見聞きしておりました。その中で、あまりにもかけ離れた事柄や思いの強かった記憶には、
「……成る程な、続けよ」
相槌を打つアインズに合わせて、パンドラは両手をバッと開くと更に続けた。
「次に! 二点目。記憶の共有現象です。今回の
「感情もか……最悪は乗っ取られる可能性もあるという事だな?」
「我が君の仰る通りかと。今回、実験なされたのがニューロニスト様でしたら、多少危うい可能性も御座いました」
頷くアインズを見やると、パンドラは最後とばかりに左手を額に当て、右手は水平に伸ばして、顔をやや斜めに下げる。
「そぉしてえ! 最後の三・点・目・わっ――」
「ちょっと待とうな、パンドラ」
興が乗ってきたパンドラは言葉にもそれが現れ、彼本来の
見る者を楽しませる仕草。笑いを誘う言い回し。
我が至高の御君に披露しようと勢い込んだ、その瞬間にそれは至高の御君――アインズにより止められた。
「なぁ、それは必用か? 説明するだけで、あの大仰な身振りやら無駄に舌を巻いたりは必用なのか?」
表情こそ変わらないアインズではあったが、彼はこの実験当初から精神沈静化を幾度となく発動していた。
他の僕達に、この
あわよくば、慣れでもしないだろうか。という、淡い期待は脆くも崩れ去った様だったが。
「いえ、私はその様に創造されましたので……コンパクトな動きが御望みでしょうか?」
パンドラは、自らの主が何やら憤っている事は分かるものの、理由にまでは思い当たれないでいた。
もっと細かな表現が必用かと思い、進言するも違う様だ。
やはり、我が創造主様の深遠なる御考えは御難しい。そんな事を思うパンドラであった。
結局の所、耐えかねたアインズが解散を宣言。今回の実験は留意する事にして、一先ず終わりという事になった。
機先を制されたパンドラは、やや不完全燃焼なものの、至高の御方であられる我が君が、決定なされたなら仕方がない。と、納得し宝物殿へと戻っていた。
只、最後の気になっていた部分を御伝え出来なかった事が、少々心残りではあった。
――三点目、それは記憶改竄の自動進行。
パンドラは実験中、記憶共有に引っ張られぬ様、度々制御を切り離していた。
本来であらば、制御下にある脳はそれに付随して動きを止める。その間は、記憶の改竄も回想も行われない筈だった。
しかし、今回の実験では管理下を離れた脳は停止せず、自らで動き、記憶の改竄を進めた。
それはまるで、記憶の中の者が意思を持って動いているかの様で、パンドラはその者達が
だからこそ、進言しようと思ったのだ。
『苦痛なき死』を与えるとアインズ様が仰った。ならば、今のこの生きていると感じられる状態は、果たして
……まぁ、良いでしょう。アインズ様もこの実験は一時的に凍結すると仰った。それならば、私は次がある時、考える事にしておきましょう。
『――ありがとう。私は幸福者だ』という、最後に聞いた彼女の言葉が思い出された。
果たしてあの場面の事なのか、そうなる迄の過程の事なのか、真相は本人にしか分からない。
「さて! アイテムの整理でも致しましょう。また一つ、保管する物も増えましたからね」
円柱の水槽を、新たに備えた棚に置き、パンドラは嬉しそうにその場を離れる。
ゴポリ、と時々音を立てる水槽は、金貨の放つ光を反射して居場所を示すように輝いて見えた。
しっかり幸せになって貰いました。
ジルクニフもフールーダの弟子が居る家ならば、見逃してくれるんじゃないかなー。
フリアーネが若干キャラ崩壊した気がします。けれど、好敵手が居たらこうなりそうだ、と思いましたので。
背景設定などは各自で妄想頂くか、聞いて頂ければ答えます。ガバガバですが。
妹ちゃん'sが可愛いので、邪教生け贄までのお話出ないかなー?