書籍アルシェが不憫なので、幸せになって貰いました。


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ネタ探しに原作小説を読んでいたら、こういうのないかなーと思い付いたので書いてみました。

読み切りです。



アルシェが幸せになるお話

 鬱蒼と木々が茂る森の中、アルシェはひたすらに飛んだ。常人では歩くことすら困難な闇が広がる森ではあったが、《闇視(ダークヴィジョン)》により真昼と変わらぬ視界を得ているアルシェには何の問題にもならない。

 油断なく周囲を見渡し、何者も現れないことを祈りながら飛び続けた。

 

 やがて《飛行(フライ)》の効力が切れ、やむなく地に降り立ったが歩みを止めることはしない。少しでも遠くに逃げなくてはならない。

 

 しばらく歩いた後、周辺よりも大きな木の根本によろよろと辿り着き、疲労で強張った足を解すためにその場に座り込む。警戒する様に周りを見渡していた頭を下げて、丸まる様にうずくまった。

 

「――ヘッケラン……イミーナ……ロバーデイク……みんな、嘘つきだ……」

 

 知らず知らずの内に漏れ出た声。

 嘗ての仲間達は私一人を逃すために残り、あの強大な魔力を放つ、アインズというエルダーリッチに立ち向かった。未だに連絡は、無い。

 

 ――泣き言を言っている場合ではない。だからこそ、私は逃げ切らないといけない。

 自らを叱咤し、俯いていた身体を起こすと、目の前には真紅の瞳が特徴的な少女が、覗き込むように顔を向けていた。

 その端正な顔立ちに、思わず我を忘れて暫し見入ってしまう。

 

「べろべろ、ばぁ~」

 

 おどける様に口を開き、舌をぬらぬら動かす仕草を見て、アルシェはようやく身体を起き上がらせて、その場から飛び去った。

 

 《飛行》を使い逃げていくものの、先程の少女もその背に大きな羽を生やして追ってくる。

 あれは間違いなくアインズの手の者だろう。だとすれば、足止めとなってくれた二人は……いや、今は置いておく。私が逃げ切れさえすれば――

 

 しかし、その願いは叶わない。後ろに居た筈の少女は、いつの間にか目の前に佇んでいた。

 

「おんやぁ? 追いかけっこは終わりでありんす? 次は、かくれんぼでもやりなんしょうか? きっちり、百秒後に捕らえて――」

 

 その全てを聞くことも無く、直ぐ様その場から離れる様に飛んだ。

『まったく、下等な人間はせっかちで困りんす。いーち……』と後ろからは、その様な言葉が風に乗って聞こえてきた。

 今の間に、何としてでもここから外に出る。

 

 モンスターが近くに見えない事を確認し、横に移動していた進路を一転させ、上空目指して飛んでいく。

 

 薄らと見える雲を突き抜け、輝く星空へ向けて飛ぶ――しかし、アルシェの身体はそれ以上進む事は無かった。

 上に手をやれば、壁のような物がある。いくら手で叩いても、横にずれても、変わらずに見えない壁があった。

 

「――何で、どうして……ここは墳墓の外じゃない……?」

「その通りでありんす。此処は、偉大なるナザリック地下大墳墓が第六階層。つまりは、地下空間という訳。わかりんしたか?」

 

 疑問の声に答える様に現れたのは、先程の少女。

 つまり、此処は未だにあの墳墓の中という事。

 

「――あり得ない。こんな、こんな夜空や空間が地下にあるなんて!」

「……わたしにも仕組みはわかりんせん。しかし、この場は至高の四十一人が創造された世界。偉大なる御方々にとっては当然の技なんでありんすえ」

 

 ――世界を創造するなんて……そんなの、そんな、あり得ない。その様な事が出来るなら、正しく神だ!

 そう思うものの、あのアインズを見た時に感じた魔力にその技。あながち間違いではないと思えた。だとすれば私は、私達は、とんでもない事を仕出かしたのだろうか。

 

「――私を此処から、逃がしては貰えないだろうか」

 

 一抹の望みを掛けて交渉を持ち掛ける。

 いや、こちらに掛けるものなんてない。これは只の足掻き。仲間が繋いでくれた命を、最後まで捨てない為の抵抗だ。

 

「アインズ様は『苦痛無き死』を与えると御約束されなんした。それ以外の選択肢は無理ね。諦めなんし」

 

 無理な事は当然分かっていた。

 ――だから私は最後まで、フォーサイトとして戦う。

 

「――あああぁぁああぁあ!!!」

 

 もはや魔力すら無く、《魔法の矢(マジックアロー)》の一発が限界だった。

 それを発動させながら、この身体を持って目の前の少女へと突っ込む。

 

 そして決死の特攻は、呆気なく終わった。

 またもや私の視界から消え、今度は背後から現れた少女が、そっと私を抱き締めたからだ。

 

「無駄に傷を負って、アインズ様の御用命に反されては困りんすえ。だから、大人しく――おんし、中々可愛い顔立ちをしていんすね」

 

 もがく私を意に介さず少女は、じっとこちらを舐める様な目付きで見定めていた。

 その瞳はまるで、粗野な男が女性を品定めするかの様で。私は薄ら寒いものを覚えた。

 

「……んまあ、アインズ様の御用命が無ければ、味見の一つくらいは考えなんしたが、仕方ありんせん。――せいぜい、良い夢でも見ていなんし」

 

 少女がそう言うと言葉の意味を考える暇もなく、私の意識は落ちていった。

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

「――ルシェ、アルシェ!」

 

 声が聞こえふと顔を上げれば、そこには懐かしの友人が少々呆れた顔をして立っていた。

 

「――フリアーネ? どうして貴女が此処に……ッ!?」

 

 途端に周りを警戒して視線を動かすも、目に入るものは、嘗て通っていた魔法学院の教室そのものであった。何が……どうなって?

 

 ――私は何を怯えていたのだろう?

 

「アルシェ、貴女今日はどうかしたのかしら? 居眠りに挙動不審、全くらしくないわよ?」

「――これは……いや、違う。私の思い過ごし。きっと、夢見が悪かったせい」

 

 フリアーネは怪訝な顔をして目を向けてきたが、そんな事もあるのね、と納得した様だった。

 

 そう、さっきまでのは夢。私は帝国魔法学院に通い、パラダイン様に才覚を買われて弟子入りし、帝国魔法省で研鑽を積む日々を過ごしているのだから。

 

「久しぶりに顔を出したと思ったらこれですもの。貴女、一足早く魔法省入りしたからって、天狗になってるんじゃない?」

「――フリアーネ、拗ねてる?」

「だ、誰も拗ねてなんかいないわよ!」

「――焦らなくても大丈夫。私は早熟だっただけ。フリアーネもきっと魔法省に勤められる」

 

 フリアーネが私をライバル視しているのは周知の事実。普段は頼れるリーダーシップを発揮する彼女も、今は私の妹達の様に可愛い存在に思える。

 思わず微笑を漏らして彼女を眺めた。

 

「――もうっ!! その小さい子を見るような目は止めなさい! 今に見てなさいよ、直ぐに追い抜いて貴女に認めさせてあげますからね! 後で覚えておきなさいな!」

 

 そう言って、教室から出て行ってしまった。

 よくよく見れば、もう講義も全て終わったのだろう。教室に残って居たのは、私とフリアーネの二人だけだった。

 

 ……居眠りしていた私を、待っていてくれたみたいだ。今度、顔を合わせた時にお礼でも言おうか。

 そう考えた後、ふと弟の様に可愛がっていた存在を思い出した。まだ、残って居るだろうか?

 

 ててて、と小走り気味に教室を出ると、下級生の教室へとその歩みを進める。

 すると、何やら言い争う声がアルシェの耳に聞こえてきた。その内の一方は、どうやらお探しの者の様だ。

 ふぅ、とため息を一つ吐くと、騒ぎの元へと向かって行った。

 

 

 

「――どうかした?」

 

 教室を覗けば、睨み合っている男子が二人――お探しのジエットと、確か……ランゴバルト?――とジエットの後ろにネメルが居た。

 

 途端、朗らかな笑顔を浮かべるジエットとネメルに対して、ランゴバルトは一瞬だけ忌々しげな表情を浮かべると、直ぐ様微笑をその顔に張り付けた。

 

「何もありませんよ、フルト先輩。少し、級友に助言と忠告を述べていただけです。それでは、私はこれで失礼を」

 

 ランゴバルトは簡潔に述べると、足早に教室を去って行った。

 それを見たネメルが安堵の息を吐き、ジエットは不満な表情をして文句を垂れた。

 

「ちぇっ、お嬢様を見た途端に逃げ出して……何が助言と忠告だよ、脅迫の間違いじゃないのか」

「――ジエット、平気?」

 

 可愛い弟分が困っているのであれば、最悪は貴族としての力を奮う事も考えて尋ねた。

 

「はい! ――と言いたい所なんですけど、最近は俺よりネメルに対してちょっかいを掛けてるみたいで……。もしもの時はその、お願いします!」

 

 この子は自分の力量を弁えている。その上で、守る為ならば平気で頭を下げる事も出来る。

 だから、手を貸したくなる。

 

「――了解した。釘は差しておくけど、フリアーネにも一応頼んでおく」

「ありがとうございます、お嬢様」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 頭を下げる二人に微笑み掛けて、この後の予定を聞いてみる。

 

「――今日は二人とも、どうするの?」

 

 ジエットは私の家で、使用人見習いとしても働いている。……専ら、妹達の遊び相手となっているのだが。ネメルも最近は、そんなジエットと一緒に妹達の面倒を見てくれる事が多かった。

 

「あー……、今日はそのー……予定が……」

「えっ、えっと。今は、ちょっとお使いが……あ、後で行きますから!」

「って、おいネメル!」

「ヒエっ!? あっ、ごごごめんなさい」

 

 あからさまに口ごもる二人を訝しんで、ジトっと見詰める。

 一体、何を隠しているのやら。

 

「そ、そういう訳なのでお嬢様。ご機嫌よう~」

「ご機嫌よう~でしたあー!」

 

 二人は、私の視線から逃げるように退散していった。

 はぁ、と再びため息を吐くと、私も帰路に着くために教室を出て外へと足を運ぶ。

 

 ――今度あったら問い詰めよう、と心に固く誓うアルシェであった。

 

 

 

 帝国魔法学院を出たアルシェは家路へと着く前に、少し寄り道をしようかと考えた。

 その性格と才能からか、アルシェはあまり友人が多い方ではない。が、今から立ち寄ろうと思っている場所には、数少ない友人が居る。

 

 ――久しぶりに冷やかしてやろう。

 よからぬ事を企みながら、進路を友人達が居るであろうお店に向けて歩み出した。

 

 数分程歩けば、あっさりと目的地へと辿り着いた。

 そこは、花と小物――主に装飾品――を取り扱う奇妙なお店であった。

 アルシェは店頭の花には目もくれず、慣れた手つきで扉を開いてそのお店に入り込んだ。

 

 店内にはこじんまりとした外観に違わず、数点の装飾品だけが飾られていた。

 ――何度来ても代わり映えがしないその展示品は、いい加減やめるべきだと思う。

 

 そして、たいして流行らなさそうな装飾品に、花だけのお店が潰れないのには訳がある。

 このお店の主な収入源は、また別にあるからだ。

 

 扉を開けた際に取り付けられていた鐘が鳴り、客の来訪を告げた為か、店内の奥から一人の女性が姿を現した。

 

「いらっしゃいま――って、アルシェじゃない。どうしたのよ」

「――気が向いたから冷やかしに来た。用はそれだけ」

 

 彼女――イミーナはハーフエルフであり、そして数少ない友人の一人でもあった。

 

「はぁ……あんたねぇ。お客さんが入ったと思って、期待した私の気持ちを返しなさいよ」

「――売れない物しか置かない、このお店が悪い。そんなことじゃ、何時まで経っても足を洗えない」

「うぐっ。痛いとこを突いてくるわね……でも、今日は珍しく売り上げがあったのよ! 自分で言ってて虚しくなってきたわ……」

 

 一人で盛り上がり、そして落ち込みだしたイミーナは置いておく。気になる単語が聞こえたからだ。

 売り上げ? となると、幾つかの花が売れたのだろうか。トブの大森林に咲き誇っていた花を摘んで栽培している為か、ここの花は多少珍しいから。

 それに、装飾品は売れた試しが無いはずだから除外できる。ヘッケランは手先は器用なのに、センスが無い。残念スキルだ。

 

「――誰かが花束でも買ったの?」

 

 私の考えを伝えると、イミーナは顔を強ばらせて固まった。『しまった』と、表情が物語ってくれている。

 

「あ、うん。そう。そうよ。年頃の子達が花束を買ってくれたの。互いに渡す為に買ったんじゃないかしら?」

「――そう」

「えぇ、そうなのよ。……あー、そろそろ帰った方がいいんじゃないかしら。遅くなるとご両親も心配して――」

「――イミーナ。何を隠している?」

 

 追い立てようとするイミーナの言葉を遮って、疑問を投げ掛けた。

 どうも今日は隠し事をされる日らしい。いい加減に気になる。

 

「あー……なんの事かしら?」

「――それは私には、仲間には言えない事?」

 

 アルシェの心はズキリと痛む様だった。

 私は信頼されては居なかったのだろうか。そんな考えが頭の中を駆け巡る。

 

「――だぁー!!! もうっ、そんな顔されちゃ秘密になんて出来ないじゃないの!」

 

 イミーナはワシャワシャと頭を掻きむしると、ため息を吐いて説明してくれた。

 

「要するに、アルシェ。今日は何の日か覚えてるの?」

「――何の日?」

 

 今日は何か特別な日だったろうか?

 うむり、と考えるも答えは出ない様であった。

 

「はぁー。全く、呆れたわ。答えなら教えて上げるから、貴女の家に行くわよ」

「――お店は」

「どうせ客なんて入らないわよ! 兎に角行くの」

 

 言うが否や、イミーナは私の手を取って歩き出す。

 

 そうやってずんずん歩いて行き、早々と私の家まで着いてしまった。

『ほら、さっさと入りなさい』というイミーナに後押しされて、我が家の門を潜り、扉を開ける。

 

 すると――

 

 

『アルシェ(お姉さま)(お嬢様)(姉)、誕生日おめでとう!』

 

 

 パンパン、と小気味良いクラッカーの音と共に、そんな大合唱で迎えられた。

 訳も分からずキョトンとしてると、私の後ろから入って来たイミーナが背を押して、皆の待つリビングへと運んでくれた。

 

「「お姉さまー、お誕生日おめでとー!」」

 

 途端、クーデとウレイが私に抱き着きながら祝ってくれる。

 二人を抱えながら、そういえばと思い出す。

 

「――今日は私の誕生日、だった?」

「いや、どうして疑問系なのかしら貴女は。……もしかして忘れでもしたの?」

 

 フリアーネの問いに、コクリと頷き応える。

 すると、彼女は心底呆れた顔をしながら、額に手をやった。

 

「はぁ~。皆が必死になって隠していた意味が無かった、という事ね。本当、アルシェは――」

「――フリアーネ。今日は待っててくれて、ありがとう」

 

 妹達の頭を撫でながら、彼女に会えたら言おうと思っていた事を早速伝える。家に来てくれたのなら、都合が良い。

 

「は、え……。――っ、当たり前でしょ! 今日の主役は貴女なの、主役が居眠りなんかで遅れたら、格好が付かないでしょうに。……それと、はい。私からのプレゼントよ。いつも同じカチューシャだったから、たまには気分を変えるのも良いんじゃないかしら?」

 

 普段より顔が赤いフリアーネは、言いたい事を捲し立てるとそのまま離れて行ってしまった。

 ――やっぱり、フリアーネは優しいし思い遣りもある。彼女ならきっと、狭き門を潜り抜けて帝国魔法省へと入ってくれる事だろう。私がやれなかった事をしてくれるに違いない。

 

 ……やれなかった事? 私は魔法省に在籍中だ。一体何の事だろうか。

 

 暫し頭を悩ませていると、仄かに甘い花の香りが漂い、意識を向ければジエットとネメルが花束を持って前に立っていた。

 

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。学院ではすみませんでした……これを買うの、バレたくなくって」

「アル姉さん、お誕生日おめでとう! それと、ごめんなさいでした。私達からはこの花束を贈ります」

「――ありがとう。私の方こそ詮索するようで申し訳無かった」

 

 花束を受け取ると、二人はにっこり微笑み、もう一度おめでとうを言うと後ろに下がった。

 

 二人の後に続いて、ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイクの三人が現れた。

 私は一旦花束とカチューシャを机に置き、妹達をネメルに任せると、三人と向き直った。

 

「――皆も今日の事、知ってた?」

「当ったり前だろう! 大事な仲間の誕生日だぞ、祝わなくてどうするよ。おめでとうアルシェ!」

「私はさっきの通りだよ。除け者にする真似をして悪かったね。誕生日おめでとう、アルシェ」

「アルシェ、誕生日おめでとうございます。日々を食い繋ぐのに必死な私達ですが、今日ばかりは奮発しましたよ」

 

 そういって手渡されたのは、四つのリングをあしらったネックレスだった。

 

「このネックレスは、俺達フォーサイトの証だ。四人の居場所(フォーサイト)を示す証であり、先を見通す慎重さ(フォーサイト)を兼ね備えたアルシェにこそ相応しい物だと思ってな」

 

 どうよ、とばかりに自慢げなヘッケランに対して、私はポツリと一言。

 

「――デザインが、ダサい」

「いやいや、おいおい、そりゃあねぇだろ!? 街の鍛冶に頼んで作らせた特注品だぞ!」

「――ヘッケランは、造形のセンスが無い。自覚して」

 

 ガクリ、と項垂れるヘッケランであったが、私は更に言葉を続けた。

 

「――デザインはダサい。けど、私に皆との証を預けてくれた事は、素直に嬉しい。ありがとう、ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイク」

 

 私が笑顔を向けると、三人も同じく笑顔で返してくれた。……ヘッケランだけ、少しショックを受けていたけど、事実なのだから仕方がない。

 これを機に、お店の装飾品も一新してくれる事を祈ろう。

 

「お姉さま、こっちー」

「こっち、こっちー」

 

 話が終わるのを待っていたのだろう、クーデとウレイの二人が私の手を引いて案内する。

 

 連れてこられたのは両親が待つ一画、微笑みながら私を見る母と貴族然とした父が居た。

 

「アルシェや、誕生日おめでとう。お前は我が家の誇りだよ。これからも、その才覚を遺憾無く発揮しておくれ。……そして、こっちは母さんと選んだ物だ。これを着て、たまには女の子らしい事をしなさい」

「お誕生日おめでとう、アルシェ。あなたの可愛らしい姿を見せて頂戴ね。それと、そろそろ浮いた話の一つは聞かせて頂戴な」

「――ありがとう。……考慮する事にする」

 

 歯切れの悪い回答をするアルシェを見た皆が笑う。

 クーデリカとウレイリカが、笑顔でくるくるとアルシェの周りを駆け回り、それに釣られてアルシェも笑う。

 

 其処にはとても暖かで、満ち足りた幸せが……私の望んだ幸せがあった。

 

 

 

「――ありがとう。私は幸福者(しあわせもの)だ」

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

「ふむ。中々興味深い結果となったな……良くやったぞ」

 

 ゴポリ、と薄気味悪い音を立てて、机に置かれている円柱の水槽が揺らいだ。

 それを見ながらアインズは、今回の実験の結果は上々だったと太鼓判を押す。

 

「有り難き幸せで御座います、アインズ様! 我が創造主の深遠なる策謀の一旦を担え、心が舞い踊る気持ちで御座います」

「そうか……。踊るなよ? 頼むからじっとしててくれよ?」

 

 その大仰な仕草と物言いとは裏腹に、これは只の比喩であり、パンドラ自身にはそんなつもりは微塵も無かったのだが。

 多少首を傾げつつも、敬愛する主がそう仰るならばと、これまた大きく動作を取り礼をするのであった。   

 

「しかし、だ。脳食い(ブレインイーター)記憶操作(コントロール・アムネジア)の相性がここまで良いとはな。記憶を書き換え、その対象にとって都合良く解釈する様に、()()()()()()()を操作出来るとは……難点は担い手と燃費か?」

 

 アインズは、そんなパンドラを視界に入れぬように注意しつつ、今回の実験で得られた情報を吟味していく。

 パンドラもそんな主を見て、自らの考えを御伝えするべく口を挟む。

 

「アインズ様。今回、私はアインズ様も御覧になられた通り、そのアルシェという少女の記憶を垣間見ました。その中で何点か程、気になった部分があるのです」

「ふむ、私は特に思うところは無かったが……答えてみよ」

 

 アインズに促されたパンドラは、サーカスの道化の様に深々と一礼し、そのまま考えを語りだす。

 

「まず! 一点目は記憶の精度です。アイテムの効果によって御覧になられたアインズ様とは違い、私は彼女――アルシェと呼ばれていた者です――が感じたものを直接見聞きしておりました。その中で、あまりにもかけ離れた事柄や思いの強かった記憶には、()()()が見てとれました」

「……成る程な、続けよ」

 

 相槌を打つアインズに合わせて、パンドラは両手をバッと開くと更に続けた。

 

「次に! 二点目。記憶の共有現象です。今回の被験者(アルシェ)の記憶や知識は勿論の事、仕草や感情までも、実験中の私は被験者に合わせる様になっておりました。恐らく、常に対象に取り付き操作していた弊害でしょう」

「感情もか……最悪は乗っ取られる可能性もあるという事だな?」

「我が君の仰る通りかと。今回、実験なされたのがニューロニスト様でしたら、多少危うい可能性も御座いました」

 

 頷くアインズを見やると、パンドラは最後とばかりに左手を額に当て、右手は水平に伸ばして、顔をやや斜めに下げる。

 

「そぉしてえ! 最後の三・点・目・わっ――」

「ちょっと待とうな、パンドラ」

 

 興が乗ってきたパンドラは言葉にもそれが現れ、彼本来の役者(アクター)としての性質が噴出しかけていた。

 見る者を楽しませる仕草。笑いを誘う言い回し。

 我が至高の御君に披露しようと勢い込んだ、その瞬間にそれは至高の御君――アインズにより止められた。

 

「なぁ、それは必用か? 説明するだけで、あの大仰な身振りやら無駄に舌を巻いたりは必用なのか?」

 

 表情こそ変わらないアインズではあったが、彼はこの実験当初から精神沈静化を幾度となく発動していた。

 他の僕達に、この黒歴史(パンドラズ・アクター)をあまり晒したく無いからこそ、こうして二人きりで行っていたのだ。

 

 あわよくば、慣れでもしないだろうか。という、淡い期待は脆くも崩れ去った様だったが。

 

「いえ、私はその様に創造されましたので……コンパクトな動きが御望みでしょうか?」

 

 パンドラは、自らの主が何やら憤っている事は分かるものの、理由にまでは思い当たれないでいた。

 もっと細かな表現が必用かと思い、進言するも違う様だ。

 やはり、我が創造主様の深遠なる御考えは御難しい。そんな事を思うパンドラであった。

 

 

 

 結局の所、耐えかねたアインズが解散を宣言。今回の実験は留意する事にして、一先ず終わりという事になった。

 

 機先を制されたパンドラは、やや不完全燃焼なものの、至高の御方であられる我が君が、決定なされたなら仕方がない。と、納得し宝物殿へと戻っていた。

 只、最後の気になっていた部分を御伝え出来なかった事が、少々心残りではあった。

 

 ――三点目、それは記憶改竄の自動進行。

 パンドラは実験中、記憶共有に引っ張られぬ様、度々制御を切り離していた。

 本来であらば、制御下にある脳はそれに付随して動きを止める。その間は、記憶の改竄も回想も行われない筈だった。

 しかし、今回の実験では管理下を離れた脳は停止せず、自らで動き、記憶の改竄を進めた。

 それはまるで、記憶の中の者が意思を持って動いているかの様で、パンドラはその者達が()()()()()様だと感じた。

 

 だからこそ、進言しようと思ったのだ。

『苦痛なき死』を与えるとアインズ様が仰った。ならば、今のこの生きていると感じられる状態は、果たして()と呼べるのだろうか。

 

 ……まぁ、良いでしょう。アインズ様もこの実験は一時的に凍結すると仰った。それならば、私は次がある時、考える事にしておきましょう。

 

『――ありがとう。私は幸福者だ』という、最後に聞いた彼女の言葉が思い出された。

 果たしてあの場面の事なのか、そうなる迄の過程の事なのか、真相は本人にしか分からない。

 

「さて! アイテムの整理でも致しましょう。また一つ、保管する物も増えましたからね」

 

 円柱の水槽を、新たに備えた棚に置き、パンドラは嬉しそうにその場を離れる。

 

 

 ゴポリ、と時々音を立てる水槽は、金貨の放つ光を反射して居場所を示すように輝いて見えた。

 





しっかり幸せになって貰いました。
ジルクニフもフールーダの弟子が居る家ならば、見逃してくれるんじゃないかなー。

フリアーネが若干キャラ崩壊した気がします。けれど、好敵手が居たらこうなりそうだ、と思いましたので。

背景設定などは各自で妄想頂くか、聞いて頂ければ答えます。ガバガバですが。


妹ちゃん'sが可愛いので、邪教生け贄までのお話出ないかなー?

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