ひどく寒い夜でした。今年最後の日、雪が降り積もりいつも以上に肌を刺す寒さに人々は服を着こんで身をかがめています。
そんな中、頭に何もかぶらず靴も履かず、寒さに対してあまりにも無防備な薄い服を着た一人の少女、やみんが、かごに入ったリンゴを道端で売っていました。
ですが、形が悪いせいかなかなか買う人が居ません。
そのリンゴは薄目で見れば、確かに男の金玉に見えなくもありません。ですが形が悪く色黒で異臭のするホモの兄が作ったとはいえ、丹精込めて作ったそれがおいしくないはずがありません。
やみんは必死に声を出します。
「りんご、りんごはいりませんか。農場でとれたてですよ。おいしいですよ」
それを見た一人の少年が、指をさして言ってきました。
「なんだそれ、それがリンゴ?どう見ても金玉だ、ぎゃははは」
腹を抱えて歩いていく少年を見ながら、やみんはむっとします。
確かに、手に持ってみれば金玉にも見えます。でも、見えるだけでそれはれっきとしたリンゴ。なんでそれが分かってもらえないのでしょうか。
そう思っていると、30歳ほどの手を組んだ男女が目の前にやってきます。
「それはリンゴかい?」
男性が訊いてきました。
「はい、兄が作ったものです、とってもおいしいですよ」
「はははは、リンゴだったのか。男の金玉をもぎ取ったものかと思ったよ。そんな、どこからどう見ても金玉のもの食べれるわけないだろ」
隣にいる女性も言います。
「そうよ、赤く塗った金玉にしか見えない。そんなもの誰も買わないわ」
2人が歩いていくと、やみんは不機嫌そうな顔でその背中を見ます。
確かに、見た目は金玉としか言いようがありません。ですが、それと味は関係ないはずです。
そう思っていると、ご老人が話しかけてきました。
「ほお、こんな小さな子がリンゴを売っているのか。一ついただけますか」
「はい、おじ様。形はあれですが、とってもおいしいですよ」
やみんはお金を受け取ると、リンゴを一つ手渡ししました。
「確かに、金玉には見えるが、君が言うんだきっとおいしいんだろう」
ご老人がリンゴをかじるのを、やみんは見ていました。
きっとおいしいといってくれるに違いありません。
リンゴをかじった後、目を見開いて笑顔を作るご老人を見て、やみんは嬉しそうに訊きました。
「どうですか」
「最高のリンゴだ」
「やっぱり」
「ああ、金玉の味がするよ」
やみんは耳を疑いました。
なぜ金玉の味がするのでしょうか。そして、なぜそれがおいしいのでしょうか。
「おじ様、ご冗談はやめてください」
やみんがそう言うと、ご老人は首を振ります。
「冗談ではありません。私がいつもしゃぶっている金玉の味がしますよ。ああ、私はこう見えてもゴリゴリのホモでして、さっきまでいろんなものをしゃぶりあっていたのですよ。私が言うのだから間違いありません、これはもうリンゴではなく金玉です。それよりお嬢さん、この金玉をあるだけいただけますか」
本当はとってもうれしくなるようなご老人の言葉。ですが、やみんの顔は死んでいました。それもそのはずです。今まで売ってきたものが、よもやただの金玉だなんて思いもしなかったからです。
やみんはしっかりとその金玉を見ます。どこからどう見ても、金玉をサーモグラフィで見ただけのものでした。
やみんはかごごと、金玉全部をご老人に渡します。
「どうぞ」
「おお、素晴らしい、夢のようだ。これはホモ仲間たちに知らせなくては。ありがとうお嬢さん、ではこれを」
そういってご老人はお札を数枚くれました。
汚れた金でした。
嬉々としてさっていくご老人を見ながら、やみんはその場に立ち尽くします。
雪の隙間から、楽しそうな家族を映す窓が見えました。
それを見てやみんは泣きました。
自分はもう、あの幸せにはありつけないのだと。
涙が止まることはありませんでした。
これは、自らを呪い、兄を恨むお話。
金玉を売っていた、悲しき少女の物語。
まあ、その後リンゴはホモを中心に売れて、消えない心の傷は残ったものの、兄妹はわりと幸せにすごしました。
めでたしめでたし。