流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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何度か書きなおして、練りなおした新作です。
どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。

こちらの作品はリハビリ兼習作です。
表現やその他に助言や批評ありましたら是非指摘をお願いします。


流れ星のクレーター

 ホウエン地方は自然豊かな土地である。

 海との交流が盛んなムロタウン。機械を使わずに完成させたカナシダトンネル。降り積もる火山灰を利用して作られたビードロ。ツリーハウスばかりの町並みを持つヒマワキ。

 これらはホウエンに住むものたちの宝であり、ポケモンたちの家であり、荒らされること無く共存するべきものである。少なくとも、ホウエンの住人は皆そう考えている。都市開発もあるだろう。確かに、その豊かな資源を搾取せずには居られないだろう。だからこそ、覚えるべき節度を彼らは大事にし、存続のために何をするべきかの研究をしている。

 

 そして、その自然保護に動く者達の中に彼らが居る。

 「ファウンス地質調査団」と呼ばれた彼らは、このホウエン地方随一の窪地であり、石塔が積み重なる神秘的な光景の広がる土地、―――ファウンスを存続させるために立ち上がった者達である。

 ファウンスは数年前、突如出現した正体不明の巨大な怪物によって荒らし尽くされた。石塔は崩れ落ち、自然は枯れ果てて、その一帯は赤茶色に変質した死んだ土地を晒してしまった。これを再生させるために立ち上がったある人物が団体を結成、そうして出来上がったうちの一つがこの地質調査団。このデータを研究者に渡し、死んだ土地を前のような気候に戻すための活動を続けている。

 

 そんな彼らは屈強な男がメンバーとなっている。当然、地質調査とはいえファウンスはそれなり以上に厳しい土地だ。断崖絶壁をロープ一本で伝ったり、ポケモンの手を借りているとは言え巨大な未知の空洞を征くときもある。探検家のように厳しい土地を踏破する姿は勇ましく、彼らを知る子どもたちは調査団に憧れるものも多い。

 しかし、しかしだ。今回語られるべきは彼らではなく、彼らの傍らにいる人物。

 

 彼らの中で唯一白衣をまとい、巨大なバックパックを背負った青年。

 ショートカットの青い髪、四角いメガネと三白眼。

 相棒をキュウコンとする、彼が紡ぐ物語を、我々は知ることになるのだ。

 

 

 

 

「よし、ここいらで今日はテントを張ろう。さぁ皆、準備にとりかかるぞ!」

「「「うぃーっす」」」

 

 青年、ハマゴは今年で18になる少年だ。

 彼は地質調査団である父親についてきただけの立場であり、厳密には調査団メンバーではない。そんな彼が何故、父親がいるとはいえこんな自然保護区に立ち入ることができているのか? それには歴とした理由がある。

 

「ハマゴ!」

 

 さっそく彼の仕事が回ってきたようだ。ハマゴに近づく一人の男性が声をかけた。

 

「おっちゃんか。今日はどうしたっつうんだ」

「ワリィが、こいつを頼む。俺をかばってキノガッサの胞子を浴びちまってなあ」

 

 そう言って手渡されたのはモンスターボールだった。

 ハマゴと呼ばれた青年はため息を吐きつつも、その目を更に鋭くして受け取ったボールの開閉スイッチを押す。すると、傷ついたポケモンがハマゴの目の前のシートに寝かされた。

 

「ヤルキモノか…オマエも懲りねえなあ」

 

 ったく、と毒づいた様子を隠そうともしないハマゴ。ヤルキモノは面目ないと言わんばかりの渋面を見せるが、まるでいつもの事のようにハマゴは一蹴し、バックパックを漁り始めた。

 

「簡単な毒状態だな。モモンを使ってるがちょいと苦めの飲み薬だ。我慢して飲めよ」

 

 仕方ないな、と言わんばかりの表情を隠そうともせず、取り出したのは薄いピンク色の粉末だった。それをヤルキモノの口に入れると、横においてあったボトルを傾けてヤルキモノに飲み込ませる。毒で蝕まれていたヤルキモノは険しい表情を崩し、眉間の皺を少しずつほぐして行く。

 これで終わりだと指を弾いて、彼はヤルキモノの主人に向き直った。

 

「これでよし、と」

「ヤルキモノ! ああ…助かったよ」

「おっちゃんも毒消しくらいは常備してくれ。持ち物が厳しいのはわかるけどよお、こればっかりは譲れねえ。早めに消してやんねえと瀕死になっちまうだろ。そこんとこわかってんのか? ああ?」

 

 ハマゴの剣幕に気圧されて、面目ないとヤルキモノそっくりの渋面で謝ってみせる団員に、ハマゴは次が無いよう気をつけなと肩を叩いてやった。

 

「同じ症状で俺の前に来てみろ。次はぶん殴ってやる」

「お、おまえ医者だろ?」

「ポケモン専門医だ。人間は管轄外だよバーカ」

 

 以上の様子を見て分かる通り、彼はポケモン専門医……つまりはポケモンドクターとしての腕を持っている。だからこそ、この危険が潜む調査に付き合うことを許されている。

 ポケモン医を目指したのは、こうした調査団など、危険な仕事をこなす父親の仕事の力になりたいと思ったが故、そして成人していなくとも医者免許は発行されるからというのが理由。手っ取り早く力になりたいと思っていたが、今となってはポケモンを治せることに誇りを持っているし、命を預かる仕事だからこそより一層頑張れる。道は辛かったが、こうした専門の薬を煎じる事も許可されるほどの腕を持った。

 

 済まなそうにする調査団メンバーの謝罪に、呆れながらも次は無いと切り捨てる厳しい態度のハマゴだが、それは彼なりの励ましだ。それをさぞ可笑しそうに彼の父親は笑って、そしてハマゴを褒める。それに少しだけ恥ずかしがりながらも、彼はさっさとテントの準備を進めろと照れ隠し。温かな空気に包まれて、彼らは眠りにつこうとテントに入っていった。

 

 これも、ハマゴが調査団メンバーになってからは珍しくはない光景だった。これからも、変わらない日々が続いて、いつかこの土地が復興した時にはハマゴも自分の拠点を構えて、独立したポケモンドクターとして活動する。そんな夢をかなえるつもりだ。

 

 だけどそれは、あくまで夢に過ぎない。彼を異変へと導く見えない道標は、確かに動き始めている。その胎動は彼の予想を遥かに超えた形で、今まさに起こらんとしていた。

 

「……どうした?」

 

 深夜、皆が寝静まった頃にハマゴの相棒であるキュウコンがハマゴを起こした。キュウコンは何も言わずに耳を立てて、とある方向に顔を向ける。その様子を訝しんで、ハマゴもまたそちらの方向に調査団の使っているソナーを起動させた。

 だが、思ったよりも事態は深刻らしい。ハマゴは歯を食いしばって怒りを露わにしてみせる。ソナーには幾つもの波紋と光点が現れている。つまり、このファウンス特別保護区に侵入した―――犯罪者集団だ。

 

 ギリッ、と歯を噛んだハマゴはすぐさま顔を上げる。

 キュウコンと向き合った彼は急ぎ行動を起こした。

 

「キュウコン、皆を起こしてきてくれ! 俺は先に行って様子を見てくる」

 

 怒りで眠気を吹き飛ばしたハマゴはいつもの道具を手に取ると一目散に走りだす。彼は医者としての側面を見せているときは冷静だが、普段は情に厚く、自身の感情を第一として動く人物であった。

 腕につけたソナーの光点は近い。幸いにも、この辺りは過去の調査中に何度か訪れた場所だ。調査団専用の目印を頼りにしながら、後に続く父親たちの導になるように細工を施しつつ進んでいく。

 そして彼は、フードやバイザーで顔を隠した連中が一段となって駆けまわっている目撃する。慌ただしい声と、響き渡る怒号。近づいた際の足音は驚き飛び立つ野生ポケモンたちの羽音で隠されたが、ハマゴの思っていた以上に侵入者の数は多かった。

 

(十、二十……やべえな、少なくとも四十人前後か。何が目的で忍び込んだ…? いや、それよりもこれだけいるとなると、ちと厳しいか)

 

 何かを探しているような集団は、しかし用心深いのか離ればなれになるようなことはなかった。探しものという点において非効率的ではあるが、彼らは犯罪者だ。犯罪者である以上、ある程度自己中心的であるだろうし、捕まるリスクは避けたい。そのためには一丸となって行動し、いざとなればポケモンを囮にして一斉攻撃・一斉逃走という事も容易だろう。

 ハマゴが息を殺して潜みつつも、彼らの会話が聞き取れる位置に移動する。そして白衣の内側から取り出したボイスレコーダーの集音先を向けると、イヤホンに彼らの会話が聞こえてきた。

 

「クソっ! 取り逃がすとは何を考えているんだ!?」

「煩い! 想像以上にアイツが抵抗しやがったから痛めつけただけだ!! 俺は悪く無いだろう!?」

「そんなのどうでもいいから早く探しましょうよー。グズグズしてると調査団の奴らが出張って面倒になるじゃん。それに、一斉に攻撃したんだしそんな遠くにはいけないって」

「……やむを得ん。十人ほどで別れて周囲を探すぞ。調査団のテントは今のところ動きはないようだ。ガキが一人暗がりに行ったが、どうせションベンだろう。見つけたら口封じにしてやればいい」

「オッケー。じゃあさっさと探しましょ」

 

 どうやら、ハマゴの行動は既に監視されていたらしい。だが音声までは伝わっていないのが幸いか、とハマゴは胸をなでおろす。だが次の瞬間に響く「散開!」という号令とともに足音が近づいてきたのを感じて、彼は茂みの中に身を隠した。

 

「……ん?」

「どうした、何かいたのか?」

「ああいや……」

 

 手に持ったライトがハマゴのいる辺りを映したが、そこに彼の姿はない。

 

「気のせいだ。ただのチルットだった」

「チッ、まぁいいや。さっさと行くぞ」

 

 十数人の人影はそれを最後にどこかへ行ったが、まだその気配は近い。

 これだけの大人数ともなると流石に初めてだが、この区域にポケモン密漁のために入ってきた犯罪者は珍しくはない。すぐさま通信機を取り出したハマゴは、テントの方で待機している父親へと連絡した。

 

「……親父、聞こえるか?」

≪ああ、どうやら見張られているらしいな……≫

 

 草のさざめき程度の小声だが、ハマゴが独断専行するのも珍しくはない。キュウコンに起こされ、事態を把握した調査団メンバーはこの事態に既に取り掛かっているようだった。

 

「敵の数は四十人前後だった。それに、そっちのテントの様子も見られている。そっちはどんな状況だ?」

≪テントの外の様子は分からんが、いつでも動けるぞ≫

「奴らはいま十人程度で手分けしてやがる。だが、ポチエナやグラエナ。ドンメルが主流だ。親父のポケモンなら蹴散らせると思うが」

≪わかってるさ。水遊びと泥遊びをしてから一気に畳み掛ける。密猟者共はどっちに行ったかわかるか?≫

「おおよその散らばった方向はそっちに……転送した。俺はあいつらが襲っていたポケモンを保護する。後は頼んだ」

≪荒事はこっちの仕事だな。了解した≫

「……さて」

 

 通信を切ったハマゴ。彼は周囲に目を配ると、先程まで密猟者と思しき集団が屯していた当たりに移動を始めた。抜き足差し足忍び足。しっかりと音を立てずに辿り着いた彼は、傷つけられたポケモンの捜索を開始。とはいっても、石塔と茂み、隠れるところはどこにでもある。多少広場になっているとはいえ、そんなポケモンが隠れるところなんてこの辺りにあっただろうか? 

 しかし観察を続けると、側の大樹には石塔の隙間とはまた違う、木のウロがあることに気がついた。茂みや枝が交差しているが、よく見れば枝が折られてカモフラージュになっているだけ。近くで見れば粗末だが、こうも暗いと立派な隠蔽ができている。

 

「周囲には……いないな」

 

 あれだけの人数だ。囲い込める距離から探して、中心に追い詰めるつもりでもあったのだろうか。どちらにせよ、ソナーを見る限り光点は先程よりも激しい波紋を放っている。つまり、父親を含めた調査団メンバーとバトルが始まったと見るべきだろう。

 時間的にまだ余裕があるとはいえ、しびれを切らした者がこっちに来ないとも限らない。そう思ったハマゴは木のウロの枝を払って中を覗き込み―――絶句する。

 

「……お、い。何だこのポケモン…?」

 

 このファウンスに住むポケモン全てを知っているとは言わない。だが、ホウエン地方でこんなポケモンは見たことがなかった。そして、彼はドクターであるからこそ、様々なポケモンを把握しつつも、このポケモンだけは知らなかった。

 それもそのはず。彼が見つけたポケモンは、頭がまるで星形の帽子のようになった、短冊と羽衣にも見える部位を持つポケモン――ジラーチであったからだ。

 

 ジラーチ。千年に一度だけ目覚めると言われたポケモン。それは彗星がやってくると同時に、その彗星の気配に充てられて目を覚ます。だが今の夜空には彗星は無く、数年前にジラーチは目覚め、とんでもない騒動の爪あとを残してまた眠りについた。尤も、ハマゴはその真実を知らないが。

 

「クソッタレ共が……!」

 

 とにもかくにも、これが幻だとか、珍しいポケモンであることは間違いない。そして何らかの価値があるからこそ、あの大量の人数でジラーチを襲撃したのだろう。

 そう思うと、怒りが余計に体の中を巡り巡って爆発しそうになる。グッと握りしめた手のひらに、爪が食い込んで痛みを訴えかけてくる。

 だが、怒りに囚われている暇はない。すぐさま彼の顔はドクターとしたの冷静な表情に切り替わった。想像以上に目の前のポケモンが死にかけていたのだ。

 

「ヤベェな。高熱と衰弱……それに、心音が早い? このポケモンが強い力を持っているとすれば、エネルギーの暴走か…? いや、安全な場所に移動しながら外傷だけでも治しておかねえと」

 

 いざとなれば決断は早い。すぐさまジラーチを抱き抱えたハマゴは、持ち歩いていた布巾をボトルの水に浸すと、それで包みながらジラーチの外傷がある場所を丁寧に拭きとっていった。当然、走りながらテントまで戻るのも忘れない。

 

(一斉攻撃ってこういうことかよ、クソっ。まぁいい、俺は俺の仕事をするだけだ)

 

 テントの近くまで戻ってくると、臭いを嗅ぎつけたのか、キュウコンが出迎えてくれていた。何も言わずに左手でジラーチを抱え直して、キュウコンの首に捕まったハマゴは走りだしたキュウコンの尻尾に抑えられながらも、彼の背中にまたがった。

 

 そしてキュウコンは急加速。バトルを繰り広げているテントの襲撃者たちを飛び越える。決してジラーチを取り落とすこと無く、それでいて優しく抱きかかえた彼はふわりとした浮遊感を味わった。

 直後、ズダンッ、と着地しつつも流石はキュウコン。完全に搭乗者への負担をなくしてから、すっと地面に降ろしてみせる。ハマゴはキュウコンに次の指示を出すと、ヤルキモノを寝かせた先ほどのシートの上にジラーチを寝かせた。

 

「戻ったか! って、何だそのポケモン!?」

「んなことより状況報告!」

「既に二人は捕まえたが、他の奴らは逃げ出そうとしてるな。ポケモンに戦わせて置き去りだ」

「ああ、だからトレーナーが居なかったのか……舐め腐りやがって」

 

 そうは言いつつも、ジラーチの汚れをを綺麗に拭き取るハマゴ。手を止めないのは流石といったところか。

 キュウコンも、作ったお湯を「じんつうりき」で上手く運び、ハマゴの隣に置く。ハマゴの父親も、これから彼のする治療のためにハマゴがいつも背負っている巨大なバックパックの口を開け、中から必要なアイテムを取り出し始めていた。

 

「何にしてもまずは体力回復からだな…。キュウコン! オボンのみ絞っといてくれ! 親父もありがとよ、後はあいつらの方に向かってくれ」

「分かった。しくじるなよ」

「ったりめーだ馬鹿野郎!」

 

 三白眼を更に鋭くしながら、テキパキと彼の施す治療は続けられていく。

 ある程度の処置が終わる頃には、キュウコンによってオボンから抽出されたエキスが、彼の手によって回復薬に昇華する。まだ実の果物臭さが残る急造の薬液をジラーチの全身に塗りたくると、特に傷が酷かった部位に薬液を浸した包帯を巻く。包帯そのものにも何らかの役割があるのか、ほんのりと鼻を突く薬品臭さがあった。

 

「ここか…? いや、こうだな」

 

 丁寧な手つきでジラーチの態勢を整える。未だ目を覚まさないジラーチの気道が確保できるよう、観察を続けながら適切であろう姿勢にして寝かしつけた。荒い息は収まっているようだが、まだ油断は出来ない。

 初めて見るポケモンだからこそ、より一層気を引き締める必要がある。鋭くなった彼の三白眼は、まだ緩まってはいなかった。

 

「キュウコン」

 

 呼ばれたキュウコンは、薬品や果汁の匂いもキツイだろうに、嫌な顔をせずにジラーチに寄り添った。炎タイプのポケモンが得意とする、体を温めるための指示だ。

 ここまでで、人間とはまったく違う処置だろう。しかし、とにかくポケモン相手に必要なのはポケモン自身の活力を無理やりにでも取り戻すこと。そうすれば、強靭な体を持つ彼らは、自己治癒によってある程度の症状なら勝手に直してしまう。今回はそのための治療だった。

 

 分かりやすいように言えば、我々で言うところのHPを全快にする。ドクターはその後、状態異常を何らかの手段を用いて治す。あとはポケモン自身の活力が全てを元に戻してくれる。我々が知るゲームと違うのは、それでも治らない場合にドクターとして専門の知識を用いて全力を尽くすところだろうか。

 

 もっとも、今回はあまり時間も知識も無かった。いわゆる瀕死の状態から2日も放置すればポケモンは死んでしまう。だから、ポケモンバトルではそこまでいかないよう、「戦闘不能」のラインを審判が見極める。

 今回は瀕死よりも更に酷い状態だった。だが、ジラーチを知っている彼ら犯罪者にしてみればその能力を発揮してもらえれば、あとはジラーチが死んでいようが生きていようが関係ないのだろう。

 加えて初めて見るポケモン。医者としての知識を総動員させても、ジラーチというポケモンを彼が知っているわけもない。これまでに施した処置が果たして本当に効果があるものだったのだろうか。

 

 ハマゴは、唇を噛んで難しげな表情を作る。

 外の騒動も治まってきたのだろう。彼の父親がいつもより苛立っているようなハマゴに話しかけてきた。

 

「どうだ?」

「……わからねえよ。ここまで酷いのは初めて診た。それに、こいつはこいつ自身のパワーが内側から苦しめてたのもある。見たところ、早朝あたりに山場が来るかもな」

「なんてこった」

 

 頭に手を当て、ハマゴの父親は驚いてみせる。

 ただ、包帯やガーゼに包まれた痛々しいザマのジラーチを見ればそんな行動を取ってもおかしくはない。

 

「とにかく、こいつらを引き渡すのもある。調査は打ち切ってフエンに戻るぞ、ハマゴ」

「あぁ……」

 

 最善を尽くしたつもりではあるが、ハマゴにとっては初めての経験。ここまで「死にかけた」ポケモンを相手に、一旦息が落ち着いた程度の治療がどれほど効果があるのかもわからない。本当なら絶対安静にするべきだろうが、今の環境で最善の治療を施したのだ。ぶり返した時、何も出来ずに死なせてしまう可能性のほうが高い。

 ドクターとしての側面では久しく覚えなかった焦りという感情。それがハマゴの胸中を巡り始める。嫌な汗が垂れ落ちるのも無視して、彼は戻ってきた調査団のメンバーに呼びかけた。

 

「一足先にポケモンセンターに運ぶ。今回のメンバーにテレポート使える奴はいるか?」

「ハマゴさん、ウチのケーシィなら飛ばせます」

 

 名乗りを上げたのは1週間前に入団したばかりの新人。

 だが、ハマゴにとっては藁にもすがる思いだ。入念な質問を浴びせかけていく。

 

「力量は? 転移後が荒っぽいとかだったら張り倒すぞ」

「ご安心を! ブレずバッチリ。子供一人とポケモン2体なら大丈夫です。そのために鍛えて入団したんですから!」

「そうか……頼む」

 

 シュンッ、と空間を切り裂く音がして、彼らの姿は調査団の前から消えた。

 そうしてハマゴたちは、ジラーチを連れて一足先にフエンタウンのポケモンセンターにたどり着いた。そこからはトントン拍子に話が進み、センターに備え付けられた最新の医療機器によってジラーチの状態が安静のまま解明されていく。

 とはいえ、未知の部分が多い。解析しても他のポケモンのデータと照らし合わせるしかない現状に、頭を悩ませながらもハマゴはジョーイさんの手を借りつつもジラーチのデータを取っていった。

 

 そうして夜が明ける頃、ハマゴの予想通りの事態が起こる。

 ジラーチの容体が急変したのだ。

 




ニックネームとか付けない方針にしました。
ちなみに、技は4つ以上覚えます。
技の他にもポケモン自身が持つ特殊能力(ルカリオの波導)とかも起用していきます。
これから、壮大な御話になっていく予定です。

色々と批評やコメントお待ちしております。
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