流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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今回は人物重視です。
ポケモンバトルもちらっとだけ。


道征く者達

 ポケモン研究の奥は深い。今わかっていることなどは表面的なことばかりで、なにがどうしてこうなるのか、なんて事は未だ人の手で解明されていることはほんの僅かとも言えるだろう。

 ところでポケモンの不思議の中でも、もっとも多く事例があるにも関わらず解明されていないものの代名詞といえば、やはり「ポケモンの進化」だ。あるものはまったく違うタイプに変化し、あるものは元の体を更に丈夫にしたようになる。そしてあるものは虫のように蛹として中間を挟み、三段階目の威風ある姿を現すこともある。

 そして、不思議なのが伝説・幻というポケモンたちには進化がないこと。フォルムチェンジと呼称される形態変化は見受けられるが、その大本の性質は進化したポケモンに比べて全く変わっていない。

 ここシンオウでいえば、渡りをするシェイミたちのスカイフォルムとランドフォルム。イッシュ地方ならば、神話に埋もれた土着神、ランドロスたちのれいじゅうフォルムとけしんフォルム。こうしてみれば、進化とはまた違った見方があるのもうなずける。

 

「うぅむ……できれば英雄殿にギラティナを紹介してもらえば早いのだが」

 

 そうしたフォルムチェンジの資料と、これまでの研究成果を両手に持ってにらめっこをしているのは、我らがシンオウ地方ポケモン研究の権威、ナナカマドだ。

 ポケモンの90%は進化する。ということを提唱したポケモンの「進化」についての第一人者。近年は単なる進化ではなく、ポケモンとの絆や特殊な石との共鳴で起こる一時的な進化の「メガシンカ」にも手を出しているが、薄々とそもそもの「恒常的な進化」と毛色が違うため別の意味で興味を持っているお年ごろの研究者である。

 

 彼は時計を見上げると、持っていた資料を元の場所へ戻して白衣をはためかせた。部屋に篭もりっきりで中を駆けまわるように調べるものがあったため、多少の汗を書くほど火照っていたからだろう。

 ナナカマドがすっかり冷めてしまったティーカップの中身で喉を潤わせながら、ひとまずの休憩を入れていたその時である。チリン、と短い来客のベルが鳴らされた。

 

 

 

 

「ごめんくださーい」

 

 カンカン、とドアをノックするマーズ。

 コトブキシティを出発した彼らは、両悪の組織からの追撃もなく無事にマサゴタウンへと到着していたのである。そしていつものようにポケモンセンターで部屋を借りた後、最小限の荷物だけ持ってハマゴたちはナナカマド博士の研究所を訪れていたのであった。

 

「やばっ、あたしポケモン研究所なんて来るの初めてだから緊張してきちゃった」

「人が忙しい図書館だと思っとけ。どうせ俺らはおじゃまさせてもらう側なんだからよ」

 

 何をやらかしたのか、相変わらず羽衣の部分を掴まれてうなだれるジラーチを背中に担ぐハマゴが答えてみせる。ポケモン虐待待ったなしの光景にも見慣れたマーズはそれを華麗にスルーしながら人が出てくるのを待っていると、キィと木材の音を軋ませながら研究所のドアは開かれた。

 

「おまたせいたしました。当研究所へようこそ」

「シロナから連絡は来てねぇか? 俺はハマゴっていう(モン)だ。ちょっとばかし研究所内の資料を見せてもらいたくてよ」

 

 そう言うと、手元のバインダーの紙とハマゴを見比べる研究員。

 

「ハマゴ様、ですね。……はい、ただいま確認いたしました。それではまずナナカマド博士とお会い頂けませんか? あ、そちらの女性は…?」

「付き添いだ。邪魔させないよう強く言っとくから」

 

 ヒラヒラと手を振って彼は足をすすめる。通される途中、背中側に担がれたジラーチを見てギョッと研究員が驚いていたが、一行はそれを見事に無視。そうして多少しどろもどろになっている研究員に通された応接室で待っていると、長身の老人が入室してきた。

 

「待たせてしまったかね」

「いいや、お会いできて光栄だぜ。ナナカマド博士」

「話には聞き及んでいるよハマゴ君。今日は存分に我が研究所を見ていってくれたまえ」

 

 立ち上がり、ガッチリと握手を交わした彼らは座談に入った。

 

「む、そちらは……ギンガ団幹部のマーズではないか」

「元、よ。今の過激派とはむしろ敵対関係だから安心しなさい」

 

 服装や雰囲気は変わっても、顔つきをしっかりと覚えていたナナカマドは警戒を見せたのだが、直後に毒気を抜かれたように警戒を解いた。伊達に歳を重ねては居ないということだろう。今のマーズがまったく害の無い存在であると理解した彼は元の調子に戻ってハマゴとの会話に花を咲かせ始めた。

 

 まず話し合ったのは、今日ハマゴが閲覧したいというポケモンの資料について。生体データから生息地、周辺の環境や薬草といった細かいデータを彼が望み、それらは膨大過ぎるため一挙にメモリーの中に収めたものを渡すという形になった。研究の集大成とも言えるものだが、実際に研究を奪うわけでもなければ、敵対するわけでもない。その辺りに関してはスムーズに事が進んだ。

 

 さて、彼の個人的な用事はこれまでにして、これからはシンオウ地方を包み込む不穏なものについての話し合いだ。ここからはマーズも会話の中に参戦してくるようである。

 

「さて、まずはコイツだが」

 

 そう言って、ハンドバックのように羽衣を引っ掴みジラーチを差し出すハマゴ。もはやその扱いにも慣れたのか、ハァイと片手を上げて笑顔で対応するジラーチにナナカマドの表情はいささか苦いものになる。これも一つのポケモンとトレーナーのあり方としてカウントしてもいいのだろうかと。

 ナナカマドの苦悩も我関せずと言ったようにハマゴは話を進めていった。

 

「今のコイツは、まず願いを叶える力を持たない。7日間を越えてずっと起き続けている。そしていざって時に発揮するエネルギーは馬鹿にならない。そんな異常を持ってるのは博士もわかってるよな」

「ウムッ、もちろんだとも。そしてシロナくんから聞いているよ、マグマ団どころか過激派ギンガ団にも狙われているのだとな。狙いはジラーチの持つ“願いを叶える”ということなのか、それとも膨大なエネルギーを利用して何かを成し遂げようとしているのか」

 

 難しい顔で額を弄るハマゴの隣で、マーズはピンと指を立てた。

 

「その点ギンガ団…ジュピターに関してはわかりやすいわよ。破れた世界に行ってアカギを連れ戻すため、ジラーチの願いの力を使おうとしてるんでしょうね。願いを叶えるかどうかは別にしても、今のギンガ団は洗脳技術に長けてるわ。願望機になったジラーチを操り人形にするなんて容易いでしょうね」

「となると、問題はマグマ団だ。おそらく願いを再度叶えられるようにする何らかの手を持っていてもおかしくはねぇ、そしてまだ全貌も見えない相手だ」

 

 マグマ団に関しては、今のところトップも分からない状態だ。かつてのトップ……マツブサは今回の件にはもう関わらないような状態であるのはわかっている。だから、今のマグマ団はマツブサから離れてその名を掲げる不届き者といったところだろう。

 烏合の衆なのか、それとも明確に力を持ったのが一人いるのか。元マグマ団研究者であったバトラーはマツブサが現役の時に退団してしまっているため、情報源としては役に立たない。ここは、シロナが襲撃した時に見つけたマグマ団員からもたらされる情報を待つしか無いだろう。

 

「追い求める結果はどうあれ、過程としては同じだろうがな。とにかく俺のとこからジラーチを奪取しようと動いてくるはず」

 

 それだけは間違いのない事実だ。これからの旅路がより暗雲の立ち込めるものになった事は望ましくないのだが、だからといってハマゴはジラーチを放り出すようなマネはしない。たとえそれが、シロナたちの側にジラーチを預ければ済む話で、むしろ自分が預かっている方が危険であったとしても。

 これが不利益になるのはシロナ、ハマゴ。そして関係者全員が周知の事実であり、同時にギンガ・マグマ団側としては付け入る最大にして多様な隙だ。それでも誰も強硬してでもジラーチを隔離しないのは、各々の意志を通すことが許された甘い世界からなのかもしれない。

 

 そういう意味では、何故このタイミングでハマゴが自分の元を訪れたのかがわからない。多少の疑問符を掲げながら、ナナカマドは次の言葉を放つ。

 

「すまないが、それに関して我々では対処の仕様がないのだが」

「まぁ此処に来てこの話をしたのは、頼みごともあってのことだよ」

「ふむ、頼みごとかね?」

 

 今更ナナカマドを通して最適な機関に預けるわけではない。

 始まりは、マグマ団の一人を捕らえたというシロナの話を聞いてから。ふと浮かばせていた考えをいざナナカマドへと伝えると、ナナカマドはあごひげを擦りながら興味深そうな声を漏らしてみせた。

 

「だが私達も研究や事態への対処と暇ではない。もちろんシンオウの危機ともあればある程度の時間は割くが……」

「片手間でも構わねぇさ。やっといてくれると助かる」

「ハマゴ君がそれでいいのなら……あまり意味があるとも思えんがね」

「あんたも突飛な事思いつくわ。そういう意味ではアカギといい勝負かもしれないけど」

 

 目を丸くして驚く彼女に、意味があるかどうかは俺と相手次第だとハマゴは嗤ってみせた。そうして膝の上ですっかり眠ってしまったジラーチの羽衣を引っ掴むと、また背中に回して吊り下げる。

 今となってはその衝撃ですら起きなくなったいねむりポケモンのジラーチ。仮にも幻のポケモンを相手にぞんざいな扱いをするハマゴに苦笑しつつ、ナナカマドは共に席から立ち上がった。

 

「それでは、さっそく当研究所の案内をしよう。ついてきてくれたまえ」

「ありがてぇ。マーズはどうする?」

「ん~……先にセンター戻ってバトってるわ。一応クロバットは残しとくから、なんかあったらコイツに頼んなさい」

「あいよ」

 

 クロバットのボールを受け取ったハマゴは、腰のボールホルダーにそれを収めた。マーズが礼儀正しく一礼をしてから研究所を出て行く姿を見届けて、ハマゴはナナカマドの後についていく。

 やがて研究資料室とプレートが張り付いた部屋に通された彼は、しばらくの時間をナナカマドと共に過ごすのであった。

 

 

 

 一方、ポケモンセンターに戻ったマーズは久々のひとりきりの時間を満喫しはじめていた。マサゴの喫茶店で軽めの昼を取った後は、よさ気なアクセサリー店などに足を向けてぶらぶらと練り歩く。ポケモンの回復関係の店はハマゴがいるという理由で寄らなくてもいいため、本気で自分の趣味に没頭できる時間である。

 

「さぁて、次はどうしよっかなあ」

 

 そこで、ふと思い出した。ハマゴに言ってはいたものの、まだ一度もバトルはしていない。既に夕方が近い時刻ではあるが、学校・塾帰りのポケモントレーナーが最もポケモンセンターに集まる時間だ。バトルコートも人で賑わっていることだろう。

 時間的に子供が多いが、かのシンオウの英雄のような(ぎょく)が無いとは言い切れない。アカギから吹っ切れた以上、心に余裕ができたマーズは純粋にトレーナーとしての沸々とした滾りを抱き始めていた

 そういう意味では、おおよその戦術を理解しつつ相手の心が取り乱されていたジュピター戦はあまり心躍るものではなかった。あれは説得や止めるという真剣な熱さ。今彼女の内側で煮え滾っているのは、純粋な力比べや自分の高みを目指せるかどうかというもの。

 

 そんな燃えたぎる思いを抱きながら、彼女は軽い足取りでポケモンセンターへと向かっていった。すると、やはりそのバトルコートには多くの影がある。近所の初老の夫婦や、暇を持て余した主婦が観客となって取り囲むコートの一つが、今までになく賑わっているようにも見えた。

 はて、一体そこで何が行われているのだろうか。よほど熱いバトルでもあるのだろうか。そんな期待を抱きつつも、辿り着いた彼女は人の波の向こう側の光景を目に焼き付けられることとなった。

 

 まず感じたのは、ぶわっと顔に掛かるほどの熱気。いや、熱気と勘違いしてしまいそうなほどの闘気である。その発生源は、対戦しているポケモン・ルカリオとそのトレーナー。ハッ、という掛け声とともに地を蹴り上げたルカリオは、トレーナーのうごきと同調するように「はどうだん」を放つ。

 対して、相手側から感じたのは底冷えするような凍気。その全てを凍てつかせると言わんばかりの空気ごと凍らせるユキノオーの「れいとうビーム」が地面に炸裂し、事前にルカリオが着地しようとしていた足場を崩していく。ほんの一瞬でのやり取りの中、確かに感じられる知略を駆使する相手に対して、ルカリオのトレーナーは叫びを上げた。

 

「乾坤一擲! 行きますよルカリオ!!」

 

 ぶるっ、とはどうを感じる耳元の房を震わせる。ルカリオはその手に「ボーンラッシュ」の長い棍を握っていた。そして凍った地面へと叩きつけることで飛び出した勢いをそのままに、ユキノオーの頭上へと躍り出る。マズイポジションを獲得されたと判断したユキノオーのトレーナーもまた叫んだ。

 

「すごいすごいっ! だったらこっちはウッドハンマー!」

 

 吠えるユキノオーとルカリオが激突。

 されど、直後にルカリオは一本の長い棍となっていたボーンラッシュのエネルギーを二つに分かった。ボーンラッシュの二刀流として、一発の威力では勝るウッドハンマーへと対抗しようということだろう。二本の棍棒と二本の腕がぶつかり合って、激しい火花を散らしている。そのまま手数で攻め、そのスピードに載せた技術が確実にユキノオーを追い詰めていく。

 一歩分、押されたユキノオーのつま先には交代した土の跡が残っている。まるで自分が戦っているかのように正拳をつきだしたながら、ルカリオのトレーナーは握る拳を開いた。

 ルカリオもまた、後ろのトレーナーと同調するように棍の一本を上へと投げ捨てる。やがて重力に従って落ちる一本と、まっすぐ向かってくる二方向への挟撃にユキノオーは防ぎきれないと判断。もっとも勢いの強い正面からの衝撃に構えたが、ユキノオーのトレーナーは相手の狙いに気づき焦ったような声を上げた。

 

「それは受けて! その後に“じならし”!」

 

 主人の声を聞いて、すぐさまガードを解いたユキノオーはボーンラッシュの二本を甘んじて受ける。爆風で包まれるユキノオー。これに苦い顔をしたのはルカリオのトレーナーだ。だが、もうそれは間に合わない。ここまで来たからには一気に押し切るしかない。

 ボーンラッシュで体力を多く削っている以上、ワンチャンスはある。まさに乾坤一擲の状況。自分のルカリオが先か、それとも振り下ろすユキノオーの足が先か。

 

 その結果は―――爆風を突き破るルカリオが知っていた。

 

「ッ! はっけい!」

「しま―――」

 

 地面に降り立ったルカリオはユキノオーの真後ろ。片足を軸に、前足を踏み出しながらその広げられた両手がユキノオーの懐めがけて突き出される! 足が地面に触れるその直前、フワッと浮いたユキノオーの巨体。勝負は此処に決した。

 ルカリオのはっけいが、浮いたユキノオーの内部で爆発。大きく身を震わせたユキノオーはじならしのために発光させていた足のエネルギーを霧散させる。ダンッと地面と水平に吹き飛んだユキノオーはバトルコートのセンターライン辺りで停止するが、誰の目から見ても戦闘不能であることは確実であった。

 

「すっご……」

 

 マーズはこの対戦していた二人を知っている。いや、トレーナーならば誰もが知っているだろう。トバリシティとキッサキシティのジムリーダーなのだ。ギンガ団にいたころにも、妨害してくる実力者のブラックリストとして十分に知っていた。

 だが、今ではそのデータも役に立たないだろう。暗躍組織だったギンガ団がただのエネルギー開発会社になってからどれだけの時が経っただろう。その間、ジムリーダーの二人もトレーナーとして大きく成長を遂げている。ただでさえ若い年齢なのだ。成長する余地はいくらでもある。

 そんな数々の情報を頭のなかで巡らせながら、マーズは感嘆の言葉を口にする。ジムリーダーはバッヂの数に応じてバトル内容が変わるが、今のは正真正銘本気のやり取りだっただろう。その中で言葉少なくも通じあっていたルカリオとスモモの姿は、同じスピード系のバトルを得意とするマーズにとって理想の域にあった。もちろん、彼女自身負けるつもりはないが。

 

 硬い握手を交しているジムリーダー両名、スモモとスズナはそのまま一戦を終えたことで、いい汗をかいたと互いを健闘しあいながらフィールドを離れようとしている。人々も熱気に当たられたままモンスターボールを取り出し、近くの相手と新たなバトルをし始めている。しかし、当のバトルを終えた二人に声をかける人物は見当たらない。

 

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

 

 チャンスは今だろう。乾いた荒野の広がる火星、その名を冠したマーズは、その二人を呼び止めた。正確には、スモモの方だが。

 

「どしたの…って! あなたはギンガ団のマーズ!?」

「なんでこんなところに!」

 

 当然、この二人もギンガ団解散とマーズたちの退団の事は聞いていたが、事件の大きさが大きさだ。当然ながら警戒しはじめた両者に、先程まで温まっていたマーズの心は急速に冷めていくのを感じた。

 

「はぁ、そんな反応一日一回でいいわよ……」

 

 肩を落としながらも、まだ完全に冷め切ってはいない心の中に言っておこう。

 マーズはそう思いながらに続ける。

 

「まぁギンガ団諸々はもうあたしにとってどうでもいいのよ。そんなことより、あんたらしばらく此処にいんの?」

「どうでもいいって……一応、明後日までは滞在予定ですが」

 

 スモモの答えに、マーズは自分の口角が釣り上がるのを感じた。

 中々に良い時間だ。あちらにも都合はあるだろうが、ポケモンバトル一回分くらいなら問題はあるまい。

 

「そう! じゃあ、早速だけどバトルの予約入れても良い? もちろん、バッヂは関係ない本気のヤツで」

「あなたが何を考えているかはわかりませんが」

 

 自らの胸に手を当てて、スモモは拳を前に突き出した。

 

「その挑戦受け取ります。元ギンガ団幹部の実力、この手で打ち破ってみせましょう」

「ちょ、スモモやるの!?」

「ええ。あたし達の目的そのものではないですか」

 

 鼻の先の絆創膏を弾いて言ってみせるスモモ。

 

「そうだけど……」

「それこそ気合ですよ! 変なことされても弾き飛ばせばいいだけです!」

 

 不安げに言うスズナに、スモモは彼女の信条をそっくりそのまま言い返す。

 納得しかけてきたスズナたちとのやり取りを正面から見ていたマーズは、いかにも居心地悪げに頬をなぞった。まるっきり悪役のような立ち位置にされていることはいまさらだが、こうもあからさまだと流石のマーズと云えど何も感じないわけではないのだ。

 

「あー、それじゃあ明日の朝方にまた来るわね。3対3のルールでいきましょ」

「望むところです。さぁスズナ、相手が相手だからといって煮え切らないその根性から叩き直しましょうか!」

「ちょ、ちょっと今からやるの!?」

「当たり前です!」

「……いってらっしゃーい」

 

 服の首根っこを引っ掴まれ、服が伸びると文句を言いつつもスモモとのやり取りは吝かではないのだろう。笑顔のまま彼女らはマーズの視界の外へと消えていった。言ってしまえばアレな光景だが、多少スキンシップがあるというのは珍しいわけではない。自分にもああいう励まし合える仲間が居れば、或いは違う道を歩んでいたのかもしれない。

 マーズもまた、二人を見て感じるものがあったようだ。まったくと言っていいほどその道は違っている。ならば、この道を行って、更にそこから進んだ自分はあの二人相手にどこまで通用するのか。

 

「なんだろ、ホント。色々と考えるだけでも楽しいじゃない」

 

 カタカタと揺れるモンスターボール。中のブニャットも、マーズの感情を受けて気が高ぶっているのだろうか。邪悪で快活な笑みを浮かべているであろうブニャットをダーメとボールの上から抑えながら、マーズはポケモンセンターの自室へと戻ることにした。

 今から特訓らしきものを始めるあの二人と違って、消耗することは良しとしない。しっかりとコンディションを整えるためだ。

 

 だが、その前に。

 

「あ、ハマゴに連絡しとこうかな」

 

 ピッピッピッ、とポケッチの投影画面を三回タッチ。

 一度目はメニュー、二度目は番号欄、三度目はコールだ。しばらくして手のひらサイズの投影画面にはいつもの凶悪な医者ヅラが表示された。

 

≪あ”? どうした≫

「機嫌悪いの?」

≪いや、喉乾いてるだけだ……んぐ≫

 

 画面の彼はカップを煽って中身を一気に飲み干した。

 

≪んで、何だ?≫

「マサゴタウンにはいつまで居る予定か決まったの?」

≪一応は2日くらい滞在予定だ。なんかやることでもあんのか?≫

 

 書類に目を通しながら会話しているあたり、彼の器用さが伺えるだろう。いや、もともとポケモンドクターなんてものをやっているのだから、どこかしら器用なところは幾らでも見ることができる。

 ずっと一緒にいるのも、少なくはない時間だ。ハマゴのらしいところを見て謎の安堵感を覚えながら彼の仕草に自然と笑みがこぼれてきた。

 

≪んだよ、いきなり笑ってどうした≫

「ふふ、あんたも随分と熱心だなと思ってね。あたしはバトルの先約してきちゃったからね。ちょっと位遊ばせてもらうわ」

≪わーったよ。俺もデータ以外で欲しいの煮詰めんのに時間かかるし、博士との駄弁りも長引くだろうから暫くは滞在で決まりだな。っと、シロナの方にも連絡入れとくか≫

「任せたから。それじゃあねー」

 

 バイバイ、と手を振ってマーズは笑った。最近、こんななんでもない事に対して自然と笑えているのを自覚する。唇に指を当てて、また微笑みがこぼれた。

 

 

 

 

「ああ、そういうことで頼むぜ。多少遅れるがまぁギンガ団が暴れねぇ限り大丈夫だろ。無責任とかいう言葉は受け付けねぇからな、っと」

「君は随分女性との知り合いが多いな。よもや、コレかね」

「は? ハァッハッハッッハ! だったら面白ぇな」

 

 からかうようにピンと立てられた小指に、ハマゴは一瞬顔を固まらせてから爆笑する。直後に出るのは否定の言葉。別段だれとも付き合っていないし、そのどちらもハマゴが理想とする女性とは程遠い。男女での旅路とはいえ、恋なんてものとは程遠いハマゴにとって、ナナカマドのからかいはツボに入ったようだ。

 

「残念だがおとなしめの女性が好みだよ。ま、んなくだらねぇこと言ってないで聞かせてくれや」

「ふむ、どれどれ」

 

 ナナカマドが覗き込んだのは、常冬の街キッサキシティ周辺の植物とポケモンについての資料であった。その中から出てきた薬草や木の実の効用についての質問に、ナナカマドは何も見ずにスラスラと答えては、途中で待ったをかけられハマゴとの討論が始まる。

 この二人は二人で、実に充実した時間を送れていると言えるだろう。それからシンオウ地方のおおよそのポケモンの生態や資料を叩き込んだハマゴは、深掘りしていけば大丈夫かと白衣についたホコリを払った。

 

「ところで、邪魔しちまってるが研究のほうは大丈夫なのか?」

「ウムッ、構わんよ。行き詰まっておったところでな、君のような若者と話しているといい具合にインスピレーションが刺激される。むしろ、いい薬だ。君の誰にも崩さない無礼なスタンスも合わせてな」

「だったら無料で処方箋出させてもらうか」

「上手いことでも言ったつもりかね」

「言葉遊びは好きな方だぜ、相手をおちょくる常套手段だ」

 

 言いながら、彼はナナカマドのぶんのコーヒーを淹れる。多少寒めの北の地方、暖かなコーヒーの湯気がもくもくと研究所の天井に向かい、その途中で消えていく。

 

「ふぅ、あったけぇ」

「合間に飲むこれもまた格別だな……ところでハマゴ君」

「ん?」

「先程の件だが……君は繰り返すつもりではないだろうな?」

「ナイナイ。んなことには欠片も興味ねぇしな」

「ならば良いのだが……今のところ、メガシンカについて話していたプラターヌ博士のところも不穏でな、そして我らがシンオウでは他地方の組織が暗躍していると来た。私も多少張り詰めているのやもしれんな」

 

 ぐっ、とカップを傾けるナナカマド。

 

「……この辺りで俺は退散させてもらうわ。ジラーチもいい加減硬い地面よかベッドが恋しいだろう、よっと!」

 

 一息に立ち上がったハマゴは、眠っているジラーチの羽衣を掴みとった。

 ボールに戻さないのは彼の厳しさゆえか、単なる弄りの一環なのか。

 

「ああ、明日来るときは昼以降にしてくれたまえ。こちらも来客があるのでな」

「あいよ。それじゃあまただ、ナナカマド博士」

「うむ、また」

 

 ドアを開け、ハマゴはそのまま立ち去った。

 最後に話しながら、きちんと読み漁った資料を整理整頓していく彼の手際の良さに関心を抱きつつも、ナナカマド自身ポケモンドクターという観点からみた、ポケモンについてのハマゴの論理に頭のなかで電球が灯る。

 

「さて」

 

 やがてナナカマドも資料室を出て、明かりのスイッチがポンと押される。

 真っ暗な資料室からは、音も光も消え去った。

 




タグに追加してないことからお察しでしょうが、この小説に恋愛は無いです。
というか書けません。文章見てお察しの通り、私人物書くの下手だし。

まぁ伏線という名の次回予告が本編内で貼られているので、次回は清涼なバトル回。
ポケモンバトルで3対3の展開書くのは初めてなので、長くなるor短くなり過ぎたらごめんなさい。
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