流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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書けました


恐怖の渦中

 ハマゴたちがマサゴを出て数日後、彼らはコトブキシティの北の街道から大きく東側に逸れた森のなかを歩いていた。コトブキでは試作ポケッチの定期報告をするなどの事もあったが、今度はギンガ団に襲われることもない平穏なままに街を抜けてきたのがこれまでの道のりである。

 さて、そんな彼らが森のなかで一体何をしているのか。それはハマゴの追い求める薬草の数々が自生している地帯を探していたのである。分量次第で「まんたんのくすり」や「すごいきずぐすり」の原料となる薬草だ。忘れられているかもしれないが、一応ポケモンドクターである彼にとっては垂涎の一品である。

 

 そうして奥まったところへ繰り出すこと数時間。ほくほく顔で薬草を摘み取ったハマゴの姿がそこにあった。

 

「あんたも飽きないわねえ」

「仕事を飽きちまえばそれまでだっつの」

 

 近くの岩へ腰掛けて、これまでの道中で疲労が蓄積したふくらはぎをもみほぐすマーズ。彼女はハマゴが活き活きとしながらジラーチをこき使い、薬草かそうでないかを教えながら着々とジラーチ助手化計画を進める様を見ていた。

 

 そのうちサングラスとか掛け始めるんじゃないかしら。いや、似合わないわね。とりとめもないことばかりが浮かんで、はぁ、と息を吐きだしたのは悪くないはず。そういえば、最近キュウコンを見かけなくなったわね。

 

 暖かな木漏れ日と、森林の涼しい空気がマーズの意識をふわふわと漂わせていく。そのままストンと眠りに落ちて意識が暗転。それから暫くの時間が立ったか、彼女にとってはほんの一瞬のつもりだったうたた寝は、土を踏みしめるハマゴがバシッと彼女の背中が叩かれたことで妨げられた。

 

「ったぁ!? なにすんのよ!?」

「何って、もう日が落ち始めてんぞ。置いて行かれてぇのかよ?」

「嘘っ」

 

 マーズとしては一瞬だけ眠っていたつもりだったのだろうが、実際のところはとっぷり沈みかけた夕日が、長い影でいち早く森を暗闇に変えてしまっていた。

 このままキャンプの準備を始めれば良いかもしれないが、ハマゴとしては近くにあるはずの農村までさっさと移動して置きたい心づもりである。

 

「こっちに進めば小さいが村がある。完全に暗くなる前にさっさと行くぞ。キュウコン、松明代わりに先導頼んだ」

 

 モンスターボールを放り投げながら彼は言って、マーズは仕方ないかと立ち上がる。地面に降り立ったキュウコンが尻尾の先に小さな火を灯して、暗くなり始めた森のなかを明るく照らしだした。相変わらず、炎や念動力の扱いが器用なポケモンだ。

 此処のところはジラーチばかりが外に出ていたが、久しぶりの出番であるからか、キュウコンはいつも以上に軽い足取りで歩いているようにも見える。そして口の端が軽く持ち上がっているのは気のせいではないだろう。るんるん気分とはこういう状態の事を言うのだろうか。

 

 そのまま歩いてどれだけの時間が経っただろうか。ハマゴの片手に巻き付いたポケッチを見れば、夜の7時前後をデジタル数字が表している。すでに太陽は木の背丈に負けてしまって、辺りはすっかり宵闇に包まれていた。

 頼りになるのはキュウコンの尻尾の先に点った灯火だけ。近日雨が振ったのだろうか、更に森ということでぐしょぐしょの足場をびっちゃびっちゃと踏破しつつも、ハマゴたちはようやく木々の向こう側の明かりを見つけることが出来た。

 

「あったあった。あの村だ」

「ポケモンセンターは……無いみたいね。じゃあ交渉して泊まるの?」

「最悪野宿だが、人里近くなら野良ポケモンに襲われることもねぇだろ―――っと」

 

 さっと通り過ぎた木の幹を横目で見て、はたと彼の足が止まる。

 

「どうしたの」

「しっ、黙ってろ」

 

 キュウコンが尻尾の一本を近づけて、ハマゴが注目した木に近づける。

 ……根本が濡れている。そして、大きな一つの凹み。これが原因で立派な大木が枯れることはないだろうが、そんな目的のために付けられたものではない。

 瞬時に事を理解したハマゴは、マズったなと苦虫を噛み潰したような表情になる。寄せた眉間の皺が深みを増す表情が、キュウコンの灯火で明るく映しだされた。

 

「少し急ぎ目に移動すっぞ。多少汚れるのはもう気にすんな」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

 

 大股になって早歩きになるハマゴ。飛び跳ねた泥が白衣やブーツにこびりついていくが、彼としてはそんなことは知ったことではない。いまいち自体を飲み込めていないマーズもここにいるのは危険ということは分かったのか、文句を垂れつつもハマゴの後ろに付いて行く。

 やがて村の家屋から照らされた明かりが強くなり、森を抜けて田園の風景が彼らの周りに広がった。

 

「ここまで来れば何とか……」

 

 そう言って息を吐こうとしたハマゴは、足の裏から感じる僅かな揺れを感じてバッと背後を振り返る。すると、先程までハマゴが抜けていた道無き道を横切るように、けたたましい足音を響かせ、そして時には木々を突っ切る一体のポケモンが全力で疾走していく姿が見えた。

 しかしそれも一瞬のこと。すぐさま暗闇の中に姿をかき消され、木々を薙ぎ倒す音だけを残して去っていくポケモンはハマゴたちを襲うわけではないのか、どんどん遠くへと離れていく。

 

 一体なんだってんだ。そう悪態をつきたいところだったが、あの「縄張り」を抜けただけでも御の字だろう。不明というか、あんまりにも不自然な点が多いあの光景が焼き付いて離れないが、俺達の危機は去ったみてぇだな。

 

 珍しく胸をなでおろすハマゴの表情は見えなかったが、安堵とわかるため息を聞いてマーズは首を傾げる。そうしている間に、人間よりも危機察知能力の高いキュウコンはもう大丈夫だろうと言わんばかりに歩みを再開する。

 目指すは明かりの在る方。この田園を広げているであろう人里だ。

 

 

 

 

 到着してすぐ、ハマゴは近くの家を訪ねてこの村一帯で泊めて貰えそうなところはないかの交渉に入った。こういう小さな集落なら、一人に聞けばおおよそ全体の事は把握できるだろうと踏んでのことだ。

 予想通り、村人はハマゴたちに泊めても大丈夫な家を案内してくれたが、珍しい来客にも、ハマゴの傷ついたポケモンが居れば無償で治すという言葉にも、あまり喜色を浮かべてはいなさそうだ。

 泊めてもらえる家の人間も、ハマゴたちを言葉でこそ歓迎はしたものの、その顔持ちは暗い。村全体がこうなってしまうとは、この村に何が起こっているのだろうか。それに、此処に到着したのはもう深夜も近いはず。だというのに、家屋の明かりが消えているところは本当に少ない。まるで夜は何かに警戒しているような暮らし方だ。

 

「この村、なんかあったのか?」

「い、いえ。特には何も。そんなことより寝床はこちらの部屋をお使いください。丁度空いておりますので、一晩だけでもゆっくりと過ごせるよう―――」

 

 必死に取り繕ったような村人の案内はそこで途切れた。

 ズン、と地を響かせる何かが家屋を揺らしたのだ。

 地震か、それともこの深夜にどこかの馬鹿がバトルをおっぱじめたか。なんて思考が浮かぶも、ハマゴはすぐさまその考えを投げ捨てる。村人の怯え方があまりにも異常だったからだ。

 

「……しゃーねえ。マーズはここで待ってろ」

「わっと」

 

 バックパックを置いて、小道具を投げ渡した彼はマーズにそう告げる。

 

「厄介事かどうかちょっくら見てくるわ。直接戦うわけでもねぇし大丈夫だろ」

「あんた首突っ込むタイプだっけ?」

「テメェの目で確認ぐらいはしねぇとな。やってられないもんだよ」

 

 ギュッ、と薬液の仕込み手袋を嵌める。

 完全に喧嘩を仕掛けに行く暴力人間の表情だったが、引き際は心得ているだろうとマーズは片手を振って彼を見送ることにした。

 

 それから村人の静止を振りきって地面を鳴り響かせる方へと進むハマゴは、もともとこの農村がそんなに広くないこともあり、すぐさま原因であろうそれを見つけることが出来た。

 腰が抜けたのか、立てずにいる一人の村人を静かな瞳で見下ろす前後二本角のポケモン、ドサイドン。明かりをザラザラとした岩肌が受け止めて淡い灰色に光らせているが、それよりも目につくのはおよそ暗闇に似つかわしくないプロテクターのオレンジ色。

 

 すわ交戦か、予想以上に超弩級な相手を前にハマゴも冷や汗を垂らして事の顛末を見届けようとするが、騒ぎ立てて絶望の声を上げる村人たちに対して、ドサイドンは静かなものだった。一歩も動こうとはせず、ぐるりと辺りを見回す。

 やがて片手の指をドサイドンが来たであろう方向へと向けて、次に村そのものを指差した。そして両手を広げて村が押し潰されるぞ、というような動作をした後、ドサイドンはくるりと逆を向いてゆっくり元来た道を戻っていく。

 

 ずしん、ずしん、ずしん。

 あまりにも不可解な行動を取ったドサイドンは、森が在る南方とは反対の、テンガン山に繋がる平野の東方へと歩いて行く。そして危機は去ったと思ったのか、物々しいバリケードの一部を持っていた村人がへたり込んで、先程まで見下ろされていた村人は失神したようだ。

 

 何が起こっているのか。その謎が何一つとして解明されていない状態で、ハマゴはとにかく自分が出来ることをやるために失神した村人へ歩いて行く。どうやら、この村で最初に診るのはポケモンではなく人間になるみたいだな、と。とりとめもないことを考えながら。

 

 

 

 後日、自分一人じゃ無理そうだと判断したハマゴはマーズを引き連れて気絶した村人の診察に来ていた。極度の緊張の糸が切れてしまったため、その精神面以外は特に問題はないとの診断を下した彼は、聴診器を外して椅子の背もたれに身を預ける。

 夕日のチリチリとした熱さにうんざりしつつ、いかにもかったるそうな態度で、まずは質問を投げかけていた。

 

「何だったんだありゃ。この村はドサイドンが脅しに来る習慣でもあんのか?」

「そ、そうじゃないが……」

「だったらキリキリ話してくれや。幸いこっちにゃ腕のたつ女もいる。それに職業柄、だ。どう見たって怪我人が出そうな状況は放っとくワケにもいかねぇんでな」

 

 俯いた村人は、事の発端は3日前だと言った。

 もともとこの村の近くの平野は、季節によってサイホーンたちが南北を移動して住処を変えたりしながら暮らしている場所だった。しかし、3日前に突然4匹ほどのサイホーンが西側……つまりはこの村めがけ、田園の方に侵入。そして当然のごとくまっすぐに駆け抜けたことで6枚ほどの田んぼが犠牲になった。ついでに幾つかの家屋も半壊。

 

 その日の夜から毎日、サイホーンの群れのリーダーであろうドサイドンがこちらの方に姿を表し、村を潰すような仕草をしては腕を払ってから帰るといった状態が続いているらしい。最初はバリケードを作ろうとしたが、もともと田んぼの用水路にあった落下防止の鉄柵も容易に突き抜けていく相手だ。この村にトレーナーはいないし、ポケモンたちも豊穣のためにその力を振るうものばかり。

 

 とてもじゃないが、ドサイドンやサイホーンといった屈強なポケモンを追い払うことも出来ない。そして為す術のない現状、村はてんやわんやの大騒ぎになって、今となっては暗い絶望感を抱いたままドサイドンたちが何時かサイホーンを引き連れ、蹂躙される日を待つばかりなのだ。

 だからといって、生まれ育った村を今更捨てる事もできない。名前もなければ小さい村だが、それでも故郷の愛着はある。

 

 そこまで語った村人の話を聞いて、部外者という立場だからだろう。ハマゴは少し引っかかるものを感じた。しかし、今はそれを飲み込んでおく。下手な空想を話したところで解決する問題でも無いだろう。

 

「なら、一晩泊めてもらった分だ。せめてドサイドン共の様子を見てきてやるよ。なんでこうなっちまったかの原因もわかるかもしれねぇからな」

「本当か!?」

「薪背負った狸の船に乗ったつもりで待っときな」

 

 それだけ言って、またいくつかの質問をした彼はトントン、と額を指で叩いた。

 やがてある可能性に思い当たった彼は席を立ち、部屋を出ようと扉に手をかける。

 

「ああ、ぎっくり腰は気をつけとけよ。随分筋肉に疲労が溜まってるから多少は休める日も作っとけ。んじゃ、お大事に」

「お大事に~」

 

 医者の常套句を置き土産にして、太陽の光の元へと出てくるハマゴ一行。

 先日の記憶を掘り返しながら辺りを見回すと、なるほど。自分たちが来た方向とはまた違い、東側には木々があまり無い平野が広がっているのが見えた。田んぼの向こうに見える平野の入り口あたりに、まだドサイドンたちの姿は見えない。

 

「あっちの方らしいな。ほれ、行くぞ」

「わかったわよ」

 

 彼に促されて後に続くマーズ。

 流石に今回は暴力沙汰の要素が強いと思ったか、ジラーチはボールの中に収められている。代わりに外に出ているのはマーズのクロバット。地面を駆けまわる相手に対して、実際にこの二人を掴んで空に逃げられるクロバットは、しかしサンサンと照りつける太陽の光を浴びて不快そうに顔を歪めていた。

 

「んで、何考えてんのあんた?」

 

 田んぼ道に差し掛かったところで、クロバットの頬を撫でながらマーズは言う。

 彼女が気になっていたのは、どう考えてもハマゴが村人の言っていた話を鵜呑みにしていないという点。確かに気になる点はあったが、実際にそのドサイドンを見ていないからこそ浮かび上がる疑問なのだろう。

 それに対して簡単だ、とハマゴは笑って返した。実際にドサイドンたちを見てみればすぐに答えは見えてくる。そう続けて視線を元に戻そうとするが、後頭部に突き刺さるマーズの視線を感じて居心地が悪そうに「わかったわかった」と息を吐く。

 

「まずあれだ。ドサイドンは冷静に努めてたが瞳が揺れてた。ありゃぁ何か焦ってるようだった。村人共は突然でビビっちまったんだろうが、よくよく見りゃあアレは村を潰す予告なんかじゃねえ。ありゃ警告だ。そして極めつけは昨日の夜、走っていったあのポケモン。もしかしなくてもサイホーンだろうな」

「ああ、にしても警告? ドサイドンってサイホーンの進化系だし警告なんて器用なことできるわけ?」

「ん、ああ……そうだが」

 

 マーズの疑問は、サイホーンを知る者ならではの言葉である。

 控えめに言ってサイホーンは馬鹿だ。それこそ突進している間に、突進を始めた理由を忘れるほど。その進化系のサイドンですら、強力無比な物理的側面を持つが、あいも変わらず物忘れやらボケが多い。そういう意味では、塾や学校に行く子供に叱りつける時の文句として「サイホーンになってもいいの?」と言われることもある。

 だから、ドサイドンがそんな冷静だのという話を聞かされたところでマーズにはあまりイメージが沸かなかった。ドサイドン自体、その存在が周知され始めて時間が立ったとはいえ、まだまだバトル中の姿はともかく生態や知能に関してはそれこそドサイドンを持つトレーナーか、研究の関係者ぐらいでしかわからないだろう。

 

 その辺りを加味した結果の返答なんだろうなと思ったハマゴは、しかしわざわざ説明するのも面倒かと、喉まで出かかった専門用語を並び立てた文章を飲み込んだ。代わりに口から出てきたのは簡素なそれ。

 

「ドサイドンになってようやく頭が良くなった、そういうもんだ」

「そういうもんねぇ……」

「無駄口叩いてねぇで万が一の心配でもしてろ。ジュピターとの再戦までさんざんこき使ってやるからよ」

「……まぁいいけど。楽しいし」

 

 無駄口を叩きながらの道中も短いものだ。もともと平野の方が見えていたとはいえ、テンガン山に繋がる岩山を隔てた向こう側に件のサイホーンの群れがあった。

 

 群れの規模はおよそ30~40頭のサイホーンと、進化したサイドンが2頭。そして警告を発してきていたドサイドンが一匹。もしかしなくてもドサイドンはこの群れのリーダーであろうことがわかる。

 ぞろぞろとサイホーンを引き連れ、しかし突っ走らせること無くゆっくりと歩かせているドサイドン、そしてリーダーから指示を受けてサイホーンたちが統制を外れないよう調整するサイドン。理想的な群れのあり方の一つだろう。

 

「やるじゃんあのリーダー。サイホーンって何かと忘れるから突進初めてまた忘れて突進続けるってのに。リラックスさせてその気持ちでいっぱいにさせてんのかしらね」

「さぁてな。まぁコレで分かったろ。ドサイドンが頭良くなったってのはよ」

 

 身を伏せ、頭を乗り出して見下ろす二人はコソコソと会話を繋げる。

 あくまでハマゴの予想は予想。予想を確信に変えるためにも、まず彼らはクロバットに捕まって岩山の上に乗ると、そこからバレないように群れの様子を観察していたのだ。

 

「んで、最悪のケースとしてはこの後だな」

「なに?」

「今はまだ大丈夫だろうが……問題は夜の入りだ」

 

 夜。特に日没したタイミングでサイホーンが何体か田園を突っ切ったりしていくのが多い。サイホーンたちの多くは夜行性なので活発になるのは分かるが、村の方を襲撃するようにして突っ切っていく理由はない。

 此処は人気もなければ、人間が暮らすには少し厳しい環境。それだけ組み合わされば、ファウンスでの日々を思い出す位には思い当たる節はいくらでもある。

 

「サイホーンが完全に寝てる時はドサイドンたちが警戒を強める。だが寝起きでサイドンたちが掛り切りになれば戦力は落ちる。となると、そこにつけ込む奴らが何をするのかなんざ明白だ」

「……密猟者ってこと?」

「しかも質がわりぃぞ。むしろ最悪だ」

 

 吐き捨てるようにハマゴは言う。

 ホウエンでもサイホーンが狙われる最たる理由がある。シンオウでも、おそらく変わらないだろうと思いながら、彼は眉間のシワを最大限寄せながらに吐き出した。

 

「サイホーンは頑強だ。見世物だの、そういった(まと)に使うには最適でな。次の日には色々と忘れちまうから、自分が何をされているのかを理解する前に衰弱して死ぬことも在る。だが補填がきく上に長持ちで下手すりゃ従順な生きたサンドバック。その手の奴らが如何にも好きそうだろ?」

「ああ……あたしたちのように目的のために使ってたんじゃなくて、使うのが目的ってわけね」

 

 元犯罪者、という肩書を持っているマーズでも、ポケモンを大事にするうちの一人の人間だ。普通の感性を持ち合わせている。だからこそ、この事態の元凶がそうであるのなら……?

 彼女もまた、ハマゴに共感するように、奥歯を噛みしめることで己の感情を表した。そして気づく。ちょうど今が、

 

「日没……」

「さぁて、一働きしてもらうぜマーズ」

 

 眼下のドサイドンがビクリと体を震わせて、在る一点を見据えている。

 そこにあるのは人工の光。そしてクラクションをわざと鳴らして威嚇する愚か者たちの姿。それに驚いたサイホーンは、サイドンたちの静止も聞かずに跳ね起きて、あらぬ方向へと突進する。

 ほんの一瞬の出来事だというのに、すでに事態は嫌な方向へと動き始めていた。そしてクラクションを派手に慣らした大型のトラックに乗ってきた人間たちが降りてきて、自分たちに向かうサイホーンを攻撃、行動不能にさせて特殊な檻に閉じ込めようとする。

 

「野郎……! やりやがったなあああああああ!!」

 

 握っていた岩の一部が悲鳴を上げる。握りしめられたそれが、砕かれる。

 ハマゴは充血するほどに瞠目し、怒り、咆哮を上げたハマゴはすかさず片手のポケッチの照準を合わせて、情況証拠を撮影する。そしてキュウコンをボールから出して、彼女の背にまたがって急な斜面を降りていった。

 

 その様子に驚いたのはマーズだ。

 これまでハマゴが怒りを見せたりした姿は見たが、密猟者を前にしてこの変貌。ジラーチを横から掠め取った時も同じように怒り狂っちまった、と軽めに話していた様子を見るに過剰表現かと思ったが、話よりも阿修羅になったハマゴは見ているだけで軽く背筋を凍らせる。

 地の底から響くような怒号を噛み殺し、鋭い目つきだけで殺せるような視線を密猟者集団に合わせて降りていく彼を、慌ててクロバットで追いかけるマーズ。

 

「…ギンガ団の時も思ったけど、これあたしいらないんじゃないの」

 

 思わず呟いた言葉に返すものはない。だが、ポケモンバトルでは最弱を豪語する彼は、純粋な流血沙汰の喧嘩において真価を発揮するのだろうというのは、前のギンガ団襲撃の際に嫌というほど魅せつけられた。

 ポケモンに指示を出すならば、司令塔(トレーナー)を殴り飛ばせばいい。至極単純だが、トレーナーでは中々実行に移そうとしない禁忌。それを、犯罪者ばかりを相手にしていたハマゴは選ぶことが出来る。

 

 そしてキュウコンが一直線に向かったのはトラックの側面。キュウコンの「だいもんじ」が叩きこまれたトラックは燃料に引火し、爆発を起こして横転する。これ以上サイホーンの被害が出ないうちにと、合理的な判断でそのトラックを破壊したのだろう。

 すでに囚われた二匹のサイホーンが中にいたが、その程度で傷がつくほどサイホーンはヤワではない。それを知っているからこその突貫だった。

 

「な、貼りこんでやがったか!?」

「構うな口封じだ! どのみちこれだけ取れてりゃ十分だ!」

「へっへへ……それもそうだなぁ!」

 

 一足先についたハマゴは、密猟者たちのセリフを聞いて後からシメて聞き出すかと頭を回転させる。そしてキュウコンから降りた彼は、いつもどおりキュウコンへ自由に戦うように指示を出すと、腹の底から空の果てを揺るがすような重低音で世界の音を震わせる。

 

「楽にブタ箱に行けると思うなよ。常習犯共がぁああああああ!」

 

 薬液の仕込み手袋を引っ張って、その右拳を振り上げる。

 3人の密猟者は軽薄そうに笑うと、その懐に隠し持っていたナイフ、銃、長い鉄の棒を手に取った。実質素手のハマゴを嘲笑いながら数で圧倒しようとする3人の密猟者。

 

「いけやガーメイル!」

「ドククラゲ!」

「ぶっ殺せビークイン!」

 

 しかしそれでもハマゴは嘲笑う。彼は怒りが頂点に達しながらも、その実精神は冷静のひとつだ。この状況下でも、突破して全員をブタ箱に送り込めるだけの逆転劇を用意できると自らに誓う。そして、ひたすらに駆けた。

 そう、ポケモンを出す一瞬のロスタイム。狙いはこの一瞬。無呼吸で踏み込んだハマゴは一気に距離を詰め眼前へと踊り出る。まるでスローモーションの世界。いっぱいいっぱいに引き絞られたその右足は、流星を描いて密猟者の顔面を陥没させるのだった。

 




今のところドサイドンたちフレームアウト気味ですね。
次回は大活躍。
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