流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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注意:これは最新話ですが上げ直しの書き直しです。
   最初の2割は一緒ですが、後半は全く違う展開になっております。


森の洋館 後

「本当にこんなトコに証拠があるの? うえっ、すっごい埃…」

「ゴタゴタ言ってんじゃねえよ。俺も嫌だってのに、ほら、マスクでもつけてろ」

「ありがと」

 

 伸びきった草木を切り裂いた先は片方の蝶番が外れかけた大門が待っていた。下手に物音を立てないよう、無事な方だけを開いてみれば巻き上げられた土や埃が舞い上がり、不快な空気が肺に侵入しようとしている。

 ガーゼマスクを受け取ったマーズを見やりながら、シロナも口元を布地で隠す。薄暗い通路を照らしたライトの光には、歩く度にふわっと舞う大量の塵が見える。どこもかしこもこんな調子なのだろうか。相当長い間放って置かれた洋館の中、そう考えたマーズはげんなりとした表情で息を吐いてみせた。

 

「まとまって動きましょう。下手にはぐれるとゴースたちの悪戯で分断されることもあるわ」

「異議なし」

「わかったわ」

 

 シロナの言葉に頷く二人は、まずは大きな部屋から探索していきましょうと言う方針に従って彼女の後ろを歩く。シロナは片手にライトを、片手に要石を握りしめて先頭を行った。この狭い室内だ。ポケモンが暴れるには普段使っているガブリアスのような大型のポケモンでは館を崩落させてしまう危険がある。だからモンスターボールよりも即効性のあるミカルゲを要石の状態で持ち歩いているのだろう。

 

 やがて、くすんでしまった豪華絢爛だったであろうエントランスホールを抜けたすぐ先に広大な食堂が見えた。薄暗く、ライトに照らされた机のシーツは一見純白を保っているようにも見えたが、やはりその上には灰色の埃が降り積もっている。暗闇の中で灰色が明るい色として見えただけだろう。

 一体どれほど廃館として放って置かれたのだろうか。ゴーストタイプのポケモンがまとめて共存している場所ということで解体される事がなかった、というのが現実の事情である。少なくとも、待ち合わせ場所ということでハマゴが調べた限りはそうした理由であったらしい。

 

「………!」

「……」

 

 だからこそ、こうして物音ではない。話し声がするのはおかしいはずなのだ。

 

「え? おかしいわね。今ここは閉鎖してもらっているはずよ」

「んだと?」

 

 いかにゴーストタイプが豊富とはいえ、ここは森に立地する洋館。湿気で傷みやすくなった手入れのされない建造物。いつ床が抜け、壁が崩れてもおかしくはない荒れ具合だ。

 だからこそ、よほど物好きなオカルトマニアかゴーストタイプを目当てに探索に来るほんの僅かな人間以外は訪れることはない。仮に来ていたとしても、今はダークトリニティが閉鎖しているとのこと。

 

「行ってみましょう」

 

 シロナの行動は無謀にも思えたが、しかしミカルゲの要石をしっかり構えて一歩を踏み出した。信頼するポケモン、常に張り詰めている意識。そして確かな実力があってこその行動だろう。

 ゆったりとした歩みは、床板をギチギチとかき鳴らしながら彼らの行軍を知らせる。やがて声のした方へライトを向けたシロナは驚いたように目を見開いた。

 

「あなたは……」

 

 照らされたのは一人の老人だった。深い緑の半纏と、特に目立たない顔立ち。あまりに日常的な立ち姿だからこそ、このような寂れた場所には不釣り合いさが浮き彫りになる。

 

「どうしてこのようなところに? 此処は今、立ち入り禁止となっています。少し事情を伺いたいのですが」

 

 不審な人物ではないと知って内心胸を撫で下ろし、事務的対応で尋ねたシロナ。その後ろではハマゴが怪訝そうにシワを額に寄せて訝しんでいるが、彼女がそれに気づいた様子はない。だからこそ、彼女の肩を掴んで自らが気づいた異常について知らせようとするのだが、ハマゴが行動を起こすよりも老人のほうが早かった。

 

 老人は何も言わず、ただ一度目を伏せたと思えばそのままゆったりとテーブル沿いに歩き出したのだ。

 

「待ちなさいっ! マーズさんは反対から回りこんで!」

「な、おい待てシロナっ!」

 

 手は空を切り、ライトの光がない暗闇の中に消えていった老人を追いかけたシロナ。しかし、ハマゴが思ったよりも早くかけ出したシロナは狼狽えた様子で立ち止まった。

 

「おい、話聞けって」

 

 彼女の方に手を掛けるハマゴ。

 しかし呆然と、彼女は絞りだすような声で言った。

 

「……消えた」

「はぁ?」

「さっきのご老人がどこにも居ないのよ。そこは壁だから、どうやっても反対側に走るかこっち側に曲がってこないとおかしいはずなのに」

 

 シロナがわけがわからないと頭を捻ったところで、テーブルの反対側から回りこんだマーズの赤い髪が薄ら闇から浮かび上がってきた。闇の中でも色濃く目立つ髪はマーズのそれに違いなかった。

 

「こっちにも居なかったわよ。もしかして逃がしたの?」

 

 マーズの言葉に、シロナは頷きつつも神妙な表情になる。

 先ほどの老人。一応、後ろの方にガラス窓はあるが、木組みが嵌めこまれているためコレを上げて窓を開けるという2つのアクションが必要になるはず。だが、開け放たれた様子もなければ積もった埃が一切触れられていないことを表している。

 

「さっきのは一体…? ゴーストポケモンたちの悪戯の一つかしら」

「確かにそこら辺にゴースやゴースト、果てにはゲンガーあたりが彷徨いてるがそのミカルゲにビビッて近づいてねえぜ」

「それじゃあ」

「まぁまずは聞いてくれや。さっきの爺さんだが、呼吸どころか歩くときに揺れずにスライドしてたのを分かってたか? ありゃ此処に住み着いてる幽霊だ」

「はぁ? バッカじゃないのあんた。幽霊なんて」

「居るところには居るんだよ。ゴーストタイプの干渉が強いところには特にな」

 

 ハマゴが思い浮かべたのは送り火山だ。ゴーストタイプの宝庫であり、かつての伝説の存在を制御したという宝珠。そして様々なポケモン・人間の墓所として祀られ、エスパーの双子ジムリーダーが訪れる、といったパワースポット要素が溢れている場所。

 時折、成仏しきれなかった魂がヨノワールによって冥界へ案内されていることもあり、ホウエンの人間にとっては幽霊や死はかなり近しい関係にある。故にこのような突拍子もない結論を、確固たる自信を以って彼は告げたのだ。

 

「だがあの手に持ってたティーポット、そしてそこの席」

 

 ハマゴは指差す代わりに手持ちのライトで照らしだした。ティーカップが置かれていた場所と、一つだけ並びを崩している椅子に埃は見当たらない。

 

「埃がこの辺りだけ積もってねぇだろ。あの幽霊、此処に住んで結構長いだろうな」

「サイホーンの時と言い、探偵やったほうが儲かるんじゃない?」

 

 ジト目で見つめてくるマーズに深い溜息を返したハマゴ。

 

「ったく、今は茶化す時間じゃねえだろ。んでシロナ、あの幽霊が地縛霊か悪霊の類なら、ゴーストポケモンを扇動して襲ってくる可能性もある。必要ならキュウコンに“にほんばれ”で一気に祓わせるが?」

「……いえ、本格的に襲ってくるなら入った時点で出られないようにするはずよ。今度彼らに会ったらなるべく邪魔はしない事を伝えて早々に探索を済ませましょう」

「オーケーだ。しかし幽霊って言葉にすぐ順応するとは思わなかったぜ」

「私も考古学者やってると神様にだって会ってるから、幽霊も居てもおかしくないでしょうね」

 

 神様、というのは逆にホウエンには余り縁のない言葉である。自然災害や過去の遺物の化身という形で祀られ、畏れられる古代のポケモンがホウエンには多い。だが明確に信仰されるようなポケモンはさほど居ない。

 そういう意味では物珍しいシロナの話に耳を傾けても良いのだが、状況が状況である。現状にもっとも相応しい思考に切り替えたハマゴは振り返り、この場を一丸となって突き進もうと言う言葉を出そうとした瞬間―――

 

「おわっ!?」

 

 彼の立っていた床が抜け、片足をツッコんでしまう。

 

「もー、なにやってんのよ」

「しまらねぇなぁ畜生! ったく」

 

 床板が傷んでいたのだろう。文句を言いつつ足を引き抜くハマゴ。靴には腐り落ちた木材の欠片が泥や何かと一緒にへばりついている。引きぬいた時にはねた泥が顔に当たり、更に彼の機嫌は急降下だ。

 医者としては自分自身が不衛生な場所に居るだけでも不快であるというのに、自分が不衛生そのものに成り果てるというのは到底ハマゴには受け入れがたい事実だった。

 顔を顰め、不機嫌な感情を隠そうともせずにこんな仕打ちにした先ほどの幽霊にいらだちを覚える。怒りの矛先は場違いかも知れないが、こうして人間に害意を与えるのが目的な存在ならばそれ以上の敵意で返すのが彼のやり方だ。

 

「男前になったんじゃないの?」

「うっせえなクソッタレ」

「はいはい」

 

 相当不機嫌な様子で返す彼の言葉に、過去の出来事から罵詈雑言を浴びるのに慣れているマーズは軽く笑って流してみせた。何も弱い女で居続ける必要はなかった。今となっては迷いはすれども立派なオトナ。簡単にあしらうような反応もすることは出来る。

 

 それからだ。

 シロナも彼らのやり取りを微笑ましい視線で見ていたのだが、突如として彼女が手に持っているミカルゲ――要石がブルブルと震え始めた。これは危険を知らせるメッセージにほかならない。

 

「注意して! 何かあるわよ!」

「ッ!」

 

 シロナの言葉にシンクロするようにバッと周囲を警戒し始める二人。スイッチの切り替えの速さはそんじょそこらの一般人とはわけが違う。片や険しい自然や悪意を切り抜けた不良医師、片や悪意に晒され続けた悪の幹部。その手に持ったモンスターボールと、いざというときを想定したジラーチのボールへの防御は忘れない。

 バランスよく陣を取った3人。警戒を強めた彼らに訪れたのは―――周囲に置いてあった家具のダイレクトアタックだ。

 

「これ、サイコキネシス!?」

「キュウコン、じんつうりき! つべこべ言う前に防御しとけ!」

「ドータクン、サイコキネシスで返しなさい!」

 

 青く、薄い光を纏った家具がくるくると回転しながら持ち上がったかと思うと、彼らめがけて降り注ぐ。この大量に陳列している椅子や、その巨大なテーブルまで。持ち上がらないものもあるが、この広大な食堂にある大半の家具が悪意ある弾丸としてハマゴたちを殺す勢いで飛来する。

 だが、彼らの鍛え上げられたポケモンたちはその家具を壊すことなく、各々の技で食い止め、または静止させることで勢いを止める。破壊しない理由は、ここがゴーストタイプのポケモン達が暮らしているゾーンの一つであるから。たとえそのポケモンたちが牙を向いたとしても、そこのポケモンたちを根絶させる理由にはならない。犯罪者や無責任な者達とは違うのだ。

 

 とはいえ、そうした手加減を余儀なくされる環境であるためだろう。キュウコンとドータクンも次々と捌いていくが、次第に劣勢になり始めた。延々とこの場で対応する理由もないため、その間にハマゴたちは逃走ルートを作ってエントランスホールへと撤退した。

 

「もどれ」

 

 声を揃えてポケモンをボールにしまう二人。

 その時だった。

 

―――イーヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!

 

 食堂のあった方から、愉快な笑い声が聞こえてきた。

 幼い子供のようにも感じるが、人の声では到底発音できそうにもない音。ともなれば、ここを根城にするゴーストポケモンたちの仕業だろうか。ゴーストタイプはやけに陽気なポケモンもいるが、それにしたって多少の違和感がある。

 そう、例えば――

 

「そういや、さっきのだけど」

「どうしたのマーズさん」

「いや、サイコキネシスにしちゃパワーがブレてたと思ってさ。むしろ……電気っぽかったなって」

 

 激しい攻防の中、彼女の目に映ったのは青く物体を包んでいたパワーの正体。薄い膜がぴたりと合わさったように被さり、そのサイコパワーでエスパーポケモンは物を浮遊させる。だが、マーズ曰くあのエネルギーはどことなく不安定で、迸る電流のように揺らめいていたという。

 

「電気? となると、電磁波であの椅子を持ち上げていたっていうの?」

「あれ、全部木製っぽかったが……ああ、そういうことか!」

 

 納得した、と言わんばかりにハマゴは手を打った。

 

「デザインに使われてる鉄とかを浮かせてたわけか」

 

 貼り付けられた金属板であったり、そうした金属部分は打ち付けられているため、多少バランスに無理はある。だからこそくるくると回転しながら空中に持ち上げられていたのだろう。だからこそ、その板金が取れてしまった椅子は動かなかったのだろう。

 彼の言葉に納得がいった一行であったが、それは根本的な解決にはなっていない。ともかくここで重要なのは、攻撃してきたのは少なくとも電気タイプのポケモンであることだ。

 

「……他に目的のあるやつが侵入してきてる?」

「いえ、それはないわ。家の外は私が雇ったやり手の傭兵さんが見張っているもの」

 

 マーズの発言はすぐさまシロナによって否定された。

 この家の周囲は現在厳戒態勢が敷かれている。この地方に訪れている巨悪を祓うため、重要な一件を邪魔される訳にはいかないからだ。しかし、そうなるとこのゴーストタイプの宝庫である廃館で、電気タイプという不釣り合いなポケモンが意図的に攻撃してきたという謎が残るわけだ。

 

「そしてもう一つ、あの老人の幽霊はその正体不明の電気ポケモンに協力してるってことね」

「一体何のために? この家から追い出すのが目的?」

「プルートとかいう爺が指定した場所なんだろ、だったらセキュリティとして置いたって可能性もある。まぁ、幽霊を使うなんざ到底ありえない発想だが…まぁ想像なんざいくらでも出来る。今はその鍵を使う場所を見つけ出しちまおう」

 

 こんな場所からさっさとおさらばシたいからな、と本音を飲み込んで、代わりに不潔極まりない家の中に険しい表情を向けるハマゴ。傍から見てもイライラした感情が高まっていることが分かる彼をこれ以上此処に居させるのも悪いだろう。協力してもらっている身として、シロナは早急に考えを切り上げ探索のための足を動かすことにした。

 

「まずは上に上がりましょうか」

 

 すぐさまエントランスホールから移動し、あの攻撃してくる食堂ではない2階の探索を提案する。二人も否定の意見なくうなずいてシロナの後に続き、ギシギシと嫌な音を立てる階段をゆっくりと登っていく。もうもうと立ち上り、舞い上がった埃にゲンナリしつつも進んでいけば、一見変哲もない西洋風の廊下が広がっていた。

 ここも同じ。かつての豪華絢爛で清潔であったろう名残だけが残る廃墟の様相を呈している。ドアの幾つかは蝶番ごと外れて倒れ、まだ無事なものもドコからか入り込んだ隙間風に揺られてはキィキィと揺れていた。

 

「……ここかしら」

 

 しかし、シロナはその中から正確に一つのドアを選んだ。

 

「ほお、なるほどな」

「ちょ、ちょっと」

 

 感心するように頷く彼に待ったの声がかけられたが、それには選んだ張本人であるシロナが返した。

 

「ここの取手と地面よ。他に比べて埃が降り積もっていないわ。つまり、少なくとも最近開閉されている証拠ね」

 

 体当たり調査も行う考古学者シロナは、遺跡に向かう時も単身で自身のポケモントレーナーとして、そして秘められた実力を存分に発揮した調査を行う。その際に僅かな変化や仕掛けを見抜く観察眼は鍛え上げられているというわけだ。他にもハマゴ顔負けのバトルによって培われた勘など、現在も長くチャンピオンとして君臨し続けるだけのスキルを保持している。まあ、シロナの話題も程々にしておくとしよう。

 そうして開いた扉の先にあったのは、薄汚れたシーツの掛けられたベッドと、散らばった椅子。そして奇跡的に茫々と成長した観葉植物と、一台の砂嵐を移したテレビ。

 

「……テレビだぁ?」

 

 ハマゴがおもわず言ってしまったが、無理も無い。

 アンティークな見た目とボロボロになってしまったこの廃館の様相に似合わないテレビという電化製品。あってもおかしくないといえばそれまでだが、食堂も古ぼけた台所器具しかなく、オーブンやレンジといった物も見当たらなかった。電灯も存在せず、あるのはロウソクなどを前提としたシャンデリア・燭台だ。その中で突然のテレビである。困惑するなと言って無理があろう。

 とかく、ここで重要なのは、不釣り合いさなどではない。テレビは確かに点灯していて、砂嵐であろうがコンセントも電力も関係なく映っているということだ。

 

「あの鍵使うトコ、ここじゃない?」

「ええ、きっとそれで間違いないわ。まずは鍵穴を探しましょうか」

 

 テレビ周辺を探り始めたシロナに続き、ハマゴ、マーズも周辺の家具やらを引っ張っては壁を覗きこんだり、ドアをもう一度除いて鍵穴が隠されていないか等、周辺の捜索を開始する。ゴソゴソとした物音が静かな館の中から発せられること数分は経っただろうか。もともと広くもない部屋ということもあり、すぐさま音は止んだ。

 

「おかしいわね……ここだと思ったけど、ハズレかしら」

 

 この部屋の物もあらかたひっくり返してみたが、シロナたちのお目当てである「鍵穴」らしきところは見つからなかった。ホコリまみれになったハマゴが汚れ損かよ、と吐き捨てて適当な椅子に座ったところ、ボスンと気の抜けた音がしてクッションからワタがはみ出る。

 

 いよいよもってボロ館の謎も降り出しかと思われたその時だった。先程まで砂嵐ばかりを映していたテレビが突如としてバチバチッとチャンネルを変え始めたではないか。

 

 その異様な光景に黙って見入る三人。テレビのノイズは次第に音を出し始め、ゼロだった音量から棒が立てられていき、音量バーは9に固定される。それなりに大きな砂嵐のザーザーしたノイズが静かな部屋に巻き散らかされる中、次第に砂嵐の灰色の部分と、黒色の部分が分けられていく。

 

「こりゃあ……見つからねえわけだ」

 

 黒いノイズ部分は中央に寄って行き、次第に前方後円墳と同じような――鍵穴の形を作り出した。灰色のノイズ部分に対して黒い場所が随分少ない砂嵐画面だったのはすこしばかりマーズも気になっていたが、なるほど、こうするためなら納得がいく。

 

 ―――イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!

 

「…さっきの悪戯の正体は、このテレビの向こうにいるポケモンなのね」

 

 おそらく自分たちを観察していたのだろう。いわば、この奇っ怪な笑い声を上げるポケモンは悪の天才科学者プルートの用意した秘密の番人といったところだろうか。

 

「挿れるわ、皆いいわね?」

「応とも」

「いつでもいーわよ」

 

 マスクを外して、彼らは構える。

 

「それじゃ……」

 

 大きな玩具のような鍵が、テレビ画面にコツンと当てられる。すると、鍵の挿入されるはずの部分は何やら浅葱色に輝いて、テレビ画面にその光が広がっていく。それは先程見かけたサイコキネシスのパワーだと思われていた、電気の力。

 

 ―――ケケケケケケケ!

 

 けたたましい笑い声とともに、テレビ画面は真っ白で鮮烈な光を放つ。

 シロナたちを飲み込んでいき、目を開けることすら難しい閃光の中、彼女らは少しの浮遊感を感じる。そうかと思えば――足は傷んだカーペットの薄柔らかな地面から、硬質で甲高い音を掻き鳴らす鋼鉄製の地面を打ち鳴らした。

 

 おどろおどろしい廃館とは大違いだった。こーん、こーん、と機械のソナーのような音が鳴り響き、チカチカと目を引き回る赤いランプが点滅する。急いで確認したシロナの持つ特別な端末によれば、ここは地面の下にある施設であることが示されている。

 

「ヒヒヒヒヒッ!」

 

 直後、ひゅんっと目の前を飛び回るポケモンが、今度はエコーのかからないほど確かな声で笑ってみせる。浅葱色のプラズマを纏った、ひょうたんに角が生えたようなシンプルな形のポケモン。見るからにでんきタイプらしく、それでいてゴーストタイプのようにいたずら好きで神出鬼没。

 その名をロトム。ある子供が単純に名付け、それでいて名は体を表すという言葉を全身で表現することが可能なポケモンであった。

 

「こいつが案内役だったってわけか。ジラーチに似て生意気そうなツラしてやがる」

「……ええ? 似てる? これ?」

 

 素っ頓狂な声でナイナイと手を振るマーズと、んなこたねえよと呑気な雰囲気を崩さないハマゴ。いざ正体が判明してみれば、なんてことはない。こんなところまで来て警戒する必要も無くなっただろうと、気を抜いた二人は実にコミカルなやり取りを繰り広げ始めていた。

 

「ん、んっ」

「悪かった悪かった」

 

 そこに咳払いで空気を正したシロナ。軽く謝るハマゴを無視して、彼女はこの移動した自分たちの目の前にある、鋼鉄製の巨大な扉を見上げて、その手にもう一度「ひみつのカギ」を握りしめる。

 鍵穴らしき場所にはめ込めば、こんどこそ鍵らしい役目を果たしたひみつのカギ。ぎぎぎぎ、と重そうな音を立てて開いた扉の奥には、何に使うのやら巨大な機械と、それら全てを総括するようなアーチ状に広がった広大なコンソールが待ち受けていた。

 

 ――……ひみつのカギを確認しました。録画を再生します――

 

 簡素なアナウンスが彼らの耳に届いたかと思えば、ぼうっと浮かび上がる人のシルエット。少々小柄な老人で、陰気臭そうな視線。紫色の髪色を持つ白衣の人物は……紛れも無く、この場に招いたプルートそのものの似姿であった。

 




次回更新は9/02になります。

今回のアンケート反映より「アルマード」さんのアイディアを頂きました。
ありがとうございます。
望んだ展開とは程遠いかもしれませんが、これからもロトムの活躍は増えていく予定です。

しっかりとイタズラ好きを前面に出して行きたいですね。
特に対マグマ団とか。
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