流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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おまたせいたしました
今回はハマゴの出番はありません。
トバリシティ襲撃事変、第二幕です。


帳を捲る

 ギンガ団の本社ビル。

 宇宙に存在する新興エネルギーを採取するため、日々研究とその他の業務で忙しなく回る成長中の企業の一つである。社長でもあり、凄腕のトレーナーのサターンは、社の信用のためか、時にはホウエン地方のラルースに訪れるなど社を離れることも多い。そしてこの日もまた、シンオウ地方に居るとは言えサターンは遥か北のキッサキシティを訪れていたのだが……。

 

「トバリが襲撃されているだと!?」

≪は、はい。ですがシロナさんの支持もあり、我々を含めトバリの人間は多くが避難済みで―――≫

「馬鹿者! 敵が誰かは知らんが、社の地下にはまだあの部屋が残っていることを忘れたか!」

≪で、ですが、サターン社長。あの部屋の護りは万全を期しております≫

「そんなもの破壊光線で一発だろう!?」

 

 苛立ち紛れに通信を切ったサターンは、すぐさま他の地方で譲り受けたポケモン――バルジーナへと飛び乗った。宵も深くなり始めた頃。キッサキシティへの道は決して遠くはないが、空路をたった一体のポケモンが通る程度であればさほど時間はかからない。加えて、バルジーナは獲物を軽々と巣まで運ぶ習性のため、人を乗せて飛ぶ速度でいえば他のポケモンよりも勝っている。

 共に鍛え上げられた自慢のポケモンの鼓動を感じながら、冷たくなった空気を裂いてゆく。暗闇に紛れて飛ぶ彼は、かつての悪の組織だった頃とは違う熱い心を煮えたぎらせているのだった。

 

 

 

「さぁ~て、こんなモンだ」

 

 パン、パンと手の埃を払うように打った男は、目の前に乱雑に倒れ込む大量のトレーナーやポケモンたちを尻目に悠々とギンガビルへと足を向けていた。

 トレーナーたちの姿の多くは、避難よりもシロナへの協力を選んだ現ギンガ団の構成員、もとい社員たちである。特徴的なおかっぱ頭と、宇宙人のようなコスチュームは未だ健在ではあるが、その心はサターンと同じく正義に染まっていたのだ。

 

 だが、その正義の心とて、強大な悪の前では倒れ伏すほか無かったのだろう。苦しげに、なおも立ち上がろうと腕に力を込めたその構成員の手をあえて踏み潰し、念入りに骨を砕いた「彼」は、鼻歌混じりで小枝を砕くように歩いていった。

 その後に続くマグマッグとマグカルゴは、圧倒的な熱量を放ち、倒れる者たちに決して浅くはない火傷を負わせていく。必要のない追い打ちや、徹底的なまでの痛めつける行為に意味など無い。ただ、彼がそうした方が楽しいからという理由でやっているのだ。―――その犠牲者たちに目もくれない癖に。

 

「かえんほうしゃだ。ぶっ壊せ」

 

 その男、マグマ団のニューリーダー。

 容赦なくギンガ本社ビルの入り口を破壊した彼は、焼けただれて溶けた鉄の柱や、辺りに燃え移った炎を見て楽しそうに口元を歪ませる。観葉植物が形も残さないほど燃え尽きて、転がった鉢植えを蹴り飛ばす。中の土が地面に散らばり、必要以上に汚される。

 

「たぁーのしいねぇ。~♪~♫」

 

 口笛を吹きながら歩く彼の後ろでは、民家や施設が破壊される爆発音が鳴り響いた。東海する街の一角から燃え上がった炎は、景色を揺らめかせながら瞬く間に広がっていく。あやつられた人たちが命ぜられるままにポケモンを指示し、時には自ら爆発物を投げて家を破壊しているのだ。

 

 ギンガビルが目標である彼らに、その破壊行為は何の意味があるのか。

 その答えは、全くない、の一言に尽きる。

 

 強いて言うなれば、このマグマ団のニューリーダーが楽しいからという理由である。他の幹部にしてみれば、他を破壊するのは物資の無駄であり、広がった洗脳部下が捕獲され、人手が減るという理由で反対していたのだが、最も反対していた幹部がこのニューリーダーの手によって焼死体と化した以上反論の声はピタリと止んだ。

 ダークトリニティが捕えたシロナを襲った男が居なくなり、もはや幹部の数は片手で数えられるほどでしか無い。だがこの作戦によって、彼らは目的のために最も役に立つものを得ることが出来るのだ。多少の損失も、また「補填」すればいいという結論に落ち着いている。

 

「ここだねぇ、オーバーヒートだ」

 

 彼が辿り着いたのは地下の研究室。かつて忌まわしき研究がされていた本拠であり、立地の都合上、未だ完全な撤去が成されていない部屋。研究員でありながら、気分を害する程のおぞましい行為がされていた場所の入り口だ。

 指示を受けたマグカルゴの体が一層肥大化し、その口から炎の光線が放たれた。それは厚さ30センチの合金の壁をいとも容易く貫通し、人ひとり程度なら通れる穴をどろりと赤熱した液が名残と言わんばかりに滴っている。

 

 鼻歌交じりに穴をくぐり抜けた彼は、散らばった研究資料など、当時そのままに残されてしまった負の遺産が収められた部屋へと踏み入ってしまった。電源などは全て落とされ、電気の供給も完全にカットされているが、この男の前ではその程度の妨害など意味をなさない。

 

 無言で投げられたボールから、シビルドンというポケモンが出現した。

 

「つないどけ」

 

 それっきり、シビルドンを放置した彼はお目当ての装置を目指して研究室を歩く。すると、十秒もしないうちに研究室に電気の明かりが灯る。いち早く電力の供給源を見つけたシビルドンが、勝手知ったる我が家のように部屋のシステムを復旧させたのだ。

 当然、その分シビルドンには重い負担が降りかかるが、ここで彼の機嫌を損ねれば待っているのはむごたらしい未来。死ぬ気で、いつものように「優秀」と言われるような結果を残す他無いのである。

 

「情報通りだ。残ってるじゃーん」

 

 研究室の奥の奥。3つのポケモンが収まるほどの装置と、それに太いケーブルが繋がった巨大なコンソール。コンソールが在る装置の中心には、何かが収められるための巨大なカプセル。割れてしまったカプセルだが、その底には埃をかぶった赤黒い何か、楕円状の輪のようなものが残っていた。

 迷いなく、マグマ団のニューリーダーはそれを手に取りほくそ笑む。これで、作戦の大前提の根幹となるものが揃った。あとはゆっくりと、装置の完成を待ちながらジラーチを捉えればいい。所詮はタダの旅医者一人。殺してしまえばなんとでもなるというのがニューリーダーの考えである。

 

 ハマゴの性格や凶悪さを知っていれば、それは甘いという人がいるかも知れない。だが、この男は彼などとは比べ物にならない暴力、知識、手段、悪意を持っている。本当に一捻りなのだ、ハマゴ程度では。

 

「あー、聞こえてる? 目標のブツはあっさりゲットぉ~。んじゃ帰るわ。足用意しとけ」

≪了解しました。無事の帰か≫

 

 部下のセリフも遮って通信を切った彼は、おもむろに頭を横に動かした。

 直後、頭があった場所を一本のクナイが通過する。

 

「あー、なに? あんたら。邪魔すんなよー」

 

 ヘラヘラと笑いながら、大げさに両手を上げて言う。だが、彼のセリフに反して人の姿など見えない。いや、完全に空間と一体になっているせいで居るはずなのに気配を感じ取れないのだ。

 そんなダークトリニティの隠形を見破ったこの男、言動はふざけているが、通信した上からですら後をつけられている事に気づくなど、ただならぬ能力を秘めているのは間違いない。こんな男が、何故過激派として離脱する前はただの団員に甘んじていたのだろうか。だが、今はその追求は置いておくとしよう。

 

 身を隠しても、その方向へ視線を向けるこの男に無駄だと思ったのだろう。ダークトリニティの一人が、風景から描き出されるようにしてその身を表した。

 

「……マグマ団のリーダー、か」

「そんな感じのをやってるぜ。しっかしかっけえなアンタ! ニンジャってやつか。いいねえいいねえ、アンタみたいな有能なやつ、うちにもほしいんだよな。あ、今のやつ裏切ってこっち来るか?」

「きりさく」

 

 トレーナーを狙って繰り出された、キリキザンの奇襲。だが相手は指をツイと動かすだけでマグカルゴに指示を出し、その堅牢な殻で防いで見せた。

 

「ひゅー! 容赦ないねえアンタ。俺じゃなきゃ首がぶっ飛んでたぜ」

「……ジュペッタ」

 

 ここは狭い研究室だ。キリキザン以外の手持ちの内、最適と言えるポケモンをこの地方で初めて出したダークトリニティ。ケケケケ、と特徴的な笑い声を上げながら飛び出してきたジュペッタは、既に体の周囲に怪しく揺らめく光をまとっていた。

 

「ノー指示であやしいひかり! いいねぇ、そんなこと出来るやつ中々いねぇってもんだ! あっはははは!」

 

 言いつつも、この男自身が指示を行うこと無くマグマッグがジュペッタに飛びかかった。直後、また少しだけ動かされた指の動きに合わせて、吐き出されたマグマッグの火炎放射がジュペッタを左右両方から襲う。信じられないが、火炎放射の炎が二股に分かれて挟み込んできたのである。

 だがジュペッタはフッとその場から掻き消えると、マグマ団ニューリーダーの真後ろへと現れた。そして垂れた両手を思いっきり上に振り上げ―――

 

「はたきおとす」

「っとぉ!?」

 

 男が手に持っていた赤黒い楕円の輪を奪取しようとするが、いとも容易く対処してみせる。その方向を振り向くこと無く回避行動を取ったと言えば、相手のわけがわからない対処能力がどれだけ高いか分かるだろう。

 ダークトリニティは舌打ちする時間すら惜しいのか、ついに彼自身がその体で動き始めた。キリキザンとジュペッタにはマグマッグとマグカルゴを任せ、自分はその手に刃物を持ってトレーナーを狙う。その腕ごと証拠品を奪い取る腹づもりだが、影に生きる組織の手足として育てられた彼の技量ですら、何故かこの男を捉えることは難しかった。

 手を伸ばそうとすれば、その場所に攻撃が来ることが分かっていたように避け、かといってタックルを仕掛ければ、完璧なタイミングでしゃがんでかわされる。相手はゼェゼェと呼吸を荒げてペースを乱しているにも関わらず、ありとあらゆるダークトリニティの仕掛けた攻撃は対処されてしまった。

 

 その永遠の追いかけっこが続くかと思われた矢先、ふとダークトリニティの彼は気づいた。心なしか、先程よりも服がじっとりとしてきていると。

 

 ありえない話だ。体の関節に始まり、汗腺や呼吸の制御まで、完璧にこなす彼らが文字通りの体調管理を違えることなどと。だが現実に、彼のピッチリと張り付いた服には、久しく感じていなかった汗のじっとりとした感触が滲み始めている。

 まさか。目の前の脅威度は避ける以外に低いと判断し、キリキザンたちが戦っている方へと視線を向ければ驚きの光景が繰り広げられていた。

 

「キリキザン、ジュペッタ……」

「おっと、どうやら最後まで俺の仕掛けに気づかなかった見てぇだな、哀れな負け犬の姿だ。なぁ?」

 

 男の戯言など無視して、彼はあの英雄以外には一度たりとも負けることのなかった精鋭たちが倒れ伏す姿を視界に収めることとなった。そして逆に、マグマッグたちには傷一つとして付いていない。何があったかは分からないが、ジュペッタの布地の肌はひどく焦げ付き、キリキザンの鋼の刃はどろりと刃が潰される程度に融解させられている。

 ずっと炎をその身に受けていたかのような、そんな傷つき方だ。

 

 待て、ずっと、炎を受けていたのような……?

 

 ダークトリニティは己が流した汗と、手持ちの傷つけられ方を見てハッと目を見開いた。そして気づく。この光景は、この感覚は、実際の状態と少しばかり認識がずれていると。

 

「貴様……ぐっ」

「お?」

 

 グッ、と血が滲むほど舌を噛んだダークトリニティの彼は、次に目を開いた時、その光景に衝撃を受ける。なぜなら、彼が先程まで戦っていた明るい研究室の姿はひどく様変わりしていたのだ。

 炎が燃え盛り、復旧させていた電力も既に落ちている。ただただ、暗闇の中を部屋中に広がった炎が照らすだけの息苦しい場所に変わり果てている。つまり、先程まで見ていた光景は―――魅せられていた、幻覚。

 

「気づくやつが居るなんてなあ。やっぱ、アンタまともじゃないや」

 

 ぱち、ぱち、ぱち、と拍手をする音は遥か遠くの研究室入り口だ。

 さきほどまで自分が戦っていたのは、あの男が赤黒い輪を手に入れた部屋のすぐ出口だったはず。だというのにコレほど距離が空いているということは、この部屋で仕掛けたときから既に、自分はあの幻覚に陥っていたということだろうか。

 

「せっかくだし教えてやるよ。マグマッグが作り出してた幻覚を破ったアンタへの報酬だ」

 

 部屋の入り口によりかかりながら、ふざけた調子で言ってくる男。だがダークトリニティの彼は、脳がようやく認識した現実と、薄くなる空気、炎で炙られ消耗した体力が重なり、近くの机に手をついてよろめいている状態だ。

 

「俺の名はホカゲ。火が見せる影の化身。まあ、生きてれば覚えててくれや! ばっはは~い」

 

 彼の後ろに控えていたマグマッグが、マグマの液体を扉に吹きかける。そして溶け落ちた扉のあった場所の穴は完全にふさがり、先程よりも急速にこの部屋の中の酸素を奪い取っていく。

 ふらつく頭で、だがしっかりとホカゲの名を記憶したダーク。腰の道具袋を探り、簡易的な酸素マスクを装着した彼は、肌が灼けていく感覚を覚えながらも三体目のポケモンを繰り出した。

 

「あぶ・・・そる・・・」

 

 薄れ行く景色。だが、白い体毛のポケモンの姿を見届けて、ダークトリニティの一人は完全に意識を手放した。

 

 

 

 

「なんなんだ、これは……トバリが火の海ではないか!」

 

 場所は代わり、トバリの上空。

 バルジーナの背中からこの街を見下ろしていたのはサターンだ。

 

 彼はすぐさま近くの放火している人間たちを打ちのめすと、それらがポケモン協会に言われていた洗脳された一般人でしか無いことに気がつく。くっ、と悔しげに拳を握りしめ、腰から一匹のポケモンを繰り出した。

 

「フーディン、これから一般人の戦闘員がいれば気絶させ、ポケモン協会の施設に送ってくれ。今倒れている奴らの分も頼んだぞ!」

 

 手に持ったスプーンをサッと振って答えたフーディンはその瞬間にテレポートして消え失せた。サターンは彼女が役目を果たしていることを確認して、急ぎもう一度バルジーナの背中に乗り、自分の会社――ギンガトバリビルへと足先を向けた。

 

 炎に包まれ、家屋が焼け落ちているひどい光景が彼の網膜に焼き付いていく中、その炎の中を走る一陣の黒い風を捉えた。忘れもしない、あの特徴的な長い髪と、見ただけで分かる高い練度のポケモンの持ち主はただの一人しか居ない。

 

「チャンピオン!」

「あなた、サターンさん!? 戻ってきていたのね!」

「とにかく、こっちに乗るんだ!」

 

 近づいてきたバルジーナに気づいた彼女は、サターンの提案通りルカリオに投げてもらってバルジーナの足をつかむ。バルジーナは器用に彼女を放り投げ、サターンもいる背中へとシロナを移動させた。

 互いに切迫した状況だ。いささか早口になったまま、彼らは情報交換を始めた。

 

「何が起きているんだ。このまちの有様は一体……」

「ごめんなさい、あなたとは連絡がつかなかったから伝えられなかったわ。今、この街はホウエンからきた狂気の集団、マグマ団に襲われています。ついさっき判明したんだけど、敵のリーダーはあなたの会社の地下へと潜っていったそうよ」

「地下……奴らの目的は、赤い鎖の残骸か…!」

 

 というよりも、ポケモンを使った犯罪集団がギンガトバリビルを襲う利点などそこしかない。理由にすぐさま思い当たった彼の言葉に、シロナは想像外の出来事だと言わんばかりの表情で驚いてみせる。

 

「な、それはもう処理したんじゃなかったの!?」

「悔しいが、あれほどのエネルギーだ。施設ごと完全に密閉封印して、エネルギーが外気に溶けていくのを待つしか無かったのだ。赤い鎖を下手に刺激した時、待っているのはあの三湖が消し飛ぶほどの爆発だったからな……だが、もう襲う輩などシンオウに居るはずもないと高をくくった私の責任だ」

「…わかったわ、責任に関しては後にしましょう。それよりも、貴方にも力を貸してもらいます」

「もちろんだ。そのマグマ団とやら、この手で粉砕してみせよう」

 

 彼らの会話が終わると同時、ギンガトバリビルが見えてきた。

 その破壊されたエントランスから、一人の男―――ホカゲが余裕綽々といった様子で歩いてきている。ビルの周りにはマグマ団と思わしき集団もおり、脱出用の飛行機や車両が辺りの炎を物ともせずに鎮座している。

 

「そんな、ダークさんがやられたって言うの……?」

 

 途中から、研究室の都合上通信が途絶えたとは言え、手段を選ばなければ自分を上回るかもしれない実力の持ち主であるダークトリニティ、その一人が退けられた事実に、相手の脅威度の認識を改める。

 とはいえ、バルジーナを駆るサターンがそんな事を知る由もない。先程までの間に決めていた打ち合わせ通り、上空からバルジーナが一気に急降下し始めた。

 

「いけ、チャンピオン! 頭目は任せたぞ!」

「ええ、行くわよガブリアス!」

 

 バルジーナから飛び降りたシロナは、空中でガブリアスを出しながら一直線にビルから出てきたホカゲを狙う。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 ガブリアスの体から恐ろしい殺気が放たれ、それにピクリと反応するホカゲ。だが、そこは既にガブリアスの射程圏内だ。人間の足でどう逃れようとも威力の範囲内から逃れることは出来ない。

 ガブリアスが階段ごと破壊しながら突っ込むと同時、無傷で着地したシロナは新たなボールを構えて二体のポケモンを呼び出した。その手から現れたのは、トゲキッスとトリトドンだ。

 

 集まっていたマグマ団を蹴散らして、すぐさまガブリアスが着弾した敵の頭目の方を見る。手傷くらいは負わせることが出来ただろうか。しかし、そんな考えは甘かったのだとすぐさま思い知ることになった。

 煙の中から現れたホカゲは、完全に無傷だったのだ。目立った被害と言えば、多少の巻き上げた砂埃や砂利を服につけている程度でしかない。

 

「ったく服が汚れちまった。っつうか、あんたチャンピオンじゃね? やべえ! 強いやつがこうも現れるとか、ホンっとこんな事してなけりゃ素直に喜べたのによお。まぁ、あれだ。俺も立場っつうか? ちょっとした目的のために動いてるワケでして? ちょっと今は素直によろこべな―――」

 

 よく回る口を横合いから封じるように、ガブリアスのドラゴンクローが彼に付き従っていたマグカルゴを襲う。鍛え上げられたドラゴンクローの淡い翡翠色の双爪が、マグカルゴの堅牢な殻をいとも容易く抉り取る。えぐられた箇所から炎を吹き出しながら、たまらずマグカルゴは地面を擦りながら吹き飛ばされてしまった。

 

「……あんた人の話くらい聞こうよ。コミュ障じゃねえの? くっだんねぇ」

「くだらないのはあなた達よ。さぁ、説得の時間なんて無いわ。このまま肩をつけさせてもらうから」

「くっ、へへへへ…だけどよ、俺みたいに一応トップしてるやつがこうして出てきてる理由、わかんだろ?」

「わかってるわ。それにあのドラゴンダイブで無傷だったことから、相当に強いってこともね」

「その通り! そうとなりゃ話は早いよぉ~!!」

 

 ホカゲがバッと腕を振り抜き、そして叫ぶ。

 

「かえんほうしゃァ!」

「まもる!」

 

 燃えるものはもはや無い。だと言うのに、コンクリートの地面の上に吐き出された炎は消えること無く延々と揺らめき続けている。そして守るで直撃こそ防げたものの、辺りに残った炎の熱気は、容赦なくシロナの体力を奪い始めていった。

 そんな時だ。彼女らの背後の音が途端に小さくなり、戦闘音の代わりに航空機のエンジン音や、クラクションをかき鳴らす車の走行音ばかりが聞こえてくるようになった。

 

「済まない、やはり一人では大半を逃してしまった」

「いいえ、この男さえ捉えればこちらの勝ちよ」

 

 この一瞬で多くのマグマ団員を倒し、追い払ったというのだろうか。サターンが申し訳なさそうに誤りつつも、シロナの隣にボールを構えて立ってみせる。

 

「あーらら……」

 

 逃げていくマグマ団員を見つめながら、ホカゲは危機感よりも倦怠感を感じさせる態度で、ケッと吐き捨てた。所詮は有象無象の集まりだ。幹部などと言う連中も、人数が少ないため相対的にその中からバトルが強い人間が選出されただけ。

 だがホカゲにしてみれば、幹部だろうが平団員だろうが、実力の程はどんぐりの背比べだ。むしろ幹部は使い捨てが聞かないくせに扱いづらい駒であると認識していた。

 

「しゃーねえ、お兄さんちょっとだけ本気出しちまうか」

「返してもらうぞ、赤い鎖の輪を」

「抵抗しても、その上から押さえ込んであげる」

 

 まったく違う心持ちながら、その場にある未来は同じだ。両雄激突。ぶつかり合う視線の火花に引火するように、炎はひときわ高く揺らめいてみせる。

 

 マグカルゴはまだ戦闘可能。だが、チャンピオンと元悪の幹部が本気で攻め立てればマグマッグ共々鏖殺されるのは目に見えている。それに、シビルドンは想像以上に電気を消費したのか、疲労困憊ときた次第だ。

 だから、4つ目のボールにホカゲは手を掛けた。

 

「んー、まぁどうせあの男も生きてるだろうし、先に言っといてもいーだろ。おっと、これを聞いてカッコよさに腰抜かすんじゃあねえぜ」

 

 モンスターボールをポンポンと弄びながら、階段から二人を見下ろすホカゲ。

 

「俺はホカゲだ。火の影を体現するもの。この名前をしっかりと覚えて―――死にな」

 

 おちゃらけた態度が一変。

 濃密に凝縮された殺気がシロナとサターンの体を駆け抜け、まとわり付く。

 未だ謎多き男ホカゲ―――彼の「戦闘」がここに、幕を開けた。

 




読了お疲れ様でした。

以下、いつもの説明です。






ホカゲ
・というわけで、名前と戦法はポケスペより。
 影のリーダー的な感じでピッタリな名前だった。
 実力はこれまでの通り、わけわからんレベル。
 ハマゴを上回るオリキャラの化身ですね。
 あと、無駄に残酷で派手好き。書きやすいし。

ダークトリニティ
・今回は一人だけの出演。
 そして初の黒星をつけられる。
 燃える密室に閉じ込められた。
 正直、一番状況的に命が危ない。

サターン
・ラルースとかにも行くほど活発。
 口調に関しては違ってたら指摘お願いします。
 マーズと違ってバルジーナという新入り。
 正直、おおまかなプロット上出すつもりは無かった。
 でもビル襲撃されて来ないのはおかしいよねって事で。

シロナ
・今回は見せ場あんまりなし
 更には初撃を防がれる。
 前話含めるとダメナさんまっしぐら。
 ホントは強いんやで……

赤い鎖
・多分8割の人に予想されてたと思う。
 トバリ襲撃ったらコレよね。
 この世界では、「英雄」は持って行ったけど
 まだその欠片が残ってたって感じ
 アルセウス先輩も知らない


では、次回雌雄激突! お楽しみに
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