そしてリクエスト回です。
しばらくは日常回の練習がてら、こういう感じで書いていきます。
なんかもっとこうした方がいい! という意見ありましたら是非コメントを・・!
文章力発展のご協力を…!
朝日が昇る。障子の隙間から一本の光の線が部屋の中にするりと入り込んでいた。久しぶりにぐっすりと眠った彼は、布団の脇に置いていたメガネを掛けなおしてのっそりと起き上がる。その場でさっと寝間着から、いつもの私服の上に白衣をまとった彼は、脇においてあるモンスターボールへと手を伸ばした。
ひとつ、ふたつ。そして「毛玉」。
茶色と黄色のもこもこが彼の手に触れ、もっさりとしたそれの首根っこを引っ掴む。だが茶色の毛玉が起きる様子はなく、ハマゴはそれを小脇に抱えながら障子の戸を横へ引いた。
降りかかる日光が全身を照らし、彼の濃い青髪を輝かせる。
劇的な変化はない。ただそこに、彼の新しい一日が始まろうとしていた。
「お世話になりました。こっちは昨夜作っといた傷薬だ。シロナの妹さんに渡しといてやってくれ」
「お風呂も広くて楽しかったわ。あたしからは何もないけど、本当にありがとうございましたっ!」
「いいんだいいんだ。お若い人の活気を貰ったこっちこそ、お礼を言うべきだからなあ。それと、今朝のニュースだがトバリシティでは大層な事件があったらしい。気をつけていきなさい」
シロナの祖父に見守られた見送り。別れ際の言葉に、より一層気を引き締める一行。重ねて礼を言った彼らは、世話になったシロナの実家へ深く頭を下げながら、210番道路へと足を向けた。
神話を伝えるこの街で、アカギの残り滓を辿るジュピターに出会える可能性もあった。だが、ジュピターはおそらく、ここには来ないだろうとマーズは言う。むしろ現れるのであれば、彼が消えたテンガン山の「やりのはしら」。
だが、現状はこの地方については疎い新生マグマ団を名乗る者たちがギンガ団残党を吸収してしまっている。この地には伝承しか残っていない。ギンガ団が知っているような事実であるのなら、すでに訪れる意味もない。
「気の向くままに旅してるけど、最近なーんにも起きないわね」
「平和が一番だっつのドアホウ。俺だって怪我人増やしたくはねぇさ」
「でもそのままだとあたしがジュピターに会えないんだけど?」
頭の後ろで手を組むマーズに、呆れたようにハマゴが息をついた。
「それこそ知るかってんだ」
「うわひっど」
軽口の叩き合いは暇な証拠である。
さて、カンナギタウンから東に行けば、深い霧と広い雑木林が広がる峡谷が見えてくる。この辺りは視界の悪さに加えて足場も悪く、いくつも作られた橋や階段を行き来することで、ようやく進むことが出来る旅の難所だ。
しかし険しい環境であるからこそ、ポケモントレーナーや野生のポケモンは強い。その上、霧に紛れて珍しいポケモンも目撃されることもある。
前も見づらい霧の中、彼らがえっちらおっちらと歩く先々で、川や草むらを利用した荒々しいバトルが繰り広げられていたのか、霧の中から突然飛んでくる火の粉や水飛沫が降りかかる度に、ハマゴのリュック上という高い位置に居たジラーチは被害を被っているが、まぁいつものことだ。
いつもと違うのは、彼らの一歩後ろの毛玉である。
おっかなびっくり。まだまだハマゴたち人間が近くにいることに慣れないのであろう。ひょこひょこと辺りを伺いながら、時折ちらりと安否を確認するハマゴの視線にビビりながら、ミミロルが彼らの後ろを歩いているのだ。
「ちょっとちょっと、朝からあの子どうしたの?」
「仕事の仮助手だ。まぁ、まずは知識と基本的な道具を覚えてもらうがな」
懐かしいものだと、目を細めて彼は言う。
ハマゴもまだ目つき…はともかく、ピッカピカのドクター研修生であったころは、ああやって周りを伺いながら自分がすることを探していたものだ。もっとも、目付きの悪さからガンつけられるヤンキーだと勘違いされ、周囲に避けられていたエピソードもあるが、今はいいだろう。
「そうだ、この後どっち行くの?」
「ん、トバリは絶賛工事中らしいからな。朝にはシロナからも“こっちは手が足りているから無理に手伝いに来なくていい”なんて仕事させる気無さそうなメールも飛んできやがった」
「ってことはズイタウンね。そうそう、途中にあるカフェのモーモーミルク、中々美味しいからおすすめよ」
「やっぱこっちにもあんのな。あれは地方ごとに微妙に効果が違ってな、中々楽しみだ」
とはいえ、「きりばらい」も持っていない以上、彼らに日が落ちてきた道を進む危険を犯す理由はない。まだまだ夜も遠いが、そこは気候の関係上日が落ちるのもそれなりに早いシンオウ。渓谷という環境も相まって、ハマゴ一行は早々にテントの準備を整えていた。
時刻は夕方にすら差し掛かっていないが、じっとりと体を濡らす霧は異様な気持ちの悪さと寒さによる体力の浪費を迫ってくる。じっとりと濡れてよれた白衣やマーズの服をテントの中で干しながら、キュウコンがじんつうりきで近場の霧が来れないように固定化させている。
「あんたのキュウコンほんとに器用ねえ」
「ドクターの相棒だ。器用じゃなきゃ務まらねえさ」
と言いつつ、服と一緒にジラーチを吊るしたハマゴはジラーチの抗議を無視しながらその場にどっかりと座った。
彼らが拠点のテントを張ったのは、苔むした大岩と小石が敷き詰められた滝壺の近くだ。川の流れも周りに比べて穏やかで、この深い霧さえなければ中々の景観だったと言えるだろう。
「……」
「キュウコンもおつかれさん、ほらよ」
じんつうりきによる霧の固定化が終わったのか、顔を近づけて来るキュウコンをワシャワシャと撫でくり回したハマゴは彼女の口元にポケモンフーズを近づける。優雅に頬張るキュウコンだったが、その尻尾は揺れている。如何に慈愛に満ちた彼女とて、主から褒められるのは嬉しいということだろう。
「テメェも、ンなとこで突っ立ってないでこっち来やがれ。無くなっちまうぞ」
洗濯バサミで羽衣が吊るされ動けないジラーチを眺めていたミミロルも、流石に食欲には勝てない。あっさりと助けを求めるジラーチを見捨ててハマゴの用意した更に近づき、フーズを一つ口へ放って目尻を下げた。
大粒のナミダを滝のように流すジラーチも、そろそろ弄りが過ぎたと感じたハマゴによって食卓に引っ張られ、ようやく美味しいポケモンフーズにありつくことが出来た。栄養・味・形ともにハマゴ考案のフーズは、彼ら一行のポケモンにとって大絶賛である。
ぎこちなかったミミロルも、ジラーチやキュウコンに囲まれて次第に笑顔を見せるようになってきた。
「ほら、あんたたちも出てきなさい」
マーズがおもむろに取り出したボールからクロバット、ブニャット、ドータクン。そしてロトムが飛び出して、各々のポケモンフーズにありつきはじめる。人間たちはそれを眺めるばかりだが、忘れてはいけないのは今の時刻。ポケモンたちにとっておやつの時間にすぎないため、彼らは別に食事を取る必要も無いのだ。
小さな折りたたみ椅子に座って、笑顔のポケモンたちを見つめるハマゴ。いつものしかめっ面だが、視線は優しいものだ。口元に浮かべる笑みは、彼らの楽しい時間を共有している証である。
反対に、手元は忙しそうに揺れている。右手のペンは左手で持つ手帳へスラスラと文字を記していった。
「やっぱモモンよりオボンベースにしたほうが全体的な受けは良いっぽいな。ま、あの
「ほんとマメねぇ、あんた」
「自分らのポケモンの好みぐらい把握できなくてどうするってんだ」
「あたしは把握してるからいーの」
ひらひらと片手を振って余裕を見せるマーズに、深いため気を付いてみせる。
「おまえのドータクン、ああ見えて甘党だ。ジラーチ以上にな」
「……え? でもあの子、ポフィンはいつも苦いの食べて」
「5種類のポロック3つずつで試したが、甘いのは完食、苦いのは一個だけだったな。好きっつうか、ありゃ口の中リセットするために食ってたらしい。ポフィンのあと、なんか別のモン食ってなかったか?」
「………そうね、ほんとそうね」
負けた、と肩を落とすマーズに対して、彼はまたため息を落とし、パタンとメモ帳を閉じた。案外こんなものが現状だ。トレーナーといっても資金は有限だし、偶然に買ってきたものを美味しそうにポケモンが食べるのを見て、それが好物だと勘違いするトレーナーも多い。
ドクターとしてはこうして餌付けすることで、診療を受けるポケモンをリラックスを促す事もあるためポロックについてよく学んだが、まぁ所詮はマーズも普通の女の子()だ。
「知識が足りないなら多少なりとも学べ。活字からしか得られない知識も、バトルに役立つもんだ」
例えば、ハイドロポンプにだいもんじを当てる。するとだいもんじはかき消されるが、その際に発生した水蒸気は一瞬目くらましになる。炎ポケモンであれば高い熱への耐性があるため、その水蒸気の中で攻撃を交わし、霧を内側から裂いて現れ相手に一泡吹かせることも可能だ。
バトルをしていく内に身につく知識かもしれないが、事前に「原理」の方を知っていれば咄嗟の判断の選択肢として使い物になる。思い出すという0.1秒のタイムロスを無くすのは、目まぐるしく状況が変わるポケモンバトルにおいて非常に有益だ。
「ハッハッハ、テメェの頭で理解できるかどうかは知らねぇがな」
「あんたね…! 上等じゃない! 喧嘩売ってんの!?」
「こないだみたいな身体能力を当てにした脳筋バトル見てりゃ、誰でも思うだろうよ」
ぐぬぬぬ、と怒りのボルテージを上げる人型ポケモンはさておいて、ハマゴはポケモンたちの方が騒がしいことに気がついた。ジラーチに続いてマーズ弄りも楽しいが、それにばかり時間を裂いているわけにもいかない。
「どうしたオマエら……?」
彼らの方に歩いていけば、見覚えのないポケモンが一匹増えていた。
「何だこいつ、ブイゼル?」
二の足で地面を踏みしめるのは、ブイゼルというポケモンだった。片手には、ポケモンたちに与えたはずのポケモンフーズが握られている。そしてブイゼルは、見せつけるようにそれを口の中に放り込むと、いかにも美味しそうに頬張り始めた。
作ったハマゴとしては野生のポケモンにも好評なのは嬉しいのだが、ぎゃーぎゃーと騒ぎ立て始めたのは我らがアイドル流れ星のジラーチである。
片手を振り上げて抗議を示すジラーチに、しかしブイゼルは挑発的な笑顔を浮かべてちょいちょい、と指を立てた。つまり、先程ブイゼルが食べたのはジラーチの皿にあったおやつだということか。
「~~ッ!」
わかりやすい挑発に見事に引っかかったジラーチは、怒り心頭のままブイゼルに向かって猛ダッシュ。頭部にエネルギーを集め、流星のように「しねんのずつき」を繰り出したのだが……。
「ッ!」
「!?」
ひらりと躱され、川の中に突っ込んだ。威力はそのまま、凄まじい水飛沫を上げる辺りは寝腐っても幻のポケモンと言ったところだろうか。秘められたポテンシャルが、かわいそうな光り方をした一幕である。
そんなジラーチの攻撃力に流石に恐れをなしたのか、これはたまらんと必死に逃げようとして同じく川の中に飛び込んだ。上流に向かい川の流れを物ともせず泳ぐ姿は……泳ぐ姿は…?
「ッ!? ッ!?」
「……おーい、水タイプ。つかこれタダの遊びだな。帰るか」
ハマゴは背を向けてテントに戻る。
彼をそうさせたのは、目の前の光景だ。
ブイゼルというポケモンは、首のうきを膨らませたり萎めたりして、尻尾をスクリューのようにすることで推進をつける泳ぎ方をするポケモンだ。だがこのブイゼル、川の流れはそれほど早くないにも関わらず、上流に向かって尻尾を回して踏ん張るが、むしろ流される始末であった。
これには流石のジラーチも唖然として、次の瞬間には挑発したブイゼルが呆気なさ過ぎて笑い飛ばす始末。ジラーチの嘲りを受けてブチ切れたブイゼルは、すぐさま陸地に手をついて這い上がり、青筋を立てながら笑い転げるジラーチにアクアテールをぶちかました。
綺麗に顔面に決まり、ジラーチの顔が一瞬完璧な変顔を晒す。
直後、一回。二回。三回。水面で跳ねた後に滝がある壁に激突。
綺麗な水切りをして飛んでいったジラーチは笑った罰か、はたまた生来の運の悪さか、非常にシュールな跳び方で反撃を受けて一撃ノックダウンである。数秒後、滝壺からプカ~っと、土左衛門状態で浮かび上がったその後頭部には巨大なたんこぶがこしらえてあった。傍目は完全に水死体である。
そこを逆に笑い飛ばすブイゼルも、ジラーチに似たお調子ものであったのだろう。そして似たものであったからこそ、気づくことができなかった。
「……」
無言で背後に迫っていた、無表情で緑の極光を放つキュウコンの存在に。
鼻をツンとつくような強い香りが、ポケモンたちに一歩距離を取らせている。
その円の中心には、特徴的な青髪が忙しなく揺れていた。
「ったく、俺に仕事させるんじゃねえっつの。キュウコン、オマエもやりすぎなのはわかってるよな?」
彼の言葉に、プイッと顔を背けたキュウコン。
だがそんな態度を許すはずもなかった。
「こんのドアホ」
ペシッ、と鼻先にデコピンを食らったキュウコンはその場で鼻を抑えて丸まってしまった。鍛えられたデコピンは地味に痛い上に、指の先にはマトマの汁が付けられているのだから、堪ったものではない。
そうしてキュウコンに絶大なダメージを与えつつ、ジラーチのたんこぶがあった場所にしっかりと「刺激の強い」塗り薬を処方し終わったハマゴは、わさびが目に入った時のようなツーンとした感覚のせいで飛び跳ねるジラーチを無視してブイゼルの方に向き直る。
こちらはキュウコンの放ったお仕置きのソーラービームのせいで、見事に黒焦げである。大の字に倒れてピクリとも動かない様子は死んでいるのではないかと思わせられるが、面倒くさそうに粉末を取り出したハマゴは、ブイゼルの腹をキュッと押し込んで口に水を溜めさせる。水タイプのポケモンが多く持つ「水袋」を刺激したことで口に溜まったのだ。
そして粉末を口の中の水と一緒に一気に呑み込ませた。すると、
「~~ッ★□☓■◆☆!?!??」
「漢方屋のふっかつそう、ちからのねっこを擦り潰してカゴのみを混ぜたとびっきりの気付け薬だ。味覚もぶっ飛ぶが、代わりに一気に回復するみてぇだな」
釣り上げられたコイキングのように、口を抑えてビッタンビッタンとその場で苦しむブイゼルは、とてもじゃないがそのまま寝かせていた方が慈悲があったのではないかと言わんばかりの姿である。
この光景を見てブニャットを始めとするマーズの手持ちは、下手に戦闘不能にならないよう、より精進せねばと心に誓っていたが、まぁ今は深く語ることでもあるまい。
「そんじゃまた馬鹿なことすんなよ。……まぁ今日は大丈夫か。日が落ちる前には戻ってこい」
いつものレーダーや、キュウコンが無防備を晒している姿から今日は完全に大丈夫だと確信を得たハマゴは、たまには羽根を伸ばしてゆっくり遊べとポケモンたちを頬ってテントの中に戻っていった。
取り残されたのは無様に跳ねるジラーチと、ようやく嗅覚の辛味に打ち勝ったキュウコン。そして壮絶な名状しがたい味覚へのダメージを受けて、ピクピクと死にかけの虫ポケモンのように足を引きつらせるブイゼルだ。
ある程度打ち解けたミミロルが大丈夫か、とジラーチに歩み寄れば、また大粒の涙を流してハマゴがいじめてくるんだああああ、とミミロルにジラーチが泣きついた。今回珍しく罰を受けたキュウコンも、ジラーチにお願いしてブイゼルへ「いやしのねがい」をするように持ち掛けていた。
それからようやく、ハマゴの治療という名の制裁の効力が切れた頃。ブイゼルはジラーチらに向かって、グランプリに出れば入賞は確実であろう土下座をかましていた。
曰く、仲間内でも泳げないことから馬鹿にされ、更には中々食べ物にありつけない所、ジラーチらが能天気に美味しそうなお菓子を食べていたものだから、ついつい取ってしまったのだという。その後の態度は単に空腹と嫉妬でわからなくなっていたらしい。
「……?」
「……っ!」
仲間内でも劣るという点から同情を覚え、許してやろうと諭すミミロルに対し、ジラーチは許してなるものかと威嚇するような声を上げていた。だが一度ソーラービームで身も心も焼き尽くされたブイゼルからすれば、その下手人であるキュウコンがいる陣営に向かってこれ以上逆らう気が起きるはずもない。
とりあえず、これ以上何かしてしまう前に消えてしまおう。ブイゼルがそう思って背を向けた時だった。
「グルルッ」
待て、とキュウコンが済まなそうにブイゼルを引き止める。そしてキュウコンは何を思ったのか、自ら川の中へと向かい、ジラーチやブイゼルに向かって見せつけるように、鮮やかな動作で向こう岸まで渡ってみせた。
「……?」
「ッ!」
真似てみろ、とキュウコンは軽く首を振る。
キュウコン直伝、ポケモン水泳の授業がここに幕を開けたのであった―――
日常回というかポケモン回。
リクエストは「輝夜€」さんのお題を拝借しました。
再現出来ていますでしょうか?
文字数はいつもより少なめ許して。