ガサガサと背の高い草が揺れ、真っ白なバタバタとしたものが風を起こす。撒き散らされた土砂が苔むした岩を汚し、そこに集まっていたムックルの群れが飛び立った。霧に隠れた大自然の渓谷に立ち込める霧。その水気を十分に吸い取った草木が他の土地よりも大きく長く育っていくのだ。
乾き始めた地面を、多少泥っぽい靴が踏みしめる。じわりと滲む地面が黄土色から焦げ茶色に変わる。ザリザリと足を動かして泥っぽさを払ったハマゴは、草にくっついていた露に濡れた体を拭きはじめた。
「ここがズイタウン、か」
巨大な放牧地に囲まれ、側の崖には遺跡のようなものに続く道もあった。しかし今は、どこかのどかで、のんびりとした空気の中に人間特有の焦ったような気配が感じられる。とはいっても、そんな気配を感じているのは彼らの手持ちのポケモンの方なのだが。
一つ遅れて、また茂みが揺れる。ハイビスカスの花弁にも負けない情熱的な赤色が、葉で覆い隠された道からがさりと這い出てきた。彼らの旅の道連れマーズその人だ。
彼女は唐突に投げ渡されたタオルを受け取り彼の横に並び立った。
ここに、あのプルートがいる。そしてトバリの事件の負傷者たちも。
彼は後者が目的で、彼女は前者が目的だ。本当なら彼とて当事者であるのだから話を聞くべきであるが、他の場所にその腕を振るわねばならない場面である。当然というべきか、癒し手となれる人材の多くも、このシンオウを騒がせる失踪事件――つまりは洗脳された手先となっている事が多い。
ハマゴの視線に無言でマーズが頷き、町の十字架を目指して歩き出す。
バックパックに伝説の星を乗せて、彼もマーズの後ろを追い始めるのだった。
「チャンピオンからの紹介データ、んでポケモンドクターのハマゴだ」
「助かったわ。近くの市外センターの子にも呼びかけてたけど全然足りなくって…とにかく、あなたに任せたい子たちはこっちよ!」
ズイタウン総合病院の中はあっちだ、こっちだと、人手の足りないスタッフが走り回る戦場と化している。当然通常業務の方にも対応する必要があり、日々病院を利用する人間が一人も居ないなんてことはありえない。よって、ポケッチのマップデータと自動ドアの前に「臨時休業」の張り紙を起き、ズイタウン近くの旅人の中継地点にもなるポケモンセンターからもジョーイさんや、ドクターがかき集められる事態になっていた。
猫の手も借りたいとはこの事だろう。早速仕事を押し付けられたハマゴは手に持ったカルテに目を通しながら、ボケっと突っ立っているマーズに告げる。
「あー、見ての通りだ。しばらく本業に専念するんでな、テメェはテメェで爺さんの話聞きに行きな。流石に元犯罪者ってのもあって個人病棟だとよ」
「わ、わかったわ。それじゃ一段落着いたら連絡お願い。落ち合う場所を送るわ」
言葉は返さず、白衣を翻し片手を上げて答えたハマゴの背中は、人だかりの中に埋もれていった。タブンネが乗せられた台車がマーズの視界を埋め尽くした頃には、曲がり角にでも言ったのか彼の姿は見えなくなる。
気を持ち直し、ポケッチのメールに目を通したマーズは、再度プルートが眠っている病室を確認。そちらに向かって歩み始めた。
「D309号室……こっちじゃないわね」
病室のナンバーを見ながら進むほど、人気も少なくなり、なにやら病室では無さそうな部屋をいくつも通過し始める。変な作りだ、こっちで合ってるんだろうか? そんな疑問を浮かべつつも、すぐさま疑問は氷解する。棟を分けて渡り廊下の前に立っていた黒服の人物。彼らがマーズに話しかけ、人物照会を行ったからだ。彼らのいる場所を通り、渡り廊下の向こう側、そのまた更に一番奥の部屋で彼女の靴がカツンと音を立てて止まった。
静かなものだ。ロビーに比べて、無音が支配する。
コン、コン、ノックを二回。
半透明のすりガラスの向こうで、特徴的な黄色い何かが動くのが見える。
「どうぞいらっしゃい。待ってたわ」
聞き覚えのある声だ。先に待っていたということだろう。
「失礼するわ」
扉を開けると、点滴のチューブが目を引いた。その先に繋がれているのは、薄目を開けて此方を覗き込む静かな視線。真っ白で汚れのない病室は、なんだか自分がふさわしくないような錯覚を覚えさせる。病院に来る前に、しっかりと体も服も、旅の汚れを落としてきたはずだが。
いや、そうじゃない。きっとこれは精神的なものだろう。
今はそんなことより、話を聞くほうが先決。先程の考えを振り払って、ベッドの横に座る金沙のような長い髪を持つ美女……シロナの隣にあった椅子に座らせてもらった。
「ハマゴ君は?」
「あいつは本業よ。後で話しておくから、問題ないわ」
「わかったわ。あと、プルートさんもそこまで回復してるわけじゃないから、労ってあげてね」
「チャンピオン、あんたはもう訊いたの?」
「いえ、まだよ。あなた達を待ってたから。それに、個人的に聞きたいこと……あるんでしょう?」
シロナの問いに、当然だと頷くマーズ。
真剣味を帯びた瞳は、会うごとにかつてのギンガ団時代とは違う輝きを増している。少なくとも、シロナはそう感じてフッと小さく笑ってみせた。
「姦しいものじゃな……」
息も絶え絶えに、彼女らの交流にプルートが口を挟んだ。
軟禁状態から、今度はそれこそ死ぬ寸前まで働かされる職場へ、そしてようやく病室という場所で平穏を手に入れた彼は、どこまでもくたびれた様子で呟くことしか出来ない。身じろぎ一つが骨に響いてくるのだろうか。小さな声は、しかしはっきりと二人の女性の耳を打つ。
「騒がしくしてごめんなさい。早速だけど、プルートさん。あなたに訪ねたいことがあるわ」
「ふん、約定を違えたあやつらに義理もない。話せるだけのことは全部話してやるわ。ワシも疲れきったのじゃろうな、何の意欲も沸かん老いぼれよ……」
バツが悪そうにいい切った彼に、嘘はないだろう。
一度目を伏せて、マーズは少しだけ身を乗り出した。
「それじゃあたしから。ねえ、ジュピターが今何をしているのか、あんたは分かる?」
ジュピター。その名を聞いて、プルートはわずかに目を閉じる。ほんの僅かな沈黙と、掠れるような声が老人の喉から吐き出されるまで、それほどに差はなかった。
「あのアバズレであれば、未だに何やら喚いておったよ。じゃが、アレも限界じゃろうて。マグマ団に吸収されてからは妙に言葉の上手い若造に騙され、三文芝居を繰り広げてはどこかへと出撃しておった。もはや己が何をしておるのか、それすらも認識できておらぬやもしれぬ」
ジュピターは幹部の中でマーズよりも、誰よりもアカギに心酔していた。その分、目の前でアカギが消えたことと、ギラティナを呼び出すすべが見つからないこと、その状態が何年も続いていること。すべてが重なり、精神は限界に近いのだろう。そこでジラーチやマグマ団が転がり込んできて、出てきた可能性を前についに理性は弾け飛んでいる。
「催眠術……暗示、もあるじゃろうな。スリーパーがその若造の隣に付き従っておるのを見たことがあったわ。何れにせよ、ワシらがまだ単独で活動しておった頃よりまともな精神状態ではなかったのは確か。なんじゃ、同僚のよしみというやつか?」
だが、正気を失ってなお、戦闘となれば実力を発揮するような人物だ。マグマ団としては大いに利用する価値がある。話術に長けた者が相手をすれば、洗脳装置を使わずとも、自己判断の可能な戦闘人形の出来上がりと言ったところか。
「そっか……アイツを止めなきゃっていう目標、変えるしか無いみたいね」
もともと、森の洋館で聞いていた内容で薄々思っていたことだった。ジュピターという女性は、もはや救わなければならない側になってしまっているのだろう。少なくともマーズはそう認識し、プルートに言われたとおり「同じ幹部のよしみだったから」と。……本当にソレだけだろうか? いや、それよりもジュピターをどうすれば救えるのだろうかと頭の隅で考え始めようとして、
「勇ましいことじゃの」
「…あんたは耄碌したわね。ギラギラした目つきが懐かしいわ」
「ふひゃひゃ! そうじゃの、あの時が最後だったかもしれん」
「まぁいいわ。チャンピオン、あんたから言うことはないの?」
しかし、今は個人的な話もそうだがこのシンオウに関わる事件についても重要だ。自分からは以上で終わりだと目配せしたマーズに代わり、シロナが質問を始める。
「プルートさん、マグマ団は何をしようとしているのか、分かりますか。赤い鎖の欠片が盗まれたこと、そしてあなたの研究が利用されたこと。そして膨大なエネルギーを宿したジラーチが狙われていること。私は、それがどうにも―――」
彼女の言葉を遮って、プルートが言う。
「伝説のポケモンを操り、何かをしようとしている、かの?」
「……そうとしか、思えなくて」
「さてな、ワシも死にたくなければああしろ、こうしろ、と従わざるをえんかったわ。老いぼれだとして、ワシも命は惜しい。ソレに関して苦情は受け付けんぞ」
協力する位なら命を絶つ、などと。そんな選択肢が出来る人間は極僅かに限られる。シロナですら、多少は迷いを見せるだろう。だが、迷うということはつまり、自分が助かりたいという願望を僅かでも持っているということ。生殺与奪を握られている中で、迫られる選択肢。責めることなど、できはしない。
「じゃが、ワシの頭脳があってこそ研究も進んだんじゃろうな。詳しく分解しようものならマグマ団配下の輩に止められたが……分解せんでもわかる。アレはポケモンの制御装置じゃ。とびっきりのな」
「やっぱり……となるとマグマ団の狙いは」
「さぁて、シンオウの神々がまた狙われるのか……はたまた奴らがマグマ団と名乗っているままであることに意味があるのか。詳しくはわからんが、方向性はそれで決まりじゃろう」
ここでシロナは、ハマゴ経由で伝えられたバトラーという人物のことを思い出す。
「メタグラードン、という名前に聞き覚えはありますか?」
「……ふぅむ、どうじゃったかな」
老人の眉がぴくりとはね、メタグラードン、グラードンとしきりに呟き出す。
彼の知識の蔵書がまた一冊と並べられて、凄まじい勢いで捲くられていく中、やがて小さく首を振ることで彼女への答えを示した。
「覚えはない、な。ワシも所詮は使い捨てじゃが、こうして奪還されることは想定しておったはずじゃ。故にあの基地には碌な輩は残っておらんかったじゃろ」
「知られても問題のない所しか知らせてないってワケね。はぁ、相手してみると相当に厄介じゃない、犯罪組織ってのは」
それをお前が言うのかと視線が老人から突き刺さるが、途端、プルートが咳き込み始める。もともと鞭打っていた体で、今は落ち着いた所で面会が許されたに過ぎない。体力の回復のため、何より彼自身のためにもこれ以上の質問は控えるべきだろう。
シロナはナースコールを押しながら、伝わるようにゆっくりと言葉を伝えた。
「プルートさん、また落ち着いた頃に来るわ」
「ゴホッ、ワシからもまだ伝えることはある……じゃが、また、後での……」
近くの部屋に控えていたナースに介抱されながら、その言葉を最後にゆっくりと眠りに落ちるプルート。途端、ぽんと頓狂な音が病室に響き、マーズのモンスターボールからロトムが飛び出してきた。
「……!」
「落ち着きなさい」
心配そうに、せわしなく飛び回るロトムを裏手で叩いたマーズ。痛みで動きを止め、講義するように涙目で見上げるロトムを落ち着かせるよう、彼女は膝を折って目線を合わせて言った。
「また会わせてあげるわよ。その時、しっかりお話すればいいでしょ」
「……」
流石に今は無理があるのは分かっているのだろう。だが、感情が優先してしまっただけのこと。それに、ロトムという電気タイプのポケモンが感情を露わにして飛び回れば周囲の電子機器に異常が生じるのも時間の問題だ。かつてプルートという研究者のもとにいたからこそ、その危険に関しては十分に承知している。家電に取り付き姿を変える性質を持っているため、なおさらだ。
それでもすぐれない表情で目元を下げるロトムを、仕方ないと一息ついてマーズがボールの中に戻した。一旦頭を冷やせば、勘定の整理もつくだろうと思ってのことだ。今生の別れではないのだから。
「これ以上は悪いわね。近くのお店にでも寄りましょうか」
「あの子にもごちそうしてもらってもいい? ちょっと、手持ちが無くてね」
「もちろん。手を借りているのはこっちですもの」
シロナの提案に乗っかるマーズ。そのまま両者は、病院をあとにしたのだった。
横たわるポケモン、ボスゴドラの地肌の部分を観察する。黒ずんだ石のような肌は、一分の鋼の部分に至るまでに大きな焦げ目を残していた。野太い鳴き声がボスゴドラの口から漏れ出るが、それは泣き言ではなく我慢の虚勢だ。
「落ち着け。下手に力むな」
「ウゥゥ……」
よく見ればこのボスゴドラ、バトル一回程度ではつかないような傷も多い。戦闘不能に追い込まれてなお、相手が容赦なく攻撃を浴びせた結果がこれだろう。喉の奥から湧き上がる怒りを抑えつけて、あくまで冷静にハマゴは処置を始める。
診断の結果。この程度なら痕が残ったり、後遺症も心配はないとの結論に達した。人間であれば一生ものだが、あいにくと彼らはポケモンだ。生命力の強さはポケモンが登場し始めた頃の医療関係者が匙をへし折るほどに高い。
目の前で息を荒げながら、今もなおその身を蝕む痛みに抗うボスゴドラ。そんな彼にハマゴは語り聞かせるように言った。
「テメェはリーダー格か。よくやった、テメェのおかげでコイツラは軽く済んでるんだ。……だがその前に、一回耐えろよッ!」
見れば、このボスゴドラの周りにはコドラやクチートなど、同じトレーナーのポケモンと思しき面々が並んでいる。意識を失っているわけではないが、それでも痛みにあえぐ彼らの前で泣き言を漏らしたくないのがこのボスゴドラのできる最後の抵抗だったのだろう。
それに免じて、今からそれなりに「しみる」ことがあると宣言したハマゴは、ボスゴドラの火傷部分にチーゴとラムを粉末にし、その後特別な薬液で溶かした半液状の塗り薬を火傷の部分に塗り始めた。
「ッ!? アァァ……!」
「耐えろ、今だけだ。歯ァ食いしばってりゃいい! ハイドロポンプよりはマシだ」
あの巨体の腹部から、肩口に至るまでの大きな火傷だ。何度も手を握っては開きながら、目を見開いて暴れないように我慢に我慢を重ねる。そんな「しみる」津波が訪れたのもほんの数秒。先程までジュクジュクと痛んでいた患部から、砂に染み込んでいく水のように痛みが消えていく。
脂汗を浮かべつつも、感謝の念を込めてボスゴドラがハマゴを見据えた。
「おうよ、テメェもよく頑張った。今は寝ていいぞ」
頭を撫で、優しげな口調で語りかける悪人面の医師。安堵を感じたボスゴドラは、これまで張り詰めていた分があったのだろう。気絶するように深い眠りへと意識を沈めていく。だが、その寝顔に苦しさというものは感じられない。
「そっちも終わったか、キュウコン、ジラーチ」
ボスゴドラを含めた鋼パーティ以外にもハマゴの担当は多い。その中でも特に重症だった彼らをハマゴが担当し、その他軽度のものはキュウコンが担当する。そしてジラーチは部屋の中心で「いやしのねがい」を発動させることでポケモンたちの治癒力を活性化させる。中には細胞が再生するむず痒さを覚えるポケモンも何匹か居たようだが、完治する未来に比べれば些細なものだろう。
キュウコンは腰につけた薬液パックの中身を、じんつうりきを用いて塗りたくり、ご自慢の「おにび」で消毒などを担当。他にも溢れ出る母性で「トレーナーや親からしか受け付けないポケモン」などに安心させて栄養食を食べさせたりと、仕事は多い。
そして当然、あのポケモンも初仕事を始めている。
「ミミロル、緑のラベル持ってきたらそっちの食器交換頼む」
「ッ!」
慌ただしく、おっかなびっくりと言った様子で動く体に合わせて揺れる2つの長い耳。そう、ミミロルである。今のところは物を運んだり食事を持ってきたり、本当に軽度のバトルでしかつかないような傷に習ったばかりの傷薬を吹きかけたりと。その程度のことしか出来ていないが、だからこそハマゴやキュウコンは効率よくポケモンたちを診る事ができていた。
「ジラーチ、そっちもお疲れだ。あいつらと落ち合った時に好きなパフェ買ってやるよ」
やがて深緑の波動を放っていたジラーチが部屋の中心からフラフラとした様子で飛んできて、ハマゴの腕の中にすっぱりと落下する。使えば戦闘不能となる技「いやしのねがい」。正確に言えば、戦闘どころではなくなるほど、疲弊してしまう技。それを長時間行えていたのは何かと技の威力が高すぎるエネルギーを秘めているからこそか、どちらにせよ、今回の功労賞はジラーチでもいいほどの働きを見せてくれた。
「……もう夜だな。ひとまずこの部屋は落ち着いたってとこか?」
カルテにガリガリと書きこみながら、全体を見渡すハマゴ。
もともと、トバリ事件からここまでの移動に数日掛かっていたこともあって、ポケモンの処置も大部分は終わっていたのだろう。それでも彼が即戦力として重宝されたのはスタッフも負担が限界だったからこそだろうか。とにかく、現状他の部屋も仕事はある程度落ち着いたのか、昼ほど慌ただしい様子は感じられない。
幸いこの部屋には居なかったが、しばらくはバトルも出来ないほどに傷つけられたポケモンもいるはずだ。そうしたポケモンたちを含めて、経過観察と治療を続けていくしかないだろう。そしてそれは―――もうハマゴが居なくても出来ることだ。
「ハマゴさん、急遽駆けつけてくれてありがとうございました。あとは私たちに任せてください!」
「ジョーイさん。いや、これも俺らの仕事だ。傷ついたコイツラにはわりぃが、俺もいい経験になった。こんだけの大所帯をやったのは初めてだったからな」
ファウンスは襲われたとしても、捕縛と鎮圧の速さも相まってポケモンたちが大多数傷つくということは無かった。マグマ団とアクア団ももとを正せば行き過ぎた環境保護団体だ。街を破壊するような暴挙に出るような組織ではない。今の過激派を除いて、ではあるが。
「ああそうだ、俺のやり方で治療した奴らのメモだ。多分
「ありがとうございます。そういえばホウエンのドクターでしたね。よろしければ此方からも資料を出しましょうか?」
「是非にもだ。いいのか?」
「はい、チャンピオンのお墨付きですし、安心して渡せますから」
紙の資料ではこれ以上はかさばるため、後日ポケッチに送るとのことで話はまとまった。業務(医療)用の試作ポケッチの物珍しさと、興味を引き立てることで久々に宣伝の目的も果たしつつ、ハマゴはそのまま病院を出て、ポケモンセンターに向かうことにした。
満天の夜空が広がる広い道。土を踏みしめて歩けば、青白い月光をハマゴの白衣が受けてうっすら青く染まる。夜のズイタウンは、都会だったコトブキシティなどに比べて人の往来は少なかった。当然病院ではまだ働いているジョーイさんや医師もいるだろうが、外に出て仕事をする人々は太陽と生活をともにしているのだろう。
「っはぁ……焦ったぜ」
牧場の柵に両腕を置いてもたれかかり、初めて本音を漏らした彼の後ろにキュウコンが歩み寄る。ここまでの大所帯、そしてポケモン一匹一匹に語りかけて堅実に治療を施していった中で、彼の精神はガリガリと削られていった。
これまでの旅路で見たこともないシンオウのポケモンも多かった。マサゴタウンでナナカマド博士から貰った資料を横目にしながら、割れやすいガラスの彫刻を扱うように慎重に選択肢を上げ、選び取っていく。幸い命に関わるような火傷や怪我は無かったが、それでも「初めて」という経験の中では、彼の心を容易に蝕んでいった。
そんなハマゴを労るでもなく、キュウコンはゆったりと首を振った。
「ああ、そうだな。この程度で音を上げちまったらダメだ」
いまはボールの中ですやすやと眠るジラーチの時もそうだった。あの時は、自分の命を含めた最大の危機のなか、今のように資料すら手元にはなく、ぶっつけ本番で反応した星のかけらに頼らざるを得ないという状況だった。
思い返してみれば、あれのどこが治療だと鼻で笑う。あんなもの、そこらのトレーナーにだって出来る。医師としての技量は全く関係ない。
「まだまだ、遠いもんだ。どんなポケモンだって治してやりてえ。だけど知識も経験も、なぁんも足りねえ。集中したいが、だからといって人間も見逃せねえ。わっけわかんねえな、人生ってのは」
「……」
ハマゴも18歳の未成年に過ぎない。
彼が教えを受けた先生の技量にすら届いていないだろう。今日、ズイタウンにいたのがハマゴの先生なら、もっと上手く立ち回ったに違いない。そんな考えが浮かんでは消える。
キュウコンも何も言わず、彼の隣に移動する。
ちらりと一度だけ見たのは、どういう意味を込めた視線だろうか。
彼はキュウコンの頭に手を乗せ、首まで手を下ろしてから耳元をくすぐるように撫で回す。片目を細めて、抵抗せずにその手を受け入れたキュウコン。彼はそちらに目をやらず、ひたすらに空に浮かぶ星々を見つめている。
ハマゴに触れられていない方の右側の目をあけて、キュウコンも空を見上げる。
星々は何を意味しているか。ジラーチ? ギンガ団? それとも、別の願いかもしれない。見上げる彼らに言葉も表情も何もない。ただ、その目はまっすぐと空を向いて、やがてゆったりと閉じられる。
「センター行くか。戻れきゅう……ったく、エスパーかっての」
言葉の途中、腰につけたボールの開閉スイッチに鼻先を押し付けて、自ずからボールの中に入るキュウコン。多少呆れを帯びたため息を吐きながら、ハマゴは静かな牧場の横を歩き始めた。
ポケモンセンターの小さな光を目指して、靴音だけが夜に響く。朝日はまだ、見えない。
大分口調とか書き方雑になってる気がする
ハマゴ
・第一話を回想。作者の心情メタも兼ねた独白
キュウコン
・クール、超スーパークール。多くを語らぬいい女
プルート
・年をとるとやりたいことを
やる気力そのものが沸かなくなるらしい。
マーズ
・ジュピターマジかわいそ
望んだ形じゃないのが心残り
シロナ
・話を繋げるためにしか喋ってない空気
※以下、次回更新時に消去
大変お待たせしました ようやくの投稿でした。
今回はこれまでのお話の中継地点って言う感じです
幾つか明らかになった謎と、今一度見直すメイン勢の目標
次はシリアスをしっかりキメて、またしばらく日常回。
とりあえずゲームの配置を考えつつ、
もっとシンオウ地方を広大に考えていく方針で。
あと、次回はダークトリニティさんについてもちょっと触れるよ。