流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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2年かけて温泉回
(美女のすっぱ描写は)ないです


休息?

 のどかな放牧地が遠ざかり、ジープのエンジンは停止した。

 すでに陽は暮れている。きらめく夜空が登っているというのに、流れ星のようなポケモンのジラーチはすでに睡眠モードへと移行済みであった。呆れた視線を送るもムニャムニャと呑気な寝言を漏らすジラーチには効果は今ひとつ。むんずと羽衣を掴んだハマゴは、当然のようにマーズへと投げ渡した。

 

「あいっかわらず扱い酷いわよねえ。保護してる対象なんでしょ?」

「大丈夫だとわかりゃこんなもんだろ。んなことよりこっちは大荷物だ。一つくらい持て」

 

 彼の背負うカバンは相変わらず巨大であった。ジープの荷台に入れていたそれが顔を覗かせれば月夜の影が面積を増やす。事もなげに背負ったハマゴをみやり、やはり肉体派で男らしいものなんだなぁと言う思考を一瞬浮かべてしまった彼女は、その想像を追いやるように首を振った。

 

「マーズさん! ハマゴくん! 話がついたわ、こっちに来て!」

「あいよー……なにしてんだ?」

「な、なんでもないわよっ」

 

 一足先に宿屋へと話を通していたシロナからの呼びかけだ。ハマゴの怪訝な問いを誤魔化すように超えを上ずらせたマーズは、両手でジラーチを抱えてひときわ明るい宿屋の入り口へと歩を進めた。

 するとだ、土地柄もあって、すっかり冷え切った空気から一変、宿屋の中は暖気で満ち溢れている。ほっと息をついたハマゴたちの前に、深々と頭を下げる女将さんが現れた。

 

「ようこそいらっしゃいました。ここの女将をさせていただいております、ヤエと申します。シロナちゃんのお知り合いだそうで。どうぞ、ゆっくりしていってください」

 

 ニコリと営業スマイルを崩さない、老齢の女性だった。顔にはシワが目立つが、そこから老いを感じさせぬ儚さと快活さを兼ね備えた不思議な雰囲気でもある。

 

「早速お部屋へどうぞ。部屋はどこでも空いてるけど、いいところに案内するわ」

 

 そんな彼女は、丁寧な自己紹介から一転、口調を軽く切り替えた。親戚の大人、という表現がしっくり来るだろうか。田舎経営の店員にありがちな、親しみやすいスタイルである。

 

「シロナちゃん、ね」

「古い知り合いよ。それこそ、私がこーんな小さい頃からのね」

 

 ハマゴのつぶやきを拾ったシロナは、自分の胸元あたりで、手のひらを水平に行き来させる。その会話を聞いていたのか、先導する女将のヤエが補足するように説明を始めた。

 

「ここは歴史ある石の塔が建っていた場所ということもあって、学者さんたちがよく寝泊まりしているの。シロナちゃんはご両親の隊についてきて、よく知ってるってわけ」

「へぇー、あのチャンピオンの小さい頃かあ。ぜんっぜん想像つかないんだけど」

「あんまり変わらないわよ。もっとお転婆だったくらいかしら」

「そ、そう?」

「それから大人びて取り繕うところも」

 

 クスクスと笑うヤエに、どこか居心地が悪そうに視線をそらすシロナ。ありとあらゆるところに優れたチャンピオンにも、勝てない人というのは存外に多いようだ。

 

 そうしているうちに、長い廊下を歩いた先でヤエはピタリと足を止める。どうやらここが彼らの部屋になるらしい。

 

「ささ、こちらでおくつろぎくださいな。ご用事があればそちらの電話でフロントにかけてくれれば繋がりますから」

 

 ごゆっくり、と締めくくられてピシャリと戸を閉め居なくなるヤエ。

 静かな和装の部屋は、シロナの実家にも似たつくりの立派な部屋であった。

 

「ここは露天風呂もあるから、案内板も読んでおいて。それじゃあ私は少し出てるわね」

「ん、まぁ遅くならないうちに戻れよチャンピオン。今くらいゆっくりしとかないとだいぶ疲れが溜まっちまってるぜ」

「あらそう? そうね、お医者さんの言葉には素直に従っておこうかしら。早く戻るわ」

 

 続いてシロナも退室する。町から町へと移動するだけでも、各所への連絡やチャンピオンとしての責務が彼女の予定を圧迫しているということだろうか。ポケモンリーグともなれば、一体どれだけの業務が襲いかかってくるのか、計り知れない。

 

 シロナがいなくなって、どこか緊張が緩んだこともあるのだろう。マーズは大きなあくびと共に軽いストレッチをする。

 ハマゴは白衣をハンガーに通して備え付けの上着掛けに並べると、中央のテーブルに座って茶菓子を頬張り始めた。

 

「うっわ、勝手知ったる我が家のようにくつろいでる」

「知らねぇのか? 旅館とか宿屋に老いてあるお茶と菓子は美味ぇんだ。大体が地元の土産物サンプルだしな」

「それは流石に知ってるけどさ、あんたは遠慮なさすぎだって言ってんの」

「遠慮せず食っとけ。じゃねぇと食い尽くしちまうぜ」

 

 そう、悪人面で笑うハマゴの態度にも愛想が尽きたか、肩を竦ませマーズは荷解きを始めた。

 彼女の荷物から取り出されるのは風呂用具。こういうところは「普通の女の子」らしく、マイシャンプーやボディソープなどを注いだ旅支度用の小さなボトルと、可愛らしいエネコの絵柄のタオルなどが彼女の手の中に収まった。

 着替えの下着とそれを隠すように小さな着替え入れの袋にしまい込むと、彼女は部屋の出入り口へと足を向ける。

 

「先にお風呂してくるわ。ジープで砂埃ついちゃったのがねー」

「おう。こっちはくつろいでるからゆっくりしてきやがれ」

「うっわ、おっさんか」

 

 マーズが形容する通り、ひらひらと手を振って、備え付きの窓際のソファにどっしりと座り直したハマゴの姿があった。そんな光景を閉まる扉の向こう側へとシャットアウトしつつ、マーズは廊下を出て近くの案内板に目を通した。顎に手を当てうんとうなずく。どうやら、ここから露天風呂はほど近いところにあるらしい。

 はてさて、こうしたしっかりとした旅館に泊まるのは一体いつぶりだろうか。ポケモンセンターの寝泊まりや野宿、そして他人の家を間借りして泊まっていたココ最近を思い出しても、そうした記憶は見当たらない。マーズは年相応の可愛らしい笑みを浮かべると、湧き上がる高揚感を隠すこともせず、るんるん気分で至福のひとときに思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 もうもうと立ち上る真っ白な湯気。しっとりと肌を濡らし、その出処は体を芯から温める。ほぅ、とついた息が何度も何度も出てくるのは仕方のないことだろう。ポケモンたちはポケモン用に効用があるらしい湯に浸かったため一緒ではなかったが、人間用のこの露天風呂は、それはもう見事な造りであった。来るときはどこか殺風景に感じた、茶色い岩肌に石塔が散財するこの景色も、黄金の月明かりが降り注ぐ夜天と組み合わせ、この露天風呂から覗いてみれば情緒的に早変わり。ひやりとした北の地の空気と温泉の相乗効果は、彼女の思考を白く染め上げるほどに気持ちの良い開放感があった。

 心も体もほっこりと、もくもくと。ごまかしきれない旅の疲れが溜まりに溜まっていた体をいたわりながら、マーズはこのひとときを十分に堪能していた。

 

「でも、そうよねぇ」

 

 心と体が休まり、余裕ができる。すると、思考が回った。

 脳裏に浮かべるのは同期のジュピター、その意地悪そうな「いつもの」表情だった。思い返せば年齢的には自分よりも2つ上、ちょっと自分と比べると濃い目の化粧に高飛車な性格。だけど同じ男に恋い焦がれた身としては、やはり共感と、なによりも同情が大きな相手だ。同じ組織の幹部級として何度も衝突しては、何度も作戦をこなしてきた共犯者。湯船を口まで浸からせて、吐き出した息の泡の数ほど思い出はあった。

 

「今頃どこで何してんのかしら、あのバカ。ぶくぶくぶくぶく……」

 

 ついに鼻まで使ってぶくぶくと。溜まった不満がそれだけで解消されるはずもないが、こっ恥ずかしいながらも自分ひとりしか居ないことで出来た小さな達成感がほんのりと熱を持つ。

 こんなところ誰かに見られていなければいいけど、と思った矢先。

 

「あら、もう入ってたのね」

「ぶ!」

 

 恥ずかしいとき、嫌なときほど人は来るというお約束だろうか。

 悪戯な笑みを携えたシロナが、一糸まとわぬ姿で室内風呂を仕切る扉を開いて来た。

 

「あら、あらあら? もしかしてマーズさん遊んでた?」

「そ、そうよ。悪い!?」

「そういうわけじゃないんだけど……私、お邪魔だったかしら」

「もういいわよ、入るなら入りなさいよもう!」

「ふふ、そうね。失礼するわ」

 

 タオルごしだが、たわわに実った母性の塊を揺らす姿は、人並みにあるだろうマーズをしてすら大きいと言わせしめる。シロナも普段は厚手の服に身をまとっているが、着痩せしているとでもいうのか、いや確かに脂肪の塊ではあるものの。

 みっともない胸への対抗心をなんとか飲み込んだマーズは、髪色に負けず真っ赤になった頬を隠すように深く湯船へと体を沈み込ませる。対し、シロナは風呂に訪れたばかり。金砂の髪にシャワーをかけ、風呂椅子の上でワシャワシャと泡を立てている。

 

「ここいいでしょー? 私の昔からのお気に入りなの」

「そうね、いろいろと考えるにはいいとこだわ。バトルとかどう殴るかとか」

 

 シュシュッと構えをとってみれば、からからとシロナが笑う。

 

「あら物騒。せっかく戦いとは無縁なとこにいるんだから」

「わかってるけど……さぁ」

「あと下手なごまかしもね」

「んっ!」

 

 自分が昔から世話になっている場所だからか、シロナはいつもよりもずっと饒舌なようだ。その証拠に、シャワーの音にまぎれて何らかの鼻歌が聞こえてくる。フレーズを拾ってみれば、少し前に流行った歌手のデビュー曲か。マーズも知っている曲調だ。

 おだやかな旋律にしばし耳を傾けていると、中途半端なところでシロナは鼻歌を区切り、洗った髪を水で流しはじめた。彼女もまたジープの上に巻き上げられた砂埃を一身に受けていた身。洗い落とされた汚れがなくなり、金色はさらなる輝きを取り戻している。

 

「人は色々悩んだりするけど、マーズさんは人一倍ね」

 

 入浴のため、くるくると髪を巻き上げシロナがつぶやいた。怪訝な表情でマーズが応じる。

 

「なによ藪から棒に」

「考えることが多い立場っていうのは分かるわ。でもね、私たちもいるのよ。あんまり一人で抱えすぎないで、ハマゴくんにもしっかりと話してあげたら…」

「巻き込めないわよ。だってあいつ、ほんとの一般人じゃない」

「……そうよね、そのはず」

「チャンピオン?」

「ハマゴくんも、いっぱいいっぱいのハズなのにね」

 

 言われてみれば、はっとする。

 ハマゴは確かに密漁団に対して幾度となく衝突もしているとはいえ、実態は他の地方から流れてきたただのポケモンドクターであり、そしてただジラーチの目覚めと騒動に巻き込まれたに過ぎないのだ。昼の行動方針について言い合ったときも言っていたが、彼の本分……つまり、彼のシンオウ地方での旅路はドクターとしての修行の一貫。ジラーチがきっかけだったとはいえ、本来なら彼はもっとのびのびとその修業を行う機会があってもいいはずだ。

 だが、実際のところはシロナやマーズという同行者が増えるたびに、彼の本来あるべき姿は霞み、ほぼ強制的に今の、事件に対する一般協力者としての立ち位置に据えてしまっている。確かにドクターとしての腕は振るわれているのだろう。だが知見を得るのではなく、その場で引き起こされた事態に対応する医者業としての域を出ない。様々なポケモンを見るという意味ではそうでは在るのだが、以前の薬草探しのような事は、本当に事件の隙間にしか行えていなかった。

 

「そうよね、言ってみようかしら」

「…ごめんなさい」

 

 いつのまにか隣に来ていたシロナ。チャンピオンとしての姿に似つかわしくない、裸一貫の素顔は申し訳無さそうに歪んでいた。

 だがマーズは逆に笑い飛ばして言う。そうじゃないだろうと。

 

「言うべきはあいつに対してのはずでしょ。いくらシンオウに再び危機が訪れてるからって、あいつを巻き込んでいい理由にはならないし。それは多分、あの生意気な英雄(がきんちょ)にも言えたことだけど」

「……そうよね。いくら強いからって、本当なら責任ある私達だけで終わらせなきゃいけないこと」

 

 英雄、チャンピオンとしては着任しなかったが、殿堂入りをも成したあのトレーナー。フタバタウンのトレーナーは、圧倒的なまでに強すぎた。天才的なセンスと屈強なポケモンたち。その名が地方に響き始めた頃には、基本的にバトルは負け無し、悪を振りかざす相手であってもバトル以外の危害を加えないトレーナーの鑑。そしてどんなにプレッシャーを掛けても、相手がどれだけの本気を出しても、ギンガ団を壊滅させ、伝説のポケモンに邂逅し、その最後にはシロナをも打ち破り、トレーナーとしての頂点、その栄冠を戴いた。

 あまりにも早くに事を成し遂げてしまった。されど、その頃はただの一般人としての枠を出ない彼がいたからこそ、いまの甘い認識が生まれたのかもしれない。強いトレーナーだからと。地方の危機には、誰であろうと徴用すべきだと。

 

「最悪、ヨスガでジラーチ引き取って完全に別れたほうがいいのかもね」

「本来なら、それが一番……そのはずだけど」

「あの頑固者がうなずくかなぁ!」

 

 マーズは両手を投げ出し、温泉の縁に背中を預ける。

 どんどん増えていく悩みがぐるぐると頭の中を巡ったまま、マーズは露天風呂に声を響かせた。

 そう、あの男はたったそれだけの理由でこの旅の路線を変えるわけがないだろう、と。確信のようなものが、マーズの中で生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、何いってんだオマエ?」

 

 翌日、朝食の場におけるハマゴの第一声であった。

 部屋に戻ったときには、すでに部屋に備え付けのバスタブで済ませてしまっていたらしく、床について眠っていたため、マーズは風呂場で話し合っていたことを聞けなかったのだ。それに対するハマゴの返答が、この心底バカにしたような返事である。辛辣すぎる。

 

「やっぱりそういうと思ったわよ」

 

 だが返答は在る意味わかりきっていたようなもの。箸で和食をつまみながら、ぶすっとした表情を隠さずマーズがひとりごちた。

 

「今更にすぎるだろ、バカじゃねぇのか」

「バカ言うなし」

「いや、もう奴らにゃ顔も割れてるしよ。このままぶちのめしたほうがいいだろ」

 

 ど正論を正面から投げつけられて、マーズはこおり状態になってしまった。

 言われてみればそのとおりである。そして明確に敵意を持ち、ジラーチの情報を持っているハマゴを新生マグマ団が狙わないはずもない。保護するにしても、結局彼の望む旅に送り出すのは、現状不可能なのである。

 

「シロナさんよ、風呂場でなんか変な会議でもしてたのか?」

「流石に鋭いわねハマゴくん」

「随分前に結論出たような話を蒸し返されちゃぁなあ。にしてもマーズもずいぶんおかしなことを言う、そう思っただけだ」

 

 青い短髪をガシガシと掻きむしって、辟易したように彼は言った。

 だが、と続けたのは彼の本心である。

 

「まぁ確かにオレもイライラしてるとこはあるぜ。でもなぁ、これも含めてすっきりできるいい機会だ。ある意味でのチャンスを、逃すつもりはねぇぜ」

「アンタ……その発言あたしよりよっぽど危険人物じゃない?」

「と、とりあえず支障は無いようね……はぁ、やっぱりあの英雄さんのせいで常識もずいぶんかき回されちゃったか」

「また英雄か、そいつ、何者だ?」

 

 そう言われてみれば、シロナとマーズは顔を見合わせる。

 英雄。その事件について深く知っているのは彼女らのような存在ばかりで、一般的には知られていない。だが成し遂げた実績は確かに英雄と呼ぶに相応しい所業。今はどこにいるかは分からないが、さらなる強さを求めて別の地方に言ったとも言われている件の人物。

 

「そうね、話しておこうかしら」

 

 シロナはかいつまんで、英雄と呼んでいた伝説のトレーナーのことを話した。

 無敗神話をもち、またギンガ団を壊滅せしめた一人のトレーナーの功績を。そしてまたたく間にすべてのジムリーダーを打倒し、最終的にはシロナというチャンピオンも軽々乗り越えていった者の話。冗談のような、しかし冗談ではなくすべて事実。されど今は行方知れずとなったその逸話を耳にしたハマゴはといえば、眉をピクリと動かし一度うなずいただけであった。

 

「……ふぅん?」

「いまもどこで何をしているかもわからない。でも、私達は確かに、彼のおかげでシンオウを救われたの」

「英雄っていうか、バトルマシーンさながらだな。まぁただのバトル野郎じゃチャンピオンなんて倒せるはずもねぇ。よっぽどポケモンを大事にしてるんだろうが」

 

 聴衆が一度は間違うであろう認識に惑わされず、彼はそういった。そう、バトルのため強さだけを追い求めたものは確かに強い。だが試験の意味合いを兼ねたジムリーダーは倒せても、本気で倒しにくる断崖絶壁の四天王はそうはいかない。まして、チャンピオンをその程度の一側面しか持たない人間が倒せるわけがない。ポケモンと共にその志を打ち砕かれたものは、名も知れず多いのだ。

 だからシロナは彼の発言に大いに同意をもってうなずいた。付け足すようにマーズが、彼の前に立ちはだかった最後の戦いを思い返す。

 

「そうね、まさに一心同体、硬い絆で結ばれた姿だったわ。私なんてジュピターと二人がかりで挑んだのにコテンパンにされちゃったもの」

「さらなる闘争を求めてどっかいっちまったのかねえ」

「好戦的なところはあるけど、意外とミーハーよ、彼。他の地方の新しいバトル施設を制覇しに行ったのかもね」

「気ままで羨ましいもんだな。なんて言うガラじゃねぇか」

 

 他の二人よりいち早く朝食を食べ終え、両手を合わせたハマゴが立ち上がった。

 

「あら、早いわね」

「ちょいと朝風呂に浸かってくらぁ。キュウコンたちは任せたぜ」

「はいはい。あ、護衛にクロバットつけとくから」

 

 そう言ってマーズから手渡されたモンスターボールを片手に、ハマゴは食事場をあとにした。

 

 

 

「ふぅ~、あー」

 

 マーズのクロバットをボールから出し、警戒態勢に移らせて、先日味わえなかった温泉を存分に堪能するハマゴ。堪能する間抜けな声とは裏腹に、やはり彼の目つきは鋭いままであった。

 温泉といえば思い返すのは、アスナがジムリーダーを務める、ファウンスからもほど近いフエンタウン。温泉を名物とし、活火山を観光名所とする山間の街は、ポケモンセンターに無料のポケモンとの混浴が楽しめる温泉が設置されている。そして、ほど近い故郷への郷愁が彼の中を渦巻いている。朝日が差し込む露天風呂は、まさにフエンのそれと雰囲気が酷似していた。マーズから提案された原点回帰の話も合わさって、あのアンノーン遺跡での出来事や思い出が彼の頭を埋め尽くす。

 

 湯をすくい上げた手のひらを見て思う。やはり、自分の決めた道に一切の迷いはないのだと。救わねばならない人が、ポケモンが、目の前にある強大な悪意のもと傷つけられようとしているのなら。

 

「ぶっ殺してでも、救ってやるさ」

 

 どんよりと暗い光が瞳に灯っている。それは幼少期から今まで、備え続けてきた彼の側面。暴力的な見た目に沿った、医者と同時に磨いてきた技術だ。パートナーであるキュウコンもまた、彼と同じ怨嗟の狐火を称えている。それでいて、医療という救いを齎すのだ。

 ジラーチには、見せていないこの側面。されど手持ちとなった以上、いつかミミロルは知るだろう。彼のこうした、道を塞ぐ障害を避けるのではなく、粉々に砕いてしまうような暴力性を。

 どこかの地方の破壊という言葉を体現した男とは、さぞや感性が合うだろう。彼らが出会う日は、それなりの未来の話では在るのだが。

 

 




ポケモン新章スタートに触発されました
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