流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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今更ですがオリジナル設定マシましです。


夜空と大地

「何体出てくるのよッ!?」

 

 次々と繰り出されるのは7体目の手持ち。機械のように繰り出されたそれらは、しかし先程のポケモンとはまた違うタイプのポケモンだ。ポケモンではなく、シロナへと敵トレーナーの手が照準となって伸ばされた。

 

「ドーミラー、サイコウェーブ」

「「「サイコウェーブ」」」

「ミカルゲ受け止めて!」

 

 とはいえ、それは完全な数の暴力であった。ギンガだんの下っ端は無機質なまでに直立し、ロボットのようにポケモンへと指示を出す。その一体感のある隙間を無くした波状攻撃が、まるで織田信長の交代火縄銃戦法のようにシロナへ襲いかかっていた。

 シロナはハマゴたちを置いて奥に向かった後、すぐさま火元となるような場所を発見。ミロカロスの水技ですぐさま消化しようとしたのだが、ある意味で彼女の予想通り、こうして過激派ギンガ団残党が物陰から突然出現し、炎に巻かれることも厭わず襲いかかってきたのだ。

 一人ひとりの練度は低いが、塵も積もれば山となる。確実にダメージを叩き出す技を叩きこまれて、戦闘不能のポケモンこそ出していないものの、倒してもキリの無い現状に彼女は追い詰められているとも言えるだろう。

 

 だが、シロナという人物はただのトレーナーではない。

 

「今のうちよ! こっちに来てミロカロス! そして、みずのはどう!!」

 

 ただただ、トレーナーをも巻き込んだ攻撃を避けるばかりではない。この狭い室内を、しかしギンガ団の残党は直立ながらもシロナを追い詰めようと迫ってくる性質を利用していた。どこか無機質な反応を示す彼らに、心理戦のたぐいは通用しないようだが、パターンのある相手なら幾らでもやりようがある。

 その結果、いつの間にかギンガ団の残党は一箇所にまとめられ、彼らの手先であるドーミラーたちも互いの体をぶつけあうという隙が生まれる。狙っていた瞬間が訪れ、シロナは己のポケモンへと攻撃の指示を下した。

 

「ハイドロポンプで押し流して!」

 

 ドーミラーは一気に押し流され、背後に集められたギンガ団の残党を巻き込みながら壁の向こうをぶち破って行った。ポケモンセンターの外へと放り出された以上、既に負った火傷はともかくこれ以上命の危険は無くなっただろう。

 しかるべきところに裁かせるための、ギンガ団残党を相手にした時のいつもの手段ではあるが、彼らは前述のとおりどこか人間としてはおかしい。証拠も、また聞き出せないのだろうと多少の落胆を隠しきれず、彼女の口からは深いため息が零れた。

 

「とにかく、ここはもう……ダメね」

 

 火消しのつもりで来たが、残党が現れてしまったせいで時間がなくなり、更には今の攻撃で崩落を早めてしまった。ここが動力室である以上、センターの主要な機器はすべて機能を停止しているに違いない。

 シロナはそのまま、吹き飛ばした残党たちの行った穴をくぐって脱出しようとしたが、ふと三白眼の青髪ドクター……早い話がハマゴのことを思い出す。エントランスはだいぶ崩落していたため、もしかしたら取り残されているかも知れない。

 

「お願い、ルカリオ!」

 

 そうと決まればシロナの行動は早かった。ミカルゲとミロカロスをボールに戻し、狭い通路や極所での活動が得意なルカリオを繰り出す。ブルッ、とひと鳴きしたルカリオは通路の方に目を向けると、そのままシロナに目配せした。

 

「まだいる、っていうことね。じゃあいきましょう!」

 

 そうしてシロナは来た通路を戻り始めた。

 だが、ルカリオの様子はどこかおかしい。いつもの冷静さの中に焦りが見えている事に気がついて、彼女自身にも少しばかり嫌な予感がよぎり始めた。

 

 そしてその予感は―――的中してしまう。

 

「ッ!? あれは……!」

 

 見覚えのある女性と、それに相対するハマゴ。そして彼の背後には今にも攻撃を繰りだそうとしているスカタンクの姿があったのだ。ハマゴと相対する女性の口は邪悪に歪められ、人とは思えぬ非道な指示がくだされてしまう。

 

「ほら、がら空き」

 

 まったく気がついていない彼は、背中を見せたままだが、件の女の言葉で肩をビクリと震わせた。ようやく狙いに気づいたようだが、彼一人ではこれへの対処は荷が重い。焦燥する心を押さえつけながらも、シロナは走りながらルカリオへと指示を下した。

 

「ルカリオ! ボーンラッシュ!」

「ぅおおおっ!?」

 

 飛び込む青い影がスカタンクとハマゴの間に入って、スカタンクから撃ちだされた「アシッドボム」がバチンッ! と弾き飛ばされる。ハマゴへ直接襲いかかった非道の一撃が決まらなかったことに、ハマゴと相対していた女性は舌打ちで苛立ちを表していた。

 だがシロナもここで容赦するつもりはない。視界の奥にみえた自分のポケモンへと次なる攻撃指示を発する。

 

「トリトドン、みずのはどう!」

 

 背後に注意をそらされ、更に戦い慣れしていない無防備なキュウコンに襲いかかるゴルバットには、トリトドンの一撃が決まった。シロナのポケモンがよほどの手練なのか、それとも偶然か、ゴルバットは混乱状態に陥ってしまった。

 ハマゴを襲っていた女は、近くの壁に体をぶつけながら飛び回るゴルバットをモンスターボールに戻して、シロナに憎々しげな視線を投げかける。だが、旧知の相手に対して先に言葉を投げかけたのはシロナだった。

 

「さあ、追い詰めたわよジュピター! こんなことをしでかした理由を教えてもらうわ!」

 

 ジュピターと呼ばれた女は、フンッと鼻を鳴らして言った。

 

「全てはアカギさまのため。それだけで十分じゃない?」

 

 多くを語るつもりはないということだろう。

 謎を貫くスタンスを崩さずに彼女は言い切った。

 

「その、減らず口も詰め所の中で発揮してもらうわ」

「さすがはチャンピオン。強い言葉を使うわね……でも、流石にあの数を相手に無傷とはいかなかったようだけど」

 

 チラりと、ジュピターがシロナの手の甲を見る。

 一本だけだが、深く赤い線が刻まれてしまった傷を、シロナは隠すように一歩踏み出した。

 

「ま、どっちにしても旗色が悪くなったことには違いないわ。これ以上、私もここにいる理由はないの。それじゃあねー」

「まちなさっ」

 

 ひらひらと手を振ったジュピターは、スカタンクの吐き出した「くろいきり」にまぎれて姿を消した。この場に残るのは、ハマゴとシロナ。そして燃え盛るポケモンセンターだけだった。いかなる早業か、それとも「あなぬけのヒモ」のような道具があったのか? 真実は「くろいきり」が晴れても明かされなかったが、ジュピターが逃げおおせたという事実だけはそこに残っていた。

 

 だがひとまずの窮地は去ったといえよう。シロナは緊張の糸を解いてハマゴに向き直ると、怒ったように言い放つ。

 

「エントランスを任せたはずだけよ、あなたはどうしてこっちに入ってきたの!」

「こっちに人影があったんだよ! あのアバズレじゃなくて救助者だったら助けねぇわけにもいかねえだろ? ……まぁ、助かったよ――ってテメェその傷!」

 

 怒られたことよりも、ハマゴは馬鹿野郎、と罵り返しながらもシロナに詰め寄った。いつものバックパックはないが、白衣の内側から取り出された一式の器具が踊るようにシロナの手を包んでいった。なれた手つきで進められ、彼女が我に返るほんの数秒でシロナの手の甲に刻まれた傷は覆い隠された。

 

「下手に残ったらどうすんだっての。ほらよっ」

 

 最後、傷の上にはガーゼが貼られ、先程よりも明らかに痛みの引いた手の傷を見たのも一瞬、建物全体から響いたズズ、という重苦しい音に跳びはねる両者。真っ先に我に返ったシロナは上を見上げて冷や汗を垂らした。

 

「…言いたいことはあるけど―――」

 

 更にズズ…バラバラ…と重い轟音が鳴り響く。同時に罅が入り始める通路。ついにポケモンセンター全体の完全な崩落が始まったのだ。これ以上此処に居れば、二人の命が危険にさらされてしまうのは自明の理。

 頷きあった両者は、ダッと服をはためかせて走りだした。

 

「今は脱出が先決よ! ミロカロス!」

「キュウコン!」

 

 途中、各々がポケモンにのって、ポケモンセンターのエントランス側出入り口目指して必死の脱出を始める。既に大きな瓦礫が道を塞いでいたが、人間ならともかくポケモンの身体能力の前には小石も同然。

 水のヴェールで熱さを無効化するミロカロスと、そもそもの炎を喰らい吸収するキュウコンが駆け抜け、崩落の中から飛び出した瞬間に動力炉に火が回ったのか、天井の一部から大きな火柱を立ててポケモンセンターは完全に崩落してしまった。

 

 しかし、間一髪のところで崩落の衝撃から逃れた両パートナーは近づいていた野次馬を牽制しながら離れさせ、けが人一人出させやしないと言わんばかりの仕事に戻る。すぐさまやってきたジュンサーたちがKEEP OUTのテープとポールを置いていく中、消防作業用のポケモンたちが「みずでっぽう」の指示とともに本格的な消火活動へ。

 

 シロナは参考人としてジュンサーの下に案内され、ハマゴは先程の火事に巻き込まれたポケモンや人間の青空診察のためにその場に残る。港の街にあるポケモンセンターを襲った突発的な事件は、こうしてひとまずの幕を降ろしたのだった。

 

 

 

「ん~、やっと開放されたわね。お疲れ様、ハマゴくん」

「大陸わたって早々にこれかよ、先行き不安ったらありゃしねぇや」

 

 あれから翌日。

 事件の捜査協力のため、事情聴取から開放された二名は初めて会った時と同じ喫茶店で席を同じくしていた。シロナの下にはアイスティーが。そしてハマゴの前には特大のパフェが置かれ、パフェ独特の細いスプーンの先はジラーチの口に運ばれている。

 かと思えば、彼自身もしっかりとパフェを口にしている辺り、三白眼にいかつい顔・尖った口調とはおおよそ似つかないハマゴの趣味が伺える一場面であった。

 

 尤も、ここに集まったのは慰労会を開くためではない。あのジュピターという女性が起こした事件、そしてシロナからの話の続きのためだ。彼女もチャンピオンかつ歴史学者という立場から、暇な時間ばかりというわけではない。呼び寄せられる時は呼ばれる立場の人間であるのだ。

 

「昼には講演のために奔走たぁ、随分とお忙しいこって」

「まあ、それが私の選んだ道だから不満はないわ」

「それよか、聞きてぇことがある。あのジュピターって女は……何だ?」

「ギンガ団、って聞いたことあるかしら」

 

 その言葉に、ハマゴは記憶の隅にあるCMを思い出して頷いた。

 

「確か、ラルースの方に来たニュースに覚えはあるぜ。あそこで現れたデオキシスのデータを求めて、ロンド博士と代表者の……サターンだったか? が握手してたっけか」

 

 ふらふらとパフェのスプーンを揺らして答えた彼に、シロナはうなずきを返す。しかし、次に彼女の口から出た事実は、ホウエン地方で暮らしていたハマゴにとっては初めて耳にすることだった。

 

「ジュピターはそのギンガ団の元幹部よ。そしていまは、ギンガ団がまだアカギという男がトップだった時に活動していた過激派を引き連れて各地でポケモンの強奪、破壊活動をしているわ」

「んだと…?」

 

 ガタッ、と身を乗り出したハマゴ。彼は曲がりなりにも気高いドクターの一人だ。だからこそ、無理やりパートナーと引き離された際の物理的な傷から、精神的な傷も、全て負わないほうが良いのだと、そうした考えを持っている。

 そうして、眉間に寄せたシワが一層深く刻まれた彼の剣幕を前に、落ち着きなさいとシロナは一喝した。

 

「これに対して、今のギンガ団穏健派は過激派がこれ以上問題を起こさないよう私達に協力しているわ。でも、いつもそうした監視の目をかいくぐって、あのポケモンセンターみたいにメリットが殆ど感じられない場所が破壊されている。そして、まんまとポケモンを強奪されているわ。……今回は、守り抜けたけど」

 

 詳しく聞けば、シロナは過激派の下っ端13人を相手に大立ち回りを繰り広げてみせたらしい。今もなお、隠すように反対の手を置いている手の甲の傷は、その時のズバットが繰り出した大量の「エアカッター」を捌ききれずに付けられてしまったらしい。

 周囲が極限の状況だったこと、黒煙を少しばかり吸い込んでむせてしまったこと。それで指示が遅れて、不覚を取ってしまったということも彼女自身の口から語られた。

 

 そして、このギンガ団過激派の手口はこれが常らしい。10人前後の少数精鋭で迅速に事を起こし、一時的な混乱に乗じてポケモンを強奪する。手早い犯行はジュンサーを始めとした警察組織がたどり着く頃には終わってしまう。だから、フットワークの軽いシロナのような実力者や、現ギンガ団でも実力のある人間がこのシンオウを騒がせている事件の解決のために尽力しているのだとか。

 

「物騒な時に来ちまったな……」

「ごめんなさい。本当なら、あなたを巻き込むつもりはなかった」

「いや、まぁちょうどいいさ。不謹慎だが、怪我人が出ちまってるならしょうがねぇ。俺が各地を回って治療して、俺自身も腕を上げてやる。現地で治せる怪我は現地で治すに越したことはねぇからな。そのくらいは喜んで取り組んでやろうじゃねえか」

「…ありがとうハマゴくん。でも気をつけなさい」

「わかってる。万が一だってあるだろうが、ジラーチは絶対に渡さねぇ。いざとなったら全力で逃げて、犯人をシロナの前に持ってきてやるさ」

 

 自分の実力がトレーナーとしては低いからこそ、自分の相応の場所――つまりはドクターとして戦うとハマゴは宣言する。無茶をする人物ではないとわかってホッとしたシロナだったが、あの火事の中での怒りを露わにした姿を思い出して、苦笑が漏れた。結局暴走してしまうのだろうなぁと、ハマゴの性格はこの短時間でもシロナに伝わっているようだ。

 

「あ、そうそう」

 

 アイスティーを口にした後、思い出したように彼女は人差し指を立てた。

 

シンオウ(こっち)のポケモン研究の権威、ナナカマド博士にハマゴくんの事を紹介しておくわね。ジラーチについて話せば何か協力を得られるかもしれないし、何より研究所はシンオウについて触れられるいい場所よ。ドクターとして現地の情報はきっと役に立つと思うわ」

「いいのか?」

「借りの内にも入らないから、受け取っておきなさい。私の予感だと、あなたとはこれから長い付き合いになりそうだしね」

 

 そんな予感がするのだと、締めくくった彼女はカップを置いた。

 

「そろそろ時間ね。それじゃあ、またお互い無事に会えることを祈って」

「今度は溶岩の上で再会だったりしてな」

「その時は雰囲気に合わせて全力でお相手しようかしら?」

「冗談キツイぜ。あのトリトドンあたりにじしんでも食らって終了だろうよ」

「ふふ、じゃあ、次はもっと強くなっておくわ」

 

 ひとしきりに別れの挨拶を交わして、二人は席を立った。二度目の退店はゆったりとしたものだったが、出入り口を出て見えるのは全焼したポケモンセンターと慌ただしく動きまわる警察関係者の姿。

 和やかな雰囲気は一変し、両者は厳しい表情でそれらを見つめていた。

 

「もう、こんなことが無いように……強くならないとね」

「だな。ジュピターだったか、今度会ったらただじゃおかねえ」

 

 ジュピターにとっては、シロナに助けられた一般人の一人という認識だっただろう。だがハマゴにしてみれば、無差別の被害をもたらすばかりか、自分を襲った因縁の相手だ。何もぶん殴ったり、傷をつけるといったドクターの名に反する愚行はしない。もっと別の方法でしっかりととっちめてやると固く心に誓って、ハマゴは彼の道を歩みだした。

 

「じゃあな」

「ええ、また」

 

 立ち止まっていたシロナは彼の背中が消えていくのを見届けた後、彼女のするべきことのために歩みをすすめる。分かれ始めたこの二人の道も、いつかまた重なる日は訪れるだろう。そしてその日は、案外近いのかもしれない。

 

 

 それから数時間後、ハマゴはついにシンオウ地方への「旅」を開始した。

 

 

 視界の中でゆらゆらと揺れる景色。港の街から、ナナカマド博士のいるマサゴタウンをひとまずの目的地としたハマゴはひとまず、街をでてすぐの街道を歩いていた。

 彼が調査団にいたころからの道具などを詰めたバックパックの上には、どこかで聞いたことのある鼻歌を歌うジラーチの姿がある。

 自分の頭ひとつ分、高い位置が出来るほどのバックパック。そして白衣と鋭い三白眼。快活そうな青のショートヘアに、メガネをかけた青年。色々と不釣り合いな要素が重なった中に、更にジラーチという可愛らしいポケモンを乗せて歩く男の姿は、それはもう道行く人々に注目される組み合わせだろう。

 しかし彼は視線を意に介さず、自分のことを決めるのは自分だと言わんばかりの歩みを続ける。そんな中で、彼はふと思った疑問をジラーチへとぶつけることにした。

 

「ジラーチ、テメェはここにこれて楽しいか?」

 

 もちろんだと伝えるべく、元気な返事をしたジラーチはこれまでおおっぴらに過ごせなかった事が溜まっていたのか、目に映る景色全てを物珍しげに見つめていた。

 旅の滑り出しこそ混乱を極めていたものの、今こうして過ごす時間はのんびりとしたものだ。ジラーチが楽しい時間を過ごせていることが嬉しくて、ついつい悪人に見間違えそうな笑顔を浮かべるハマゴ。

 ちぐはぐな両者であるが、共に抱える思いは同じだ。

 

「そりゃあよかった」

 

 本当に、と続ける彼の表情には少しばかり陰が差していた。

 

 

 

 

 

 一方その頃―――

 某所、宇宙をモチーフとしたデザインの部屋。

 我々にとっても見覚えのある女性が、苛立つようにかつかつとヒールを鳴らして歩き回っていた。ぶつぶつとつぶやきをこぼす彼女の言葉が、ようやく聞き取れる大きさになって聞こえてくる。

 

「やっぱり思考の方向性を考えないとダメね。成果もゼロ。はぁ、夢が遠くて嫌になっちゃう」

 

 ジュピター、彼女の中で、今回の作戦に対する結論はこうした形で出たようだ。

 彼女の周りには、直立不動で立つギンガ団の下っ端がずらりと立ち並び、その目の奥には怪しい青色の光が渦巻いている。まるで銀河系を内包したかのような瞳を見る限り、この一団はジュピターを除いて何かしらの非人道的な処置を施されているのは一目瞭然だろう。

 そんな彼らを一瞥した彼女は、ところどころ配線が飛び出ている怪しげなマシンのレバーを軽めに降ろした。「ALL」という表記から「DEEP」という表記で止まったレバーに反応し、ゴウンゴウンと胎動するように装置が動き、下っ端達の頭上からパッと光を下す。

 

「ふぅん、今回はいい感じ。さすがの調整ね、プルート」

「……ふん」

 

 姿は見えないが、しわがれた老人のような声がどこからか響き渡る。

 それっきり彼女らの会話は交わされないまま、ジュピターは木箱に座って新たな思考形態にするための洗脳を施されていく下っ端を見つめていた。しかし、その目に正気の光はなく、目の前のそれらを人間ではなく物のように見つめている。

 視神経とレンズの間に、狂気というフィルターを通しているのだろうか。彼女に一応の形で協力しているプルートですら、ジュピターの思考を理解することはできていなかった。

 

(化物女め……それに従うワシも落ちぶれておるがな……)

 

 プルート。かつてギンガ団の研究者として名を轟かせ、アカギの「赤い鎖」を作る際にも関わった彼は、ただただ、大金を得て老後を面白おかしく暮らすためだけにその才能を振るっていた。

 しかしギンガ団のリーダー・アカギが消えた後、いざこざが重なった結果がこれだ。自由に動くこともままならず、「生きる」という事を交換条件にしてジュピターに従っている。ジュピターに傷つけられたわけではないが、元々が高齢であったことや様々な要因が重なって彼は今の位置に落ち着いている。

 

 そして、プルートはこうしてジュピターのために働く兵隊を作るための仕事に就いた。本当なら、ポケモンをメインとした研究者だったが背に腹は代えられない。研究者としても食指の沸かない人間の洗脳と、統一化。それを日々の研究としながらゆるやかに寿命をすり減らす毎日。

 

「……」

 

 モニターに映されるポツポツとした文字の羅列。そして上下するグラフを同時に観測しながら、出力を調整するダイヤルとスイッチを切り替えていく。

 そして更新は終わった。ジュピターの意向に従う兵隊の最終調整が完了して、彼はこのギンガ団残党内で使われるタブレット端末を手に取る。

 いつものような提示連絡で終わるはずの一日は、しかし、考え方すら変化しつつある彼の望まない形で邪魔されることになる。

 

「……着信じゃと?」

 

 彼が知りえぬ番号だった。そして何より、誰もが知らないはずの番号だ。

 プルート自身が創りだしたタブレット端末は、既存のポケナビや電話のように、番号で端末同士をつなげている。だが、世界のどの番号とも違う暗号化された番号と周波数を用いたはずのそれに、不明着信。

 

 だが、今生に疲れ果てたプルートは警戒しながらも思うのだ。もしかしたら、この暮らしを終わらせ、今度こそ……全ての罪から逃れられるような静かな暮らしが出来るのではないかと。

 世捨て人のような考えから、それに応じることにした。

 

「……もしもし? この天才、プルート様に何の用じゃ」

 

 彼の望む日常とはかけ離れる片道切符へと。

 

≪我々は新生マグマ団。落ちぶれたギンガ団よ、朗報を渡してやる。だから手を組もうではないか≫

 

 ここに、夜空と大地は交差した。

 







読了ありがとうございます。
とりあえず、深い設定でもないのでプルートについて此処で語っておきます。

「プルート」の原作設定
プラチナ版で追加された、ギンガ団の老研究者。
特徴的な笑い方と、アカギですら見下した言動はあるが年齢に反して新人のため、他の幹部からは下っ端研究員と同じように扱われているお爺さん。ハードマウンテンでヒードランを目覚めさせ、火山を噴火させる事で彼の行動原理である「お金儲け」をしようとしたが、付き従った2人の配下ともども国際警察「ハンサム」に逮捕される。

本作での設定
逮捕された後、プルートの利用価値を思いついたジュピターによって奪還される。その際に足を負傷し、病院に診てもらうわけにもいかず放置された結果、両足の自由が亡くなった。
その後、「生きること」を条件に、ジュピターの望むがままの兵隊を作る研究を強いられる。アカギの下にいた頃と違い、そうした望まない研究を続けさせられること、この年で両足麻痺になった喪失感、そうした鬱屈とした感情が積み重なって行くうちに自分本位な考えの向きが、誰にも構われなくていい環境で静かに、独りで暮らしたいと思うように。現状はその考えが行きまくって、精神も不安定に成りかけてる。
ただし、孤独を望む割にはプルートの心の中でちらつくポケモンの影があり、それが彼を発狂させない無意識化の精神安定剤になっている。

基本的に損を被る役割。



とまあこんな感じです。読んでもらう事前提にしてないのでツメツメですが。
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