流れ医師の流れ星   作:マルペレ

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展開はプロット通りですが、人物の表現むずい。
口調が凄いかぶりやすいキャラクターばっかりですので、どっかで差をつけていきたいなあ。


徒花揺れる先

 花咲き誇る町、ソノオタウン。自然に溢れた花だけにではなく、風力発電機という人工の白い花もが咲く美しい街である。景観をさほど壊すこと無く、ゆったりとした回転と共に溶けこむ発電機はごく最近に造られたものだ。谷間の発電所が規模を拡大し始め、その戦略の一環としてソノオタウンにも話が通った。つまりはそういうことだった。

 

「ほぉ…こりゃすげえ」

 

 その町に足を踏み入れるものがまた一人。青い短髪、青いメガネ、そして強烈な三白眼と凶悪な面構え。子供に夜に会ったら泣かれる男フエンNo.1の称号を持つ、旅のポケモンドクター・ハマゴである。

 

 彼のバックパックの上にもまた一匹。道中から徐々に広大になりはじめた花壇や自生する花々が、しかし乱雑に咲くことはなく、美しいグラデーションを描く様子に酔いしれるポケモン。我らがうっかり者ジラーチである。

 

 彼らが足を踏み入れたソノオタウンは、タウンというシティには劣る規模でありながらも、その面積をふんだんに利用した一面の花畑と、開けた土の道路。人が住み着き、長らく開発されても失われない土地の魅力は、季節ごとに顔を変えてそこに在り続ける。

 美しいのは町並みだけではなく、そうした形であり続けようとする住人の心もそうであるのだろう。花々を好むポケモンが集まり、しかし独占しようとしてもしきれない程膨大な蜜は、自然と争いをもなくして包み込む。

 

 どこか牧歌的な雰囲気すら感じられるその町を往く。ハマゴは、まず宿屋で一部屋借りてから町へ繰り出した。

 テクテクと歩く途中では、ジャバジャバと花壇に水をやる少女の姿。傍らにつくフワンテは発電所の辺りから流れてきたのをゲットしたのだろうか。誰もがすくすくと、健やかな暮らしをしている。

 此処じゃあ相当なことがない限り、自分の仕事は回ってこないだろう。ポケモンセンターひとつで十分に対処できる。そんなことを考えたハマゴは、この機会だからちょうどいいとジラーチに問いかけた。

 

「っし、なぁジラーチ」

 

 歩みとともに上下左右に、バックパックの上でゆらゆら揺れるジラーチはなあに? とハマゴを見下ろした。

 

「俺の助手になる気はねぇか? これからもスボミーみたいなのを治したいなら、それが出来るように教えてやってもいいぜ」

 

 ぱぁ、と顔を明るくしたジラーチ。この反応を見るからに、このうっかり大気圏で燃え尽きそうな願い事ポケモンもやる気はあるようだ。何事もやる気から入らなければ、上達どころか継続も出来ない。気持ちの持ちようと言うのは大切だ。ハマゴはそう言った所から、ジラーチに助手としての第一歩を期待する。

 

「そうだな、このシンオウに慣れたら少しずつ教えてやるよ。それまでは見て盗んどきな」

 

 今すぐ教えて欲しいのか、あからさまに不満気な顔をするジラーチ。ハマゴはそれを、笑って許せと受け流す。自分から振った話ではあるが、その後に続いた言葉もまた真理。

 勝手知ったる我が家とはいかないのだ。当然ながら、この地でしか蔓延してない微妙な細菌の差や、採れるきのみの効力の差。そういったものを自分の持つ知識と擦りあわせて、予想と結果がイコールになれるよう、ハマゴ自身も勉強していく必要がある。「モモンのみ」一つでも、解毒作用の程や栄養などが変わってくるのだから。

 

 さて、そんな会話やくだらない雑談をしながら街をめぐるハマゴが何をし始めたかというと、ぐるりと街の中の店舗を巡っている。そして陳列されている木の実を手にとっては、同じ種類や違うものを購入してバックパックに放り込む。

 それを繰り返すうちにとんでもない重量になってきているが、彼にとってこの程度はまだまだと言える。スボミーの少年と出会った集落ではパンパンに膨らんでいたバックパックも、この数日の間に出会った野生のポケモンや、野良試合のトレーナーのポケモンを癒やしたせいで在庫は空っぽ近くなっていたからだ。漢方薬系の素材が残っているはご愛嬌か。

 

「へぇ、あそこのお姉さんもついにお店開けたのねえ!」

 

 そうして木の実巡りをしているハマゴが、新たに見つけた「ラムのみ」を手にとってジロジロ見ている時、ふと近くのご婦人が話していた内容が耳に入ってきた。

 どうやら、ソノオタウン唯一であり、最大のフラワーショップ「いろとりどり」の一人娘が自分だけの店を持つらしい。話に耳を傾けてみれば、元々は「クラボのみ」など、自家栽培していた木の実を旅人や町民に無料で配っていたのだが、最近は木の実の種類が増えたことも相まって、ソノオタウンの新たな名所にするため珍しい木の実も取り揃えた店をオープンしたらしい。

 

 それを聞いたハマゴの反応は早かった。ラムのみを商品の陳列棚に戻すと、陽気に包まれ眠り込んだジラーチをボールに入れる。そして彼の足は話を繰り広げていたご婦人方の方へと向いた。

 

「あーっと、話のとこちょっと失礼。その店ってのはどこか分かるか?」

「え、ええ。“いろとりどり”のすぐ隣よ」

「ありがとよ。邪魔して悪かったな」

 

 自分の外見と言動から、普通の人には怯まれる対象でしかないと自覚しているため、そそくさとその場を駆け足で去るハマゴ。温和な表情が常の両親から、どうしてこんな顔になった、とも言われているが彼としては自分の身の程をわきまえやすいからと気に入っている。

 

 とまあ、それはともかくだ。

 彼は地図で探りながら、町中を歩きまわってフラワーショップ「いろとりどり」へ到着する。その横に、小さいながらも真新しい店舗が建っていた。恐らくこれが、話に出てきた木の実を取り扱う店なのだろう。

 ガヤガヤと人だかりは多く、オープンしたばかりなのにこれということは、よほど人徳があるのか、それとも自分のように目新しい木の実を探して此処に来たか。どちらにせよ、ここで傍観するハマゴではない。

 

「っしゃ、出てこいキュウコン!」

 

 ボールから出てきたキュウコンといえば、やれやれといったような表情だ。このようなことは過去に何度かあったのだろう。場所が変われど行動は何も変わらない主の様子に、少しばかり安堵の息をつく。

 そんなキュウコンにバックパックとジラーチを押し付けたハマゴは、バチンと両手で頬を挟み、叫ぶ。

 

「突っ込むかァ!」

 

 掛け声一喝。直後、まるでバーゲンセールのおばちゃんをかき分ける勇者のように、人だかりの中にハマゴは飛び込んでいった。直後、人波に揉まれ、押されるハマゴであるが、細身ながらも調査団にいたことでついた筋肉が彼をスイスイと目的の場所へ行くことを助けている。そうして、まるで息が詰まる海の中から海面に到着した時のように、プハッと息を吐いた彼は店の中を一望できるような場所にたどり着いた。

 

 そこは彼にとって桃源郷の一種だった。

 色とりどりの木の実は、彼がホウエンで手に入れることが苦労したものすら並べられている。そして見たことのない木の実や、事前に食べておく事で一度だけ弱点をなくすことの出来る効果がある木の実など、見ただけで彼は察した。煎じ方次第でこれまで厄介だった症状を治すための新たな手法があるだろう、と。

 

 早速新しいそれらに、よくわからない彼なりのテンションのスイッチが入ったところで手当たり次第の木の実を2個ずつ手に入れようと思い至る。一つは実験用、一つは栽培用だ。とあるツテで数を増やしてもらおうとあくどい笑みを浮かべていた彼は、また新たに発見したオレンのみが合体したような見た目の木の実に手を伸ばして―――誰かの手とぶつかった。

 

「痛っ!? ちょ、何すんのよ!?」

「おっと、悪いな」

 

 威勢のいい高い声。天辺で角のように固められた特徴的な赤髪の女性がハマゴの手がぶつかった人物であった。

 

「変に爪とか刺さってねえか?」

「へ? う、うん。別に大丈夫だけどさ……」

 

 すぐさま手を引っ込めて謝罪をしたおかげで、相手方の気も収まったようだ。変な言いがかりをつけてくるような相手でなくて良かった。お互いにそう思いながらも、軽く会釈を交わしてまた人の波の中に押し戻されていく。

 それからというもの。特に大きなハプニングになるようなこともなく、ハマゴは店内をぐるりと一周して戦利品をレジに並べてお買い上げ。レジの後ろがつっかえているため、そのままバックパックを展開することなく、彼は網袋に入ったままの木の実を両手で抱えたまま人の波から弾き出されるように店を後にした。

 

 両手にあるてんこもりの木の実を見て、管理を考えていない買い方にキュウコンはまた一つの大きな息をつく。とはいえ、バックパックに入らない程でもない。ひとまずはこちらに全てを詰めてから、栽培用の方は最寄りの転送システムを使えばいいだろう。

 あれこれと今後の予定を詰めていくハマゴは、上機嫌になりながら次々とバックパックをふくらませていく。柔らかい木の実は潰れないように包み、硬い木の実はそのまま積んでいく。そうするうちにすっかり網袋の中にあった木の実は―――まだ余っていた。

 

 やっぱりこうなるったか、と首をふるキュウコン。彼女はわかっていたようにハマゴのバックパックの外側に括りつけられた物を「じんつうりき」で浮かせると、そのまま自分の体に装着。そうしてキュウコンの背中から垂れ下がったのは、両端に大きな袋が着いた鞍であった。

 

「……すまん」

 

 こうなることは入れる前から気づけ、とは思うが「イケる!」と思ってしまうのはよくあることではないだろうか。見事その思考に陥ったハマゴを前足でベシリと叩いた彼女は、先ほどの様子とは打って変わって黙々と詰替え作業をする彼に息をついてみせる。

 そんな完璧とは程遠い様子に、キュウコンが鼻から出した短い息。先ほどとは違った感情が乗せられたそれは、空気の中に溶け込んでいくのであった。

 

 

 

 

「……ああ、そういうこった。やっといてくれ」

 

 最寄りの転送システムがある場所はソノオタウンのポケモンセンターだった。そこでシステムを用いたハマゴは、木の実を育ててくれるツテ――彼の母親との会話に花を咲かせていた。

 最近どうだ、ジラーチは元気か、キュウコンに迷惑かけてないか、子供泣かせてないか、また人やポケモンをおちょくっていないか。そんなハマゴの悪癖がシンオウ地方でも発揮されているのを感じ取ったのか、聞いてくる母親の質問は的確にハマゴの心をえぐりとっていく。

 話す度に、その情け容赦のない母の愛に打ちのめされている彼であったが、同時にどこまで行っても親は変わること無く待ち続けてくれているのが嬉しいとも感じる。どんなに大人びた態度で子供に接していても、彼もまた一人の人間。自分の親の情に飢えているのだろう。

 

≪それから、少しこっちで調べてみたのだけれど≫

「んだよ?」

 

 そう続けた母親は、今度は打って変わって心配そうな声色に変化する。長らく一緒にいたからこそ、ハマゴは真剣な話に違いないのだと耳を傾け始めた。

 

≪シンオウ地方では“ポケモンハンター”っていう犯罪組織があるそうよ。大きなポケモンの大会とか、珍しいポケモンが集まるところを狙っていたみたい≫

「狙っていた? 今はどうだってんだよ」

≪組織の使っていた飛空艇ごと湖に沈んだって話だけど、何にしてもそう言うやつほどしつこく生きてたりするわ。あなたはバトルが苦手だし、昔っから何かと事件に巻き込まれてるじゃない? それに、今はジラーチを連れているからどうにも心配で……とにかく気をつけなさい≫

「わぁった、こっちでも調べとく。いざとなったらチャンピオン殿に任せて逃げるから安心しろよ母ちゃん」

 

 通信を切った彼は、久しぶりの親との会話で温まった頭を、急激に冷ましていく。

 ポケモンハンター。響きからして相当に頭の悪いネーミングだが、名は体を表すとは昔からよく言ったものだ。それに、バトルの大会なんかは出場者や来賓が恐ろしく強かったりすることから、襲撃者が逆にブタ箱送りになることも珍しくはない。

 だが、母の話を聞く限り、湖に沈む以外では襲撃は成功させてきたような口ぶりだった。それがどれだけ異常なことか、この世界に住む人間なら容易に想像することが出来る。

 

「物騒な世の中になっちまったもんだ」

 

 はぁ、と深い深いため息が出たのは仕方がないだろう。彼を含め、ハマゴ一行は何かとため息が友達であるようだった。最も、この未来にも何度も何度もお付き合いしていくのではあるが。

 

 そんなこんなで一通りの旅の準備を終えたハマゴは、ポケモンセンターを出て近くのフリースペースに腰を落ち着けていた。彼が座るテーブルには、ソノオタウンの地図が広げられている。

 旅路の迂回路として、彼はシンオウ地方各所の観光も目論んでいる。道中で何か面白い植物が見つかったり、ちょっとしたハプニングに遭遇するのも彼にとっての楽しみであるからだ。

 

 そうして鼻歌を刻みながら、地図の上を滑らせていた指がピタ、と止まった。ある一点を覗き込んだ彼は、その場所へ行くためのルートを探り始める。この辺りは都市とは違って自分の足一本で歩き続けなければならないが、そうそう遠い場所でもないようだ。

 彼が行くと決めたその場所は、「ソノオの花畑」と言う名称がつけられていた。

 

「確かここは……あったあった」

 

 この名称にどこかで聞き覚えがあった彼は、記憶の隅から引っ張りだした情報を頼りにソノオの案内書を読み込んでいく。すると、「あまいミツ」という単語にヒットした。

 このあまいミツはミツハニーが作り出す独特のミツだ。ポケモンならその多くが種類を問わず好物で、ミツが収められたビンを野生のポケモンがいる場所で開けようものなら、たちまちに匂いにつられて襲いかかられるという代物。

 しかし、それだけ美味しいということもあって人間の食料としても使いみちはある。当然、その中に秘められた栄養素は栄養食として。そして薬効もある。当然、ハマゴが食いつかないはずもなかった。

 

 先程までの木の実大好きオーラもどこへやら。今度はハチミツハンターになりきった彼は決意を新たにひとりごちる。

 

「すっと、アレだ。まずは花畑の管理人とこ行くか」

 

 嗚呼、ここにもまたハチミツに惹かれた者が一人。

 

 

 

 

「はぁ、これで治ってくれればいいけど」

 

 一方、不安げな声を漏らしてトボトボと、ハマゴと同じくソノオの花畑に向かって歩みを進めているものがいた。彼女は例の店舗の中でハマゴから手をぶつけられていた女性である。両手で抱える網袋。その中に入ったモモンやラムといった状態異常によく効く木の実たちを見つめているが、どうにも顔色はすぐれない。

 

「もう! なんだってあたしがこんなこと!」

 

 うがーっ! と天に向かってのけぞり、天に向かって吠えたかと思えば、すぐさま俯いて、彼女はぽつりと言葉をこぼす。

 

「……やめよっ、あたしが喚いたところで変わんないしさ」

 

 快活そうな印象を受ける、キャミソールとデニムで身を固めた見た目の女性。彼女の感情は浮いては沈んで、を繰り返しているようである。それもこれも、彼女の持つポケモン「ブニャット」が寝込んでしまったのが始まりであった。

 彼女のポケモンは元々体も丈夫で、見た目通りタフな体力がある。とても病気になるような前兆すら感じられなかったのだが、別に不摂生な生活をしていたわけでもなし、ブニャットは唐突に苦しむような素振りを見せてダウンしてしまった。

 

 近くにポケモンセンターはあるが、彼女はすこしばかり、過去の負い目があってそういったところには顔を出しづらい。また、各地を点々と移動しながらここ数年を過ごしている。ソノオの花畑に向かっているのは、現在の彼女が住まわせてもらっている場所が花畑の管理人の家であるからだった。

 

 もちろん、過去に何かしらあったとはいえ、今の彼女は完全な一般人。罪といえる罪も全て精算された上で、ポケモン協会にも認められて日々を健やかに過ごすことを許されている。だが、他でもない彼女自身が自分をまだ許せていないのだ。

 何より、その脳裏に根付くある男の姿も関係している。これが頭の中から綺麗サッパリ消え去って初めて、彼女は負い目を捨て去り日の当たる場所へ飛び込むのだと決めていた。

 

「はぁ~。なんだって、あたしも強情よねえ」

 

 心なし、肩を落として呟いた。上を見上げれば、多少の雲はかかっているものの、晴天といって差し支えない青空がこちらを見下ろしている。どこまでも広く、地平線に吸い込まれないかぎり、いつまでも続く無限の景色。

 

 ざりっ、ざりっ、とリボンがついたスニーカーが土を踏みしめる。

 さんさんと降り注ぐ太陽光が、露出した両腕をジリジリと焼く熱さを感じる。

 自分の歩く音以外は、何も聞こえてこない。

 

 どことなく、世界の大きさと自分の小ささを見ながら、それでも世界を手に入れようとしたあの男のことが、やはり忘れられずに思い浮かぶ。大きく、そして広い世界の全てを嫌い、自分だけの世界をつくりあげようとしたあの男。

 まだまだ未熟で成人もしていなかったからか、それとも他に興味を持てなかったから、はたまたあの男そのものが少し弱った心に漬け込む天才だったから? いろんな理由が浮かんでは消えていく。まるで密室のシャボンのように、割れた雫も同じ所に落ちて、また同じ液体からシャボンが生まれて浮かびゆく。

 

 無限にも思える繰り返しの問答を繰り返していくうちに、自分が今世話になっているソノオの花畑の管理人の家に到着した。お邪魔しまーす、とお気楽な言葉を玄関に置いて、彼女は自分が借りている部屋に向かう。

 ドアを開けた先には、丸くなって脂汗を流すブニャットの姿が転がっていた。

 

「大丈夫? これ、食べれる?」

 

 無理、だという意志を示すため、ゆったり横に振られたブニャットの頭。彼女は気を落として、差し出した木の実も、手に持っていた袋の中身もゴロゴロと部屋の中にぶちまける。

 ポケモンの回復も、異常も、その全ては他人任せだった。トレーナーとしての知識は一通りあるにせよ、こんなにも苦しむポケモンを治すすべは流石にない。なけなしの知識から、何とか治せそうな新鮮な木の実を買ってきたが、そもそも食べられないのでは効果の程も確認できない。

 だからといって無理やり食べさせるのも、自分のかわいいかわいいポケモンが吐き出す姿を見たくないという感情など、いろんな気持ちがごちゃごちゃになって、中々これ以上のアクションを起こせなかった。

 

 途方に暮れて、苦しむブニャットを見続けるしか無い。背中を擦れば多少は気が楽になるのか、とにかくブニャットの反応を見ながら看病を続けている中でふと思う。自分のこんな誓い何て放り出して、ポケモンセンターに素直に駆け込めばよかった、と。

 

「あんたのこと、ちゃんと治せるとこ行けばよかったね。ごめんね……」

「……」

「ブニャット?」

 

 だが、そんなものは気の迷いであるのだと。苦しみながらも視線を投げかけたブニャットが下から見上げていた。ブニャット自身、自分の主人がどれほど自分たちをよく育ててくれているのかをよく知っている。だから、簡単に信念を曲げるようなことはしてほしくない、という期待もあったのだ。

 ある意味でポケモンとトレーナーの最高の関係があるとも言えるだろう。最も、その信頼関係がきちんとした結果に繋がっていれば、言うことなしだったのではあるが。

 

「ちょっと、ブニャット!?」

 

 その意志が事態を好転させることができれば良かった。だが、生憎とこの雄大な世界は優しくもない。ぶり返したように腹痛が主張し始め、ブニャットの顔は苦しそうに歪められる。キリキリと痛む腹痛の他、せり上がるような嘔吐感もこみ上げてきた。

 

「だ、誰か……助けなさいよ…! ブニャットを助けてよ!」

 

 自分ではどうしようもなくなったと、自然と理解できた。だからこそ、彼女はもう誰かに頼る叫びを上げるしか無い。哀れなものだと見守ることしか出来ないのかと思われた、その時であった。

 

 彼女のいる部屋の扉が、バンッと音を立てて開かれる。

 

「どうした!?」

 

 その髪色や鋭い目つきから「あの男」を連想させるが、まるで違う声。

 白衣を来たドクターとの邂逅であった。

 




赤髪の女性とはイッタイダレナンダー
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