とあるブラック鎮守府と、ソレに抗う金剛達のお話

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金剛さんは「ブラック鎮守府」に立ち向かう

金剛は激怒した。

 

この、狂った鎮守府は改革せねばならぬ。

この鎮守府は何もかもが、自分を苦しめる為にあるとしか思えない。

まるで、牢獄だ。

朝から晩まで、金剛から生き甲斐を奪う為だけにこの鎮守府は存在するようだ。

何もかもが気に入らない、金剛はそう感じている。

 

とはいえ、金剛は自惚れている訳ではない。

自分一人が特別な艦とは考えて居ない、もっと言えば自分のわがままは基本的に通らないとさえ思っている。

それが、自分一人だけの不満なら、きっと彼女は我慢し続けただろう。

 

 

しかし、金剛はある夜…目撃してしまったのだ。

それは、さめざめと暁と鳳翔が泣いているところを。

…しかもそれは、自分と同じ不満を抱えているから泣いているというのだ。

 

あの「空母の母」とまで詠われた優しい鳳翔。

あの「レディ」を目指して背伸びして頑張っている暁。

彼女らを泣かせるとはどういう了見なのだ。  

 

…仮に、自分が提督に不満をぶちまけ、それが原因で解体されても構わない。

それでも、行動で示さねば何もかもが始まらぬ。

金剛は、そう決意する事にしたのだ。

 

幸い、鳳翔と暁は同じような不満を持っている。

三人で、きちんとクレームを入れ…話し合えば、何か改革に繋がるかも知れない。

 

これが、これだけが、自分たちの願いなのだ。

 

 

 

「…金剛達の言い分はわからないでもない、確かに、現状の不満は全て私のせいだろう」

 

金剛・鳳翔・暁の三名から、そう不満を告げられた提督と呼ばれた男は、申し訳なさそうな表情で彼女達を見る。

しかし、その男の次に告げた言葉は、こうだった。

…しかし、私が提督である以上、この鎮守府の運営方針を変える事は無い、と。

 

その提督の言葉に、三人の艦娘は絶望から絶句し、そして泣きそうな表情になる。

そして、三者三様なようでほぼ同じ不満を、一斉に叫んだのであった。

 

 

「そろそろ私は紅茶が飲みたいデェェェス!!どーしてこの鎮守府は紅茶は禁止されるのデスカァァァ!?」

「…その、方針というならあまり文句を言いたくはないのですが、私は基本的に緑茶派でして…」

「レディの朝の飲み物は紅茶と決まっているのよ!決して、お子ちゃまなコーラやココアでも、にっがいだけのコーヒーや黒烏龍でもないのよ!」

 

…そう、この鎮守府で出てくる飲み物は、基本的に何か黒い飲み物ばかりなのである。

提督の私服や制服すら、改造でもしてるのか金刺繍も無く真っ黒。

もっと言えば、壁一面も、調度品も黒か非常に深いグリーンか藍色に統一されている。

それだけではなく、窓ガラスも基本的にスモークがかかっており、端から見たらまるでカラスか一時までよくあった黒いゴミ袋のようである。

 

そうなのだ、この鎮守府の通称は「ブラック鎮守府」。

紛れもなく、真っ黒な鎮守府だった。

 

 

 

 

―金剛さんは「ブラック鎮守府」に立ち向かう ~ホワイトというとホワイトなんだけど、間違いなく真っ黒な鎮守府にクレームを付けたいようです~―

 

 

 

「…そうは言われてもだな、紅茶や緑茶は黒くないじゃないか」

 

そう、この提督は困ったような表情で金剛達のクレームに応対する。

 

この提督の名前は黒野割人(くろの・わるひと)という。

優しい性格をしていて人当たりも穏やか。

艦娘達にも優しく接しており、気さくかつ落ち着きのある態度から信も厚い。

鎮守府運営も民主的なやり方を心掛けており、筋が通らないやり方を何より嫌う。

 

艦娘に手をあげたこともほとんど無い。

例外は千歳と隼鷹に無理矢理付き合わされて駆逐艦数名がゲロ吐くまで呑まされた事件があった時に、

説教込みでグーで千歳と隼鷹、ついでにその場に居たのに止めなかった那智を殴ったことぐらいだ。

…これは、いくらなんでも飲んべえどもが100%悪い。

 

鎮守府の艦隊運用だって基本的に合格点をあげるべきだ。

そりゃ、新米の頃は幾度と無く敗北を喫したことはあるし、今だって艦隊運用が100%正しいとは言えないだろう。

それでも、轟沈者を出さず次々に海域突破するのは、流石の一言に尽きるだろう。

 

 

そんな彼の唯一の欠点…彼曰く「アイデンティティ」なのが、病的なまでの「黒好き」なことなのだ。

 

服装が妙に喪服みたいに真っ黒なのも…まあ、これぐらいは許しても良いだろう。

好きな漫画はブラックジャックとブラックキャットとブラックエンジェルス、好きな魔法使いはシリウス・ブラック、好きなロボットアニメはビッグオーとコードギアス、好きな特撮はBLACKとRXというのも、この辺は常識の範疇だと思われる。

 

しかし、調度品や壁一面が真っ黒、道路も全部黒い石かアスファルトで固めて真っ黒。

その上にみんなに出てくる食卓まで真っ黒となると、最早、ただの病気でしかない。

ちなみに、彼の嫁艦は「羽黒」と「黒潮」である、嫁までも「黒」という徹底ぶりだ。

 

…実際、明石が病気を疑って精神病棟に突っ込もうと画策したり、見かねた香取が矯正しようとしたぐらいである。

なお、結果はお手上げ侍だった訳でもあるが。

 

 

とにもかくにも、こんな具合で、黒くないモノはここの鎮守府には存在価値がないレベルで排他されるのだ。

当然、ドリンクも然り、である。

 

ここの鎮守府に常備している飲み物は、ココア・黒酢・コーヒー・黒烏龍茶・ミロというものばかりである。

アルコール飲料に目を向けても、ジョニ黒を筆頭に、黒霧島やカルーア等、なんだか黒い飲み物ばかりであった。

黒くない飲料水など、それこそ白湯ぐらいである、ここの鎮守府には紅茶と言う軟派な飲み物も緑茶という和風の薫りのする飲み物も、無い。

 

 

そんなわけで、ここの鎮守府には紅茶党と緑茶党の居場所があんまり無い。

金剛を筆頭に、この鎮守府に不満を持っている艦娘も、居なくはなかったのだ。 

なお、不満はあんまり無くても、基本的に真っ黒に拘るこのヘンテコリンな提督の運営に疑問しか持たない艦娘は、やっぱり山のように居たが。

例外は嫁艦の羽黒と黒潮と、何故か龍田と時雨ぐらいであったとかそうじゃないとか。

 

 

 

…さて、前置きがだいぶん長くなってしまったが。

 

とにもかくにも、艦娘達のある意味当然のクレームも却下されて、明らかにショボンとした三名ではあるが。

しかし、提督は鬼ではない。

というよりも、彼は本質的にむしろホワイト提督である。

 

艦娘達が悲しい表情に沈むのをみたいとは思わない。

しかし、ここの鎮守府は自他共に認める「ブラック鎮守府」なのだ、例外はない。

どうしたものか、と思案した提督は、ふと思い付いたように顔をあげると、こう切り出したのだ。

…ここを辞めるつもりはないか、と。

 

解体!?と金剛は騒ぎ、鳳翔は静かな怒りを見せ、暁が怯えるなかで、提督は宥めるように続ける。

別に、艦娘を辞めろとは言ってないし言わない、と。

そして、こう切り出したのだ。

 

 

「…私の知り合いに、通称『レッド鎮守府』と『グリーン鎮守府』と呼ばれる私の好敵手が運営する鎮守府があるんだ」

「ち、ちょっと待つデース!?こんな短い台詞に5箇所はツッコミどころは有りますネ!?」

「ああ、心配するな、変わり者では有るがあそこの提督は基本的に良いやつらだ、私が保証する!」

「金剛さんがツッコミたいのはたぶんそこじゃないですよ!?てか変わり者具合で言えば貴方こそ人に言えないですよね!?」

「目深の赤い帽子をかぶった無口な10代ぐらいの男と、自慢しいの祖父が博士なツンツン頭の男の鎮守府だが、まあ良いやつらさ」

「ポケ○ンじゃないのよソレ!レッドとグリーンってそう言う意味!?」

 

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あの当時の感動とサティスファクションを貴方に。

 

「ダイレクトマーケティング止めろデェェェス!?」

 

…亜空間から金剛のツッコミが入りつつ。

 

それはそうと、金剛達のハイテンションなツッコミは華麗に流しながら、提督はこう続ける。

レッド鎮守府だと紅茶が、グリーン鎮守府なら緑茶が、古今東西のあらゆるものが確か飲み放題だ。

全体的に目に優しくない鎮守府ではあるが、きっと、ここに居るよりしあわせになれるだろう、と。

 

金剛達には、提督の提案に否定する言葉はなかった。

ただ、無言の友情の歌は…特になかったが、戦力補強ができる件の鎮守府を含めて、確かにある意味WIN-WINの話であった。

 

 

 

 

 

 

「…聞いてみれば、なんだか壮大なようで大したオチじゃないですねぇ」

 

その、金剛が移ったという「レッド鎮守府」、その金剛の部屋にて。

別の鎮守府から取材で来たという、青葉を部屋に上げつつ、金剛は昔居たという「ブラック鎮守府」の顛末を話したところだった。

…なお、ご想像の通り、金剛の私室に壁やら家具やらもこの鎮守府は真っ赤である、というのは余談として書いておく。

 

それはそうと、金剛は青葉のぼやきに対して苦笑いすると、こう返した。

 

「…まあ、あの人の人間性はマーマイトかうなぎゼリーなみにトンチキな人でしたが、嫌いじゃなかったし思い返せば楽しかったは楽しかったデース」

 

…イギリスの人にも、アレは紅茶飲めないのと同じぐらい辛かったんですね、イギリス飯。

青葉が内心ツッコミを入れる中、金剛はさらにこう続けるのであった。

 

「それより!私は貴女こそ気になりマース!『ブルー鎮守府』の筆頭秘書艦の一人青葉、貴女のお話が聞きたいネ!」

 

 

…ウチの鎮守府は、私より蒼龍さんのがエピソードがおもしろい気がしなくはないですが。

そう切り出すと、青葉は金剛から出された紅茶をぐぐっと飲み干すと、自分たちの鎮守府の話を始めたのであった…

 

 

            ~完~


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