聖魔剣士と赤き舞踏姫   作:グリアノス

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気が乗った勢いで設定をまとめて書き上げた。後悔は少しだけしてる。

まあ、そんな作品ですがよろしければどうぞ。





プロローグ

 

それはとある嵐の夜だった。

 

豪雨により視界も効かず時折雷鳴も響いており、誰もが家に閉じ籠るであろう、悪天候のなか雨具を一切着けないまま息を詰まらせながら走り抜ける年端もいかない一人の少女がいた。

 

少女の身なりはお世辞にも上等とは言えないみすぼらしいもので、嵐の中を走り続けているためかずぶ濡れだった。

 

バケツをひっくり返したような強い雨に濡れて体に張りつく服と呼吸をするたびに空気と共に口の中に入ってくる雨水に不快感を覚えるが、足を止めれば間違いなく自分は終わる。そう思うといくらでも走り続けられる気がした。

 

「うぅっ…………待っててお兄ちゃん、すぐに助けを呼んでくるから…………もう少しだから…………」

 

既にあの家の膝元を脱し、あと少しで領主の元へ辿り着ける。そうすれば如何に強大な力を持つあの家と言えど容易に手出しが出来なくなる。

 

自分を逃がしてくれた兄と使用人が教えてくれた、唯一の希望を胸に脇目も振らずに走り続けた。

 

しかし追手もそれをやすやすと許すつもりはないようで、背後から灯りを手に怒号を上げる複数の男が自分を捕らえようと猛追してきていた。脱出の際、兄がいくらか引きつけてくれたとは言えそれでも10人以上の追手が迫ってくる。撃退しようにも今はまだ脆弱極まる子供の自分では太刀打ちなど出来るはずもなかった。

 

自分達を逃がしてくれた使用人は恐らく既にこの世には居ないだろう。兄もきっと相当に苦しめられる筈だ。あの家で主人の意に反する事を行えばたちまちに命を奪われる。あそこはそういう場所だからだ。

 

「いたぞ! あそこだ!」

 

ここで一人の追手に見つかった。その声を聞いた他の追手達も一斉に狙いをこちらに定めて迫ってくる。

 

逃げなければ。

 

微かな希望である、あの方の元まで。

 

もう間近の追手は数m後ろに迫っている。他の追手も似たようなものだろう。

 

「……………ここだ!」

 

しかし少女には一つだけ、たった一度きりの切り札があった。

 

少女は生まれの為か年齢に見合わない非常に強大な魔力をその身に有していた。

 

その強大な魔力を活かす為に家の者の目を盗んで鍛えていた魔力操作。そうして作り出せるようになった小さな魔力球。

 

その魔力球を追手の目の前に放り投げた。

 

淡い光を灯した魔力球が次の瞬間、強烈な光を伴って爆ぜた。

 

「「「「「ぐあああああああああっ!?」」」」」

 

どうやら即席の閃光弾は先頭を走っていた数人の追手の目を直撃したようで強烈な光に目を焼かれた男達は、後ろを走っていた男達ともんどり打って盛大に転んだようだ。

 

しかしそれを一々確認などしていては目を潰した意味がないので確認はしない。だがまんまとしてやられた男達が巻き込まれた男達に怒鳴り散らされているので上々の成果にはなったようだ。

 

使用人の命を投げうって齎してくれた千載一遇の好気。兄が身を挺して繋いでくれた希望。ここで捕まればその全てが無駄になる。

 

「そんなこと…………させないっ…………!」

 

少女はそう言ってひたすらに、走り続けた。

 

しかし事は常にうまく運ぶとは限らない。

 

「きゃあっ!?」

 

少女は追手の隙をつけたうちに夜の闇に紛れ込もうとしたが、その前に細い路地から出てきた男に細い腕を掴まれた。

 

「まったく、どいつもこいつも子供に出し抜かれるとは不甲斐ない。しかも目的を忘れて喧嘩を始めるとはな」

 

まあ、あんな有象無象共では致し方ないか。少女の腕を掴んだ男はそう呟くと少し離れた場所で騒いでいる男達に冷ややかな視線を送る。

 

「は、離してっ!」

 

「離しませんよ」

 

「あぐぅっ!?」

 

少女は拘束から逃れようとジタバタともがくが逆に腕を捻り上げられ、苦悶の声を上げた。

 

「いけませんねえお嬢様、こんなイタズラをしでかしていると…………」

 

少女を拘束した男は胡散臭い笑顔を浮かべながら殺気を込めて睨みつけた。

 

「────死んでしまいますよ?」

 

こんな風に、と男が指をパチンと弾く。

 

「「「「「ぎゃあああああああああああああっ!!?」」」」」

 

「ひっ!?」

 

すると小気味よい音と共に先程まで自分を追いかけてきていた男達から断末魔の叫びが上がった。少女には見えこそしなかったがどうなったかなど想像出来ないわけがない。

 

「おわかりいただけましたね。それでは屋敷に戻りますよ」

 

(こんなところで私は、私達はっ…………)

 

男の肩に背負われ、もはやなす術無しかとぎゅっと目を閉じた少女。その目には悔しさから涙があふれた。

 

─────〜〜〜〜♪

 

ふと、雨の降りしきる中でもやたら耳に響く特徴的な口笛が聴こえた。

 

「〜♪……ん? おーおー、雨と血の混じったいやーな臭いだ。まったくどいつもこいつももっと穏やかに暮らせないもんかね? 兄ちゃんもお嬢ちゃんそう思わねぇか」

 

「何者だ?」

 

「ああ? 俺はどこにでもいそうなただのオヤジだよ」

 

ちょっと長生きなだけのな、と言いながら暗闇から姿を現したのは30代程の長身の男だった。外見状は年寄りには見えないが、彼ら悪魔は外見で年齢を察する事は非常に困難である以上、真偽の程はわからなかった。

 

「…………まあいい。見られた以上悪いが貴様には死んでもらう」

 

「逃げて! 殺されちゃう!」

 

至近距離で叫ぶ少女を煩わしく思ったのか、男は少女に手を翳して魔法陣を展開すると術を行使して眠らせた。

 

「ふん、すぐ片付きますから少し眠っていなさい」

 

「だめ……にげ、て…………」

 

最後まで男を案じていた少女だったが、術に抗えずに眠りに落ちた。その瞳からは一筋の涙が流れて、雨と混じり合って地面に落ちていった。

 

男は少女をその場に下ろすとパキパキと指を鳴らして目の前の男を屠ろうと睨みつける。

 

「見られたから殺す。なんともまあ捻りのない台詞だな」

 

「好きなだけ吠えるがいい。それが貴様の辞世の句だッ!!」

 

男はそこで言葉を切ると、ナイフを握りしめて並の者では目視すら出来ないほどの速度で相手に接近する。

 

(愚か者め、死ぬがいい!)

 

男は自分が相手の眼前まで肉迫しつつあるにも関わらず、棒立ちのまま立ち尽くす男に顔を醜く歪めながらナイフを喉元に向かって突き出す。

 

「なっ…………馬鹿な…………」

 

「まあ慌てんなって。そんなに慌ててても良い事無えぞ? いやほんとに」

 

男が驚愕の声を上げたのも無理は無い。目の前の相手の喉元を抉り取るつもりで振るったナイフを、目の前の男はなんでもないかのように無造作に摘み上げていたのだから。

 

「まったくこんな無粋な鉄屑なんて持たずに月でも見ながら酒でも飲んだ方が良いだろ。あー、でも今夜はこの天気だし風情が足りねえよな。うん」

 

あくびが出ると言わんばかりに自然体な目の前の男の目には危機感はおろか、焦燥一つ抱いていない。そんな相手を前にして男は今まで数多くの標的を一撃で屠ってきた実績と誇りが音を立てて崩れていく感覚を覚えた。

 

「なんなんだ…………なんなんだ貴様はぁああああああああああああっ!!!?」

 

男はもはや取り繕う事すら忘れて感情のまま叫ぶと懐から予備のナイフを取り出して闇雲に振り回す。この時点で男は既に悟っていたのかもしれない。標的に定めた目の前の男は自分など辺りを飛び回る羽虫同様、興味も相手取る意味も価値も無い有象無象に過ぎないのだと。

 

それでもナイフを振るうのは単に認めたくなかった事であった。

 

「言ったろ。どこにでもいるただのオヤジだってな」

 

「貴様のような奴がどこにでもいるだと!? ふざけるな!!」

 

そう言っている間にもう一本のナイフも掴まれた。男が持っているナイフはもう一本も無い。男はより一層焦燥感を募らせるが目の前の男は凪のように落ち着いた口調で話しかけてきた。

 

「まあ兄ちゃんがどう思うかなんてのは俺ぁ知ったこっちゃねえんだ。で、お前さんに提案なんだがそこの嬢ちゃん置いてそのまま帰る気はあるか?」

 

「…………何を言っている?」

 

「聞いてんのはこっちだ。YESかNOで答えろ。YESなら追わねえ。NOならお察しだ」

 

「………………………」

 

男はそう言われると素直にナイフを握る手にに込めていた力を拔いた。

 

「結構結構。じゃあ気ぃつけて帰れよ兄ちゃん」

 

男はそう言うとナイフを手放し、少女を背負い込んでこの場を後にしようと無防備に背中を向ける。その様子を見て男は本当に相手をするまでもないと思い知らされた。

 

しかし男はふと思った。

 

(…………今なら殺れるのではないか?)

 

武器は万全、標的は背を向けていて今ならお荷物を背負っている。おまけにあちらは自分の事を意識すらしていない。今ならば殺れるかもしれないと思ってしまった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

「……………………」

 

「おーおー、よく寝てるなこの嬢ちゃん。ただこのままだと風邪引いちまうからなんとかしねえと…………よし、ルシェの奴に任せるか」

 

そして再び口笛を吹きながらこの場を後にする男に向かって2本のナイフを突き立てようとする追手。しかしその刃が届く前にナイフが握っている手ごと薄緑色の結晶に包まれた。

 

「な、なんだこれはっ!?」

 

「ったく、黙って帰りゃ何もしねえって言ったのに…………あーもう、今も昔ヒトの話を聞かないも阿呆ばっかりだな」

 

そう言う間に薄緑色の結晶は男の腕の半ばまで包み込んでいき、今尚男を蝕む結晶は広がり続けている。

 

「う、うわぁあああああああああああああああああああ!!!?」

 

「まあ先に条件を違えたのはお前さんだ。悪く思うなよ」

 

パキパキと音を立てて徐々に蝕んでくる結晶。幸いにして痛みは無いものの、結晶に包まれたところから自分の体が結晶にゆっくりと混ざっていくような悍ましい感覚に男の精神はあっさりと限界を迎えた。

 

「そういや兄ちゃんには名乗ってなかったな。俺はヴァルフリート・アスモデウス。その昔に魔王なんてやってた、無駄に長生きしてるただのオヤジだよ」

 

「────ぁ」

 

ヴァルフリートがそう告げると同時に男の全身は結晶に覆い尽くされ、男は薄緑色の人型の彫像に姿を変えたのだった。ヴァルフリートはつま先で地面を軽く叩くと先程まで一人の男だった彫像は粉々に砕け散り、雨と混じり合って流れて消えた。

 

「さて、今度こそ帰るか。ルシェの奴が起きてれば良いが…………」

 

ヴァルフリートはそう呟くと再び口笛を吹きながら来た道を引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「ん、んん…………ここは…………」

 

少女が目を覚ますと、そこは見覚えの無い部屋だった。飾り気は少ないがシンプルな装いは見る者に決して不快感を与えない清潔感があった。

 

「このベッド…………すごいふかふか…………」

 

見覚えの無い部屋、味わった事も無いような柔らかなベッド。おかしい、あの家なら私に対してこれほどの部屋を充てがう事はまずありえないのだが…………。

 

状況を整理するために思案に耽る少女だったが、唐突に開かれたドアに意識を引き戻された。

 

部屋の中に入ってきた女性は少女がベッドから身を起こしているのを見ると、僅かに微笑みながら声をかけた。

 

「…………ん? ああ、ようやくお目覚めのようだな眠り姫。随分と長い時間を眠っていたが体の加減は如何だろうか」

 

「貴女は…………」

 

「そうだな。まずは自己紹介からするとしよう。私はエルシェリーゼ・クレシェンドという。長いからルシェで構わないよ眠り姫」

 

「眠り姫じゃありません。私はイセリアといいます…………姓も言わなくちゃいけませんか?」

 

「いや、それを聞くのは私の主を待ってからが良いな。少し待っていろ。もうじきに来るはずだ」

 

エルシェリーゼがそう言うと、狙ったかのようなタイミングで再びドアが開け放たれた。入ってきたのはイセリアにも見覚えのある人物だった。

 

「おお、ようやく来たか主殿。もう少し早く来ると思っていたぞ」

 

「まあそう言うなよ。良いタイミングだったろ?」

 

「うむ。まるで狙ったかのようなタイミングだったな?」

 

「狙ったからな。最初は女同士の方が打ち解けやすいだろうっていう配慮だよ」

 

「あ、あの…………」

 

勝手知ったる仲の繰り広げる会話についていけずおずおずと声をかけるイセリア。ヴァルフリートとエルシェリーゼはようやく客人を置いてけぼりにしている事に気づいたようでイセリアに申し訳なさそうに向き直った。

 

「ん?…………ああ、すまないな。客人を前にしてする話ではなかった。許してほしい」

 

「同じくだ。悪いな嬢ちゃん。次からは気ぃつける」

 

二人は自分に非があると思うとすぐさま頭を下げて謝罪の意を示す。イセリアは圧倒的に年上の二人に頭を下げられ大混乱である。

 

「い、いえっ、そんなつもりじゃ……」

 

「それでもだ。まだ君には不安も多かろうに配慮が足りなかったのは謝罪に値する事だよ」

 

「まあそういうわけだ。ここは寛大に一つ容赦してくれるとありがたい」

 

「…………わかりました。気遣いありがとうございます」

 

イセリアは二人は決して折れないだろう事を悟ると素直に謝罪を受け入れた。その年齢不相応な返答になかなか込み入った事情がありそうだと思うと同時にヴァルフリートとエルシェリーゼはかえって気遣いをさせた事に気づくと申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「ところで主殿。食事の用意は済んだのか?」

 

「今煮込んでる最中だ。しかし俺がメシ作ると何でか使用人共が泣くんだがどうしてだろうな?」

 

「ははは、まあなんだ。使用人にも矜持があるんだよ主殿」

 

イセリアは食事と聞くと途端に凄まじい空腹感を覚えた。私は一体どれくらい寝ていたのかと思うと同時にイセリアの腹からきゅぅぅぅぅっと可愛らしい音が鳴った。

 

「~~~~~~~~っ!!」

 

空気を読んでか読まずにかタイミング良く鳴った自分の腹にイセリアはとてつもない羞恥心を覚えた。よりにもよってこのタイミングで鳴らなくても良いじゃないかと思うのも、実に無理からぬ事であろう。

 

「あー、そりゃ4日も寝続けてりゃ腹も減るわな。ルシェ、俺は先行って準備してくるから嬢ちゃんの案内頼むわ」

 

「あいわかった。彼女を寝間着から着替えさせたら向かうとしよう」

 

「おう、任せたぞ」

 

ヴァルフリートはそう言うとやたら耳に残る口笛を吹きながら部屋を出ていった。

 

「さて、体は動くか? 介助がいるのなら言ってくれ」

 

「大丈夫です。ここまでしてもらって更にご迷惑をお掛けするわけには…………」

 

「ええい、まどろっこしい! 子供は無理せず大人の世話になっておけ!」

 

「ええっ!? きゃあっ!?」

 

イセリアは正直立つのも億劫だったが、これ以上してもらうのは申し訳なく思ったので四苦八苦しながら立とうとしていると、少し強い語気で無理せずに頼れと言われて体を抱き上げられた。

 

「うむ、これから着替えさせるために寝間着を剥くが大人しくしていろ。心配せずとも私に妙な性癖はないしその方が早く終わるからな」

 

「…………わかりました。ではよろしくお願いします」

 

「任された。では、少々失礼」

 

(…………すごく、良い方達だ。屋敷の大人……いや、あの男とは全然違う)

 

そう言ってイセリアを着替えさせ始めたエルシェリーゼを見ながらこれが本来の大人なのかと思考を巡らせていた。願わくば良い関係を築けたら、と漠然と思っていた。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

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