如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか   作:てきとうあき

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第十四話【ちょっと待ってくれ、お楽しみはこれからだ!】

-1-

 

『……そんな、偶発性も読んでいたなんて。

 そんなの読みが深いとか推察力があるとかそんな話じゃないですよ!

 予知みたいなものじゃないですか!』

 

「いや、それは違う。

 みほは運すら見通していた訳じゃない。

 もし、我々が全ての範囲から無作為に選んでいたのなら確かにそうだ。

 しかし、我々はどういう手法で選んだ?」

 

『どういうってサイコロで……あっ!』

 

「そう、六面体のサイコロで選んだ。

 という事は、予め六ヶ所の地点を選出していたという事だ。

 それらの地点自体は無作為に選んでいた訳じゃない。

 視野性や防衛のし易さ、奇襲のしにくさ等と移動までの妨害の受け難さなどの利点を考慮してリストアップしたんだ。

 つまり、みほが此方の戦法を読んでいたのならば、東富士演習場のそれらの条件を満たす地点を上から6個選んで、それを目標に訓練すればいい」

 

それは同時にまほがサイコロという運任せを作戦に介入させた事をみほが読んでいた事にもなる。

そこだけはまほにとって不可解だった。

無論、妹に尋常ならざる推察力があるのは理解している。

しかし、この点に関してだけは絶対の自信があった。

まほは常に去年までは妹と一緒だった……。

それは単に同じ場所にいるというだけでなく、精神の繋がりも含めてであり、まほが中学に進学した一年も学園艦と実家という距離はあっても心は何時も一緒だった。

だからこそ、それまでずっと見せていた状況を計算し、理屈通りに生きていくというまほの気質とはかけ離れた"無作為"という行動を読めるはずが無かった。

理屈ではなく、姉であるからそれが解るのだ。

……しかし、如何なる理由かそれが覆されてしまった。

 

(……私はこの二週間必死にやってきた。

 勿論、今までも手を抜いて生きていた訳じゃない。

 それでも今までの生の中で最も必死だった。

 全力で、油断せず、慢心せず、安心せず、努力し、身を削ってただ勝利の為に。

 振り返ってみてもあれ以上の私は用意できないだろう。

 ……いや、私だけじゃない。

 過去の中でも最高の黒森峰だっただろう。

 全員が、最期の年となる最上級生から入学してから数ヶ月の新入生も。

 他学科でありながらデータの収集や移動、必要な用具や手続きの協力、差し入れとして夜に美味しいコーヒーと夜食を持ってきてくれた生徒も多かった。

 無茶な作戦の検証でガタガタになってしまった戦車をどれだけ酷使しても一晩で完璧に直すから気にせず全力でやれ!と自動車整備科が素晴らしい腕を見せてくれた。

 全体が一丸となって一つの目標に進んでいた。

 今、この試合上にいるのはたった97人だが、その97人の後ろには数百の人間が背を押してくれているんだ!

 絶対に勝てるとは思っていない。

 ……それでも、無様な負け方だけはしないと思っていた。

 仮に負けるとしても胸を張って、彼女達を惨めな負け犬にだけはしないような戦い方が出来ると思っていた……)

 

 

 

 

-2-

 

 

『……隊長どうしますか?』

 

「作戦は続行する。

 というよりそれしかない。

 防御陣形を敷いた後に次の対策を考える。

 今の様に常に動き回っているのは……みほ相手には危険すぎる。

 幸い、防御で耐え続けるのは12輌でも可能だ。

 減ったとはいえ現状では一番安全な作戦だからな」

 

『しかし、また砲撃が!』

 

「落ち着け!

 ……あの砲撃は予め決められた地点にしかできない。

 弾道の計算と訓練には時間がかかる。

 如何に冷泉麻子が天才的な数学能力と機械知識あっても、みほに天才的な訓練指導能力あっても、二週間ではせいぜい十箇所までが限度の筈だ。

 隊を四輌毎に分けて地点に陣形を敷く。

 分散するのはリスクがあるが、それでも上方からの砲撃でなければ撃破の可能性は低い。

 ルートはアンブッシュの近くを通らないようにすれば距離の問題でなおさらだな。

 ヘッツァーと三突が潜める場所は十分に距離をとって移動する様に。

 陣を敷いて砲撃が来たら即座に放棄して離脱する。

 初弾の命中率は低いからそれで撃破される可能性はかなり低い筈だ。

 そして次の地点に行って陣を敷く。

 これを繰り返して砲撃の対象外の地点を見つけて防御陣形を敷くんだ」

 

『……それしかないですね。

 ですが、最大で十箇所という事は我々はあと九箇所も砲撃を受けながら探す事になるんですね。

 それだと如何に命中率が低いとはいえ何輌か被弾するかもしれませんし、移動中も不安が残りますね……』

 

「エリカ、大丈夫だ。

 回る箇所は九箇所じゃない。

 たった四箇所で済む」

 

『……そうか!

 サイコロで決めた地点に対応してきたという事は、必然的に残りの五箇所も対応してる事になる!

 つまり、最大であと四箇所で済む!』

 

「そういう事だ!

 よし、隊を分けるぞ!

 相手の奇襲は受けないように最大限注意しろ!」

 

『了解!』

 

 

 

 

-3-

 

 

『此方、ツェー地点!

 砲撃来ました!

 離脱します!

 損傷無し!』

 

「了解した。

 では念の為にゲー地点に向かえ。」

 

まほは地図上に十個目の×印をつけた。

あれから数十分毎に計四回の砲撃が各地点にきていた。

 

『了解しました!

 しかし、危なかったですね。

 回を重ねる毎に初弾が近くなっていきますよ。

 運が悪いと次があれば被弾していたかもしれませんね』

 

(……まさか本当に十箇所にくるとはな…)

 

一応は可能性として最大に見積もって十箇所と定めていたが、その可能性は低いとまほは思っていた。

如何にみほとはいえたった二週間で十パターンもの遠距離砲撃を初心者に身につかせる事が出来るとは思っていなかったからだ。

だが幸いにして奇襲を受ける事無く、砲撃の被弾もなく砲撃地点を潰す事に成功した。

勿論、みほの事だからこれも予想の範疇で次の手も打っているだろう。

しかし、この十箇所も対応させていた事が逆に安心できる要素となっていた。

如何にみほとはいえ二週間で十箇所も対応させたのならば他の事に次ぎ込むリソースは限りなく少ないはずだ。

つまり、策はあっても大掛かりな事はできない筈だし、他の事を訓練させる余裕も無いはずだ。

ひとまず様子を見てから、エフ地点とゲー地点にいる隊と合流してまた陣形を強いてから考えよう……。

 

 

そう思っていた時だった。

 

 

『こ、こちらエフ地点!

 砲撃を受けて……一輌行動不能になりました!』

 

「……何だと!?」

 

 

 

 

 -4-

 

 

『此方、ゲー地点!砲撃を受けました!

 初弾命中され一輌大破!

 離脱します!』

 

(……馬鹿な!馬鹿な!

 ゲー地点もだと!?

 十二箇所など有り得ない!

 どういう事だ!)

 

「……全員、集合しろ。

 これが限度の筈だ!」

 

『りょ、了解!』

 

(……そうだ。

 恐らく、他の全てを捨ててこれだけに注力したのだろう。

 それでも物理的にこれが限界の筈だ)

 

その考えを証明するように、この地点では時間が経っても砲撃は来ず、無事に他の隊が合流してきた。

市街地にマウスが置いてあるので、ここにいる黒森峰は10輌となる。

 

(もうみほに策はない筈だ。

 しかし、8対10となってしまった。

 戦車の質は当然こちらが有利だがみほ相手では……。

 ここまでの状況に持ち込む為の策だったのか……。

 それも此方の予想の裏をかく形で、二週間という時間をその策に全て注ぎ込んだ。

 おかげで見積もりが大分甘くなり、貴重な二輌をまたもや失ってしまった……。

 最後の最後まで本当に見事だ……。

 だが、戦術的な戦いでもそうは上手くいかないぞ!

 黒森峰は訓令戦術を取り入れた!

 私が全てを計算して隊を動かすのではなく個々に任せる戦術を!

 これもまた私の今までの生き方では一切見せなかった事だ!

 作戦上で"無作為"を取り入れる事は読めたのかもしれないが、こっちは読めない筈だ!)

 

そう思いながらまほは陣形を整えながら大洗を待ち構えた。

数は減ったとしてもあの砲撃がなければ長期戦が黒森峰に有利なのは変わらない。

隊列を維持しながら移動して接敵するのと、場所を選んで陣形を維持して待ち構えるのでは後者の方が有利である。

まだ勝機がある!!

 

そう思いながら緊張の中で待ち構えていた時。

この試合中で何度も聞いた音が遠方から木霊した。

 

 

 

そう、何度も聞いた絶望的な音……

 

 

 

 

-5-

 

 

「離脱!離脱しろ!

 急げ!」

 

音を聴いた瞬間に、咄嗟にそう命令しながらまほは混乱する頭で必死に考えていた。

着弾した衝撃と音が、その思考をかき回しながらまた一輌を撃破した。

 

(……解らない!

 何を間違えた!?

 何処を勘違いした?

 振り返ってみてもどこも間違えていない筈だ!

 ……何かを見落としているのか?

 何か前提が違うのだろうか……。

 まさか、冷泉麻子が此方の予想を大きく上回る天才で"その場"で弾道計算ができるのか!?)

 

確かに、人間には時々そういう天才とは更に違う人知を超えた能力を持つ物がいる。

数学能力では五桁の素因数分解を暗算できたり、難解な計算を数学者が計算機で計算するより早く、天井を見つめたままでぶつぶつと呟いただけで答えをだしたりだ。

こういった能力者は絵画面や音楽面といった芸術面でも稀に出現する事はある。

しかし、その考えをまほは頭を振って捨てた。

そういう人間は得てしてそれ以外の面では"特殊な気質"を持つ。

だが、冷泉麻子は多少浮世離れしているが、社会生活も他人とのコミュニケーションも問題なく行えている。

……ではどういうトリックなのだ。

たった二週間という猶予ではあれだけの事は……

 

「……あっ!」

 

【日本戦車道連盟が定める戦車道試合規則。

 2-03 競技場に関するルール。

 

 連盟が定めた競技場並びに認めた競技区域にて行う。

 競技場は、試合前72時間までに規定の書式の地図(競技区域)、緯度、経度、気象状況が、競技者双方に提示される。

 参加者は、提示後は競技場の状況を確認するあらゆる手段が認可されるが、競技場は提示の72時間前から提示までは完全封鎖され、その間は一切の調査を禁ずる。

 競技場に異議のある場合は、提示後24時間以内に規定の文章を、連盟に提出する。

 連盟はその異議を24時間以内に審議し、異議が妥当と認めた場合は速やかに修正を行う事とする。】

 

「……あああっ」

 

通常の試合では試合場が何処かは72時間前まで判明しない。

故に作戦の立案や調査の猶予は72時間しかない。

しかし、決勝戦に限っては毎年戦車道の聖地である東富士演習場で行われるのが通例となっている。

つまり準決勝に勝利して決勝進出した場合、その瞬間から次の試合会場が東富士演習場であると解っているので実質的に約二週間の猶予がある事になる。

また会場のデータも既に判明しているので詳細な調査をする必要もない。

 

 

「……ああああああっっ!!」

 

 

……だが、もし大洗が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その目標に到達するまでの最大の障害は黒森峰となる。

例えサンダースやプラウダと相対したとしても、それらに比べて最も強力な戦力を保有しているのが黒森峰だからだ。

優勝するまでの過程、つまり全勝してトーナメント登っていく最中で、決勝戦で黒森峰と東富士演習場で戦う事が確定した瞬間。

それは、5月5日に行われた第63回 戦車道 全国高校生大会の組み合わせ抽選会で西住みほが8番の番号札を引いた瞬間である。

 

 

 

「ああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

  ……西住みほには約3ヶ月の猶予があった事となる。

 

 

 

 

 

 

            -了-

 

 

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『 Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothin' yet!』

 (「ちょっと待ってくれ、お楽しみはこれからだ!」)

 

    映画「The Jazz Singer(邦題:ジャズ・シンガー)」(1927)より

 

 

 




https://novel.syosetu.org/133089/
此方の短編集にも投稿しました。
良ければこっちもよろしくお願いします。


ガルパンからSSを書く側に始めて回りましたが、「感想と評価をもらえるとモチベがあがります」と仰る作者さんの気持ちがよく解りました。
確かに、感想と評価があるとないでは凄くモチベが違いますね。
ここの所、書くペースが速くなれている気がします!

なので、もしよろしければ感想と評価をいただければ幸いです。


そういえばツイッターをマイページに乗せましたので此方でもご報告を
https://twitter.com/tekitouaki

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