ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第七十一話 繋がる想い

 

2025年1月22日

 

『皆さん、お待たせしました。ついに“時”が来ました。』

 

 数十名の警察職員が集められた警察庁の会議室。そこにいるのは全員、SAO事件の捜査に参加している刑事達である。彼等の視線は現在、スクリーンに映し出されるアルファベット一文字に集中していた。そして、両端に置かれたスピーカーから発せられた宣言に、全員が息を呑む。

 

「では、遂に容疑者の特定と……逮捕の用意が整ったのだな?」

 

『はい。これより私は、SAO事件未帰還者三百名を拉致監禁している容疑者、須郷伸之の容疑を裏付けるための証拠データ確保を目的とした作戦を開始します。証拠を差し押さえ次第、即刻逮捕状の手配をお願いします』

 

「了解した。我々はここに待機し、逮捕状は勿論、逮捕に向けた出動の用意を進める」

 

 いよいよ二年に及ぶデスゲームを経て尚、帰らぬプレイヤー達を解放し、その黒幕を捕らえる時が来た。自分達を翻弄し続けた凶悪犯罪者をこの手で逮捕できると、刑事達の顔にやる気がみなぎる。そんな中でも、代表たる眼鏡の男性、夜神総一郎は、スクリーンのアルファベット『L』の向こう側にいる人物に対して冷静に受け答えした。

 

『では、あとは手筈通りお願いします、夜神局長』

 

「ああ。信じて待っているぞ……L」

 

 それだけ言葉を交わすと、通信は切れた。残された捜査本部の責任者たる夜神は、素早く部下達に指示を出す。

 

「Lからの報告が来次第、我々も動く。各員、すぐさま用意に当たれ」

 

『はい!』

 

 夜神の指示に従い、一斉に動き出す刑事達。二年以上の長きに渡り、被害者をはじめ警察機関を翻弄してきた黒幕を討つべく、警察組織もまた、立ち上がる――――

 

 

 

 

 

 

 

「え~と……これって、どうなってるの?」

 

 自分が現在置かれている状況を理解できていない少年シルフ、レコンの口から、そんな途方に暮れたような言葉が漏れた。彼が現在立っているのは、アルヴヘイム央都・アルンの世界樹攻略のグランド・クエストを広場。現在そこには、五十人以上の数のプレイヤーが集まっている。その大部分はスプリガンが占めており、いずれもレプラコーン謹製の特注装備に身を固めていた。そんな猛者とも呼べるプレイヤーが、こんな場所に集まる理由はただ一つ。世界樹にて受諾できる、ALOのグランド・クエストへ挑むことが目的なのだ。

 

「ランさん、やっぱりこれって……」

 

「うん。私もさっき聞いたんだけど、このスプリガンのレイドは世界樹攻略に乗り出すみたいよ」

 

「やっぱりですか……」

 

 隣に立つランから齎された情報によって、自分の予感が的中していたことを認識させられるレコン。思えば、彼の周囲は昨日から激動の連続だった。シルフ領の権力者であるシグルドを尾行した末に、サラマンダーと内通していることを確かめたのだ。だが、それをリーファに知らせようとした矢先、サラマンダーの索敵スキルによって隠形を見抜かれ、毒矢に射られてアバターを捕らえられてしまい、止むを得ずログアウトしてリアル経由でリーファこと直葉の携帯電話へと連絡を取ることにしたのだった。なんとか連絡には成功したが、サラマンダーの大部隊に狙われたシルフ領主のサクヤを助けるためにすぐに連絡は切れてしまった。リーファに連絡を入れた後は、再度ALOへダイブしてアバターを捕らえていたサラマンダーを得意の猛毒でこれを抹殺。脱出に成功したその後は、サクヤにも危険を知らせたのだが、リーファとスプリガンの少年の手によって事無きを得たらしい。そして、スイルベーンへ無事に帰還したサクヤ一行を見てほっと一息吐き、ログアウトして安眠することができたのが昨日の出来事。

そして翌日の今日、アルンを目指したリーファ達を追って長時間のダイブと飛行を繰り返した末にようやくたどり着いたのだ。だが、合流したリーファの表情は暗く沈んでおり、それを見ていられなくなったレコンは励ますと同時に勢いのまま告白に及び、キスまで行こうとしたのだが……敢え無く失敗。その後、決意を固めたらしいリーファがサスケと話をするべく、席を外すよう言われた。そして、言われるがままに場を後にしたのだが…………その途中、すれ違いざまにサスケから掛けられた言葉が妙に殺気立っていた気がしてならなかった。その後、喧嘩していた状態から和解したらしいサスケとリーファの、やけに仲睦まじい姿を見て、サスケもリーファに懸想しているのではと疑いを抱くに至った。だが、その気持ちの是非を問う前にランが合流し、その後に然程間を置かずスプリガンの大部隊が到着したのだった。そして現在、サスケが中心となって行われるらしいグランド・クエストへの挑戦にリーファとランが協力し、自分も半ば流れで参加することが決定したのだった。

 

(それにしても、あのサスケってプレイヤー……一体何者なんだろう?)

 

 それは、リーファも思った疑問だった。レプラコーン領の特注装備を上から下まで揃えているばかりでなく、サクヤやリーファの話によれば、サラマンダーのユージーン将軍を打ち負かす程の腕前を持つとされているのだ。ユージーン将軍の話はレコンも知っており、ALOの最強プレイヤーとして知られる猛者の中の猛者と認識されている。だが、それを打ち負かしたサスケは、最強を倒した真の最強プレイヤーと呼べるのではないだろうか。

さらに、近頃密かに勢力を伸ばしていると噂されているスプリガンの領主、エラルド・コイルと懇意にしており、グランド・クエスト攻略のためのレイドを用意させる程の影響力を持っているというのだ。実力、コネクション共にチートの領域にあると評されてもおかしくない、このサスケというプレイヤーは、一体何なのか。いくら考えても、レコンの中で答えは出なかった。

 

 

 

 リーファとの対話の末、紆余曲折を経て和解したサスケは、合流後に一度ログアウトしたレイドリーダーにしてスプリガン領主のエラルド・コイルを待っていた。ログアウトの理由は、明日もしくは明後日行う予定だったグランド・クエスト攻略を即刻行うための準備を整えることが目的である。

明日奈がいるであろう世界樹頂上部から落とされたシステム管理用のアクセス・コードのことを考えるに、恐らく彼女は一度脱出を試みて再び捕まり、現在危険な状況にあるとサスケは推測していた。もしサスケの予想が的中していた場合、明日奈を捕らえた研究員から須郷へ脱走の出来事が連絡されているとみて間違いない。人間の脳を弄くり回す研究をしている須郷が、明日奈に対して何をしでかすか分からない以上、攻略を急ぐ必要がある。また、現在サスケの手元にあるアクセス・コードが研究施設から紛失したことが分かれば、コードが無効化されることは勿論、警備が強化される可能性もある。いずれにしても、グランド・クエストを突破して須郷の野望を打ち砕く機会は、これを逃せばそう簡単に巡ってくるものではない。サスケによる世界樹頂上への突入後の始末も用意する必要があった。

 

「サスケ君、お待たせしました」

 

 そうこう考えている内に、再度ログインしてきたスプリガンの青年プレイヤーがサスケに話しかけてきた。目元を縁取る隈は現実世界の彼の姿とあまり変わらない。彼こそが現スプリガン領主にして、この攻略レイドのリーダー、エラルド・コイルである。

 

「ファルコンとの繋ぎは取れたか?」

 

「はい。急な予定変更でしたが、私の呼び掛けに応じてくれました。現在はワタリと共にこちらの拠点で待機し、レクト・プログレスのVR部門が管理するシステムへの侵入に備えています」

 

「分かった。ならば、あとは世界樹頂上に到達するだけだ」

 

エラルド・コイルことLと並ぶ協力者、天才ハッカー・ファルコンに依頼し、システムロックを突破するためのプログラムを完成させ、これをALOでサスケが所持するアイテムに変換。これを世界樹頂上へ通じるとされる扉へと使用し、須郷が管理するSAO未帰還者を監禁している区画へ侵入するというのが当初の計画だった。世界樹攻略を急がねばらなくなった現在、プログラム作成を待つことができないが、それは明日奈が落としてくれた管理用のアクセス・コードで代用できる可能性が高い。セキュリティホールが開けたならば、あとはファルコンがその穴を突いてSAO未帰還者の解放と保管されている違法研究の記録を押さえれば、全ては決する。

 

「コイル、後方指揮を頼む。俺が戦線を切り拓いて突入する」

 

「分かりました。お互いにご武運を」

 

 必要な打ち合わせを終えたサスケはコイルと別れ、部隊の外れに立っていた三人のシルフのもとへと向かった。コイルとの対話を終えたサスケを待っていたのは、彼の義妹であるリーファとその友人のラン、レコンである。

 

「終わったの?おにい……サスケ君」

 

 危うくリアル情報を漏らすところだったのを抑え、リーファがサスケへ確認をとる。サスケは若干苦笑したものの、すぐに常の無表情で、だがいつにも増して真剣な雰囲気を身に纏う。

 

「ああ。リーファ達にも攻略を手伝ってもらうが、良いか?」

 

「勿論よ!ランさん達も協力してくれるって」

 

「ええ、リーファちゃんが参加するんだもの。あたしも喜んで力になるわ」

 

「ぼ、僕だって、リーファちゃんのためなら!」

 

 スプリガンの部隊員に劣らぬ士気の高さを示す三人に、サスケは僅かに笑みを浮かべる。コイルが率いてきたスプリガン攻略部隊も、レプラコーン領製の強力装備に身を固めた強豪達だったが、目の前の義妹達はそれ以上に心強い味方だった。

 

「それで、部隊の配置についてだが、魔法に加えて接近戦が得意なリーファとランには前線に立って俺の援護を頼みたい」

 

「任せて!」

 

「私も大丈夫よ」

 

「ちょ、ちょっと待って!僕は!?」

 

 サスケによって、リーファとランが彼の援護役として最前線に出ることが決定したが、レコンだけが使命を受けていない。これに対し、レコンはサスケに抗議の声を上げたが、サスケは別に忘れていたということではない。彼の配置についても、きちんと考えていた。

 

「レコンには、コイルの部隊でメイジとして支援を頼みたい」

 

「何で僕だけリーファちゃんと一緒じゃないのさ!」

 

 サスケは攻略部隊の配置振り分けを行うに当って、スプリガンの本隊に加えて新たにメンバーとして加わったシルフ三人の能力を、リーファを通して詳細に確認していた。

 リーファ現実世界の剣道の腕をそのままALOに持ち込んだ凄腕の片手剣使いであり、接近戦のエキスパート。魔法スキルも回復等の補助系を一通りマスターしている点からして、前線に出ればサスケにとって心強い戦力になることは間違いない。

 ランもまた、リーファと同じく現実世界では空手の都大会で優勝経験を持つ猛者であり、体術スキルをコンプリートしている強豪である。魔法スキルもリーファと同程度習得しており、彼女と並んでサスケの助けになることは言うまでもない。

 そして、問題のレコンについてだが……

 

「お前のスキル構成だが……スキルは全体的に隠密行動やそれを補助する系統が中心……あとは毒を中心としたST系攻撃魔法。武器はダガー……。悪いが、世界樹上空を守護するガーディアンの群れを相手にするには役不足だ」

 

「そんな!僕はリーファちゃんを助けるために……」

 

「文句言うんじゃないわよ。グランド・クエストなのよ?補助コントローラー無しで飛行できないあんたじゃ、すぐにやられちゃうわよ」

 

 痛いところばかりを突いて追い詰めるサスケとリーファに、レコンは項垂れる。自分は古参プレイヤーであり、リーファとはランと同等以上に付き合いの長い友人だというのに、何故いきなり現れたどこの馬の骨とも知れないプレイヤーであるサスケにあれこれ言われねばならないのか。

だが、実力は相当なものらしい。空中戦は補助コントローラー無しで飛べることは勿論のこと、サクヤから聞いた話で俄には信じられないが、ALO最強と謳われたサラマンダーのユージーン将軍を打ち倒したらしい。

 身に纏う装備はレプラコーン領製のブランド物で、実力もALO最強クラス。しかも、リーファとはかなり仲が良い。目の前のぽっと出のプレイヤーに、自分が勝てることが何一つ無いという劣等感が、レコンに無力感を抱かせていた。無念だが、ここはサスケの言う事を大人しく聞かなければならない。レコンが心中で屈服し、配置が確定しようとしていた……だが、彼を援護する思わぬ伏兵がここにいた。

 

「良いじゃない、私達のパーティーに入れてあげても」

 

「……ラン?」

 

 レコンの配置決めを巡る会話の中、それまで黙っていたランが、初めて口を開いた。その内容は、レコンの前線パーティー入りを支援するものだった。

 

「何言っているんですか、ランさん!?グランド・クエストなんですよ?レコンじゃとても……」

 

「でも、レコン君はあなたの力になりたくて来たのよ?その気持ちを酌むくらい、友達として当然じゃない?」

 

「で、でもそれとこれとは……」

 

「それに、彼のお陰でリーファちゃんはサスケ君と仲直りできたんでしょう?なら、少しくらい彼の我儘を聞いてあげも良いんじゃない?」

 

 サスケとの和解の話を持ち出され、返答に窮すリーファ。これが通常のクエストだったならば、レコンをパーティーに迎え入れることには異論は無い。だが、今回は勝手が違う。ALOの最難関であるグランド・クエストで、しかも失敗できない複雑な事情も付いている。いくら友達だからといっても、出来ないこともある。

 

「……けれど流石に、グランド・クエストのガーディアンが四方から攻めてくる中でこいつを助けるなんてできませんよ?あたしもサスケ君も、ほとんど手一杯なんですから」

 

「ぼ、僕だって戦えるよ!」

 

「本人もこう言っていることだし、連れて行ってあげようよ」

 

 今まで一緒に戦ってきた仲間なだけに、キツく当たって突き離すことができない自分がいることを自覚し始めるリーファ。つい一時間程度前にも、半ば以上勢いに任せていたとはいえ告白された間柄なのだ。変に意識せざるを得ず、レコンのパーティー入りに対する反論も徐々に弱まっていく。そして、レコンのパーティー入りに、もう一人のメンバーが折れた。

 

「良いだろう」

 

「ちょっ……サスケ君!?」

 

「どうしても付いてくるというのならば、メンバーに入れてやろう。最前線に立って世界樹の頂上を目指す俺のパーティーは、リーファとラン以外入れる予定は無かったんだ。人数的にも、受け入れる余裕はある」

 

「……サスケ君がそう言うなら、あたしも反対はしないけど……」

 

 まさか、自身の兄たるサスケがレコン受け入れを許容するとは思わなかった。冷徹に見えて実はとても優しい人物だが、物事は基本的に効率重視で選択を行い、殊に失敗が許されない戦いにおいては無駄なものを一切斬り捨てる性格であることを、リーファは知っていたからだ。確かに、レコンをパーティーから外すという意志を貫く事で、異議を唱えたレコンと推薦したランとの間に諍いが発生し、それが攻略に影響する可能性も少なからずある。そう言う点では、レコンを受け入れることに合理性が無いとは言えなくもない。

 実際問題、サスケのパーティーはフルメンバー七人に満たない、自分を含めた三人で突破を図ろうとしていたのだ。連携云々はさておき、レコン一人“入れるだけ”ならば然程問題は無いことは確かである。足手纏いにさえならなければ、リーファも特に異論は無い。

 反対意見を述べる人間がいなくなったことで、当のレコンの表情も明るくなる。そんな、VRMMOのフェイスエフェクトも手伝って、心の内が表情に出やすい彼の性分を微笑ましく思うリーファとラン。だが、サスケだけはそんな表情は見せない。右手でレコンの右肩を正面から掴むと、耳元へ若干顔を近づけ……

 

「リーファの前で良い恰好をしようなどと考えないことだな。こちらの足を引っ張れば、タダではおかん。即刻斬り捨てる」

 

 抑揚の無い、若干フラットな声でそう囁いた。その殺気さえ感じられたサスケの言葉に、レコンは顔を引き攣らせる。リーファの力になりたい一心で、身の程を弁えずにグランド・クエスト攻略最前線のサポートと言う大役を買って出たが、僅かなミスも許されなくなった状況にレコンは冷や汗を流しながらほんの少し後悔していた。サスケはレコンにそれだけ言うと、リーファとランの方へと向き直る。

 

「これで全ての準備は整った。行くぞ」

 

 サスケはその言葉にリーファとランが頷くのを見るや、未だ硬直しているレコンを引き摺ってくるようリーファに指示を出し、レイドリーダーであるコイルのもとへ行く。

 

「コイル、こちらの打ち合わせは終わった。当初の予定通りに頼む」

 

「了解しました。それでは、参りましょう」

 

 サスケに負けず劣らず内心の見えない無表情で、目元に隈のできた顔で了承するコイル。SAO時代と変わらぬ猫背のまま、サスケを伴ってレイドプレイヤー全員の前へと出る。

 

「皆様、お待たせいたしました」

 

 抑揚の無い表情のままで開始の宣言を行うコイルに対し、しかし攻略レイドのプレイヤー達の表情は真剣そのものだった。リーダーの容姿や性格はどこか頼り無さを感じさせるものだったが、ここにいるプレイヤーは是認、コイルの指揮官としての能力の高さについてはよく理解しているのだろう。聞く側には苛立ちや呆れは微塵も感じられなかった。

 

「これより、グランド・クエスト攻略を開始します。作戦は当初説明した通り、私が率いる六パーティーが後方支援を行い、こちらのサスケ君率いるパーティーが世界樹の突破を行います」

 

「サスケです。新参者ですが、よろしくお願いします」

 

 世界樹突破を行う、謂わばスプリガンをアルフへ転生させる重役を担う人物としての頭を下げて挨拶するサスケ。こちらもコイル同様に無表情で感情が見えず、新参者であることも相まって信用に能う人物なのか微妙なところである。

だが、やはりコイルで慣れているのだろう。突拍子も無い提案をすることもあるが、必ず結果を残すのがエラルド・コイルなのだ。彼が信用に能う、使えると判断した人物ならば間違いないのだと疑わない。元々選択する人数の少ない種族とはいえ、短期間で領主へとなることができたのは、それに見合う数々の成果を上げたからなのだ。さらには、レプラコーンとの同盟によって物流を充実させ、スプリガンという種族を大きく繁栄させたことによって得られた信頼は、最早揺るぎないものになっていると言っても過言ではない。

 

「サスケ君のパーティーには、彼の友人であり実力者でもあるシルフプレイヤー三人が同行します。しかし、彼等には飽く迄フォローに回ってもらいますので、グランド・クエストによって得られる成果がシルフのものになることは有り得ないので、御心配には及びません」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 コイルの紹介によって注目を浴びたシルフ三人がレイドのスプリガン全員に頭を下げて挨拶する。拍手や歓迎の言葉は帰って来ないが、不満の声も上がらない。他種族をレイドに、しかも最前線に立つパーティーに入れるとなれば、参加プレイヤー全員から反感を買ってもおかしくない。それが無いのだから、エラルド・コイルの指揮官としてのカリスマの高さが窺える。

 

「それでは、挨拶はこのくらいにして……作戦を開始します」

 

 その一言共に、コイルは踵を返してグランド・クエストの門へと向かう。数時間前にサスケが行ったのと同様の石像とのやりとりを経て、グランド・クエスト挑戦のボタンをクリックする。そして、地響きにも等しい重々しい轟音と共に、世界樹中央へと通じる巨大な扉が再度開かれる――――

 

「総員、突入。予め打ち合わせた配置へと展開してください」

 

コイルの支持と共に、一斉に突入していくスプリガンレイド。サスケのパーティーは、レイドの中央に配置されている。グランド・クエストで出現するガーディアンはドームの壁から湧出することは分かっている。そのため、クエスト開始以降モンスターの包囲が薄くなる中心地点から突破することが効率的だからだ。そして、世界樹頂上到達を目指すサスケのパーティーを中心に、残り六パーティーが放射状に展開する。

 

「コイル、俺達は予定通り先に行く。そちらはガーディアンの排除を頼む」

 

「了解しました」

 

 レイドの展開を完了したことを確認したサスケは、コイルとそれだけ言葉を交わすと一気に頂上向けて垂直に飛び上がった。次いで、リーファ、ラン、レコンが後ろから追随する。

 

「では、我々も参ります」

 

コイルの相図により、サスケ達を追う形で翅を広げて飛び立つのは、コイル率いるスプリガンレイドメンバーの面々。一拍遅れて飛翔する彼等の目的は、サスケ達の行く道を遮るガーディアンの駆逐である。ガーディアンは壁面から湧出すると決まっているので、コイル率いる六パーティーはサスケが突破を試みる中心地点から各自六十度ずつに展開している。各パーティーが中心地点から六十度ずつのポイントで押さえることで、湧出点を三百六十度カバーする作戦なのだ。

 

「ガーディアンが湧出を始めました。各自、魔法攻撃を開始してください」

 

 コイルの指示に従い、壁から湧出するガーディアンに向けて魔法攻撃を行うスプリガンのメイジ隊。攻撃魔法が得手な種族ではないが、レプラコーン謹製の装備の補正でガーディアンを一撃で屠れる威力となっている。火球や雷が発射されてガーディアンが次々消滅していく中、レイドはサスケのパーティーを中心に上昇を続けていく。

 

「コイル、そろそろ弓兵が出張るポイントだ。スピードを上げるぞ」

 

「分かりました。こちらも作戦を切り替えます」

 

 グランド・クエストを攻略不能にする大きな要素の一つが、弓兵ガーディアンの存在である。単にポップが多いだけのクエストならば、上空がシステム的にロックされていない限りはサスケ個人の能力で突破は可能だった。だが、進路を塞ぐ剣持ちのガーディアンに加え、飛び道具を用いる弓兵ガーディアンを相手するとなると、物量で押し潰されてしまう。それ故に、最初の挑戦時には撤退を余儀なくされたのだ。

 

「リーファ、ラン。こちらも戦闘開始だ。援護を頼む。」

 

「分かった!」

 

 サスケの指示に従い、抜剣する二人。レコンに至っても、短剣を抜いて戦闘態勢を整えている。ここまでは放射状に展開する部隊の魔法によってガーディアンを排除してきたが、ここからはそうはいかない。スプリガンの支援部隊だけでガーディアンを排除し切ることは不可能なのだ。

 

「メイジ隊、幻惑魔法の準備をお願いします」

 

 コイルの指示を受け、詠唱を開始するスプリガンレイドのメンバー達。各々の視線の先では、先程より湧出量の増えたガーディアンの群れが行方を塞がんと広がっていた。凡庸な知性に乏しいAIが密集しているに過ぎないが、際限なくポップするのだ。立ち止まっていれば、進路が群れによる分厚い壁に閉ざされることは間違いない。

 

「放て!!」

 

 コイルの指示により、スプリガンのメイジ隊の杖から発せられた黒や紫に彩られた多暗色のライトエフェクトが炸裂する。標的は目の前に立つガーディアン部隊。だが、攻撃魔法ではない。

 暗色のライトエフェクトを伴う魔法が命中したガーディアン性質に、次々異変が起こる。それまでサスケをはじめとしたレイドメンバーを狙っていたガーディアンが、同士討ちを始めたのだ。

 

「凄い……これが、スプリガンの幻惑魔法なの……?」

 

「敵プレイヤーを混乱させるST系の魔法だよ。確かにスプリガンの得意魔法だけど……他の種族じゃここまでの効果は得られないからね…………」

 

 普段目にすることの無いスプリガンの幻惑魔法とその絶大な効果に目を見張るリーファ。それに解説を付け加えたのはレコンだった。地味でプレイヤー人口の少ないスプリガンとその魔法が、グランド・クエストというALOの最難関で活躍する様に、認識が覆されるような感覚だった。

総合的に見て、ボスモンスターにも満たない能力値だが、湧出する数が桁違いなのだ。無制限に湧出する上、ドーム内に存在できる数は百や千では収まらないだろう。そんな物量こそ圧倒的なガーディアンだが、毒や麻痺、混乱といった状態異常への耐性は低いという面を持つ。故に、混乱などの状態異常で物量を逆手にとる戦法が、ガーディアンには有効なのだ。コイルがスプリガンという種族に世界樹突破の望みを託した理由も、プレイヤー人口が少ない故に領主の座を狙いやすいことに加え、グランド・クエスト攻略への優位性に着目した点が大きい。

 

「言っただろう。局面次第では、普段役に立たない魔法でも通常以上の性能を発揮するとな。それより、こちらも戦闘開始だ」

 

「そうよリーファちゃん!余所見をしている場合じゃないわ!」

 

「は、はい、ランさん!」

 

 サスケを先頭として、襲い掛かってくるガーディアンを次々薙ぎ倒していく三人。忍としての前世を持つサスケは勿論のこと、シルフ五傑に名を連ねるリーファとランの戦闘能力も凄まじく、ガーディアン全てを一太刀あるいは一打で仕留めている。レコンも補助コントローラーに頼る飛行だが、武器と魔法を駆使してどうにかサスケのペースに追随することに成功している。

 

「A隊およびD隊、各自六時および十二時の方向にいる弓兵へ向けて、魔法攻撃をお願いします。B隊およびE隊、八時の方向にいる弓兵を落としてください。C隊は下方から湧出するガーディアンを混乱させてください。F隊はC隊のサポートをお願いします」

 

 サスケを支援するコイル率いるレイドによるサポートも抜かりは無い。サスケ達の進行を妨げる飛び道具を操る弓兵を見つけ次第次々攻撃を仕掛けて落としていく。無論、コイル率いるレイド本隊を狙うガーディアンへの対処も怠らない。敵が多すぎる場合には幻惑魔法を駆使して集団を混乱させて足止めを行い、その隙に退避と援護の両方を行う。上下左右前後、全ての方向から襲ってくる敵の動きを察知すると共に、自らがリーダーとして操るレイドパーティー六つ全てに的確な指示を送っていた。

 

「三人とも急ぐぞ。このまま壁が作られる前に突破する」

 

「了解!」

 

 サスケの突破力もコイルの援護も非常に的確かつ高度なものだったが、それでもガーディアン突破は非常に難しい。サスケ達の到達高度が世界樹頂上までの七割半に達した現在、既に上空に展開したガーディアンの群れによって頂上の様子がほとんど見えなくなっている。ここから先は、時間との争いだ。そう考えたサスケは、包囲が薄い箇所を狙って突入を敢行していく。

 

「うわぁああっ!」

 

「レコン!?」

 

速度を上げて敵の包囲網突破を試みるサスケに追い付けなくなったレコンが、敵の攻撃に対応できなくなった末に悲鳴を上げる。リーファが振り返って見てみれば、そこにはガーディアンに囲まれて身動きが取れなくなっているレコンの姿があった。急ぎ救援に向かおうと考えたリーファだが……

 

「リーファ、左側面のガーディアンの相手を頼む!」

 

「!」

 

 最前線に立つサスケから援護要請を受け、レコンのもとへと辿り着くことができない。優先すべきはグランド・クエスト攻略を目指すサスケの援護なのだが、友人であるレコンの危機を捨て置くことはできない。攻略当初、サスケからもランからも自力で付いて来れなければ置いて行くことには了承したものの、いざその時が来ると決意が鈍ってしまう。

 

(レコン……!)

 

「くっ……リーファ!」

 

 結局、友人を見捨てられなかったリーファは、サスケに背を向けてレコンの救援に向かってしまう。今ここでレコンを助けに行けば、サスケを援護する人間がラン一人になってしまう。二人分を一人でカバーするのだから、攻略失敗のリスクが高まることは間違いない。そしてこの行為はリーダーであるサスケの命令に反するのみならず、サスケの力になると誓った己自身への裏切りに相当する行為なのだ。そう簡単に割り切れない、兄と友人を天秤に掛けねばならない状況にリーファ自身も断腸の思いだったが、危機にある仲間をそのまま切り捨てることで大切なものまで切り捨ててしまうように思えて仕方がなかった。兄を裏切るのも同様だが、自分を偽る行為をしたくなかった。

 

「今助けるわよ!」

 

「リーファちゃん!?」

 

 先行していた筈のリーファが助けに来たことに驚いたのだろう。ガーディアンに包囲されていたレコンは目を丸くして驚いていた。だが、リーファはそんなことに構っている場合では無い。包囲しているガーディアンを次々斬り捨て、レコンを救い出す。

 

「ごめん、リーファちゃん……」

 

「今はいいから……早く行くのよ!」

 

 レコンの謝罪など聞いている場合ではない。今はそれより、先行しているサスケに追い付かなければならない。リーファはレコンの首根っこを掴むと、そのまま加速。ガーディアンの包囲の隙間を縫う様にして飛び、サスケのもとへと向かう。

 

 

 

 

 

(リーファはまだか……!)

 

 リーファがレコンの救援に向かったせいで、サスケはランと二人きりで四方八方から迫るガーディアンの猛攻を凌がねばならなかった。もとより危険で困難な突入……決死行だったが、リーファが抜けた事でその難易度は大幅に跳ね上がった。ガーディアンの襲撃は上下左右前後、全方向から殺到するのだ。たった二人でそれらを防ぎながら頂上を目指すなどできる筈が無い。

 

「ごめん、サスケ君!」

 

「話は後だ。それより今は、上に展開している包囲を突破するぞ」

 

 そうして立ち往生している中、ようやくリーファが戻って来た。勝手にパーティーを離脱したことを謝罪するが、サスケの方もそんなことを聞いている余裕は無かった。リーファ不在で進行ペースが減速し、それが原因で突破困難な程に包囲の密度が増してしまったのだ。これ以上湧出されてはグランド・クエストの攻略は不可能と化す。そうなる前に、突撃を仕掛けて頂上に辿り着かねばならない。既にコイル率いるレイドの援護が届きにくくなっている以上、一刻の猶予も無い。

 

「一点突破だ。邪魔なガーディアンは全て排除しろ」

 

「分かった!」

 

 ガーディアンの密度の薄い箇所を狙い、一直線に飛び立つサスケ。その後をリーファとラン、レコンが追い、援護する。サスケの後ろに続く三人の役割は、世界樹頂上を目指すサスケを妨害するガーディアンを退け、その背中を守ることにある。サスケ一人頂上へ到達させることさえできれば、目的は達せられる。これで失敗すれば、最早グランド・クエストのクリアは不可能。針の穴より小さな突破口を切り開くべく、四人は全てを賭けて挑む。

 

(止むを得ん……かなり強引だが、傷を覚悟で突っ込む!)

 

 サスケが見出した突破口は、確かに他の部位に比べてガーディアンの密集度は低いが、既に奥が見えなくなる程の壁が出来上がっているのだ。突っ込んで無傷で済む筈が無い。ダメージを覚悟で文字通り血路を開く覚悟で飛びこまねばならない。

 

「うぉぉおおお!!」

 

 手に持つ長剣を凄まじい速度で振り回し、視界に捉えたガーディアンを片端から斬り捨てて行く。剣戟と呼ぶには生ぬるい、斬撃の結界とも呼べる空間がサスケの進路を覆っている。ドリル或いは削岩機と形容すべき凄まじい突撃力で、下方や横合いからの攻撃をガーディアンの肉壁を切り崩していく。そして、遂にガーディアンの包囲を抜け、光溢れる空間へと出ることに成功する。

 

(見えた!)

 

相当なHPを持って行かれたが、どうにか突破できたようだ。あとは天蓋を覆う石壁にシステムアクセス・コードを転写すれば扉が開く。そして、世界樹上空の実験施設へ侵入して明日奈を確保できれば全ては決着する。あと一歩、サスケは勝利を確信して最後の力を振り絞って飛翔を試みる。だが……

 

「パパ!危ないです!」

 

「!」

 

 突然、胸ポケットに入っていたユイからの警告。そして次の瞬間に感じる、不穏な気配。危険を感じたサスケは急停止した。そしてサスケの予想は的中し、目の前の空間が波打つように揺らいだ。SAOでも幾度となく見た、モンスターポップの前兆だ。次の瞬間、空間の揺らぎは巨大な影を作り出し、瞬く間にその中から巨大な異形が姿を現す。白色の鎧に身を包んだ、巨大な騎士。姿形こそ、今まで現れていた身長二メートルのガーディアンと同じだが、体躯は十倍以上あろう巨大モンスター。その手には、巨体に比例した巨剣が握られている。

 

「新手……だと?」

 

「これも世界樹を守護するガーディアンの一体です!しかも……ボス並みのステータスです!」

 

 ユイに説明されるまでもない情報だった。目の前のボスの威圧感はSAOで戦ったフロアボスそのもの。故にその能力が、先程まで戦ってきたガーディアンとは比にならないレベルであることも明らかだった。しかも、事態はこれだけに止まらない。目の前の続けざまに巨大ガーディアンの左右の空間にも揺らぎが生じたのだ。

 

「一匹じゃないのか!」

 

 まさかの伏兵……しかも巨大で強力なガーディアンが複数現れたのだ。だが、驚愕している暇など無い。サスケの近くにいたガーディアンが、巨剣を振り下ろそうとしてきたのだ。すぐさま回避行動に移ろうとするサスケだが、背中の翅は既に限界を迎えつつある。機動力の低下した翅では、目の前に迫る刃を回避し切れないと判断し、剣で防御を試みた。

 

「ぐぅうっっ……!」

 

「きゃぁあっ!」

 

 叩きつけられた刃の重みは凄まじく、防御した筈のサスケの身体は下に広がっていたガーディアンの包囲を突き抜けてリーファ達のいた場所まで一気に押し戻される。

 

「サスケ君!?」

 

 リーファ達はどうやら近くにいたらしい。落下してきたサスケの姿に悲鳴を上げていた。サスケは翅を目一杯広げて落下速度にブレーキをかけて止まるので精一杯だった。

 

「大丈夫、サスケ君!?」

 

 翅がかなり弱っていたのだろう。安定しない飛行をしていたサスケを気遣いながら、リーファとランが近寄ってくる。だが、サスケの身を案ずる暇すら無い。上空に密集したガーディアン達をかき分けて、扉の直前に出現した巨大ガーディアンが姿を現したのだ。

 

「な、何あれ!」

 

「扉を守護するガーディアンだ……」

 

「あんなのまで相手にしなきゃならないワケ!?」

 

 新たに出現した巨大な敵に、リーファ達は戦々恐々する。サスケ達のいる場所から低空で展開していたコイル率いるスプリガン部隊も同様である。既にサスケを含めてレイドメンバーはHPやMP、飛行時間だけでなく精神力も限界を迎えている。世界樹頂上へ通じる上空だけでなく、下方も含めて全方位が包囲されている。

 

(ここまでか……!)

 

逃げ場も抵抗の術も残されていない。最早全滅するのを待つのみ。サスケを含め、誰もがその心を絶望に呑み込まれ、諦めかけようとしていた……

 

 

 

 

 

 

「もう終わりか?だらしないぞ、イタチ!」

 

「!」

 

 だが、その時だった。窮地に立たされ、諦めようとしていたサスケ達の姿を笑い飛ばす声が、世界樹のドーム内部に響き渡る。驚愕に目を見開き、声がした方向――グランド・クエストの入り口へと視線を移す。そこにいたのは……

 

「ったく!相変わらず一人で突っ走りやがって!」

 

「助けが必要なら、最初から呼びやがれってんだ!」

 

 SAO内で聞きなれた声の決まり文句。『サスケ』のことを『イタチ』と呼ぶ人間は、限られている。そして、こんな窮地に駆けつけてくれる人物を、サスケは知っていた。

 

「……援軍には間に合ったようだな。メダカ!クライン!カズゴ!」

 

「当然だ!」

 

 そこにいたのは、紺色の長髪をなびかせた闇妖精族『インプ』の女性プレイヤーを先頭とした大規模レイドだった。部隊の大半はリーダーと同じくインプだが、残り半分はサラマンダーやウンディーネ、ノームなど多様な種族が入り混じった混成パーティーだった。そして、この場に終結したプレイヤー達が何者なのかを、サスケは知っている。

 

「イタチ!助けに来ましたよ!」

 

「SAO時代の面子が勢ぞろいか。これなら、グランド・クエストでも、なんとかなるさ」

 

 そう、ここにいるプレイヤーの大部分は、サスケと同じ『SAO生還者(サバイバー)』なのだ。それも、攻略組として常に最前線に立ち続けてきた精鋭揃いである。

 錚々たる面子が揃っているパーティーの中、一人の土妖精族『ノーム』のプレイヤーがサスケのもとへやってくる。

 

「言われた通り、皆連れてきてやったぜ、イタチ!」

 

 どうだ、満足かとばかりに笑みを浮かべるチョコレート色の肌のノーム――エギルに向かって、サスケは常の無表情では見せない満足そうな笑みを浮かべていた。

 ALOのグランド・クエストへ挑むことが決まった日、サスケは病院で再開したSAO事件当時から知り合いだった生産職にして攻略組プレイヤー、エギルへ接触をしていた。グランド・クエスト攻略のためには多大な戦力を要することは必須であり、コイルが用意したレイドだけで突破できるとは限らない。そう考えたサスケは、エギルを通じてSAO生還者の中でも強力な攻略組を集めようと試みていた。そして現在、当時の攻略ギルドの一角『ミニチュア・ガーデン』のリーダーだったメダカをリーダーとしたレイドが到着したのだった。

 

「助かったぞ、エギル。ありがとう」

 

「礼ならあとでたっぷりしてもらうぜ!それより今は、こいつらを蹴散らしてお前を上まで行かせるのが先だ」

 

「指揮は僕とメダカちゃんが取る!君を必ず世界樹の頂上へ辿り着かせてみせる!」

 

「感謝します、シバトラさん!」

 

 元聖竜連合総長のシバトラと、ミニチュア・ガーデンのリーダーであるメダカの二人が前に立ち、周囲に展開する攻略組プレイヤー達へと指示を出す。

 

「さあ、アインクラッド攻略の再開だ!これより我々の手で攻略を執行する!」

 

 メダカの攻略宣言に歓声を上げる元SAO攻略組プレイヤー達。これまで戦ってきたフロアボス攻略の比ではない脅威を前に、しかし全く動じた様子は無い。

 

「死んでもいいゲームなんて、温過ぎるぜ!!」

 

 クラインが叫んだ、この場に駆けつけたプレイヤー全員の言葉を代弁した言葉。常に死と隣り合わせの世界で戦い続けたSAO生還者(サバイバー)には、死が許容されるゲームなど恐れるに足らない。二年もの時を仮想世界で生きた戦士達を縛る恐怖の枷は、既に存在しない。

 あらゆる制約から解放された猛者達の牙が、ALO上空に存在する、固く閉ざされた扉を喰い破ろうと襲い掛かっている。グランド・クエスト突破のカウントダウンは、既に始まっていた。

 


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