人間不信も異世界から来るそうですよ?   作:茶々猫

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つ、続きました。読んで頂いた皆さんのお陰です。感謝。

内容は知っての通り、問題児たちとの初邂逅です。
さあ、存分に好き勝手やってくれ! では☆
 


十六夜 「……へえ?ホント面白いなお前ら」

 

 さて、実に唐突だが、ここで画面の前の皆に聞きたい。これは人間、いやありとあらゆる生物に共通する質問だ。そんなに身構えないで聞いてくれ。

 急に予想不可の事態に陥った時の反応とは何だ?ということ、それは──……、

 

 「「「…………」」」

 ──そう、思考の停止だ。

 彼を含めた四人は揃って目の前の状況に言葉も出ず、高さ四千mからのスカイダイビングを無理矢理体験させられ下方に見える湖へ一直線に落ちていった。

 『にゃああぁあぁああぁぁあ…!!』

 ……訂正すると、四人と猫一匹だ。

 

 本来ならば、そんな高所から直接水面に叩きつけられれば即死か、着水の衝撃で身体がバラバラにでもなりそうだが水面に当たる直前に緩衝材のような膜が現れ全員がずぶ濡れになる程度には助かったと言えた。

 岸から上がったはいいが辺りは樹海の様な森が続いており、ダイビング中に見えた陸の果ての様な滝と中央に伸びた一本の柱。その柱を囲む円形の都市群。

 どう考えても地球ではないし、他の星というよりは文字通り世界が違う(・・・・・)

 原因に考えられるのはあの手紙しかないが何故か飛ばされてから手元に無く、紙一つで人一人を飛ばせるかは完全に彼の理解の範疇を超えていた。そんな非日常との邂逅に目を伏せ、改めて彼は自分以外にも落ちてきた三人と一匹を見やる。

 

 一人は男。まだ少年の域を出ない、青二才なのだろう。コスプレの趣味がなければ黒の詰襟という学ランをあんなに着こなせまい。そして上から金髪、ヘッドフォン、ボタンの掛け外し、と全身から所謂不良やザ・問題児といった雰囲気を全力で放っている。

 もう一人は女。此方もまだまだ幼さが残るものの見た目年齢の割に豊かに育ちつつある部位は立派の一言。切れ長で我儘そうな雰囲気や些細な動作から感じ取れるお嬢様の如く気品を振り撒く。此方もかなりの問題児と言えるだろう。

 次に濡れた猫──よく見れば雄の三毛──の身体を拭いているボブカットのスレンダーな少女。その服装はノースリーブの上着以外機能性重視な物に統一しており、その所為か大胆に露出した日焼けのない白い肌は健康的で何より扇情的だ。

 そして最後に彼は、瞳の色が欧米人の様に碧いのを除けば別段変わったところもなく日本人特有の黒い髪をボサボサとまではいかないが伸ばし、その他の少女達より低い身長で周りの三人からは完全に迷子の子供を見る目で見られているのに気付き、またかともう既に達観した空気を醸し出していた。

 その背中は何処となく会社帰りの父親の様な哀愁漂うものがあったと後の三人は声を揃えて言う。

 

 

 「全く、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて…」

 「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜ、コレ。これじゃあ石の中の方がまだ親切だ」

 「え──いえ、石の中じゃ動けないでしょ」

 水に落ちた所為で濡れた服を手で絞りながら一瞬つられて同意しそうになるが、よく考えて否定したお嬢様風の長髪の少女。

 他の猫と一緒の少女以外も同様に服を乾かそうと悪戦苦闘している。思春期真っ只中の男女がお互いの目も憚らず大っぴらに服など脱げはしない。

 少女は己より猫を優先して拭いていたので除外する。

 「俺は問題ない」

 「そう、身勝手ね」

 「此処……どこだろう?」

 「さあな。ま、世界の果てっぽいものが見えたし、何処ぞの大亀の背中じゃねえか?」

 「んじゃ、この世界には三頭の象もいるのかもな」

 「あ?」

 金髪の少年はまさか返答があるとは思っていなかったのだろう、彼の発した言葉に反応し、興味深く目を細めて見下ろす。その眼からは面白い玩具を見つけた子供と同じ純粋な喜びを感じさせる。

 ところでこの金髪不良少年は、あの状況でそこまで地形や景色を把握できる程の余裕があったのか、それとも……。

 彼の指が他の三人からは見えない位置で不自然に動く。それを感知できた者はいな──、

 

 「なあ、お前。名前なんつーんだ?」

 「、……しき。零崎 糸識(ぜろざき いとしき)

 長い間人と直接会話や対峙していなかった弊害か、将又その身に宿る特異な能力故に少年の接近に気付くのが遅れ、簡単に背後を取られてしまい機会を逃してしまった。だが、彼には何となく敵わないと感じさせる何かが感じられ結果的に敵に回さずに良かったと納得して、無造作に出していた手をポケットに入れた。

 「ふ〜ん…そうか」

 対し、不良少年は一通り彼から聞きたい事を聞いて満足したのか、まだ乾ききっていない髪を搔きあげ全員に向き直る。

 

 「で、誰だよお前」

 「それは此方の台詞よ。目付きの悪い学生さん」

 「一応確認しておくが……お前らにもあの変な手紙が?」

 「えぇ、そうよ。だけどまずその『オマエ』って呼び方を止めて下さる?私は久遠 飛鳥(くどう あすか)よ。以後気をつけて」

 飛鳥と名乗った彼女は軽く睨みつつ金髪の彼にそう突きつけると、今度は軽く微笑んで隣で座り込み猫と戯れる少女に目を向けた。

 「それで?そちらの猫を抱えている貴女は?」

 「……春日部 耀(かすかべ よう)。以下同文」

 「そう、よろしく春日部さん。で?そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 その、初対面の相手にして警戒を露わにした散々な言われように、言われていないはずの糸識も苦笑を禁じ得なかった。その言葉を言われた当の本人はというと、

 「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻 十六夜(さかまき いざよい)です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ。お嬢様?」

 対して気にした風も感じさせず、寧ろそんな事を言う相手が珍しかったのか、好ましかったのかは理解しかねるが、十六夜は戯ける様に身振り手振りで自己紹介した後、揶揄う様な言動で笑う。

 「…そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 そう言ってケラケラ笑うのは逆廻十六夜。

 そんな彼の態度に戸惑いを覚えつつも、傲慢そうな態度を崩さずに顔を背けるのは久遠飛鳥。

 我関せず、いや友達の三毛猫以外の会話に参加どころか顔も向けようとしない無関心な春日部耀。

 この短時間の邂逅で既に至極面倒そうだ、と疲れた表情で肩を落とす零崎糸識。

 

 そんな彼らを不自然に盛り上がった草叢に隠れ見ていた黒ウサギは思う。

 ──うわぁ…、なんか一癖も二癖もある問題児ばっかりみたいですねぇ。でもだからこそ……。

 

 自分達で召喚しておいてアレだが、彼らが協力する姿は客観的にも想像できなかった。本当の事を言えば、此度の召喚にはかなり、否、絶対と言える期待を寄せていたにも関わらず、現状でその期待は呆気なくボロボロに砕かれてしまった。

 此方も少なくない供物と犠牲を払って一世一代の大勝負に賭けたのだ。それ程期待しない方がおかしいし、どちらにせよ、もう後戻りはできない。

 陰鬱そうに重い溜息を吐いてから覚悟を決めて草叢の中から出ようとすれば、黒ウサギの長い耳に彼らから会話が聞こえてきた。

 

 「……で?呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものを説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」

 苛立たしげに吐き捨てる十六夜。それに飛鳥も腕を組んで頷く事で同意した。耀は相変わらずどうでも良さそうに三毛猫と戯れている。糸識に至っては無反応だ。

 

 「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

 「……この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 ──まったくです。

 続いて述べた耀の台詞に、黒ウサギはこっそりとツッコミを入れる。

 もっとパニックになってくれれば、或いは異世界という非日常に対してのわかりやすい反応があれば現状よりもずっと飛び出し易いのだが、思いがけず場が落ち着き過ぎている(・・・・・・・・・・・・・・・・)為にタイミングが計れなかったのだ。

 

 しかし次に放たれた十六夜の言葉に、ピタリと思わず息を止めた。

 「ま、そういう事は置いといて、そろそろそこに隠れている奴にでも(・・・・・・・・・・・・)話を聞こうぜ?」

 ──バ、バレていたのですか!?

 ピーン!とウサ耳を逆立てて驚く黒ウサギ。そんな彼女の動揺を尻目に、他の三人も続いて口を開く。

 「なんだ、十六夜君も気づいていたの?」

 「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?糸識とそっちの猫を抱いてる奴も気づいてたみたいだしな」

 「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 「大した事じゃない…網に掛かっただけだ」

 

 「……へえ?ホント面白いなお前ら」

 

 そう言い軽薄に笑うも、十六夜の瞳は笑っていない。そして彼ら四人はスカイダイブからのずぶ濡れという理不尽な招集を受けた腹いせに、ちょっと殺気を込めた冷ややかな視線を飛ばす。その目線の行き着く先では、草叢からぴょっこりと青いウサ耳が飛び出していた。

 ビクゥ!と身体を震わせた黒ウサギは慌てて爽やかな笑顔で取り繕いつつ、ひょこっと草叢から姿を見せる。

 「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに恐い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱ぜいじゃくな心臓に免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいのでございますヨ?」

 

 そんな彼女に対する四人の解答は以下の通りだった。

 「断る」

 「却下よ」

 「お断りします」

 「笑ったり泣いたりできない様にしたげる」

 「あっは、取りつくシマもありませんね♪って坊ちゃん何て事仰いますかっ!?」

 バンザーイ、と盛大に頬を引き攣らせつつ降参グリコのポーズをとる黒ウサギ。これは演技半分自棄半分。困窮に瀕しているコミュニティの為なら観客を楽しませる道化だろうが彼ら問題児の餌にだろうがなってやると誓ったのだ。だがすぐに素でツッコミを入れていた。

 そしてウサ耳の彼女は、どうやら観衆の前に出ることは慣れているようで、様になっているがその眼は冷静に此方を値踏みするように細められていた。

 

 ──肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、扱い難いのは難点ですけども。

 「…に……ない…」

 「ぇ?」

 黒ウサギは戯けつつも、この問題児達にどう接するべきかを内心冷静に考えている──と、糸識が発した呟きに一瞬惚けて見せた。そして、注意散漫になっている彼女の隣へ不意に耀が不思議そうに立ち、何を思ったのか彼女の青いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

 「えい」

 「フギャッ!」

 

 力いっぱい引っ張ってみせた。

 

 「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとは一体どういう了見ですか!?」

 「好奇心のなせる業」

 

 現状に至った理由を問いつつ暫く彼女の手から抜け出そうと足掻き、やがてキュポンッとイイ音を立てて耀の手から逃れた黒ウサギは彼女に振り返り文句を言う。

 「自由にも程があります!」

 

 「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 しかし、その背後から俄然興味を引かれ待ち構えていた十六夜が、右から掴んで同じように引っ張る。

 「……じゃあ私も」

 「あ、俺も俺も」

 そこに妙にそわそわとした飛鳥が加わり、続いて糸識もここぞとばかりに便乗した。

 彼らの慈悲なき所業は黒ウサギにとって当然の報いである。

 「ちょ、ちょっと待、あ──!!」

 結局、左右から力いっぱいウサ耳を引っ張られた黒ウサギは声にならない悲鳴を上げ、その絶叫は森全体に木霊したのだった。

 

 ……因みに、最後に見た目の年相応に好奇心旺盛な子供の目をウサ耳に向けながら手を伸ばしてきた糸識にビクビクと怯える彼女だったが、思いの他優しく撫でてもらうだけだったので、思わず涙ぐんでしまったのは全くの余談である。

 彼、糸識が生まれて此の方様々な大人を見てきたが、何れも代わり映えしない外道やクズばかりで初対面で信用するなんて事はありえない。だがそんな彼を以ってしてもウサ耳を生やした人は初めてだったからか少し興奮してしまったらしい。ついでに美人な黒ウサギのコロコロ変わる顔が見れて少し得した気分になっていたのは言うまでもない。

 それで気を良くしたのかはわからないが、他の三人には内緒でふわふわの丸い尻尾をこっそり触らせてくれた。

 

  

 




コメント欄にて、訂正部分の指摘、ありがとうございました。
 金木犀さんに、名無しさん。

そして拙い文にお気に入り登録をして下さった全ての方、ありがとうございます。
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