今回も続きました。 では☆
飛鳥、耀、糸識、ジン、三毛猫の四人と一匹は某巨人の世界に出てきそうな高い石造りの壁を潜って箱庭の幕下に出る。すると予想外に上からぱっと眩しい光が降り注いで思わず手を翳し、顔を顰めた。
『お、お嬢!外から天幕の中に入ったのに御天道様が見えとるで!』
「……本当だ。外から見た時は内側なんて見えなかったのに」
耀が連れていた三毛猫が噴水広場まで走っていき、此方を振り向きながらこの現象を口にした。
彼女は後天的に彼らと会話する機会を得たようだが、同様に彼らの心を理解する糸識もまた、三毛猫の興奮した声を耳に天幕があるはずの空を見上げる。
「ふぅん。マジックミラーみたいな物か」
するとジンが彼ら三人の反応に納得したようで微笑ましいものを見るように説明した。
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。まずあの天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為にあるんです」
「それは気になるわね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」
その種族について浮かんだ種の確認ついでに、ジンの様な小さい子供に不意打ちながらいい様に扱われたのが気に食わないのか、若干の皮肉を込めて言う。
「え、居ますけど」
「……そう」
さも当たり前の様に返されると飛鳥は複雑そうに痛む頭痛を紛らす為、目を伏せて何とかそう返答した。
彼女からすれば前の世界から架空の種族、それも人類の敵として語り継がれている化け物が此処箱庭では跋扈していると言われれば、そんな反応をしても仕方がないようにも思う。
逆に生まれも育ちも箱庭のジンにとっては常識、物心ついた時から大人に教えられてきた事をまだまだこの世界に無知な彼女に教えようとしただけで、そんな彼にとっても彼女の反応は疑問の一言だった。
『しっかしあれやなあ。ワシが知っとる人里とは違うてえらく綺麗な空気や。まるで山奥の朝霧が晴れた時のような清み具合。ほれ、この噴水の彫像もごっつう立派な造りやで!お嬢の親父さんが見たらさぞ喜んだやろうな』
「……うん、そうだね」
「あら、何か言ったかしら?」
「…別に。何でもない」
先走った三毛猫が噴水の堀に座りながら噴き出す水を見ているだけに見えるが、友達と豪語する耀と生物の心が読める糸識は別だ。二人はその言葉を一字一句理解している為彼女は三毛猫を通して噴水を眺めて思考に耽る。元の世界に置いてきた家族を思い出しているようだ。
「あぁ、これは確かに見事だ」
糸識は三毛猫の言葉から彼女の父親が世界でも有名な彫刻家で、次いで彼女の記憶からその家族構成で母親が生物学者で両親の合作である系統樹のペンダントを片時も離さずに持ち歩いている事、初めて貰った病院での事、それまでの箱庭を彷彿とさせる御伽噺の様な語りで楽しそうに話していた父の顔が浮かんでは消える。
しかし、糸識がポロっと零したその一言が彼より少し前を歩いていた少女達二人に聞こえ、それぞれの反応を返してきたが彼は「何でもない」と誤魔化すだけ。ただ、耀からの視線が凄かった。
そんな合いそうで噛み合わない会話を展開しながら、一行は身近にあった六本傷の旗を掲げるカフェテラスに座った。
するとウェイトレスの猫耳の少女が一行のある一点を隠しつつ凝視しながら此方に向かって早歩きで注文を取りに来た。その長い鉤尻尾を立てているのはご愛嬌だろう。
「いらっしゃいませー。ご注文は?」
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」
『ネコマンマを!』
「……カフェ・オ・レ。ミルク多めで」
「はいはーい。ティーセット三つにネコマンマとカフェ・オ・レミルク多めですね」
「「……ん?」」と飛鳥とジンは同時に首を傾げた。
それは当然だろう。何度も言うが飛鳥とジンの二人は三毛猫の言葉が理解できない。それに加えこの場でネコマンマなんて頼んだ覚えはないからだ。
すると耀が驚いた顔で猫耳店員に、
「三毛猫の言葉わかるの?」
「そりゃわかりますよー、私は猫族ですから。お歳の割に随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ちょっぴりサービスさせてもらますよ!」
猫娘の言葉にキュピーン!と目を光らせた三毛猫は、耀の腕の中ながら彼女の方を向いて慣れた口調で語りかける。
『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度甘嚙みしに行くわ』
「やだもーお客さんたらお上手なんだから♪」
猫耳娘は嬉しいのか尻尾を立てたままフリフリ揺らしながら店内に戻っていった。
「…おい三毛猫、あんたまだ現役かよ」
ジト目で流し、「若い子引っ掛けて楽しいか?このエロ猫」と続くはずだった言葉は、食い入るように覗き身を乗り出してきた耀によって中断される。
「もしかして、貴方も三毛猫の言葉がわかるの?」
「……あー、そのエロ猫が何考えているかぐらいなら簡単に…」
その答えを聞いた耀は先程猫娘が話せるとわかった時よりも格段に嬉しそうに笑って抱いていた三毛猫を撫でた。
「……箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉がわかる人いたよ」
『来てよかったなお嬢。てか小僧、今なんて──』
「ちょ、ちょっと待って!貴女もしかして猫と会話ができるの!?」
憐れ三毛猫、飛鳥が彼の言葉を理解できないばかりに台詞を遮られてしまうとは。未だ糸識を睨んでいるが耀の質問に答えるだけ答えてからは出された熱いカフェ・オ・レを飲むに徹していた。存外にこれ以上は踏み込むなと言いたげだ。
一方、飛鳥に熱烈な質問責めに耀は少し驚きつつもコクリと頷いて返す。
「それはもしかして猫以外にも?」
「うん。鳥は雀、鷺、ホトトギスだけだけどペンギンとも話せたし、同じ水族館でイルカ達とも」
「そ、それは凄いギフトですね……全ての種と会話が可能なら心強いです」
「言語の壁はこの世界でもあるのか?見たところさっきの店員みたいな獣人もいるし肌の違う種族もいるから公用語かなんかがあるのかと……」
「はい。一部の獣人と呼ばれる獣の
「成程ね…」
さらっとギフトゲームについて重要そうな内容を話すジンに、他の二人は気づいた様子はないが糸識は頭が痛くなった。
「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
そう呟いた飛鳥の顔は暗かった。そんな彼女の顔を見た糸識は無意識に口を開く。
「あのな…久遠がどんなギフトを持ってるかは
自分でも驚く程饒舌に、こんな長文を喋ったのは何年か振りだと糸識は思いながら再び手元の飲み物をちびちび飲み始める。
それに、彼が指摘した部分とはまた別の問題が存在する。全ての種と意思疎通が可能なら、動物由来の食材を食べれない時期が存在したはずだ、と糸識は耀の無表情で感情が読み取りにくい横顔を見ながら感じていた。
「そう、ね。ありがとう零崎君。いえ、
「──好きにすればいい」
「ありがとう。私の事も飛鳥でいいわよ」
生きとし生ける者全ての心が理解できる彼にとって、彼女の心境の変化は敏感に感じ取れてしまう。故にそのまだ芽吹いてすらいない種を無闇に突いたりはしない。
彼もまた、先程自身が吐露した言葉通り、溢れた一人なのだから。
「それはそうと、貴方も会話できるのよね?」
「まぁ、な…。どっちかと言えば二人を足して二で割ったみたいな力だから使い勝手はいい分厄介過ぎるけど」
「本当!?じゃあ貴方ギフトを二つ持ってるの?私の力と春日部さんのギフトじゃ全然…」
この時、糸識は喋り過ぎたかと少し反省するが、彼の力の使い方の一つ──言霊の影響か、無意識に彼女達を仲間だと認識してしまっていたらしい。
「あの……久遠さんと」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」
「う、うん。私も耀でいい。……飛鳥と糸識はどんな力を持ってるの?」
「私?私の力は……まぁ、酷いものよ。だって──」
「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ【
彼女の言葉を遮ったのは座ってなお見上げる程の巨体に、その体に合わずピチピチのタキシードを着た褐色肌のヘンテコな大男。
カフェに入る前から物陰より四人の後を追い、先程から此方の話に混ざるべく、隣のテーブルで機会を窺いながら今しがた椅子ごと振り返った虎のギフトを持つ獣人であり、悪魔に魅入られし者。
その男の名は──ガルド=ガスパー、コミュニティ【フォレス・ガロ】のリーダーその人である。
当然ながら、物をすり抜けられるギフトを持つ者でもない限り糸識が持つ蜘蛛の巣の如く張り巡らされた結界から逃れる術は存在しない。
終始必死に気配を殺していたが最初から糸識にはコソコソテンプレみたいな奴だな、としか思われていなかった雑魚でしかない。
加えて言えば、「絶対こいつモブだろ」と。
次回、一部ですが、主人公君の能力が!