ちょっと書溜めが無くなってきたので一旦更新を止めさせてもらいます。読んで頂いている人に凄く申し訳ないのですが、どうかご容赦下さい。
さて、次は第五話どうぞ!
では☆
「僕らのコミュニティは【ノーネーム】です。【フォレス・ガロ】のガルド=ガスパー」
「黙れ、この
虎男の登場に目を剥いて驚いていたジンだったが、面識があり、且つかなりの頻度で交流若しくは一方的な接触が数多あったと予想できるジン少年の三人には見せなかった反抗的な言動に居合わせた少女二人は少しばかり意外そうに目を向けたが、この糸識は興味なく沈黙を保っている。しかも目を閉じて腕を組み、俯いている態勢の所為で周りからは寝ていると勘違いされる程。
それ程までにこの後の展開が読めてしまったのか、それともただ面倒事に関わりたくない一心でとった末の行動なのか。
「……それよりも、貴方。同席を求めるなら氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀というものじゃないかしら?」
「おっと、これは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ【666の獣】の傘下の…」
「烏合の衆の」
「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!!!」
飛鳥が話の流れを掴もうとガルドに対して建前程度の皮肉を混ぜた言葉を吐くが、言われた本人はその言葉に込められた真意を理解できなかったようで、言われた通りに自己紹介に移った。
因みに今のを訳すると、「邪魔だからどっか行って」だ。
その口上の中途で突然のジンの横槍に堪え性もなく本性を顕にする短気な獣。飢えた虎は確かに恐ろしいが、奴は虎と言えど張り子の虎で、正に虎を画きて狗に類すの的を得た有象無象。
つまり、この魔王のコミュニティという笠を着たハリボテに過ぎず、他人の真似をした所為で本質より劣化した贋作に過ぎない。それならば本来ある爪と牙を研いでいた方が遥かに健全で何より正しいのである。
そんな自身の武器を研ぐ事を忘れた獣以下の畜生に対し思う事など、なかった。
「口を慎め小僧…。紳士で通ってる俺にも聞き逃せない言葉もあるんだぜぇ」
「森の守護者だった頃の貴方なら少しは相応の礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二一〇五三八〇外門付近を荒らす獣です」
ほぅ……と糸識は今の言葉にいい意味で息を吐く。どうやらジン少年は中々に肝が据わってるようだ。その証拠に牙を光らせながら凄むガルドに正面から見据え、はっきりと切り返して見せた。これくらいをやれない様ではこの問題児達の相手は到底出来ず、それどころか破滅を招くまでだ。
いや、既に彼のコミュニティは……。
「そういう貴様はなんだ?出来もしない夢を掲げて過去の栄華に縋る恥知らずのノーネームではないか」
しかし、ガルドの言葉に口を開けなくなる。
「ちょっと待ちなさい」
流石に今のは聞き捨てならなかった二人の話を飛鳥が遮る。
彼女の視線がジンとガルドを交互に行き来して、やがて何かを耐える様に、しかしお嬢様らしくあくまで優雅に相手にそれを悟らせずに口を開いた。
「質問なのだけれども、ジン君がガルドさんに指摘されている状況…この説明をして頂けるかしら?」
「そ、それは…」
「御令嬢、それは本人の口から告げさせるのは些か酷というもの。宜しければ、この私がジン=ラッセル率いる【ノーネーム】のコミュニティを客観的に説明させて頂きますが?」
「そうね、お願いするわ」
飛鳥が答えた瞬間、隠す事もせずに口角を吊り上げたガルド。それに気づかない者はこの場にいなかった。
「では、まず『コミュニティ』とは複数名で作られる組織の総称です」
「それくらいは分かるわ」
「まぁお待ちを。そしてコミュニティは活動する上で箱庭に『名』と『旗印』を申告しなければなりません。特に旗印は縄張りを主張する大事なモノ。もしこの店を自分のコミュニティに置く事を望むなら、そのコミュニティに両者合意の上で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです」
そこで一旦言葉を切ったガルドは座る四人を見回し反応を窺う。ジンは青い顔をしているが、他の
「私のコミュニティは
「へぇ…」「……」
「かのリーダーは優秀な男だったそうです。ギフトゲームの人類最高記録を持っていたとか。まあ、先代の話ですが。ですが、そのコミュニティはたった一夜で滅ぼされた。『魔王』と呼ばれる者達にね。今や失墜した名も無きコミュニティの一つでしかありません」
「……そう。事情は分かったわ。それでガルドさんはどうして、私達に丁寧に話をしてくれるのかしら?」
ガルドはその言葉を待っていたかのようにニヤリと笑い、糸識に飛鳥、耀を見てこう言う。
「もし皆様が宜しければ、黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しくしていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。何も知らない相手なら騙し通せるとでも思ったのか?それならこっちも箱庭の住人として通さなきゃなんねぇ仁義があるぜ」
ガルドの言葉にグッと言葉を飲み込むジン。それを見て満足そうにふんぞり返ってから、居住まいを正し三人に向き直る。
既に色々遅い様な気もしなくはないが…、虎男なりに筋書き通りの展開に持ち込めたらしい。その表情からは達成感や満足感に満ち溢れていた。
「で、どうですか御三方。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも箱庭で三十日間の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達【フォレス・ガロ】のコミュニティを視察し、十分に検討してから…」
「結構よ。だって私はジン君のコミュニティで間に合っているもの」
しかし、遮って返って来た飛鳥の言葉に信じられないものを見る様に彼女を見るジンとガルド。勿論、今までの話を聞いていなかったとか、そんな理由ではなく彼女なりによく考えた上でそもそも自身が此処に来た本来の目的を思い出して、合点がいったところか。
自分の話はもう終わりと、真正面の席に座っていた耀に今の心情を促していた。
「耀は今の話をどう思って?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」
そこでも糸識は反応すらせずただ腕を組んだまま微動だにしない。
「あら意外。なら私が友達一号に立候補していいかしら?」
早速此処に来た理由の一つである、対等な友人を作るという『外の世界に飛び出す』という彼女なりの目的を実行に移す飛鳥。そんな彼女を見て少し考えてから頷き、耀は隣の糸識の顔を穴が空きそうな程見つめながら言った。
「……うん。二人とも私の知る人とちょっと違うから多分大丈夫。それに三毛猫と話せる糸識とも仲良くしたい」
『お嬢!?よりによってこんな奴と!』
彼女のある意味大胆な告白に、我慢ならん!と突然叫ぶ三毛猫は他でもない耀の手によって物理的に黙らせられていた。
そんな中、想定外の返答に思考が停止する程驚いていたが、突如始まった友達誕生の瞬間という穏やかな空気に当てられガルドは口を割って入ってきた。
「……失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
「だから、間に合っているのよ。耀は聞いての通り。そして私は、凡そ人が望みうる人生全てを支払って箱庭に来たわ。それを小さな一地域を支配しているだけのコミュニティに入ると思ったのかしら、このエセ虎紳士」
言葉は丁寧だが、その分その辛辣さが浮き彫りになりガルドの痛いところを突くように胸に突き刺さる。
「あ、貴方はどうなんですか?」
彼は苦し紛れにカップの中身を飲み干していた糸識に訊ねた。この彼も先程から彼女らのフォローや友好的な雰囲気を纏っている事から望み薄だが、それでも止まれない。一度犯した罪は何時の日か日の当たる場で然るべき秩序によって裁かれる。
だからその為に【箱庭の貴族】を手に入れ、事が終われば上に献上して更に勢力を広げるという野望の為。此処で止まる訳にはいかないのだ。
だが、彼のこの焦りから生まれた行動が、破滅を呼ぶ事を誰が予想できただろうか?
「ん?俺か…」
糸識は問いかけに少し考える振りをする。しかし、もう彼は決まっていた。この箱庭という存在を知ってから己のこの特異な力、恩恵とも加護とも呼べぬ
それが喩え後ろ指さされ、過去の様に皆が自分から離れて行こうとも。自分自身、もう生きるのに疲れていた、というのも当然否定できない。
本音を言えば、この箱庭でこの生を閉じるのも悪くないと思える。でもしかし、だからこそ、最期は派手に飾ってくれる。
「……俺は正直どっちでもいい」
俺の言葉がそんなに意外だったか、ガルドでさえこの場にいた全員が不思議そうな表情になる。
「元々箱庭に来たのは何の変わり映えもしない時代の流れを、ガイヤだアラヤだとかいう奴らにただひたすら眺めるだけの傍観者に据えられていたからだ。ああ、そうだとも俺も元の世界に不満を抱いていた一人さ」
糸識は言葉を区切り、ガルドを睨む。
「だがな?これでも世界の抑止力としての名残かルールに関しちゃ厳しい方なわけよ。だから今回は箱庭のルールに則って
彼の言葉にガルドは一瞬だが表情を崩して次に今にも切れそうな青筋を立てるがまだ切れない、踏み込めない。
「お、お言葉ですが」
平静を装うと額から脂汗を流しながら言葉を紡ぐが、無情にも糸識の思惑に気づいていた飛鳥に阻止される。
「
「っ……!?」
ガチンッ!と開いていた口が本人の意思とは別に無理矢理閉じられ、歯並びの良い牙が金属の様な音を立てて当たる。目を白黒させているガルドを余所に命令した飛鳥は当然の様に椅子に座ったままだ。
これが飛鳥の
「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけない事があるのだもの。貴方は
するとガルドは抵抗なく椅子に無理矢理だが座らせられる。その様子を見て、驚いた猫耳の店員が急いで飛鳥に駆け寄る。その程度で済むのは此処が箱庭たる所以。誰かのギフトであると寧ろ当然と予想できるからだ。
「お、お客さん!当店で揉め事は控えてくださ」
突然のこの状況。相席をお願いした覚えもなければ、先程から気にかけていたあの老猫がいる席によりによって店のコミュニティの傘下一の問題児が何か粗相をしたのは間違いなく、飛んできた猫耳店員はとりあえずマニュアル通りに応対しようとしたが、これもまた飛鳥によって止められた。
「丁度いいわ。猫の店員さんも第三者として聞いて欲しいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」
元の世界なら老害共を相手する時でしか張り付ける事のなかった悪どい表情を浮かべて、飛鳥は糸識の方をちらりと見てから店員を傍に控えさせた。
「では聞くけれど、貴方はこの地域のコミュニティに
突然振られた少年も彼女の威光の余波に当てられ縮こまるが、彼女の雰囲気というかオーラがそれを許さない。
「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」
「そうよね。そのコミュニティ同士の戦いに強制力を持つからこそ魔王は恐れられている。なのに魔王でもない貴方がどうしてそんな大勝負ばかりを続ける事ができたのかしら。そこの所、
今までの拘束のまま新たな命令が下されたガルドの口は、その意思に反してペラペラと今までの罪状を語りだした。
「…強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫する事。これに同意しない場合は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「まあ、そんなところでしょう。貴方のような小者らしい堅実な手よね。けどそんな違法で吸収した組織が貴方の下で従順に働いてくれるのかしら?」
「…各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」
そのから先は糸識の知る事ながら止めようともしない。それが未だ軽んじている籠の鳥であった飛鳥への第一の試練でもあると思ったからだ。
それも、彼女が毛嫌いする者に対する本当の意味での決別、それを乗り越えた先で彼女はやっとスタートラインに立てるのだ。
「……そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されているの?」
小悪党の考える事だ。既に
「…もう殺した」
瞬間、その場にいた猫耳店員、ジン、飛鳥、耀が固まる。
口を開く前にニヤリと嗤い、この破滅を前にした男が考えたのはこの小娘の絶望に染まった顔を見る事。
それが叶った後はもう自棄だ。自分の意思を離れていたはずの口は聞かれてもいない事を次々に喋りだし、ガルドは一人事実に悲愴な表情を浮かべた飛鳥を見てさらに笑みを深めた。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降は連れてきたガキは全部まとめてその日の内に始末する事にした。だが、身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないよう腹心の部下が食」
「
初めと同じくガチンとガルドの口が閉じられる。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いた様な外道とはそうそう会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界と言ったところかしら……ねえジン君?」
男が語った所業に圧倒され、驚愕のあまり固まっていたジンはハッと気付き慌てて飛鳥の発言を否定する。
「彼の様な悪党は箱庭でもそうそういません」
「そう?それはそれで残念。──ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁く事は出来るかしら?」
飛鳥は既に黒ウサギの説明からギフトゲームの他に元の世界と類する法が敷かれている事を知っている。
その上での問いに、再びジンは難しそうな顔をしながら言った。
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質を攫ったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですが…裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
対して飛鳥はそれでは満足できない顔で言う。
「そう。なら仕方ないわ」
パチンッと指を鳴らすとガルドは自由になる。だが、彼女も完全に諦めた訳ではない。他にも方法は腐る程ある。例えば、
「こ……この小娘がァァァァ!!」
途端自由になった体をギフトで完全に獣に変化させたガルド。その姿は虎というべき仰々しい姿だ。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが…俺の上に誰が居るか分かってんだろうなァ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人ッ!」
そのまま飛鳥を跳び掛かり襲おうとするが、突然その巨体は宙に浮いたまま動きが止まる事になる。何故なら今まで沈黙に徹していたはずの糸識がガルドに対して牽制、若しくはギフトを使用したからだ。
「なぁ、クールダウンだ。少し落ち着こうぜ」
瞬間、止まったままだったガルドは地面に叩きつけられ、不思議そうに此方を見上げていた彼の顔を糸識は踏む行為だけで組み伏せてみせた。
「ありがとう糸識君」
不思議な現象を目の当たりにしたのに平然と、それが当然と隣に立つ彼のギフトであると疑わない飛鳥。
「別にこのぐらいどうって事ない」
本当に大した事ないと言った体で気怠そうガルドの頭を踏み続ける糸識。
「さて、ガルドさん。貴方の上に誰が居ようと私は気にしないわ。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した
そこで飛鳥は一度糸識を見る。考えてる事は同じ。
さらに人の心を機敏に感じ取る糸識はそれだけで彼女の意図を把握、一瞬の思考の後頷き、飛鳥と呼んで返す。まるで長らく付き添った相棒、若しくは熟年夫婦の様なアイコンタクトに、ガルドが飛び上がった瞬間席を立ったまま手持ち無沙汰になっていた耀は、そんな二人を見て面白くないと頬を膨らませていた。
「さて、ガルドさん。ここで貴方を見逃した所で貴女が破滅するのは時間の問題。でも私は貴方のコミュニティが瓦解するだけじゃ満足できないの」
と飛鳥は一旦言葉を切り、あの挑発的な笑みを浮かべた。
「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の【フォレス・ガロ】存続と【ノーネーム】の誇りと魂を賭けて、ね」
「俺達と『ギフトゲーム』をしよう。お前の【フォレス・ガロ】存続と【ノーネーム】の誇りと魂を賭けて、な」
こうして、ジンを含めた彼ら四人によるギフトゲームは開幕した。
という訳で、零崎糸識の能力を初披露。
既にある程度予想している読者の方もいると思いますが、
本作品では設定集は書かないと考えてます。
そんな訳で後々名称が登場しますから、それでまた考えてみて下さい。