京の都で動きがあった。人間の兵士と何人かの祈祷師や僧侶があちこちに現れた(実際はいないのだが)化け物に攻撃を仕掛け始めた。
「ぬえ、あいつら攻撃しかけてきたぞ。どうする?」
「うーん、いい加減飽きてきたし、別のところに行く?」
「いや、俺に聞いてどうするんだよ・・・」
質問したのに質問で返してくるとは予想していなかった。
「じゃあさ、最後にいっぱい暴れて終わろう!」
ぬえは、こののまま逃げず最後まで引っ掻き回していくようだ。
「そしたら、八咫とはお別れだね。お互いまたあてもなくぶらぶらしながら旅に出る」
「そうか…。少し名残惜しいが仕方ない。それに、またいつか旅先でばったり出会うこともあるだろ。そのときは、」
「うん!そのときは、また話そう、八咫!それじゃ私はもう行くね」
「おう、またいつか」
「にひ!」
一度だけぬえはこちらを振り返りあの悪戯好きな笑顔を見せて飛び出した。
今思えばこの二か月は楽しかった。
「さて、俺も一暴れしますか」
まぁ、俺は鏡の付喪神だからたいしたこと一人じゃできないけどな。
そんなこと考えながら都に足を進める。
・・・・・・・付喪神移動中・・・・・・・
ぬえ視点
「うわあああぁぁあ!?化け物の親玉が出たぞ!?」
「ひ!?く、くるな。来るなあぁあ!!」
「ええい、馬鹿者ども怖気づくな弓を射かけよ!!」
八咫と別れた後、私は都を横切る形で駆けている。人間どもは矢を射り、刀や槍で突っ込んでくるがそんなことでは止めることはできない。途中、ここで最初に出来た『種』がやられたのは予想外だった。人間にも強いやつがいるんだなぁ、と思いながら都を出ようとしたとき、
「『清めの波』」
「ッ!?」
ぬえの能力で出来た化け物が一瞬で払われた。
だが、そこは大妖怪。ぬえはすかさず新たな化け物になり攻撃された位置から距離を取る。
「誰だ!姿を見せろ!」
「そんなに急かさずとも出てきますよ」
声がする方を振り向くとそこには、手に数珠と抜き身の短刀を構えた僧侶の姿をした線の細い少年だった。
「(・・・こいつ強いな。とんでもないぐらいの霊力を纏ってる!)」
僅かに、ぬえは緊張する。大妖怪でありながらも鬼の様にぬえは戦闘が得意なわけではない。
「ああ、安心してください。少しの間、地底に送るだけです。命は取りません」
「こいつ!舐めた口を利きやがって、覚悟しろ!!」
だからといって、ぬえにもプライドはある。ここまで、馬鹿にされて引くなどありえない。
こんな奴直ぐに倒してやる!
距離は人間のあしで三十歩もない。距離を詰め吹き飛ばそうと身体に力を入れた瞬間、
「『不動明王・縛』」
「グッ!??」
地面から縄がぬえを縛りその周りに経が浮かび上がり封印の陣が完成する。
さっきまで、足下には何もなかったのに!?何で?
混乱した頭で必死に考えながらどうにかして陣から逃げ出そうともがく。
「どうして?という顔をしていますね。ええ、実はとても簡単なことですよ。予め、陣をここに張っていただけですから」
あくまで、何でもないように話す少年をぬえは睨み付ける。
もう、どうあがいても抜け出すことが出来ないと分かったからだ。
ごめん、八咫。旅の話できないや・・・。
そして、ぬえは地底に送られた。
八咫鏡視点
「ふう・・・。やっとか」
道で出会う人間を驚かしながら進みあと少しで都の外に出られる。だいぶ時間が掛かったのは道に迷ったからだ。だって、仕方ないだろう!ぬえの『種』と戦った人間たちがわんさかいて何時も通っている道が塞がっていたんだから!
「ふむ?また、面妖な妖だ。だが、丁度いいか・・・」
「む?」
門の後ろから陰陽師が二人出てきた。
それにしても、爺さんと子どもとは随分と奇妙な二人組である。
「さて、ではそこの妖よ。貴様、この子の『式』に成れ」
「馬鹿か?」
しかも何言ってんだこの爺さんは?いきなり、『式』になれとは非常識であろう。まず、お互いに話し合ってだな・・・
「そうか。なら、力づくでもなって貰おうか」
「はあ?ってうお!?」
霊力の籠った針が足と胸めがけて飛んできた。それを如何にか弾く。
このクソ爺いきなり攻撃してきやがったぞ。お前は、天狗か!
「ふっ!」
さらに、子供にしては有り得ない速さで近づきわき腹に掌底を打ってくる子ども。その手には呪が描かれており当たるとまずいと本能が警鐘を鳴らす。
「あぶね!?何なんだよ、いきなり!?」
俺は、二人の攻撃を避けながら訪ねる。いきなり襲われる理由もないのだから。
「ふむ?何とは変なことを聞く。貴様を退治するためだ」
ああ、なるほど。前言撤回、ありました。
「はあ。それにしても、期待外れだ。私を倒すぐらいと思ったのだが見込み違いか・・・」
そりゃあ、悪うございました!
心の中で悪態を吐きながら逃げる隙を伺う。だが、そんなことも奴が言った一言で吹き飛んだ。
「これならもう一方を捕まえればよかったな。今じゃ、もう一方は死んでいるころだろうし。もったいないことをした」
「は?いまなんて?」
聞き間違いだ。そうに決まっている。だって、あいつは・・そんなことは・・・。
いるのかも分からない神に願う。どうか、聞き間違えであってくれと。だが、無情にも爺は言い放つ。
「だから、貴様といた奴は死んでいる頃だといった。全く、頭も悪いとはな」
爺が蔑みの視線を向けてくるが気にしていられない。
茫然自失とした俺に気づいた奴はさらに言葉を続ける。
「ん?なんだ、貴様?奴の事が気に入っていたらしいな?ははは!これは、惜しいことをした!貴様の前で滅してやれば簡単に駒が手に入ったであろうに。まあ、貴様の様な屑はいらんがな。それに、報告では女らしいから式以外でも使えたな。いやはや、失敗した」
口元は弧を描き嗤っている。その横では無反応な子ども。
ああ・・・。あいつにはもう会えないのか。
身体が鉛の様に重い。奴が何を言っているのかは分からない。
けど・・・
「ふん。壊れたか。所詮は人の悪意から生まれたもの。いなくなっても変わらんか」
だけど・・・
「おい、邪魔をするな。なんだ?その反抗的な目は?邪魔だと、言ってるだろう!!」
こいつだけは・・・
「さて、あの餓鬼は後で躾けるとして。ではな、妖。せめていい声で叫べ、滅」
「ころす」
現・安倍清明当主視点
私は、出来損ないが邪魔をしてきたので蹴り飛ばす。全く、私の手を煩わせよって・・・。
私は生まれつき霊力が高く様々な妖を滅してきた。老いには勝てないがそれでも秘術を用いて百八歳まで生きてきた。だが、我が息子は身体が弱く使えず仕方なしに分家から子を引き取った。
その息子は十八で死んだが子どもがいた。なんでも、人目惚れした女子とできた子だとか。期待はしていないが一応預かった。が、やはり出来損ない。
しかし、一度引き取ったのだ。仕方なしに稽古をつけ、今日適当な妖を『式』にしてやろうと思えば邪魔をするとは。帰ったら仕置きが必要だな。
その前に、八つ当たりでこいつを消すか。せいぜい、いい声をあげろ。
そして、いつものように断末魔が・・・聞こえなかった。代わりに地獄の亡者の様な声で
「ころす」
ただの一声のはずなのに。術式は崩れさり妖は滅さず自身が空中を舞う。
「な!?」
今の今まで、跳ね返されることはあっても術式の制御は失敗したことはないのに!?
「何をした死にぞこないが!」
老体とは思えない軽やかさで地面に着地して妖に対し激昂しながら奴の顔を見る。この時初めて、後悔という言葉の意味を知ったのであった。
次回は八咫と陰陽師が戦います。