「そういえば、八咫。食糧は持ってきているのですか?」
「え?」
「え?」
俺達は朝の内にお世話になった茶屋から出発した。
さあ、出発という時に事件は起こった。まぁ、俺が悪いんだけど・・・。
実は、旅で絶対に必要な食糧の買い出しをせずに行こうとしたことが発覚し、俺は真から霊力の籠った拳を綺麗に顎に貰い宙を舞うことになった。
「八咫は馬鹿なのですか?普通は用意していくでしょうに」
「仕方ないだろ。俺は、食事取らなくても大丈夫なんだから」
確かに、人間の形をしているがこの身は妖怪。ある程度は食べなくても平気なのだ。
「はあ・・・。まあ今なら都までそう離れていませんし、一度戻りましょう」
「げっ。また戻るのか?俺、あんまり気が乗らないんだが・・・」
異議を申したてるが結局、姿を変えて戻ることになった。
・・・・・・・付喪神と少女逆走中・・・・・・・
「いいですか。これからは、ちゃんと食糧も買って下さいね」
「はいはい。分かったよ、ご主人様」
「ふざけないでください」
真は、俺にじとっとした目を向けてきた。
おおこわい、こわい。
そんなことを考えていたその瞬間、目の前の風景が変わる。
「な!?」
「八咫!!」
いきなりの事で頭が真っ白になる。俺の足は地面を踏まず暗い空間に落ちる。
何なんだよ!ようやく、ゆったりとした旅を満喫できると思ったのに!
そこは、夥しいまでの『眼』で覆われた空間だった。
「あはは・・・。詰んだかもな」
相手の領域に踏み込んだ時点で俺の敗北は決まっているようなものだが、戦わずうまく逃げる自身があったのだがこれは無理だ。
まず、出口が分からない。上から落ちたのだから上にあるはずなのだが『眼』しかない。
次に、方向感覚が分からない。立っているのか落ちているのか曖昧だ。
最後に、目の前に俺をここに落としたであろう妖怪がいる。女性の様だがこいつは・・・。
そいつは、優雅に扇子で口元を隠し、珍しい傘をさしていた。また、髪は金色の長髪、服は紫を基調とした八卦の萃と太極図の描かれた中華服を着ている。
一瞬で分かる。こいつは、俺とは全く次元が違う。下手に動けば死ぬと俺の感が告げている。あの爺と戦った時のように死を身近に感じる。
だが、俺は死ぬわけにはいかない。まだ、やり残したことが多くあるのだ。
俺は相手の出方を待つことにした。
「こんにちは、私の名前は『八雲 紫』。鏡の付喪神さん。少しいいかしら?」
「ああ、手短に頼みたい。連れを待たせている」
良かった。もし、言葉の通じない奴だったら終わっていた。ひとまずいきなり戦闘ということは避けられた。
だが、まだだ。こいつが俺を何のために連れ込んだのか知らなければ安心できない。
そして、緊張したまま次の言葉を聞き、俺は呆気にとられた。
「実は、貴方に手伝って欲しい事があるの」
「手伝い?俺に?」
何で?こいつは、俺よりもはるかに強いのに俺が手伝えることなんてあるわけないはずだ。だが、
「話を聞こう。その前に、俺をここから出してくれないか?連れも心配だからな」
「いいでしょう。では・・・」
そいつは、手を前にかざし『眼』に触れた。すると、眼がぐにゃりと形を変えて外の風景を映し出す。
「どうぞ。そこから出ればさっきの場所よ」
俺は、言われた通りに其処をくぐる。太陽の暑さと風の心地よさが身体に伝わる。
「八咫!無事ですか!?」
「うおっ!?ま、真?」
そして、勢いよく真が近づいて来た。
「あらあら、随分と仲が良いことですわ」
そして、別の位置から八雲が出てきた。
「ッ!!」
「待ってくれ。大丈夫だ、真」
臨戦態勢になった真を落ち着かせるため説明する。
真視点
「八咫?簡単に受けるというのは軽薄すぎます」
「いや、話を聞くだけだから。まだ、受けてないから?」
はぁ・・・、こんなこと言いながらもきっと受けるのでしょう。八咫の性格は少し話すだけである程度分かってしまう。口では、何だかんだいっても基本的に素直で優しい。
故に、私は心配だ。先ほどの妖怪は八咫の能力を知っている。じゃないと、初対面なのに話し合いを提案してくるはずがない。
何処で知ったのかまでは分からないがあの妖怪にとって八咫は都合のよい道具にしか見ていないのだ。あの妖怪ははっきり言って怪しすぎる。
だから、私がちゃんと見ていなくては。八咫が使いつぶされないように。
だって、八咫は私の式ですからね。