心地の良い風が頬を撫で、太陽が天高く昇る昼時に目が覚めた。
重たい瞼をこすり周りを見渡す。
「凄いな・・・。これが、生きるということか・・・」
付喪神となり初めてみる風景は、改めてこの世に生まれたということを実感させてくれる。
死んだ都から森の深い山に登り、そこで天狗を助けるも息つく暇なくその仲間に襲われ死にもの狂いで逃げた。そのため、周りの景色など気にすることも出来なかった。
俺はこの感動を生涯忘れることはないだろう。
付喪神の俺にとって記憶とは一番大切なものだ。忘れ去られることは何よりも寂しい。
それは、人も物も風景も同じことであろう。
俺は満足のいくまでこの景色を目に収め、また山道を進む。
・・・・・・・付喪神移動中・・・・・・・
大体、三刻ほど歩いただろか?澄んだ川を発見した。
きらきらと日の光を反射している川の水を試しに飲んでみる。
ごくり
う、旨い!水とはこんなに旨いのか!
初めて飲む水に驚愕しながら何度も飲む。
そこでようやく、喉が渇いていたことを知る。丸二日も何も飲まず食わず過ごしていたのだ。普通の人間なら当の昔に倒れているのだが、そこは生まれて間もないものの妖怪。
冷たい水が喉を通るたび身体の疲れが消える様な感覚になる。
「あの・・・、旅の方ですか?」
「ひょいッ!?」
水を飲んでいる所いきなり後ろから声をかけられ肺に水が入り変な声が出る。
「ごは、ごほごほ!!」
「ああ!?すいません!大丈夫ですか?」
後ろを慌てて振り返るとそこには、かごを背に背負った一人の老人が立っていた。
「ああ、大丈夫だ。失礼だがこのあたりの者だろうか?できれば、今夜泊めてもらいたいのだが・・・」
「ええ、私の家でしたらどうぞ。あまり豪華な物は用意できませんが休まれてください。代わりといっては何ですが、旅の話でも聞かせてください」
老人はなぜか嬉しそうに家に招いてくれた。一瞬、妖怪が化けているのかと思い『映した』がただの人間の様だ。・・・なんだが違和感があるが気にする必要もないだろう。
だが、それにしても老人のくせに足腰がしっかりしているようで山道にも関わらずスイスイ進んでいく。
老人とは道中、たわいもない会話を交わしながら家に向かった。
そして、老人の家に着くと一人の老婆が迎えてくれた。
「今帰ったぞ」
「あらあら、お帰りなさい。おや、後ろの方はどうしたんです?」
老人がこれまでの経緯を簡単に説明すると快く承諾してくれた。
二人は仲睦まじく暮らしているようだ。その証拠に何とも幸せそうな表情をしている。
・・・・・・・付喪神雑談中・・・・・・・
「そうですか、なかなか危険な場所を通ってきたようですね。しかも、魔除けの符も無しにですか・・・。いいですか?これからは、魔除けの符を持って旅にでなさい。これは、年長者としての忠告です」
礼儀正しい老人の話を聞き、いかに符が必要か教えて貰った。
…まあ、妖怪だから使えないのだが。
人間は弱い生き物だ。だから、どの種族よりも身を守るのに長けている。
陰陽師、退魔士、巫女など今では俺たちにとってかなりの脅威である。
・・・それにしても、なぜ俺は生まれたばかりなのにこんなことを知っているのだろうか?
いや、知らないこともあるのは確かだ。だが、ある程度の常識と言われるものは持っているように感じる。・・・・まあ、今夜ゆっくり考えるとしよう。
そうこうしているうちに夕飯の時間になった。そして、夕飯を食べながら老人と老婆は名を教えてくれた。老人は竹で色々な物を作りながら生活しているため周りからは竹取の翁と呼ばれ、そのため二人は竹取の夫婦と呼ばれているそうだ。
二人にはそれは、それは可愛い娘がいたそうなのだがわけあって会えなくなってしまったらしい。あって間もないがこの二人には悲しい顔をしてほしくない。だから、
「二人とも俺に何か出来る事があるのならなんでも頼んで欲しい。必ずその願いを叶えて見せる」
俺は妖怪だ。少なくともこの二人よりは長く生きるだろう。これも何かの縁だ。会える可能性は少ないが、もし会えたのならその子に二人の言葉を伝えたい。
「・・・では、これを私たちの大切な娘『輝夜』に渡してください」
二人は驚いたような顔をしたが、すぐに優しい顔に戻りお婆さんが後ろの箪笥から手紙を取りだし手渡してきた。
「任せられました。必ず渡して見せます。今日は、本当にありがとうございます。おやすみなさい」
礼をして二人から託された手紙に自らの能力を使って記憶に『写す』。
そのまま、用意された寝床で眠りについた
今宵は満月。
奇跡が起きる日である。老夫婦を月の光は優しく照らす。
「お爺さん、これで肩の荷がおりましたねぇ」
「そうだなぁ・・・。婆さんやもう逝くとしますか」
「うふふ、またあの子に会いたいですね・・・。貴方・・・愛していますよ」
「ああ、また来世で迎えに行くよ。・・・愛しているぞ」
淡く柔らかい光が満ちた。
次の日、夢から覚めると二人はいなくなっていた。
それどころか、綺麗だった家もボロボロになり果てていた。
それでも、昨日託された手紙は残っており夢や幻でないことを証明している。
疑問はあるが、そんなものだと納得することにした。
なんせ、この世の中には妖怪や神がいるのだ。
別段、不思議がる必要もないだろ?それに、こうした不思議な出会いも旅の醍醐味だろう。
旅に出る前に一晩お世話になったボロボロの家に向って黙祷を捧げる。
不思議な一夜の出来事を胸に刻み目指すは都。
まだまだ、先は長いが・・・。まぁ、楽しんでいくとするか
…それにしても俺、未だに人間に会ってないな…。
少しばかり不安になりながら鏡の付喪神は進んでいく。
付喪神は約束を守れるのでしょうか?彼の旅路には、これからも多くの出来事が起こる事でしょう。次の出会いはいったいなにが起こるのでしょう?
誤字や脱字を見つけたら言ってもらえると助かります。