はじめてなので誤字脱字があるかもしれません^_^;
『シロウー貴方を愛しています。』
俺が愛した少女は、そう言って俺の元を去った。
あの黄金の別離からどれくらい立っただろう。
沢山の事を忘れた。俺に正義の味方になるという夢を与えてくれたじいさんの顔だってもう、薄っすらとしか思い出せない。
でも、あの事だけは覚えている。
月明かりの下、黄金の髪を揺らしまるで宝石のような翠眼でこちらを見つめていたあの美しい少女との出会い。
そして、最後はそうなるのだと理解していたのに、中々受け入れられなかったあの別離。
「セイバー…」
短い間ながら、その小さな身に似合わない剣を使いこなし、共に戦い抜いたあの少女。
そして、俺が確かに愛したあの少女。
共に戦い、時には体を重ね合い、俺が自分の身より大切だと思えたたった1人のあの少女はもういない。
あの少女は、自分が元から居なかったと思わせるように何1つ残さずに消えていった。
時代を超えたあの出会いは、偶然ではなく運命だったのであろう。
であれば、また会えるはずだろう。
だって、俺たちはまだ出会う必要があるのだから。
『貴方を愛しています。』
その言葉には返事を返せていない。
何よりあの少女には幾度と無く命を守られた借りがある。
借りは返さないといけないというのは、この世の中の道理だ。
「さあ、行くか。」
俺は高校を卒業してから、進学もせず遠坂にしつこいぐらい誘われた時計塔にも行かずに日本を出て世界各地を飛び回っている。
今はアフリカで難民を助け、次は気休め程度にイギリスで観光をするつもりだ。時には休憩って物も必要だろう。
「イギリスって言えばアーサー王の墓があるところだよなぁ」
折角だし、そこには寄ってみるつもりだ。
まあ、遠坂に会ったら観光どころじゃ済まないだろうけど。
「ついたな、さあ初めはどこに行こうかな。」
エディンバラ城、オックスフォード、色々な物が頭に浮かんだ。
「まあ、とりあえずは飯にでもしようかな。」
折角イギリスに来たのだからとイギリス料理を食べてみたが、いくら世界各地を飛び回っているとしても、日本人の味覚は消えてないみたいであまり口に合わなかった。
「次からは適当にキッチンを借りて料理でもするか。」
遠いところまできてすぐに帰るのは些か呆気ない気もするから、数日はここに居ようと思う。
まあ、気休め程度に来たとは言えどやる事は山のようにあるから、あっという間に時が過ぎた。
「最後は、やっぱりセイバーの墓に行っとか無いとな。」
そう思い、グラストンベリー修道院を訪れた。
あんまり、人がいないなと思いつつも、まあ俺の他にアーサー王に特別な気持ちを抱く人も少ないだろうしと自分で出した問題を自己解決していた。
やっぱり、普段は考えないようにしているけど、こうやってセイバー、いやアーサー王に関係がある場所を目にするとあの時のことを思い出す。
人がいない事をいい事に目を瞑り、感傷に浸っていると後ろから人が来た。
「すいません。申し訳ございませんが、少し場所を譲って貰ってもいいですか?」
それに気付き、場所を譲ろうと思ったが、その声を聞いて動けなくなってしまった。
何か懐かしい声。
頭の隅に残っている、いや、頭に焼き付いて離れないとも言えるその声。その声が発せられた方を期待しているような、恐がっているような気持ちで振り向いた。
「セイ…バー…?」
そこにはやはりというか、まさかというのかどちらかが怪しいが確かにあの時、いや、今も愛して堪らないその少女とローブを深く被った老人がいた。
思わず肩を掴む。
「セイバー!セイバーなのか!?」
そのあまりの激しさにその少女は顔をしかめながらこう言った。
「すいません!多分、人違いです!」
その声に我に帰った俺は何て事をしてしまったんだと思い、手を止めた。
「あの、何というかすいませんでした。昔の大切な人に似ていたので。」
あまりにもその現状が酷すぎてその場にいる事が耐え切れずそのまま立ち去ろうとしたが、少女は俺を呼び止めた。
「人違いと言いましたが、私も貴方の顔を見たときどこか懐かしく思えました。もしかして、何処かでお会いしたことがありますか?」
そう聞く少女の姿が、あまりにも美しくあの少女に似ていて、今すぐにでも抱きしめたくなる気持ちを抑え、その質問に答えた。
「ああ、どうだろう。君とそっくりな人とは、会ったよ。何年前だったかな?2週間ほど日本で共に暮らしていたんだ。」
そう言ったものの、よく考えればセイバーはこの時代の人間じゃない。ここにいるはずも無いんだ。そう、それが何かの大魔術でこの時代に来ること以外では考えられない。そして、その大魔術なんてものはあるかも分からない。だから、この子はセイバーじゃないんだ。
そう思い、取り敢えず少し話をして、帰ろうと思った。何より、この子を見ているだけで少ない記憶を思い出せて楽しい。
「そうですか。実は私、3ヶ月ほど前からの記憶がないんです。ですから、もし昔に会っていたとしても思い出せない。少しずつ戻っていくらしいですが。貴方の名前は?」
ああ、だからあの時、呼び止めてくれたんだ。
「俺の名前?衛宮士郎だよ。」
気のせいか、後ろの老人が微笑んだように見える。優しい、でもどこか妬むような。でも、そんな事は気にはできない。今はこの少女との時間を大切にしたい。
「シロウ、ですか。この名前を口にしたきがあるような気がします。」
ああ、本当に似ている。
「君の名前は?」
ここで出会ったのも運命だ、と思い名前くらいは聞いてみる事にした。どこか、期待をよせて。
「私の名前はーー」
その自分の名前を名乗るときの顔は凄くあの顔に似ていた。
月明かりの下、出会ったあの時、自分の名をセイバーと言ったあの少女の顔に。
「ーーアルトリア・ペンドラゴンです。」
「ッ…!?」
言葉に出来なかった。いや、余りの驚きで声を出せずに絶句した。
こんな偶然はある訳ないじゃないか。幻か現実かの区別もつかない。
だが、この心地よいそよ風の当たりが自分に現実だと知らせる。
なら、なぜ?頭が回らない。思考回路が停止している。
「ーー貴方はシロウのことを知っていますか?マーリン。」
その会話が思考回路を回転させた。マーリン、生前セイバーと関わりがある大魔術士。セイバーからも偶にその話を聞いていた。魔術が廃れたこの時代にセイバー、ランサー、アーチャーなどの英霊をこの世に呼び出せるのなら、かの時代の魔術師なら時空を超えることもできる可能性がある。それにセイバーは異端で聖杯戦争時にはまだ死んでいなかった。
「マーリン、さん。俺の事を知っていますか?貴方達が暮らしていた時とは掛け離れた時間に冬木の地で彼女と共に聖杯戦争を戦い抜きました。」
その、マーリンと言われている老人に尋ねる。もしかしたら、無関係者かも知れない。でも、今はそんな事はどうでもいい。真実を知りたい。そして、願わくばセイバー、いや、アルトリア共にまたあの地で暮らしたい。
「ああ、知っているとも。お主がこやつの事を愛し、こやつがお主の事を愛していたのも知っている。
そして、お主といた時こやつは、生前、捨てた感情を抱いていた。
それが何より嬉しかった。悔しいが私にはできないことだ。
こやつは生前、人として生きようとしなかった。
私はこやつを人として生きさせたかった。
そして、こやつは死んでも尚、人として居ようとはしなかった。
だから、こやつの事はお主に頼もうと思って、ここまで来た。」
アルトリアは何の話か分からないようで不思議そうに話を聞いている。マーリンはそんなアルトリアを不思議な魔術で眠らせた。
「マーリンさん。俺はセイ、アルトリアに会うために今まで旅をしてきました。アルトリアに再会した時、胸を張って横に立てるように。俺は、俺はまだそんか自分になれていない気がします。」
今、俺がアルトリアに再会してアルトリアは俺のことをどう思うのか。胸を張れる自分になれたのか。様々な感情が過る。
「衛宮士郎よ。お主は正しい。しかし、間違っている。」
そう言われ、俺は少しムキになってしまった。
「どこが間違っているのでしょうか?」
言葉遣いは変わらないが、そこには少しばかり怒号が入っていた。
自分が正しいと思っていた道を否定されるのは誰でも腹が立つことだ。
「お主の道は否定していない。だが、1人でしようという判断が間違っている。人とは昔から単独では弱い生き物だった。しかし、頭があり、知能があり、それによって群れを成す。1人では無理な事を多数で力を合わせ、数々の困難を乗り越えてきた。お主の夢は誰も傷付かない世界なのであろう?大きい夢だ。しかし、1人なら些か大きすぎる。なら、仲間が必要であろう。今のお主にとって、こやつは足手まといか?違うだろう。お主はこやつのおかげで魔術師の知識の100分の1も持たない状態で過酷な聖杯戦争を勝ち抜いた。なら、お主が今抱いてる夢も2人なら乗り越えられるのではないのか?」
マーリンが言った言葉はとても的を射ていた。だけど、アルトリアは傷付けたくない。その思いはあの頃と変わらず捨てられなかった。
「だけど、そうするとアルトリアは必然的に傷付いてしまう。そうはさせたくない。」
その言葉には強い信念が籠っていた。
「お主の気持ちはよく分かる。だが、1つ忘れている。こやつもお主を愛しているという事を忘れるな。愛する人がただ1人で戦い傷つくのは悲しく、とても悔しいことだ。」
ああ、だからセイバーはあの時俺に私をおいて逃げろと言ったのか。あの時私が闘うので貴方は下がっておいてくださいと言ったのか。
マーリンに言われようやく気付いた。
セイバーが、俺の身体が裂けるのを見てどれくらい悔しかったかを、
ならこれからは2人で共に闘おう。
「気づきました。アルトリアも俺と同じ気持ちだったという事を。」
「なら、こやつを引き取ってくれるな?」
「はい、勿論。」
「なら、私は行こう。このカバンの中に必要なものは入っておる。こやつの記憶も一時的に消えていただけで、起きれば直るだろう。」
「ありがとうございした。またどこかでお会いできたら。」
「いや、もう会うことはない。私の役目は終わったのでな。」
そう言ってマーリンは静かに去っていきいずれ見えなくなった。
それにしても、よく眠っている。本当に寝顔は子供みたいだ。
ん?誰かが走ってくる。
「士郎!来るなら言いなさいよ!」
げ…遠坂だ…。
「え?セイバー?」
「ああ、そうだ。正真正銘間違いなくセイバー本人だ。」
「うそ!?なんで!?ちょっと説明しなさいよ!」
「ああ、まあ大魔術士が奇跡を起こしてくれたんだ。」
「だれよ!?その魔術師は!」
遠坂家当主としてのプライドか何かは知らないが、凄くしつこく聞いてくる。それに声が大きい。アルトリアが起きそうだ。
「まあその話はまた今度で…。アルトリアが起きるからさ。」
「ん…。シロウ?」
「ほら、遠坂のせいで。」
「ちょっと私のせいにしないでよね!?」
「シロウ?私は一体何故ここに?」
「ああ、大魔術士が奇跡を起こしてくれんだよ、アルトリア」
「一体何のことですか?」
「まあ、それはまた話すさ。じゃあまずは一緒に帰ろうか。冬木に」
「そうですね。何故ここに居るのかは全く分かりませんがシロウとまた暮らせるのはとても嬉しい。」
「ああ、俺もだよ、セイバー。これからもよろしく、アルトリア。」