プレアデス達とお茶会を楽しむアルベド
しかしルプスレギナの一言が、彼女を狂わせた…

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ふと脳裏にルプスレギナの最初のセリフが浮かび、そこから思いつきました。
またヒドイン様かよって言わないで。

NPC達の能力については、曖昧な部分は独自解釈・設定という事でご容赦を。
原作の設定と余りにかけ離れすぎている部分は(原作に具体的な数値や描写がある等)
感想欄でご指摘いただけたら助かります。

※アインズ様のパラメーターについては1巻の設定ページをざっくり参照、
数値は桁が大きくないと凄く見えないかなと下駄履かせています。

よろしければお読み頂けたなら幸いです。

8/1 読みやすいように文章を整理しました。内容は同じです。


視点

 

「アインズ様、匂いするっすよ。」

 

 その時、アルベドに電流走る……!!

 

 その日とても珍しい事に、プレアデス達とお茶会を楽しんでいたアルベド。

 たまにはメイド達と談笑し、親睦を深めようという気まぐれからだった。

 

 そこでユリの淹れてくれた紅茶の匂いを嗅ぎながら、どんな事でもアインズに結びつける恋深きサキュバスは「ああ、アインズ様の匂いを嗅ぐ事が出来たら、きっとどんな良い香りの紅茶よりずっと陶然とするのに……でもアインズ様はお肉の無いアンデットだから……。」っと、そう残念そうに呟いたのだ。

 

 ……女子会で男の体臭の話題もどうかと思うが。

 

 その何気ない一言に、ルプスレギナがさらっととんでもない爆弾を落としたのだ。

 アルベドが口に含んだ紅茶をブーッと吹き出し、目の前のルプスレギナの顔に思い切りひっかかる。

 

「うあっぷ、き、汚いっすよ アルベド様!」

 

 そう抗議するルプスレギナに構わず、アルベドがまくし立てる。

 

「え、ええええええ!? な、なななな何言ってるの!? だ、だだだだだってアインズ様はお骨だから何もお体から分泌されないし……変じゃない? そ、そう、不遜にもお体に張り付いた汚れの匂い! その匂いと勘違いしているんじゃ……!」

 

「アルベド様、自分、人狼っすよ? 鼻は利くっす。汚れの匂いと区別がつかない訳、無いじゃないっすか。骨にだって特有の匂いはあるっす。自分からしたらアインズ様も匂いプンプンっすよ。」

 

 動揺しまくりの守護者統括に、ハンカチで顔を拭きながらこともなげに答えるルプスレギナ。

 

「プンプン……」

 

 愕然とし、呆けたような表情でその擬態語を反復するアルベド。

 

 ……その表現が至高の御方に対して適切なのかどうか。失礼にあたるのではないか。同席している他のプレアデス達全員にそういう疑問が浮かんだが、それはアルベドには全く頭になかった。

 

「プンプン……なの?」

 

「プンプンっす。」

 

「プンプン……。」

 

「プンプンっす。」

 

「ど、どどどどどどどんな匂いなのぉおおおおおおっ!?」

「どんなと言われても……表現しにくいっす。基本的には骨の匂いとしか……。」

「ほほほほほほほ骨の匂いってえええええええええっ!?」

「だから説明しにくいっす。骨の匂いは骨の匂いっす。」

「き、きいいいいいいいいいいいい!!」

 

 私が感じ取れない愛しの御方の匂いを、戦闘メイドごときがっ!!

 ごときがっ!! ご・と・き・がっ!!

 

 ……本来至高の御方々に創造された者同士、そこに役割以上の上下関係は無いはずだが、凄まじい嫉妬がそんな自明の事さえ忘れさせる。

 

「表現力を鍛えなさい、この駄犬!!」

 

「……あ、アルベド様、それはさすがに酷いっす。いくら自分だって傷つくっすよ?」

 

「……駄犬。」「駄犬よね~。」「ぷぷっ ルプーは駄・犬♪」

 シズ、ソリュシャン、エントマが追い打ちをかける。

 

「うっ、ううっ ひ、酷いっす…… みんなまで。」

 

 演技か本気か、しょんぼりと落ち込んでテーブルに突っ伏す駄犬……もとい、人狼。

 ちなみにナーベラルはどう反応したら良いか分からず困惑顔で、ユリは首だけ後ろを向いてプルプルと笑いをこらえている。

 

 ゼー、ゼーっと息を整え、ようやく気持ちを落ち着けるアルベド。

 

「コホン…… で、でもそんなに匂いに敏感なら大変じゃないの? アインズ様のも分かるくらいなら。 それこそ、いつも匂いの海にいるようなものじゃない。」

「うーん、まあそれはそうっすが……自分にとっては目が見えるってのと同じ事っすから。ちなみに自分、視力はそれほどでも無いっすよ。同レベルでの比較ですから、ほんとの犬……じゃない、狼みたいに弱い訳じゃないっすけど。その代わり動体視力は凄いっす。あと聴力も。まあそれもあくまで同じレベル同士では、って事でアルベド様や他の階層守護者の方々と比べると大した事はないんでしょうけど。」

 

「で、でも嗅覚は私達よりずっと上なのよね……。」

「あ、アウラ様も同じはずっすよ。」

「!!」

 

 再びアルベドに、電流走る……!!

 

 あ、あの小娘も私が知らないアインズ様の匂いを、クンカクンカ嗅いでいたっていうの……っ!?

 クンカクンカ…… クンカクンカ……うわ、うわっ、 うわあああああああああ!!!

 

「っていうか、アルベド様が今までそれに気づいてなかったっていうのが不思議っすけどね。NPCの能力はみんな把握してらっしゃるはずなのに。」

「うぐっ……!」

 

 そういえばそうだ。

 

 匂いだけではない。アルベドは数少ないLV100NPCであって基本スペックはナザリックの中でも飛び抜けた一人だが、取得していないスキルについては遥かに低レベルのNPCにも敵わないし、これから習得する事も出来ない。

 そしてアルベドの持たない特殊な視覚や聴力等の感覚の持ち主は沢山いる。つまりそれだけ、自分が知覚出来ないアインズの姿、匂いや音や色などを知っている者達がいるという事だ。

 

 なんという不覚……!! まさに、文字通りの死角!

 思わずギリリッと親指の爪を噛み、メラメラと嫉妬の炎を瞳に宿す。

 

『こんな……こんな事って許せる? 私の知らないアインズ様の御姿やご様子を独占している者達が、そんなにいるなんて……! ありえない! ありえないわ!』

 

 自分の世界に入ってしまったアルベドの周りでプレアデス達は、

 

 ルプスレギナはやれやれ……っと首を振りながらお茶菓子に手を出し

 ユリは素知らぬ顔でさりげなくアルベドの紅茶を淹れなおし

 シズは我関せずと超高カロリーの特製飲み物をちびちびと飲み

 ソリュシャンは頬杖をついてアルベドの百面相を横目で面白げに観察し

 ナーベラルはカップを持ったまま困惑顔で視点をキョロキョロと動かし

 エントマは隠し持っていたお茶うけの緑のビスケットを……他のみんなが嫌がるのでこっそり……ポリポリと齧っている。

 

 ふいに、アルベドが立ち上がった。すでに平静さを取り戻しており、超絶美女揃いのプレアデス達を前にしてもなお一層際立つその美しい顔に、柔和な微笑みをたたえている。

 

「……急用を思い出したわ。私はこれで抜けさせてもらうわね。ああ、あなた達はそのままお茶会を続けて。ユリ、紅茶おいしかったわよ。ありがとう。それじゃあ。」

 

 

◇◆◇

 

 

 それからしばらく後、ナザリックのNPC達の一部に守護者統括からの使者が訪れるようになった。

 

 そのNPCの五感では、至高の御方をどのように捉えているのかという質問を携えて。

 

 それには視点や認識が違う事による警備の不備や礼節の不手際を補うためという説明がなされていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「そう言えば……また守護者統括殿が妙なことを始めたようですね。」

「私ノ所ニモ直接尋ネニ来タ。蟲王ノ複眼デハ、アインズ様ガドノヨウニ映ルノカト。 ドウ説明シタモノカ困ッタ。」

 

 デミウルゴスとコキュートスは、第九階層にある茸人間(マイコニド)の副料理長がバーテンダーを務めるバーで、その話題を肴に酒を酌み交わしていた。

 

「ま、私にも似たような問いをしてきましたがね。」

 デミウルゴスの、普段は眼鏡のレンズに隠れているその瞳は精緻にカットされた巨大な宝石だ。

 

「特に五感に優れた者達に、報告させているようですね。もちろん私達シモベにとって、アインズ様の絶対なる支配者のオーラはどれほど鈍い者でも見間違えようがありませんが、それぞれの感覚器官での捉え方はまた違うのもその通りです。確かに私も深く考えていなかった、面白い視点ではありますね。ただ彼女の動機はもっと不純なようですが。」

 

「ドウイウ意味ダ。」

「独占欲ですね。一言で言うと。」

「フム……?」

 

 分かったような分からぬような、曖昧な返事をするコキュートス。それに構わず、デミウルゴスは友に語りかけるともなく呟く。

 

「彼女の意図がどうであれ……興味深くはあります。ひょっとするとNPCの間でそれぞれ微妙に異なる忠誠心のあり方にも関係するかもしれませんし。私も後からそのレポートを確認出来ると約束を取り付け、多少なりとも協力してあげるとしますか。」

 

 そして悪魔はグラスを傾けると、少しおどけた口調でマスターに聞いた。

 

「……ところで副料理長君、君の知覚ではアインズ様をどのように認識しているのかね?」

 

 

◇◆◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層にある守護者統括の自室には、各使者から上がってきた報告書が山と積まれていた。

 質問したシモベは自分が直接選択した者のみならず、ランダム選択や部下の判断で選んだ者もいる。それも多角的視点の一環と言えるだろう。

 報告書は選抜されたシモベが直接書いたものもあれば、使者が聞き取って書き記したものもある。

 シモベの文章力、あるいは使者の理解力や翻訳能力のために感じ方がやや歪められている可能性もあるが、とりあえずそこには目を瞑ろう。

 感覚を言語変換する場合の、多少の誤謬はやむを得ない事だ。

 

 それらをチェックするアルベドは、なぜか黒縁の眼鏡を掛けていた。ユリに負けず劣らずなかなか似合っているが、特殊な効果がある訳でもないし、もちろん眼が悪いはずもない。というか度無しレンズだ。単に気分の問題である。

 

「これは……八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の一人からのものね。ああ、そうだわ。彼らはいつも天井からアインズ様をお守りしてるから、その真っ白で艶やかな頭骨をいつも真上から見ているんだわ。まあ、大抵フードを被ってらっしゃるけど。なんて事……普通の視覚ですら、文字通り視点が違う……。わたしがそんな角度でアインズ様を見るなんてまずあり得ないんですもの。っていうか、いくら護衛とはいえアインズ様を見下ろすというのは大変な不敬の気がするけど……でも彼らの仕事だし、複雑な気分ね。」

 

 アルベドは八肢刀の暗殺蟲の丁寧でカッチリとした硬い文章を一通り読み終えフムフムとうなずくと、報告書を既読の保管場所に置く。

 

「あら、これはシズじゃない。そういえばプレアデスの面々にも頼んでおいたんだっけ。なになに…… え?」

 

 【HP6万2000 MP15万1800 物理攻撃4万3200 物理防御……すべて概算値。推定誤差+-2.35% パワーの強大さ故に測定値誤差過剰……】

 

 そこにはアインズに関する様々な数値がビッシリと書き込まれている。

 

「えっ? これってひょっとして、アインズ様のパラメーター!?こ、これは貴重だわ。っていうかメッチャ重要なデーターじゃないの!あの娘ったらこんな数値が分かるならなんでもっと前に報告を……絶対『聞かれなかったから』って言うわよね……。その無口さも〈そうあれ〉と創造されたからだし。ええい、仕方ないわね、これは後から個別面談しなくちゃ。あら、隅になにか落書きしてあるわ? えっと……。」

 

 【戦闘力たったの5か……ゴミめ】

 

「……何のこと? これも会った時に聞いておかないと。」

 

 シズのレポートは最重要報告書の保管場所に置かれた。

 

「ルプスレギナ…… 一応あの娘もちゃんと考えてみたのね。どれどれ…… なによ、報告書なのにこのふざけた文章は。……まあ仕方ないわね。どうせ私の動機は見抜いてるんだろうし。」

 

 【アインズ様はSSSクラスのアンデット魔法骨の匂いがするっす。鼻の奥にフオンッ! って来て 骨髄の香りにホワワワンッってなって魔法力がブバババッて顔を叩いて お腹の奥がクキュウウウンッって疼いて そこに絶望のオーラの残り香がグオオオッって迫って来て……】

 

「……って、分かるか!」

 

 思わず報告書をクシャクシャにすると、ポイッと部屋の隅に投げ捨てる。羊皮紙なのに、まるでただの紙のように丸まったまま元に戻らない。恐るべしLV100パワー。

 ユリ・ナーベラル・ソリュシャンはさすがにまともな読みやすい文章でアインズの容姿を褒め称えているが、ごく普通の目視による視点であり、取り立てて特筆するような内容でもない。

 

「ソリュシャンにはちょっと興味があったのだけど……あの娘の事だから私の嫉妬を買わないように無難な内容にしたわね。 絶対スライム視点ある癖に。」

 

 チッ! っと、普段人前では絶対にしないようなおっさん臭い下品な舌打ちをする守護者統括。

 

「最後はエントマ…… う、うん、後に……しましょう。」

 チラッと見えた ゴ……だの 好物…… だのの文字に嫌な予感がして、保留の場所に置く。

「きっとあの娘にとってはこれ以上無い最大級の褒め言葉の表現なんでしょうけど、ね……。」

 言い訳がましく呟くと、別の束に取り掛かる。

「えっとこっちは…… ……恐怖侯…………こ、これも後にしましょう。」 

 羊皮紙を指先でつまむようにして、エントマと同じ保留場所へ置く。同じナザリックの仲間として好ましい扱いでは無いのは分かっている。分かってはいるが、こればかりはどうしようもない。

 

「あら、これは…… ……そう、自分で書いてくれたのね。でも困ったわ……。 私に言語翻訳のスキルは無いもの。アインズ様の、未知の文字が読めるようになる魔法の眼鏡は、確かまだセバスに貸与されたままのはずだし。」

 

 それは階層守護者の中でも特異な存在であるヴィクティムの報告書。彼の視点には非常に興味がある。守護者統括殿への報告は自分でと、あの短い胎児の手で必死に書き連ねたのだろう。その誠実さには頭が下がる。

 問題は、それがエノク語で書かれている事だ。

 

「……後で最古図書館の司書に翻訳させましょう。」

 

 保留の場所に置く。

 

「これはプルチネッラね。そういえばデミウルゴスが何人か推薦してきたんだっけ。なになに……」

 

 【おお、それわ まるで大海原のごとき広大な気の奔流白き顔の深遠なる暗闇に揺蕩うわ煉獄の炎わが眼に映りしわ 我らが偉大なる支配者の……】

 

「……って、回りくどいわね。 ワインの表現じゃないんだから。ええ、麗しいアインズ様には相応しいけれども。あなたも〈そうあれ〉って創造されたんでしょうけ・ど・も。要約すると中身はあんがい普通ね。 底あっさ。」

 

 プルチネッラが聞いたら『おお わたしわ守護者統括殿を幸福にする事が出来なかった!』っとわざとらしく大げさに泣き崩れそうな評価である。

 

 悪魔からの贈り物にはさらに嫉妬・強欲・憤怒の三魔将のレポートもあった。

 当然彼らの特質からの視点であり、それらも重厚で長大な詩文の形をとっている。

 アルベドはプルチネッラと違い、それらの感情のスペシャリスト達の表現に見事に振り回され、読み終わった後にはゼーゼーと荒い息を吐いていた。

 

「ちょ、ちょっと軽いもので気分転換したいわね……。これはハムスケか……ちょうど良いかしら。字が書けないから使者の代筆ね。」

 

 【殿でござる 怖いでござる 強いでござる 格好いいでござる 優しいでござる たくましいでござる 骸骨でござる 絶対強者の匂いでござる……】

 

「……ああっ! こいつも獣だからアインズ様の匂いを! 匂いを! そうよ、考えたらアウラの魔獣達だって大抵…… きいいいいぃっ! 次!」

 

──暗い部屋の、執務机の上だけが魔法光でボウっと光る中、深い陰影に彩られた、その類まれな顔立ちの美女の双眸は血走っている。

 

「パンドラズ・アクター……あんたも長いのよ! 分かってたけど! ああ、エクレア…… はいはい 頑張って。 ぴ……ピニスンポール・ペル……? 誰よあんた。

蜥蜴人(リザードマン)のクルシュ・ルールー アインズ様が体を…… 潰すぞ! ニューロニスト……宣戦布告!? あんたそれ宣戦布告!? 上等だゴラァ! 」

 

 そしてアルベドは夜通しずっと一人でブツブツと独り言を呟き、突然報告書にツッコミを入れたり、うんうんと頷いたり、眉間に皺を寄せてなるほどと感心したり、何やら注釈をつけたり、ドスの効いた声で誰かに殺意をぶつけたり、しばらくジーっと固まったかと思うと突然またキィイイイッ! っと嫉妬混じりの奇声を上げて部屋をグルグルうろついたりしながら、自分に無い視点から見たアインズの姿を必死に妄想し続けた。

 

 当のアインズがその様を目撃したならば、ドン引きのあまり見なかった事にして記憶から追いやろうとするだろう。

 他の誰かがそれを覗き見たならば、こう思ったかもしれない。

 守護者統括殿は、なぜこれほど鬼気迫る、苦しげなご様子で報告書を読んでおられるのかと。

 だが違う視点から見た者は、ひょっとしたら違う感想を持つかもしれない。

 

 とても楽しそうだ、っと。

 

 

 


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