加速の極致   作:稀代の凡人

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第1話

四葉家。

 

日本の全魔法師の頂点に立つ十師族、その一角を担う家であり、旧魔法技能師開発第四研究所――通称第四研――を出自とする唯一の家でもある。

 

その実態は謎に包まれており、四葉の秘密主義は十師族でも随一。

抱える魔法師の数においては他家に劣るものの、その魔法力においては他の追随を許さない。

 

その名は裏に通ずる者ほど恐れられ、ある一件を知る者にとっては「触れてはならない者たち(アンタッチャブル)」と恐怖されている一族である。

 

そして、その三代目当主である四葉真夜。

彼女もまた、その特異な魔法ゆえに当代における世界最強の魔法師の一角と目され、「極東の魔王」「夜の女王」と謳われている。

 

彼女は現在、四葉本邸の自室で一人の少年と向き合っていた。

 

「お呼びでしょうか、叔母上」

 

彼の言葉の通り、この少年は真夜とは叔母と甥の間柄にある。

彼女の唯一の姉である、四葉深夜の実の息子。

そして、深夜の三人(・・)の子の末っ子であり、同時に長女深雪の双子の弟(・・・・)でもある。

 

「よく来たわね、和也。変わりはない?」

「お陰様で、元気で過ごしております」

 

四葉和也。

本来存在しなかったはずの四葉深夜の次男であり、四葉家の次期当主候補の筆頭。

 

そして、彼の存在しなかった歴史(げんさく)を知る転生者であった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

四葉和也。

またの名を、司波和也。

 

彼が自分の立場を理解したのは、生まれてしばらく経ってからだった。

 

母親の名前が深夜、姉の名前が深雪、母親の世話をするメイドのような人が穂波というあたりでそうではないかとは思っていたものの、CADと魔法を見たことで確信する。

 

「魔法科高校の劣等生」。

 

ここは、その中だと。

 

そして自分が原作に登場しなかった存在であることを悟ると、彼は動き出した。

 

なにせ、何を考えているのか分からない四葉家に生まれたのである。

最低限自分の身を守れるだけの力を身につけておく必要があると考えたのだ。

 

魔法や体術などの武力から情報などの目に見えぬ力まで、色々なものを貪欲に求めた。

そして齢11を数える現在までに、様々なことを知った。

 

例えば、四葉の真の内情など。

 

後になって考えてみれば、あれは敢えてこちらに聞かせたのだろうと和也は思っているが。

とにかく結果として、彼は四葉真夜と手を組むことにしたのだ。

 

そうなってから、もう随分経つ。

時間が経つにつれて情報を共有する頻度も低くなり、今日は久方ぶりの呼び出しだった。

 

「……それで、真夜様。本日はどのような用件でしょうか?」

 

和也が尋ねると、真夜は少し眉を顰めてから右手の人差し指を立てた。

 

「貴方が以前提案したことを検討してきたのよ」

「……ああ、あれですか」

「ええ」

 

真夜は頷き、紅茶を一口飲んでカップを置いた。

 

「結論から言うと、許可します」

「よろしいのですか?」

「確かに危険度は否めないけれど、上手くいけば資金繰りが楽になるのは間違いないわ。それに、手綱は握れるのでしょう?」

 

和也を射抜く鋭い眼光。

彼はそれに怯むことなく頷く。

 

「もちろんです」

「そう。……しかし、あの子がそちらの方面に適性を持っているなんてね。一体どんな機会に知ったのかしら」

「あの人の[眼]はこういうことに向いていると思ってやらせてみただけですよ」

 

興味深げな目を向ける真夜に、和也は肩を竦める。

 

二人が話しているあの件とは、和也の兄である司波達也をフォア・リーブス・テクノロジーで技術者として働かせてみてはどうかというものである。

 

達也が魔法工学――特にソフトウェアの技術に長けていることは、原作を知る者にとっては常識だ。

様々な新技術を搭載したCADを次々と開発し、世に送り出した謎の魔工技師「トーラス・シルバー」。

そのソフトウェア担当である「シルバー」とは達也のことなのだから。

 

今のところ訓練に明け暮れるしかない達也の息抜きになる上に有力な収入源にもなると考えて、和也はこれを提案した。

結果はご覧の通りである。

 

因みに、和也は自分の原作知識については今のところ誰にも明かしていない。

 

「叔母上、話はそれだけでしょうか?それならば失礼させていただきますが」

「いえ、もう一つあるわ」

 

立ち上がろうとした和也を引き留め、真夜は妖しげに微笑む。

嫌な予感に思わず逃げたくなる身体を抑えて和也が再び腰を下ろすと、真夜はふふっと笑ってから口を開いた。

 

「貴方が嫌がっていたから先延ばしにしてきたけれど、もうお披露目まであと1年しかないわ。そろそろ、あの話を進めます」

「……分かりました」

 

その話は、11年の経験で少しずつ十師族としての思考に染まってきた彼が唯一前世の経験ゆえに抵抗していたものだった。

 

しかし、感情はともかく理性ではそれ(・・)の有用性を理解していた。

だからこそ、渋々ではあったが首を縦に振ったのだ。

 

因みにお披露目とは有力者などが開くパーティに初めて参加することである。

二十八家や百家の者は慣習として中学校に入学した年の冬の初めに開かれる大規模なパーティでお披露目されることになっている。

 

「近い内に向こうに打診してみるけれど、まず大丈夫でしょう。詳細が決まったら、また連絡するわ」

「分かりました」

「話は以上よ。わざわざ呼んで悪かったわね」

「いえ。では叔母上、失礼します」

 

今度こそ和也は立ち上がり、目の前の叔母に頭を下げた。

そして扉へと歩み寄り、ドアノブに手を掛け――そこで止まった。

 

「――どうやら行ったようです」

「そう」

 

和也は先ほどまで座っていた椅子のところまで戻ってきて、三度腰を下ろした。

 

「誰だったか分かるかしら」

「恐らくは青木かと」

「そう」

 

和也の答えに、真夜はつまらなそうにそう呟いた。

 

「始末を?」

「いえ。今のところ青木にはこちらの裏をかかれてはいないようだし、もうしばらく泳がせておくわ。始末して有能なのが来ても面倒だし」

 

真夜はそう言ってふぅ、と息を吐いた。

 

「毎度のことだけれど、遠回しな会話は面倒ね」

「それはまあ、確かに」

 

思わず苦笑する和也。

 

先ほどから、真夜と和也は指示語ばかりを使って内容が分からないように会話していた。

それは、扉の外で青木――四葉家に仕える序列四位の執事―が盗み聞きしているのに気がついたからだ。

和也は、そういうことが分かる「眼」を達也のように生まれつき持っているのである。

 

二人は、立場上敵が多い。

しかも、その敵はかなり内部まで侵入してきている。

真夜の自室といえど、盗み聞きの危険はゼロとは言えなかった。

だから、周囲を視る(・・)ことが出来る和也がいつも周りに気を配っているのだ。

 

最初だけ和也が真夜のことを「叔母上」ではなく「真夜様」と呼んだのは盗み聞きを知らせるための、その後で真夜が人差し指を立てたのは「分かった」というサインだった。

 

「それで、あの話というのはやはり……?」

「ええ、貴方の婚約の話よ」

「やっぱりですか……」

 

家のためにも、魔法力の高い女性と結婚するのが良いのは分かっていた。

それでも、結婚というのは好きな人とするものではないのか。

成人する前に死んだために前世でも結婚したことが無かったからこそ、和也はそう思っていた。

 

「気は進みませんが、仕方ないですよね」

「なぜ貴方がこれだけは嫌がるのか分からないのだけれど……最初は好きでないのなら、好きになれるように、好きなところを見つけられるように付き合うことね。それに、婚約もまだ本決まりではないわ。どうしても折り合いをつけられないようなら考え直すから、気楽に考えてちょうだい」

「……分かりました」

 

最後に失礼します、と言って和也は部屋から出ていった。

 

それを見送った真夜は、ベルを鳴らして葉山を呼ぶ。

 

「――お呼びでしょうか」

「七草と回線を繋いでちょうだい」

「畏まりました」

 

恭しくお辞儀をして足早に部屋を去っていく葉山を見送り、真夜は「面白くなりそうだわ」と微笑を浮かべた。




お読みいただき、ありがとうございました。



前作を非公開にするという話でしたが、非公開にしないでほしいという声を頂きました。
考えた結果、一週間保留にします。
その間に5人以上の方から「非公開にしないでほしい」というコメントを頂いたら、非公開は止めようと思います。

なお、コメントは最新の活動報告にお願いします。
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