蜂起した兵士の一人が持っていた
そこにサイオンを流し込むことによって放たれたキャスト・ジャミングは、和也たちの魔法行使を阻止した――はずだった。
しかし。
「ぐあッ!?」
「なに――あがッ!?」
蜂起した兵士たちへ向けて幾筋もの稲妻が奔り、直撃を受けた彼らは例外なく意識を失う。
「――あいにくだが、十師族はそんな小道具で止められるほど弱い存在ではないんだ」
彼らが最後に聞いたのは、まだ声変わりしていない少年のそんな言葉だった。
◇ ◇ ◇
「今のは……和也くん?」
「ええ、そうですよ」
真由美の問いに和也は頷く。
それから、その傍らに立つ美人に目を向けた。
「良くやった、鳴神」
「いえ、仕事ですから」
和也がやったことは実に単純だ。
ただ、四方八方にばら撒かれた大量のサイオン波を、それを上回る量のサイオン波で押し流しただけである。
だが、言葉にするのは簡単でも実際に行うことが出来る者は非常に少ない。
これを行うには、莫大なまでのサイオン保有量が必要となるのである。
父親から豊富なサイオン保有量が遺伝した和也だからこそ出来る力技でもあるのだ。
「さて、これからどうす「深雪!!」――っと」
和也の言葉に被せるように叫んだのは、偵察に出ていた達也だ。
銃声を聞いて急いで駆けつけたのだろう、珍しく肩で息をしている。
外に出てしまうと、シェルターの中の様子は[
今までは意識の端で四六時中感じることが出来た深雪の存在が消えた状態になったことで、不安も募っていたのだろう。
深雪の無事を確認すると、達也は安堵のあまり遠目からでも分かるほど大きく息を吐いた。
「悪いな、和也」
「礼を言われるようなことじゃないよ。家族を守るのは当たり前のことだ。それで……」
和也は声を落とし、達也に囁くように尋ねた。
「戦況はどう?」
「それが……かなりまずいことになっている」
「まずいこと?」
「――そこから先は我々が話そう、達也君」
和也が聞き返すと、二人の会話に割って入る者がいた。
「先日お会いしましたな。陸軍大尉、風間玄信です」
「陸軍中尉、真田繁留です」
「はあ。それで、戦況は?」
「実を言うと、よく分かりません」
苦い顔でそう答える風間に、和也は目を瞬かせた。
「寝てたんですか?」
「……いえ、実はこの基地のシステムが全てロックされてしまいまして」
文句も言うことができずに押し黙った風間の代わりに、真田がそう答える。
「システムが……となると、敵はクラッキングまで仕掛けているんですか?しかも既に掌握されたと……」
そんな想像を口にした和也に、風間が首を横に振る。
「現在掛かっているロックは基地の中枢からのものです。本来ならば、敵による占領を許した際にシステムまで敵の手に落ちないようにする為のものなのですが……」
「なるほど。つまりそれをやったのは基地内の誰か、というわけですか」
「その通りです。そのロックが可能な端末へのアクセス権は上層部の人間にしか与えられていないので、おそらくかなり上の誰かかと思われます」
上官が反乱に加わったかもしれないということで、風間の表情は渋い。
軍内部はボロボロで、事態の把握もままならないという状況でも、和也は冷静だった。
「ロックの解除は?」
「総員が掛かりきりで当たっていますが、まだ時間が掛かるかと思われます」
「そうですか……。この状況では、軍属ではないとはいえど指を咥えて見ているわけにもいきません。基地の端末を一つ貸してください」
「は……しかし、一体何を?」
訝しげな風間の問いに、和也は当然のように答えた。
「何って……ロックを解除するんですよ」
◇ ◇ ◇
風間に案内されて、和也は現在その機能の全てを封じられた通信指令室に来ていた。
和也が人払いを頼んだため、部屋の中には二人を除いて誰もいない。
「失礼ですが和也殿に情報工学の経験は?」
「基礎は一通り、といったところでしょうか。……ああ、別に僕がやるわけじゃありませんよ」
そう言って自分の端末を取り出す。
「……ああ、美奈。聞こえる?」
『――はい、聞こえてますよ。そっちは大丈夫ですか?こっちから見てると結構厳しいみたいですけど』
「ああ、やっぱりそうなんだ。実は今、基地のシステムが全てロックを掛けられてるみたいで。全然状況が分からないんだ」
『……なるほど。こっちから映像を送ればいいですか?』
瞬時に和也がこのタイミングで通信を入れてきた理由を察する。
その頭の回転の速さもさることながら、それ以上に風間の注意を引いたのは彼女の言葉だった。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。基地周辺の映像があるのか!?」
『――和也様、そちらの方は?』
「陸軍大尉、風間玄信殿だ。風間殿、詮索はやめて頂きたい。此方にも此方の都合があるのだから」
「……失礼した」
日本において、裏では最大の権勢を誇る十師族、その中でも一番深い闇にいるという四葉家。
そこに不用意に踏み込むには、一大尉に過ぎない風間では色々と足りなかった。
「さて、美奈。お前には、このロックの解除を頼みたい。行けるか?」
『そこのセキュリティがUSNAの国防総省レベルだというならば無理ですけど』
「それは無いさ」
美奈の言葉に噴き出しながら、基地のコンピュータの一つにコードを繋ぐ。
「どうだ?」
『これは……中々手強いですね』
「どの位かかる」
『そうですね――3分下さい』
「了解」
それを最後に和也は通信端末をデスクに置き、手近な椅子に腰掛けた。
「……あの、和也殿を疑うわけではありませんが。3分というのは些か厳しいのでは?うちの者が10人で掛かって歯が立たなかったものをたった3分で突破するのは流石に……」
風間が、躊躇いがちにそう言う。
彼は特別コンピュータに詳しいわけではなかったが、それでも基地の技術者たちが揃って手を上げたロックをたった3分で解除するというのは不可能に近いのではないかと思ったのである。
「大丈夫ですよ、風間殿」
しかし、和也は成功を確信していた。
明野美奈。
現在は四葉家の電子的なセキュリティを一手に担っている彼女は、
和也のガーディアンを務める修斗と同様に魔法師遺児保護施設の出身である。
5歳の時に修斗と共にそこを脱走して和也に拾われたという経緯を持つ美奈は、電子・電波魔法、とりわけハッキングやその類に関する魔法に特化した才能を持っている。
その魔法を併用したスキルは、齢13にして既に日本の首相官邸程度ならば易々と侵入できる域に達しているのだ。
軍の基地に施されたロック程度、解除できないはずがなかった。
果たして、美奈の宣言から3分後。
『――完了しました』
基地の全ての機能は、完全復活を遂げていた。
◇ ◇ ◇
「こ、これは……大尉、一体何を!?」
先ほどまで退出させられていた技術者たちが、正常に動くコンピュータに目を丸くしている。
問われた風間は、しかし約束を果たした。
「この件に関して、一切の詮索及び口外を禁じる。良いな」
「「「は、はっ!」」」
慌てて敬礼をした彼らを見て風間は頷き、それらから背を向けた。
「随分と待たせてしまったが、お前たちの仕事をしろ。これ以上、情報不足による犠牲者を出してはならん」
「「「はっ!」」」
部屋を出た風間を待っていたのは、彼の部下である真田と、その部下の兵士だった。
「大尉、準備は整えました」
「よし。では、彼らへ届けてくれ」
「はっ」
隣の部下に合図して、その手に持った諸々を運ばせる。
しかし、その後動かない真田に、風間は眉を顰めた。
「どうした、何か聞きたいことでもあるようだが」
「いえ……差出口である事は承知しておりますが、十師族の、それも子供を戦闘に参加させるのは宜しいのですか?」
そう問われた風間は、質問をした真田をジロリと睨み付けた。
「普段ならばそうだが、今は非常時だ。俺は部下の命を預かる身である以上、使える手はたとえ忌み嫌っていても使う」
「……はっ、失礼しました」
頭を下げた真田に鷹揚に頷き、風間は通路を歩き出した。
「我々ばかり後ろにはいられん。戦場に出るぞ」
「はっ」
お読みいただき、ありがとうございました。
次かその次ぐらいで和也の無双タイムに入れるはずです。