加速の極致   作:稀代の凡人

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遅くなりました。


第13話

和也が真由美や深夜たちと合流すると、達也が真っ先に彼に寄ってきた。

 

「どうだった?」

「控えめに言ってもよろしくはないね。このままだと危ないから、やっぱり俺も出ることにしたよ」

 

その言葉に対する一同の反応は様々だった。

達也と深雪、鳴神に修斗は頷き。

穂波と真由美は驚いた顔を見せ。

 

そして、深夜は。

 

「……和也、大丈夫なの?」

 

純粋に息子を心配する母親の顔をしていた。

 

「もちろんです。ガーディアンはちゃんと連れていきますし」

「そう……。気を付けてね」

「はい。……修斗、行くぞ」

「はっ」

 

歩き出した和也たち背に。

 

「待ってくれ」

 

声が掛かる。

 

「俺も行く」

「達也……くん?」

 

驚きの声を上げたのは穂波だったが、周りはほとんどが同じように驚きの表情を浮かべていた。

 

違うのは、特に何の表情も浮かべていない和也と。

 

「達也……あなたは深雪さんのガーディアンでしょう?」

 

呆れたような声でそう言う深夜の2人だった。

最もな言葉に、達也は一瞬言葉に詰まる。

 

「……っ、しかし――」

「――まあ良いわ。ここには他にも護衛はいるし。和也の盾は多いに越したことはないでしょう」

 

同じ息子に対しての言葉とは思えない、冷たい声。

 

「あ、あの。そんな言い方――」

「仕方ありませんよ、真由美さん」

 

思わず声を上げた真由美を途中で遮るように、和也が口を挟む。

そして深夜の方を見て、哀しげな笑みを浮かべた。

 

「誰かを愛することができなくなったのは、1人だけではないのですから(・・・・・・・・・・・・・)

 

その言葉に、ただ1人を除いて誰もがきょとんとした表情を浮かべた。

一瞬後に達也は深夜の方を見る。

 

彼女は、驚きのあまり目を瞠っていた。

 

「……一体、どこでそれを……」

 

しばらくしてようやく出た声は震え、掠れていた。

 

その視線を受けた和也は、肩を竦めた。

 

「今ここで、ですよ」

 

彼の答えに何度か目を瞬かせた深夜は、その言葉の意味を理解して目を大きく見開く。

 

「前からそうではないかとは思っていたのですが。やはり、そうでしたか」

 

和也が深夜から達也に目を向けると、彼の瞳には驚きと共に理解の色が浮かんでいた。

それを見て流石とばかりに息を吐き、今度こそ深夜や呆然とする他の人々に背を向けて歩き出した。

 

「では、行ってきます」

「……か、和也くん!」

 

呼び掛けに、彼らは再び止まる。

声を掛けたのは、真由美だった。

 

「えっと……気をつけてね」

「……はい。必ず、一人として欠けることなく戻って来ます」

 

三たび歩き出す3人。

その先頭を歩く和也の唇の端は、僅かにつり上がっていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「あの……お母様。先ほどの和也の言葉は、一体……?」

 

3人を見送った後しばらくしてから、深雪が躊躇いがちに深夜に尋ねた。

 

問われた深夜は、目を閉じてゆっくりと口を開く。

 

「そうね……人口魔法演算領域によって、達也が強い衝動の殆どを喪失していることは既に知っているのでしょう?」

 

深夜の問いかけに、深雪は頷く。

 

「あの子は、あれで普通のことに拘るようなところがあるから、母親である私のことを深雪と同じように想えないことに悩んでいました。だから、それが施術によるものだと教えてあげたのだけれど……それでも、あの子の悩みが晴れることはなかった。私のあの子への想いを、自分は返してあげられないということがあの子の意識を苛んでいたようね」

 

その言葉に僅かに驚きを見せた深雪に、深夜は苦笑した。

 

「あの子だって、貴女や和也と同じように私がお腹を痛めて産んだ子――それも、最初の子です。確かに魔法師としては欠陥品ではあるけれど、それとは別のところで愛していたとしてもそう不思議ではないでしょう。……でも、あの子はそれに悩んでいるようだった。だから、私も自分の精神構造に干渉して手術をしました」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「それによって……」

「ああ。母上から、兄さんへの母親としての愛が消え失せた。そうなった以上、残るのは四葉の魔法師としては欠陥品の使用人に対する感情のみだ。あんな接し方をしても不思議ではないだろう」

 

和也は、そう説明を締めくくった。

疑問の色を浮かべていた修斗への説明である。

達也は、その後ろで静かに和也の話を聞いていた。

 

「とまあ、戦の前に変な話をしたのは申し訳ないが……ここからは戦場だ。気を引き締めて行くぞ」

「はっ」

「ああ」

 

目的の部屋に入ると、まだ基地内で待機していた兵士たちが勢揃いしていた。

 

「ああ、来ましたか和也殿」

「遅くなりました、風間殿」

 

この部隊は、これから出る者の中では一番最も地位の高い風間が統括するようだ。

 

「敵はどこに?」

「南と東です」

「では、南は任せて下さい。そちらは東をお願いします」

「は……しかし、3人で?」

「いえ、こちらの……達也はそちらと同行してもらいます。その方が力を発揮できるでしょう」

「はあ……いや、2人では流石に……」

 

眉を顰める風間に。

 

「大丈夫ですよ。四葉家の次期当主の力が伊達ではないということをお見せしましょう」

 

和也は、そう言って獲物を目の前にした獣のような獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「思ったより魔法師の数が少ないな」

「気付かずに殺っちゃったんじゃないですか?」

 

戦場を悠々と歩きながら、呑気に会話などしている和也と修斗。

だが、その周りは阿鼻叫喚と化していた。

 

手や足を失った死体、辺りに飛び散る血。

その中心に立っているのにも関わらず返り血一つ浴びていない二人は、少々異様とも言えた。

 

「く、くそッ!!このガキどもは何なんだ!?」

「銃が効かねえなんてどうしたら良いんだよ!?」

 

大亜連合の兵士達は、その手に自動小銃を握りながらも引き金を引けないでいた。

何故なら――。

 

「〜〜!!チクショウっ!!」

 

恐怖のあまり錯乱したこの男のように安易に引き金を引くと。

 

「それにしても、あっちは大丈夫ですかね」

 

注意を向けられることすらなく。

 

修斗から半径3m以内に侵入した瞬間、銃弾はベクトルの向きを逆に、大きさを倍にして撃ち返されるのだ。

 

そうして、また一人兵士が倒れた。

 

芳田修斗。

現在は和也のガーディアンを務める彼は、それ以外の系統は一科生に辛うじて引っ掛かるかどうかという程度でしかないのだが、それと引き換えに加速系統と加重系統、中でもベクトルの向きと重力を操作する魔法において十師族をも上回るほどの干渉強度を誇る。

 

そんな彼からしたら、四方八方から飛来する銃弾を倍返しすることなど朝飯前だった。

 

だが、彼のみならばまだ兵士達にもやりようはあった。

彼らの部隊にも魔法師は同行している。

全く同時に二つ以上の魔法を使うことは、困難を極める。

魔法師同士で戦っている間に撃てば相手は防げないというわけだ。

 

その頼みの綱だった魔法師部隊は、しかし現れた瞬間動き出したもう一人の少年によってあっという間に屠られた。

 

四葉和也の代名詞たる魔法、[物質蒸散(ヴェイパリゼーション)]によって。

 

和也は全ての系統において並外れた干渉力を持っているが、中でも加速系加速魔法と振動系加速魔法の2種類に大きく偏っている。

 

物質蒸散(ヴェイパリゼーション)]はその二つのうちの振動系統の方で、物質を構成する分子の熱運動を急激に加速させることによって分子間の結合を切断し、気体へと発散させる魔法だ。

 

得られる効果は発散系統と変わらないのだが、和也の場合は発散系統よりも振動系加速魔法の副次効果としてのそれの方が干渉力が強く、短時間で発現する。

それだけ加速魔法へ適性が偏っているということなのだが、それは置いておくとしよう。

 

撃っては跳ね返され、魔法師部隊は全滅。

残った兵士達が逃走を選択したのは、当然のことも言えた。

 

――だが、それを黙って見ている和也ではない。

 

「逃がすかよ」

 

ぼそりと呟いた、次の瞬間。

逃げていた兵士達、その全員が――融けた。

 

振動系加速魔法、[焦熱地獄]。

指定した領域内の物質の熱運動を加速させる、[物質蒸散(ヴェイパリゼーション)]の領域版だ。

範囲の広さゆえに気化まで持っていくのには5秒程度かかるものの、人体程度ならば一瞬で融ける。

 

魔法も使えず銃も通用しない以上、彼らになす術などなかった。




お読みいただき、ありがとうございました。


どうでもいい余談なんですが、どうして振動系減速魔法の[ニブルヘイム]と名前的に対をなす[ムスペルスヘイム]が振動系加速魔法じゃないんですかね。
お陰で相当悩んだ挙句微妙な名前に。

いや、色々理由があってそうなったのは分かってるんですが、どうしてもこう……。

ネーミングセンスが欲しいです。
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