加速の極致   作:稀代の凡人

14 / 15
第14話

「これは……!」

 

南方面の映像を見た風間は、驚愕に一瞬瞠目した。

 

序盤の銃弾の反射や魔法師を瞬殺していく様子にも驚きはしたが、それらも最後の魔法に比べれば些細なことだ。

 

[焦熱地獄]、と彼は言っていたか。

数百人もの兵士を、唯の一撃で屠った魔法。

あの魔法一つで、戦況が変わるほどの被害をもたらすことが出来る。

正しく戦術級魔法と言っていい。

 

あれほどの魔法を使える者となると、軍でもごく限られた一部の強者のみだ。

それも中学生になったばかりの年頃で、となると十師族の中でもその年齢でその域に達していた者は少ないだろう。

 

しかし真に驚嘆すべきは目の前の光景だろう、と風間は優位に運ぶ戦況に目を移す。

 

優位に運ぶ――確かに間違ってはいないが、その程度では決してない。

こちらの被害は殆どゼロなのだ。

 

その立役者である少年は、最前線にいて猛威を振るっていた。

 

軍と共に行動するという理由で、形式的に特尉という階級を与えられた彼の活躍は、想像を遥かに超えるものだった。

 

右手を差し向けられた敵は跡形もなく消失し、左手を差し向けられた味方はその怪我が全て無かったことになる。

血の一滴すらも流れない、無慈悲な蹂躙。

 

敵が戦意を喪失した今は他の兵士と足並みを揃えているが、抵抗の激しかった初めの方は凄まじかった。

 

何しろ、死体が全く残らないのである。

味方が消え去るのを見た彼らは、自らが存在したという証すら消え去ってしまいそうな感覚すら覚えただろう。

 

敵の抵抗は徐々に弱まり、次第に武器を捨てて投降するものも現れ始め――やがて、白旗が上がった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「そっちも終わりましたか」

『はい。特尉の活躍のお陰です』

「それは良かった」

 

南側の敵を全滅させた和也は、東方面の軍を率いている風間と連絡を取っていた。

 

「戦闘はこれで終わりですか?」

『おそらくは。これから――失礼、少々お待ちを』

 

通信の途中で報告が入ったようで、風間は一旦会話を中断する。

 

「どうしましたか、和也様」

 

明らかに途中で通信を切断した和也に修斗はそう尋ねる。

 

「分からない。何らかの緊急報告が入ったみたいだ。もしかしたら、まだ終わってないかもしれないな」

 

そう言う和也の顔は、険しい表情を浮かべていた。

 

そして、しばらく後。

再び繋がった風間の声からは、明らかに緊張の色が伺えた。

 

「何がありましたか」

『敵の軍艦が、こちらに近づいているようです』

「……数は」

『東側に巡洋艦2隻、駆逐艦5隻。そして、南側に巡洋艦5隻、駆逐艦が11隻』

「なっ――!?」

 

これには、和也も絶句した。

東側は良い。

兄が[質量爆散(マテリアル・バースト)]でどうにかするだろう。

あとはその準備の間、達也のそばで砲弾を防いでいれば終わりだと思っていたのだが――その倍の数が、南にも押し寄せてくる。

 

「……分かりました。こちらは任せて下さい」

『!?しかし、幾らなんでも――』

「そちらは捕虜を抱えているでしょう。上の指示は?」

『……全員を連れて帰投だ』

「それは、敵艦が来るまでに間に合うんですか?」

『……非常に難しい、と言わざるをえないだろう』

 

風間の声は苦渋に塗れていた。

 

「ならば、こちらのことはこちらで対処します」

『……よろしく頼みます』

「はい。では、これで」

 

通信を切った和也は、控える修斗に目を向けた。

 

「お前は今すぐ東側に向かって、達也と合流しろ。お前の力が必要になるはずだ」

「……和也様は?」

「ここで敵を迎え撃つ」

「お一人では危険です。ガーディアンとして、離れるわけにはいきません」

「俺は平気だ。枷を外す(・・・・)

 

和也の強い視線にも、修斗は怯まなかった。

 

「美奈。それで足りるのか?」

 

修斗が呼び掛けたのは、今も通信が繋がっている美奈だった。

彼女は今も上空を飛ぶ人工衛星の映像を見て状況を把握している。

 

『全然足りないわ。「開眼」が最低条件。――和也様、枷を外す(・・・・)ことが限界の今の和也様から修斗を離すわけにはいきません』

 

美奈の言葉に、和也は黙り込み――舌打ちを一つした。

 

「……真由美さんを呼ぶ」

「それが?守る対象が一つ増えるだけでしょう。鳴神殿は確かに強いが障壁系の魔法は得手ではないはずです」

 

暗に何の意味もないだろうと告げる修斗に、和也は首を横に振った。

 

「戦力としてじゃない。今の契約者(・・・)は真由美さんだ」

「『なっ――!?」』

 

その言葉に、修斗も美奈も絶句する。

 

「本当は戦場になど呼びたくなかったが……仕方がない」

 

そう言う和也の顔から、どれほど不本意なことなのかということが伝わってくる。

 

そも、和也にとってはまだ真由美は背中を預けられる仲間ではなく守るべき婚約者だ。

共に戦うには力が足りない――それを真由美も分かっていたから、いくら心配でも黙って和也を見送った。

 

だが、本当は一緒に戦いたいだろう。

和也が手を貸してくれと頼めば喜んで戦場に出てくるはずだ。

だからこそ、和也は真由美には頼りたくなかったのだが。

 

「とにかく、これで前提条件は整えた。お前は達也の下へ向かえ」

「……かしこまりました」

 

修斗は今度こそ一礼して、東側へと駆けて行った。

 

魔法により普通に走る何倍もの速度で移動する修斗を見送り、和也は端末を取り出した。

 

「……ああ、真由美さんですか?実は――」

 

状況を説明し、ここまで来てくれるように頼む。

断っても構わない、と何度も念押しして。

しかし、真由美は予想通り戦場に出ることを決めた。

 

「……そうですか。では、気をつけてここまで来てください」

 

通信を切った和也は、地面にあぐらをかいて座り――思い切り拳を地面に叩きつけた。

 

「くそッ!守るべき人を戦場に引きずり出して――あまつさえ、断っても構わないと念押しして罪悪感を軽減しようとまでして――どんだけ阿呆だ俺はッ!襲撃があることを知ってたのに手を抜いて――原作知識(コレ)には限界があるって、分かってたはずだろうがッ!」

 

和也の、自らに向けられた怒り、呆れ、不甲斐なさ、その他諸々を籠めた言葉。

こんな行為は無駄以外の何物でもないと分かっていながら――それでも、和也は叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「和也くんっ!」

「呼び出してしまってすいません」

「良いの、和也くんの助けになるなら」

 

さて、ここらで一つ説明をするとしよう。

以前から度々登場していた、「枷を外す」「開眼」とはなんなのか。

 

和也は現在、ある知覚系魔法を以って周囲を警戒している。

 

その名を[閉じた眼(クローズド・サイト)]と言い、物体の持つ質量と運動ベクトルを認識することが出来る。

ただし、物体の大きさは直径5mm以上、範囲は半径1km以内に限られる。

 

が、これは暗示によって制限された能力であり、暗示を解くことによって範囲は3倍になり、更に事前に「目印(マーカー)」を付けたものであれば世界のどこにあっても見つけることが出来る。

 

これを「枷を外す」と和也たちは呼んでおり、現在は「四つ葉のクローバーのネックレスを付けている状態では機能を制限する」という暗示をかけている。

 

そして、更にもう一段階――。

 

「それじゃあ……お願いします」

「……うん」

 

真由美は緊張の面持ちで頷いた。

 

目を閉じた和也の顔を両手で挟み、右目の瞼をそっと撫でる。

そして、その右目の瞼にそっと口付けた。

 

――刹那。

和也の身体から途方もなく膨大な量のサイオンが噴き出し、渦巻いた。

 

「……ありがとうございます、真由美さん。これで――」

 

一度にあまりにも大量に浴びたことでサイオン酔いを起こして顔色の悪い真由美をそっと座らせ、海の方――敵艦が来ている方を睨む。

 

「――これで、全力を出せる」




お読みいただき、ありがとうございました。

今ふと思ったんですが。
14話でまだこことか、原作の入学編に入るのは余裕で20話超えますよね、多分。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。