加速の極致   作:稀代の凡人

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第4話

秘密裏に行われた、四葉家と七草家の両当主による会談。

その次の週の週末。

一人の少女が、とある駅前の広場に向かって歩いていた。

 

待ち合わせ場所である噴水へと近づきながら辺りを見回し、目当ての人物を見つけたのか少し緊張した面持ちでそちらへ向かう。

 

「こんにちは、真由美さん」

「こんにちは、和也くん」

 

辿り着くより先に近づく真由美に気付いた和也が、少し微笑んで声を掛ける。

その表情に少し安堵したように、フッと表情を緩める。

 

「ごめん、待った?」

「いえ、今来たところですよ」

 

現在の時刻は午後0時40分。

待ち合わせ時刻である午後0時50分の10分前に着いたのだから気にしなくてもいいのだろうが、相手より遅く来たことを少し気にしているようだった。

和也は今から20分前に着いていたので、待っていたのは確かなのだが……この辺の対応は、世界が変わっても共通だろう。

 

合流した真由美の姿を見る和也の脳裏には、家を出る前に姉である深雪から言われた言葉が浮かんでいた。

 

『いい、和也。待ち合わせには必ず相手より先に着くこと。「待った?」って聞かれても素直に答えないで「今来たところ」って返すこと。そして――』

 

もう一つの言葉を反芻し、和也は口を開いた。

 

「その服、良くお似合いですよ」

 

今日の真由美は、白いワンピースの上に薄い黄緑色のカーディガンを羽織っていた。

季節はそろそろ夏の始まりを告げている。

そんな季節感に沿いながらも真由美の魅力を引き出している、と和也は素直にそう思った。

姉からの助言もあるが、本心でもある。

 

「え?ほ、本当?……ありがと」

 

和也からそんなことを言われた真由美は突然の言葉に一瞬驚くも、照れたように少し頬を染めてはにかむ。

初対面で警戒すべき相手であり、しかも年下の言葉に照れる真由美。

これは、和也は成長が比較的早く真由美と同い年ぐらいに見え、更に10人に聞いたら10人が認める整った顔立ちも理由だろうか。

※ただしイケメンに限る、というやつである。

 

まあそれはさておき、人間関係において第一印象はかなり大事だ。

それだけに、なるべく好印象を与えようと考え深雪に助言を頼んだのだが……。

この反応なら、第一印象は悪くないだろう。

そのあまりに可愛らしい様子には和也もちょっとクラっときたが、取り敢えず双子の姉に感謝の念を送っておいた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

2人が向かったのは、近くにあるコンサートホールだ。

そこで行われる、とある楽団の演奏が目当てである。

 

「和也くんって音楽には詳しいの?」

「多少ですけどね。知り合いに音楽に詳しい人がいるんですよ。真由美さんは?」

「うーん……小学校の頃はピアノを習ってたから音楽が分からないわけじゃないんだけど、詳しいかというと微妙なところね」

「へえ……今でもピアノは弾けるんですか?」

「ええ、たまに休日に弾いたりするわ。と言っても中学に進学してからは技術が進歩してないから、あまり難しい曲は無理だけど」

「今度聴かせてくださいよ」

「他人に聴かせられるほどの腕前でもないけど……機会があったらね」

 

そんな会話をしながら、2人はホールへと入る。

和也の存在はまだ公表されていないので、身分を隠すために今日は一般用の席である。

因みに、変装のためか真由美は今日は伊達眼鏡を掛けていた。

 

「ここには来たことあります?」

「ええ、自宅の近くで一番大きなホールはここだもの。でも、こっちで聴くのは初めてだわ」

 

真由美は興味深げに周りを見ている。

 

『皆様、本日は――』

 

「始まるみたいですね」

「そうね」

 

アナウンスの声が響き、2人はステージへと意識を向けた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

その日、全てのプログラムが終了し。

会場は拍手に包まれ、奏者たちはステージから去っていった。

 

「凄かったわね……」

 

盛大な拍手も収まった頃、真由美が呟く。

 

「確かに、素晴らしい演奏だったと思います」

「……ああ、うん。それもそうなんだけど」

 

和也は演奏のことだと思ったようだが、真由美の意図したところは違ったらしい。

未だ余韻の残る会場を見回す。

 

「最後、客席の全員が拍手したでしょう?あの一体感、て言ったらいいのかな。ああいうの、上からじゃ味わえないなあ、と思って」

「ああ、確かに」

 

最後、会場が拍手に包まれた瞬間の高揚感。

あれは周りと離れたVIP用の席では感じられないものだろう。

 

未だ興奮醒めやらぬ、といった様子の真由美を見て、和也は微笑む。

 

「楽しんでいただけましたか?」

「ええ」

「それは良かった」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

コンサートホールを後にした2人は、近くにあるショッピングモール、その中にあるカフェに入っていた。

この店は入り口で注文する仕組みで、2人とも別々に頼んで席に着き、今は頼んだものが来るのを待っているところだった。

 

「真由美さんって、次は受験ですよね?勉強とかしてるんですか?」

「ちょっとずつね。十師族として首席は落とせないから、大変よ」

 

溜息を吐きつつそう言う真由美に、和也が首を傾げる。

 

「あれ、確か十文字家の長男も真由美さんと同い年ではありませんでしたか?」

 

十文字家の長男がいるのならば、十師族としては首席か次席のどちらかで良いのではないか。

暗にそう言う和也に、真由美は首肯する。

 

「ええ、そうよ。でも、負けるのって悔しいじゃない?」

 

なんだかんだ言って、負けるのも嫌らしい。

垣間見えた真由美の負けず嫌いな一面に、和也は微笑ましいと感じてしまった。

 

「――お待たせしました。アイスコーヒーとティラミスのお客様」

 

と、ここで注文した品が届く。

自分の頼んだものだ、と顔を店員の方に向けた真由美は。

 

「なッ――!?」

 

思わず絶句する。

 

一方の和也はその様子に気が付かないのか真由美の方を示して、自分の頼んだ品を待ちきれないというように見つめる。

 

「では、アイスティーとウルトラスイートクリームパフェの――」

 

店員が言い切る前にサッと手を挙げる和也。

そんな彼を見る店員の目には、無邪気な子供を見る温かさと――それ以上の呆れだった。

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます。……あれ、真由美さん?どうしたんですか?」

 

ここでようやく様子のおかしい真由美に気が付いたのか、和也は首を傾げる。

 

「……なあに、それ?」

「これですか?ウルトラスイートクリームパフェです」

「……いくらなんでもおかしいでしょう?」

 

真由美がそう言うのも当然のこと。

 

ウルトラスイートクリームパフェは、高さおよそ20cm。

そのうち、下半分はまあまともなパフェだ。

色とりどりのフルーツがセンス良く盛られていて、ガラスの容器越しに見ても美しく美味しそうだ。

 

だが、上半分は恐ろしい。

なんと、生クリームのみで構成されているのだ。

フルーツに辿り着く前に、その恐るべき甘さにダウンさせられそうな勢いである。

 

その見るからに殺しにきてる甘ったるさに、周りのお客さんもドン引きである。

というかなんでこんなものがメニューにあるのか。

 

「た、食べれるの……?」

 

恐る恐るそう聞く真由美に、和也は一瞬不思議そうな顔をして、ああ、と納得したように頷いた。

 

「身体は若干細身ですけど、こう見えて結構よく食べるんですよ」

 

別に胃の容量の話は誰もしていない。

 

困惑する真由美を他所に、和也は生クリームタワーのてっぺんをスプーンで取り、口に運ぶ。

 

「ん〜〜♪」

 

その味を堪能するかのように幸せそうな顔をする和也。

何度も言うが、上の方はただの生クリームである。

 

見ているこっちが胸焼けしそうな光景だが、当の本人は実に満足のようだ。

ふと顔を出した年齢相応の無邪気な表情に、思わず笑みを零してしまう真由美なのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

その後2時間ほどウインドウショッピングを楽しみ、2人はショッピングモールを後にした。

今日はこれで解散である。

 

「今日は本当に楽しかったわ。どうもありがとう」

「こちらこそ。俺も楽しかったです」

 

最初はあの四葉が相手ということで多少なりとも緊張していた真由美だったが、和也は思っていたよりもずっと優しかった。

婚約相手が和也で良かったと、真由美は思った。

 

「また誘ってね」

「はい。次は夏休みにでも」

「楽しみにしてるわ」

 

真由美は笑みを浮かべた後、ハッと和也の頭上にある電光掲示板を見る。

 

「そろそろ来るみたいよ」

「そうですか、ありがとうございます。では、また今度」

「うん。バイバイ」

 

胸元で小さく手を振る真由美に会釈をして、和也は改札を通って行った。

 

「――如何でしたか、和也殿は」

「名倉」

 

和也の背中を見送る真由美の側にすっと現れたのは、今日一日中真由美の護衛として陰で見守っていた名倉である。

 

「そうね……人柄は中々悪くないと思うわ。これで魔法力も高いのだから、七草の長女の婚約相手として十分相応しいんじゃないかしら」

「……左様で」

 

名倉は真由美が敢えて客観的な立場から述べたことには気が付いたが、それには触れず温かい視線を送るのみに留めておいた。

それでも、この年頃の主人には気付かれたらしく。

 

「……何かしら」

 

ジト目で睨んでくる。

 

「いいえ、何も。さあ、帰りましょうか」

「……ええ」

 

それすらも微笑ましく思えて、名倉はフッと笑ってから改札に背を向けた。




お読みいただき、ありがとうございました。


上記の格好が果たして真由美さんに似合うのかは不明です。
筆者にファッションセンスなどというものは欠片もなく、洋服選びは「他人に悪印象を与えない」ことが基準なので。何なら印象を残さないのが最良。

あと、筆者も甘党です。
トーストに生クリームをたっぷり塗って食べると幸せになれます。
親に止められましたが笑
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