この物語はタイトルどおり『世界樹の迷宮Ⅰ』が原作です。
原作の展開を踏襲しつつ、原作とはまた異なった展開を織り込んでいます。そのため、脳内補完で独特の解釈をしたり、原作にはないキャラクター(キャラメイクで選べるキャラクター・実際に登場するNPC)同士の会話、オリキャラなども登場します。世界樹シリーズの続編の話も少し盛り込んであります。
主人公は金髪のレンジャー男です。元ネタは、世界樹の迷宮Ⅱのレンジャー紹介ページの語りの部分を肥大化させたものです。HPにおいて、金髪レンジャーは妹を探しているような台詞を言っていて、それから着想を得ました。
因みに、登場人物は概ねキャラメイク時で選べるものですが、自分の好きな外見などで登場人物を選んではいません(私が一番好きなのは金髪女ダークハンターですが、物語に出る予定はありません)。
といっても、主要の六人のうち二人は自分のパーティにいたキャラがいますが、このキャラクターなら、物語の主役を張るパーティの一員として、相応しいかもしれないと思って選んだけです。
なお、主人公の金髪レンジャーもゲームでは使用していません。
稚拙なところも目立ちますが、ご意見・ご指摘をお待ちしております。
序章.エトリア伝承
かの地にあるどこの国にも属さぬ中立独立都市・エトリアには、大きなとぐろを巻いた蛇の骨がある。実はその骨は蛇ではなく、大空を飛翔する龍であったと伝えられている。
これから語られるのは、約一千年前にエトリアが誕生した伝承の省略版である。
ここが「エトリア」と名付けられる何万年も前。天を突かんばかりの大樹が聳えていた。その大樹の周りには、三頭の龍がいた。
一頭は、一吹きで大地を燃やし尽くす赤い龍。
一頭は、海をも凍らせるほどの冷気の力を抱く蒼き龍。
一頭は、雨雲と雷を支配する黄金に輝く龍。
三頭の龍は喉の乾きや餓えを満たす時以外は、片時たりとも大樹から離れず、大樹を守り続けた。まるで母にでも寄り添うかのように。
・赤い龍の顛末------
だが、長い歳月で人も動物も変わるもの。龍とて例外ではなかった。
長い寒波の時代が訪れた。蒼き龍と金色の龍は耐ええたが、赤い龍は耐え切れず。また、永きに渡る歳月で芽生えた好奇心と知識が抑えきれず、赤い龍は大樹から飛び去り、広大な大海原へと飛翔した。
赤い龍は自身の力に多大な自身を抱き、自身に敵なしと考えていた。現実は残酷なものであった。 一部例外があった。この赤い龍の眼下にある大海原には、赤い龍ほどではないが力を持った伝説上の怪物が存在していた。
赤い龍は海上でそれらの怪物達と戦いを繰り広げた。しかし、赤い龍は長い旅で疲れはて、長きに渡る寒波のせいで本来の力が失われていた。赤い龍は半数の怪物たちを殺したところで逃げ去ったが、いつ果ててもおかしくなくなった。
赤い龍はどこかの海岸に着地し、眠るように息を引き取った。
その海岸には既に人間が住んでおり、人間たちは赤い竜の存在に畏怖したが、死んでいると知るや、人間たちの中でも勇敢な者が赤い龍の遺骸に触れ、「見よ! これは偉大なる者の思し召しに違いない! 我らはこの龍の遺骸を礎にして、ここを開拓して繁栄するのだ」と宣言した。
後に、ここの海岸は海都アーロモードという都市が建てられる。現在でも海都には龍の骨の一部が展示されている。
・蒼き龍の顛末------
長い寒波の次は、長い乾きの時代が訪れた。黄金の龍は蒼き龍を愛おしく想い、懸命に雨を降らせて乾いた自身の鱗と蒼き龍の鱗を癒そうとしたが、蒼き龍も黄金の龍も力は衰える一方だった。
蒼き龍も永きに渡る歳月で好奇心と独立心が芽生え、黄金の龍の忠言も聞かず、安穏の地を求めて大樹から飛び去っていった。
蒼き龍は北へ北へと向かい、飛び続けた。だが、どこもかしこも旱魃で大地は枯れ果て、蒼き龍が定住できそうな土地は見つけられなかった。蒼き龍はめげずに北へと飛び続け、ある緑豊かな高地を見つけた。
蒼き龍は喜んでその土地へ飛んだ。しかし、そこにも蒼き龍と同様、安住の地を求めておぞましい
蒼き龍は最後の力を振り絞っておぞましい獣たちを冷気の力で打ち砕き、安住の地へ足を降ろした。龍が胸を撫で下ろしたのも束の間、けだものたちとは別の勢力が蒼き龍を襲った。
それは人間たちであった。この人間たちは戦い方や武具の鍛え方を心得ており、人間たちは突然の来訪者を刃を持って歓迎した。
おぞましい獣たちの戦いで力を使い果たした龍はいとも容易く人間たちに討たれた。
人間たちはおぞましい獣たちを砕いた龍を倒した。これはきっと、我らが今後も脅威を退け、繁栄と栄光の証となるであろうと喜んだ。
事実、この高地に住む者たちは繁栄を極めた。龍がおぞましい獣たちを全滅してくれたお陰でもあるが、人間たちにとって龍も同じおぞましい者たちの一種であり、人間は獣同士で殺し合いでもしたのだろうとしか思い至らなかった。
後に、大陸の遥か北方にあるこの高地はハイ・ラガード公国として栄える。言い伝えでは、蒼き龍の骨は王家の地下の奥底に眠っていると噂される。
・黄金の龍の顛末------
赤い龍と蒼き龍が去ったあとも、黄金の龍だけは大樹を守り続けた。
寒波と旱魃の時代も去り、四季が普通に移り変わる安定した時代へ突入した。同時に、以前は生態系の支配者層の人間も力を付け始めた。
大樹より離れて一千里先に、科学と錬金術が発達した国が誕生した。
彼らは錬金籠手と呼ばれる物を媒介とし、魔法使いのように火・雷・氷・毒などを創り出せた。そのほか、様々な建築技術や武器の製造法を編み出した。現代でも近隣諸国やエトリアでは、建築様式の技術の一部にその国の技術が用いられている。この国はエトリアが誕生してから百年後、大戦火と大災害に遭い消滅した。一部の子孫が兄弟都市であるエトリアへ難を逃れた。
彼らは「アルケミスト」と呼ばれる一党となり、世界を放浪した。
この時代、一千年前はエトリアにはエトリアという名前はない。大樹から二百里離れた先に、名も無き集落が点在するのみだった。ここにアーサー率いる子孫の一部が難を逃れ、定住した。アーサーは一番若く、優秀な末息子アルソールに如何の言葉を遺した。そして、彼らは王の血を受け継ぐ者でもあった。
「我ら錬金術師たちはかの大樹を解き明かしたかった。あの大樹にこそ、世界の神秘と
頼む、アルソールよ。私の生涯最期の願いを聞いてくれ。あの邪龍を討ち、我らの代わりに、あの大樹に下に横たわるはずの理を見届けてくれ」
「ですが、父上……」
アルソールは言葉を迷った。
「父上のお気持ちは痛いほどわかりますが、私には武器といえるものといえば、錬金篭手しかありません。私は匠の錬金術師なみの強力な術式は使えますが、恐らく、あの龍には通じないでしょう」
すると、アーサーはにっこりと微笑み。ベッドの下へそろそろと手を伸ばし、なんの変哲もない長方形の鉄の箱を五つ取り出して蓋を開いた。中には、普通より太く長い矢が五本収められていた。矢には複雑な紋様が施され、掴みの部分はねじ巻いていた。
「これは、サジタリウスの矢。これがあれば、千の軍勢でも恐るるに足らん」
アルソールは震える手で五本の矢を手にとった。見目の割には矢は軽かった。
サジタリウスの矢。錬金術の国でもごく一部の者にしか伝えられなかった、兵器。錬金篭手と異なり、これは一回使ったらそれっきり。だが、威力は錬金篭手を上回っている。
矢は匠の錬金術師が放つ術式数十発分を込め、それを圧縮して放つことができる。その威力は凄まじく、例えば、炎であれば空をも焦がすと伝えられている。あまりの威力に国は矢の製造法を隠したが、国が滅んだ際に製造法を知る術師は死に絶え、矢は幾つかに別れたその子孫が持ち出した物しかもう残っていない。アーサーはその術師の一人と懇意の仲で、戦乱の最中、その者から五本の矢を預かっていたのだ。
「私にこれを使い。龍を討てと?」
アーサーは幾重にも皺が刻まれた顔をほころばし、頷いた。
「そうだ。一本だけでも事足りるかもしれぬが、用心を期して三本持っていけ。無事にかえってこれたら、一本は家宝に。一本は後世の研究の材料として残すがよい」
遺言を伝えてから六日後、アーサーは天寿をまっとうした。生没年に詳細はないが、少なくとも八十歳は越していた。
父が亡くなる前も後も、アルソールは部屋に閉じこもった。人々は彼が亡き父を偲んでいると思ったが、そうではない。アルソールは日夜、サジタリウスの矢に術式の力を込め続けていていたのだ。
アルソールは仕事にも手を付けず、矢に力を注ぎ込んだ。一本には毒の力を。一本には氷の力を。一本には、彼が最も得意とする炎の力を注いだ。龍は雨雲と雷を操ると伝えられているので、雷の術式は避けた。
彼は親戚に、短い旅に出るとだけ告げると、彼は馬に乗って大樹へ向かった。その際、兜様式の宝石を散りばめた豪奢な王冠を被った。細工を得意とした錬金術師たちの意匠が施された、立派な王冠兜だ。
「決戦の場での衣装ぐらい、好きに決めさせてくれ」
大樹が視界に入り、更に近づくと、馬は怯えいななき逃げ出した。とぐろを巻く龍の姿が見えたからだ。
勇んできたものの、彼は龍を前にしてその勇気がしぼんだ。帰ろうとしたとき、大樹から一人の老人が彼に近づいた。老人は自らを大樹に住まう賢者と名乗り、彼にこう告げた。
「やはり、いくら力を与えても、単なる空飛ぶ蛇では大樹を守るのは無理であったのだろう。そこでじゃ。もしお前さんがあの龍を討ち取れば、大樹の奥底は見せられぬが、大樹の浅い世界にある物を持ち帰るがよい。それらは富に替わり、きっと街をも建てられるであろう」
「なぜそのような申し出を私に?」
賢者は意味ありげな笑みを浮かべた。
「大したことはない。人間が成り代わって支配してくれたほうが、こちらとしても都合が良いだけじゃ。一つ、協力してやろう。今日一日かけて、わしはあの龍の力を弱らせ目を潰す。お前さんはその背に背負った毒の矢を使い、龍の力をさらに弱らせ、氷の矢で龍の尾を地に引き止め、残る炎の矢で龍の頭を射抜くのだ」
アルソールはこの賢者の助言と協力を受け入れた。
翌日。アルソールは窪に隠れ、龍の様子を窺った。龍はいつもと変わらぬが、息遣いが荒々しかった。アルソールは正面から龍に近づいた。百歩ほどで触れる位置にいるのに、龍はアルソールに無関心だった。
アルソールは賢者の助言どおり、早速毒の矢を射た。もくもくと真っ黒な毒煙がたちこめ、龍を苦しめた。次にアルソールは氷の矢で龍の尾を地面に引き止め、慎重に狙いを定め、炎の矢で頭部を射抜いた。
こうして、大樹を守る最後の龍は途絶えた。
炎が消え、毒が風で薄れたとき、賢者が現れ、アルソールについてくるよう示した。
賢者は一カ月かけてアルソールに英知と力を授けると言い、アルソールは喜んでこの賢者に教えを請うた。
一カ月半後、アルソールが帰還した。帰ってきたアルソールは人が変わったようであり、まるで何者かが乗り移ったかのようだった。
アルソールの頭上にあの美麗な王冠は無かった。彼は告げた。
「必要ない。あれは、そう、エトリアの王冠とでも名付ければよいか。地の底に置いてきた。これからは、この地、エトリアに君主や王は要らぬ。民自らの手で全てを治めるのだ。ただ一つ、そのようなものがあるとすれば、偉大なる世界樹を崇めればよいのだ」
アルソールは龍を退治した証拠にと、龍の髭と牙の一つを背負っていた。アルソールは人に、大樹の下へ移り住まうことを提示した。
アルソールは変わった指導者選出方をも伝えた。
指導者は常に潔癖であらねばならず、指導者なる者は男女問わず、貞操を守り、夫や妻となる者は娶らぬこと。もし指導者たる資格があるにしても、その者が既に夫か妻を娶る、あるいは誰彼と契りを交わしているようならば資格なし。次代の指導者になる者は一カ月、密やかに現役の指導者の教えを請い、細かな役割と記憶を受け継ぐこと。指導者はその身を大樹に埋めること。現代でも、エトリアの執政院の長は選挙ではなく、この奇怪な方法で次代の長が選ばれている。
独裁者が生まれないかと懸念の声もあるが、目下のところ、そのような人物は一度足りとて誕生しなかった。
妻を娶らず、貞操を守り、龍を討ち取った勇敢な自分こそ相応しいとアルソールは推した。アルソールはさながら武勇に語られる勇士の威容を放っており、兄弟親戚一同に、傾聴していた全ての人々は彼が長になることを諸手をあげた。
住まわせて貰っていた村の者たちも付き従い、アルソール率いる集団は大樹に定住した。
アルソールはこの土地を、かれの国の言葉で冒険者や開拓者を意味する「エトリア」と命名した。更に、かれの兄弟が大樹に名を与えた。世界を見下ろす大樹、「世界樹」と。
彼らはアルソールの指導の下、世界樹に潜った。そこは驚異と驚異に満ち足りていた。明らかに地上に住まう生物とは異なる異形の生き物。地上にはない鉱物・植物の数々。かれらは危険を掻い潜ってそれらの富を得て、錬金し、それを各地方に卸した。この街の職業の一つ、「冒険者」は元はエトリアの住民が富を得て、街を発展させるためにあった。
世界樹の迷宮は広大。一階層の一階ですら、今だ未開拓な場所が多々あり。現代の地図に記載された一階の全容は、実は全体の一割にも満たないと見解は一致している。
初代長アーサーは亡くなる前、遺産の全てを分配・処分した。その中にはなんとサジタリウスの矢も含まれていた。親類一同は猛反発したが、彼は「かような兵器という負の遺産は遺さないことこそ後代の為」と跳ねのけた。
二本は処分されたはずであったが、一本は彼の親類がこっそり抜き取り、隠した。彼はのこる一本をどこに隠したか固く口を閉ざし、病没した。一本は確実に大陸のどこかにあるはずだが、隠された場所は判明してない。
アーサーは親族からは跡継ぎを選ばず、冒険者を止めて一介の市民として暮らす者を次代の長に選び。一カ月、誰にも明かされぬ大樹の秘密の地に潜り、アーサーの体は人知れずそこで葬られた。
アーサーが亡くなったのち、世界中からエトリアの世界樹の下に広がる御伽噺でしか存在しえない未知なる世界の噂を聞きつけ、各地から旅人、盗賊などのならず者、傭兵くずれ、そして純真な気持ちを抱いた冒険者が集った。
エトリアに住まう住民たちは生活できる程度に採取すれば問題なかったが、これは更なる繁栄を極める好機と考えた。エトリアの住民はいつしか、自分たちが偉大な錬金術の国の子孫だということも忘れて、各地から集う冒険者たちを相手に商いの範囲を拡大させた。
かくして、現代に至るまで、エトリアは数多の冒険者と世界樹の下に住まう生物の血肉を糧とし、栄華を極めた。
*よく見れば、矛盾やあまりにも説明不足があるのは、これはあくまで大衆向けに発行されたエトリア伝承の”省略版”だからである。本当のエトリア伝承が記載された蔵書は厚さ二千ページにも及び、細かな文字が上下びっしりと詰められている。
時間があれば、是非とも図書館にも収められた正式なエトリア伝承を読んでもらいたい。
執政院ラーダ広報部より