世界樹の迷宮 光求めし者達   作:鞍馬山のカブトムシ

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四十話.決死隊

 体を動かせば、温かくなると考えたがそうでもない。 

 ほぼ一箇所に留まった状態でシャベルを動かし続けるだけなので、多少熱くなれても、芯までは温もらない。

 地味な作業だとぶつくさ言いつつ、ロディムは懸命にシャベルで雪をすくい、軽く叩いて固めた。大雪が降り、風も吹いて、多少の音は遮断されてしまう。無駄に声を出さず、黙々とシャベルを振るう。

 ジャンベは休憩中。マルシアは怪我人の治療で大忙し。コルトンは……。彼は余計なことを頭から振り払い、がむしゃらにシャベルを動かした。

 突撃誘導作戦を決行するに至り、雪で簡易的な障壁を造り上げてた。怪物の攻撃を防げるとは全く思ってない。少しでも、樹海生物の目を五十の人馬以外へ向かないようにするため。

 作戦に乗り気な者は多くないが、総轄隊長が命を賭したとあっては、従わざるをえない。彼は激励をかけつつ、自身も一兵士としてシャベルを手に取った。

 下士官は控えた方が宜しいのではと止めたが、彼は笑顔で断った。

 

「なに、まだ死にたくないからな。今はじっとこもるより、体を動かした方が落ち着く」

 

 彼はそう言って、兵士達と共に懸命に働いた。

 その様子は風のように広まる。

 滑稽。演出だろ。無様だと言う者もいれば。国を想う気持ちに身分はない。あの方なりに戦っていらっしゃると思う者もいた。

 最高責任者が命を賭けて、一兵士達と共に働く様を悪く捉える者はそうおらず、否定的に考えても、心底嫌と思う者はそんなにいなかった。

 いずれにせよ、彼を慕う者は多かった。

 外で働く者たちがいる一方、世界樹の付近にある小さな館で暖を取り、寛ぐ者たちもいた。

 エピザ・トーティの戦士五名、メティルリク兵士五名。エトリアの者たちが数十名。冒険者もいる。

 これらは、誘導作戦に参加する決死隊五十名のメンバー。他、秘密裡にオルレスや遠方の避難民に状況を伝える役目を仰せつかった三人の騎手もいる。

 突撃の混乱に乗じて、包囲網を切り抜ける。

 決死隊の者たちは突撃までは体を養い、思い思い過ごしても良いと言われた。

 彼らはゆっくりと温かい館の中で過ごし、恐らく最期となる生の余韻に浸っていた。挨拶回り、親しい者の元へ行く者もいた。外を手伝う者もいた。もっとも、体を養えと追い返されたが。

 冒険者からは、ゲンエモン。シショー。ブレンダン。ドナ。ラクロワ。そして、他二人に、コルトンの計八人もいた。ついで、三人の内、一人はコウシチだったのだが、そのことでゲンエモンと揉めていた。

 

「納得できません!」

 

 窓ガラスがびしと震えた。コウシチの声で震えたかと思ったが、強い風で叩かれただけだった。

 

「師よ。私はあなたを尊敬しております。幼き頃、行くあてもない私を育ててくれて、感謝もしております。あなたの願いや言葉はできる限り、承りたいと思っている。しかし、今回のことは承れませぬ! 何故、私が決死隊から外されたのですか。仲間のシショー殿はいるのに、私だけ外された理由をお教えください」

 

 ゲンエモンは努めて、冷静に答えた。

 

「さっきも言った通り。適材適所。お主には決死隊の任に就くよりかは、密かに馬を走らせる技能と身軽な動作は秘密裡な仕事にはもってこいなのだ。その後は、遠方からエトリアの動向を見守り、避難民を守る任に就いてもらう。これはもう、決定だ」

「しかし、しかし……」

 

 コウシチはなおも食い下がる。彼は師のゲンエモン、仲間のシショーと共に往きたかった。

 ゲンエモンの影響と彼の性質から、彼は仲間が良いと言っても、自分一人だけ助かることは頑として断った。

 自分が認めた、心を許した者たちが居るエトリアに最後まで留まり、散るときは共に。コウシチはそう思っていた。

 それだけに、師の命令であっても仲間や他の者たちを置いて行くことは、彼の性分に反し、到底、受け居られなかった。コウシチは痛みを堪えるようにじっと下を見つめた。色気も無い、白一色の雪に埋もれた地面しか見えない。

 

「面を上げい、コウシチ」

 

 言われたまま、前を向いたコウシチの顔を見て、ゲンエモンはハッとした。

 コウシチは薄らと両目に涙を湛えてた。

 コウシチが最後に泣いたのは、十代半ばの少年の頃以来、見ていない。彼は心身共に逞しくなった。その彼が、十数年ぶりに、ゲンエモンの前で泣いている。寂しさと、疑問と憤りを込めて見つめている。

 

「私がこれほどまでにこだわるのは、共に行けぬという理由だけではありません。師よ、あなたは色々とそれがしに隠しておられる。私はあなたの命ぜられたとおり、使者として赴きます。ですが、代わりに、あなたがそれほどまでに隠す通していることを明かしてください。さもなければ、私は心に一生靄を抱えたままになる」

 

 ゲンエモンは逡巡した。

 今こそ、明かすべきではないか。ゲンエモンは口を微かに開け、閉ざした。いざ、言おうとしたら、長い年月の重みがずしりとのしかかり、ゲンエモンの口を閉ざさせた。

 やがて、ゲンエモンはのろのろと口を開き、明かした。

 ただし、内容はエドワードに打ち明けた事と同じであった。コウシチはなんと驚き、そうでしたかと肯定こそしたものの、長らく付き合ってゆえか、鋭く勘付き完全には納得してなかった。

 

「師よ。あなたはまだ、全てをおっしゃられてない。私にはどうも、始めに物を申されようとしたとき、まるで喉に詰まったように奥へ引っ込めた。そんな感じがしました。それは、今しがたあなたが言われた内容とは異なる」

「今語ったことが全てだ、コウシチ。これ以上はお前に話せることは無いのだよ」

「そうですか」

 

 もういいです。そんな風にも聞こえた。

 

「ご迷惑をおかけしました。さあ、中へ入りましょう。お体を冷やしてはなりませぬ」

 

 気を使ったように聞こえるが、どこかよそよそしく。他人行儀。ゲンエモンはコウシチとの間に溝ができたのを肌で感じた。

 これで良いのだ。彼は私に拘らなくていい。

 ただの他人と思われて死ぬのは惜しいが、仕方ない。全ては自分の罪と臆病さゆえに招いた事。そう思いながらも、後悔が滲み出る。寒さで凍えて、雪で髪と髭の白みが増し、沈んだ顔のせいでゲンエモンはより老けた。

 館に入ると、コウシチはシショーの居る二階へと上がった。

 外に出る前、話し終わった後は飲もうと約束していたが、今となっては気まずい。ゲンエモンは玄関を上がり、角にある居間へ入った。

 寒暖差でむわっと熱くなり、思わず身が震えた。

 ランプの光を反射して照れる禿頭が目に付く。

 おっさん、飲むかいとラクロワが振り向き、ブレンダンも続いた。暖炉の傍に置かれた(かん)をつける酒が差し出された。

 

「しけた面を見せてくれるなよ、じじい。まだ死んでもないのに、通夜に行った顔をするな。酒が不味くなる」

 

 開口一番、ブレンダンは憎まれ口を叩いた。

 陰気な灰色の目でゲンエモンを見上げ、黒いコートを羽織り、短く刈り込んだ赤茶の頭髪が人目を引く。

 本人はあんまり口を開かないので、影が薄いと思われがちであるが、開けば悪口か、ついつい嫌味がかった口調で物を言ってしまうので、中々喋らない。

 ねっとりとした喋り方が余計に相手の神経に触り、彼自身、相手のそういう反応を楽しんでる節がある。

 ああいうのも必要だ。稀に意外な盲点を突いたり、鋭いところもある。まあ一番は術式の腕前だがな。

 ゲンエモンはそうした理由で彼を受け入れたが、彼やパスカルのような人間でなければ、ブレンダンを引き入れたいと思う人間は少ない。とはいえ、決死隊に入るのを引き受けたあたり、表面上冷たいだけの人間でないのはゲンエモンとラクロワもわかっていた。腹が立つときはあるが。

 

「おう、そうだな」

 

 ゲンエモンはラクロワから杯を受けとり、くいと一気に飲んだ。濃度が高い酒が体中を駆け巡り、喉から身体の芯にかけて体をかーっと熱くする。

 

「強いな。飲み過ぎて二日酔いをおこしてくれるなよ」

 

 わかってますと、ラクロワはからからと笑った。

 

「師弟喧嘩とは随分と呑気なものだ。悔やんだ面した大将に先を行かれちゃ、やる気がそがれる」

「しつこいぞ!」と、ラクロワがきつく言う。

 

 数分間、ゲンエモンは部屋で暖めた。しかし、心は落ち着かない。ゲンエモンは用があると立ち上がり、部屋を出たら、向かいの部屋に入り、コルトンを呼んだ。

 

「すぐに終わる。来てくれ」

 

 ゲンエモンは部屋に居る者に、自分がコルトンと会ったことをコウシチに話さないようにと言っておいた。二階への階段と辺りを注意深く見回し、コルトンを人気の無い台所まで連れた。

 

「用とはなんですか、ゲンさん」

「これから話すことに、あっとか、おっとか、驚きの声を上げないでくれ。それと、このことは総轄隊長も存じておられる。わしらが突撃した後、コウシチに話す手筈になっておる」

「では、俺に言う必要はないのでは?」

「ああ、そうだ」ゲンエモンはあっさり言った。

「だが、わしの心は迷っておる。だから、死地へ赴くのに気持ちよくという言い方も変だが、哀れな老体が心置きなく行くための気持ちの整理だと思い、黙って聞いてほしい」

 

 コルトンには、はいと答えるしかなかった。ゲンエモンはコルトンに、コウシチに明かさなかったことを教えた。事前に驚くなと言われていたが、コルトンはなんですと叫ぶのをぐっと堪えた。

 

「今からでも話してはどうです? 奴もきっと、そこまで依怙地にはならんでしょう」

「そうかもしれん。だがな、話したら、今度は付いてくると言うはず。わしらを見捨てておけない、共に行かせてくださいと前より意地になる。お前さんも奴の性格はそれなりに存じておろう。あれはこうと決めたら、てこでも動かん。

 わしはコウシチに跡を継いでもらい、アヤネを守り、愛する(ひと)を見つけ、幸せに生きてほしい。だけど、エトリアにいる限り、それも難しい。不幸を良いと言うのは憚られるが、良い機会だった。これで、冒険者を辞めてくれる」

「仲違いしたままでいいのですか?」

 

 ゲンエモンは悲しそうに首を振った。

 

「良い。わしに拘る必要はない。さっ、年寄りの長話に付き合わせて悪かった。部屋に戻って温まろう」

 

 コルトンはいまいち納得しかねたが、当人の方がもっとだろう。俺が入れる領域ではない。当人たちの問題だ。そう割り切り、コルトンは階段の所でゲンエモンと別れて、部屋にある安楽椅子の上で足を伸ばした。

 二十日は特にこれといった動きは見当たらず、双方の陣営は静かだった。雪の協力もあり、障壁は自ずと高く積み上がる。カースメーカーたちの感知と、偵察班によれば、確実に近づいてるとのこと。大型のが浅層をうろつき、早ければ明日か、遅く見て数日後には来る可能性がある。

 

 

 

 二一日。この日も動きは無かった。大雪は止みそうにはないが、夜に僅かながら弱まった。

 ただし、決死隊には動きがあり、メンバーはそれぞれ配置に着いた。

 カースメーカーと偵察班の報告により、いよいよ目前に迫ってるとのこと。深夜か。遅くて、明日、日の出前に出現する可能性が大。

 思ったよりも早かったな。コルトンは不思議と怖くなかった。いざ、直面したら、恐ろしさのあまり脱兎のごとく駆けるだろうがな。適度な緊張感を保ちつつ、心は平静。やるだけやるしかないさと悟っていた。

 コルトンはホープマンズの面々を長鳴鶏の館に集め、一人一人に別れを告げた。

 

「あばよ、ロディム。無駄に突っ込むなよ。怪我を治してくれて、ありがとなマルシア。アクリヴィ、皆を頼んだぞ」

 

 アクリヴィは無言でコルトンを見つめた。

 

「ジャンベ、見送りを頼むぞ」

 

 ジャンベは沈んだ表情でええと頷いた。

 突撃の際、大門から出る直前、大量のラッパや吹奏楽器を用いる。エトリア側からの攻撃という意外性で敵を驚かし、威嚇するためでもあるが、決死の行程を往く五十名に対するせめてもの手向けの意味もあった。

 ジャンベは西の外壁で吹き鳴らす一人に選ばれた。

 

「こんなこというのもなんだけど、彼に会えるかしら」とマルシア。

「さあね、わからんよ」

 

 コルトンは肩を竦めた。昨年、エドワードは出立する前、コルトンに戦場で馬上の人として合い間見える予感がすると言った。現実はというと、エドワードどころか、遠方や他国の援軍の当ても情報ない。

 

「会えたらいいし、もちろん嬉しいさ。だけど、会えなかったとしても、仕方ない」

「会えると信じれば、会えますよ」

 

 ジャンベの言葉に、コルトンはそうだなと返す。今はただ、来ると信じるしかない。自分が参加する突撃作戦が上手くいくことも強く信じて駆ける。大変なのは馬だが。

 コルトンは名残惜しく彼らと別れた。コルトンが他のメンバーと十分離れたのを確認して、こっそりと物陰から動向を窺っていた者が正体を現した。全身をフードとマントで被い、コルトンは身構えた。

 拙者だと、コウシチは正体を現した。

 

「俺をおどかすために来たんじゃないよな?」

「無論。はっきり言おう、コルトン(うじ)。主は師ゲンエモンから、何か話を聞いたはず。それを聞くべく参った。隠しても無駄だ。主と同室の者たちに聞いたら、素直に教えてくれた者が何人もいた」

 

 やれやれと、コルトンは呆れた。といっても、衛兵や他国の兵士からすれば、ゲンエモンにそこまでの義理もないので、仕方ない。

 

「少し待ってくれ」

 

 コウシチは今にも噛み付きそうな勢いでかかった。

 

「少しとはどのくらいだ!? 五分か、一時間か? それとも、作戦決行直前か、奇跡的に生還を果たせた後か。主の少しでは時間がかかると思う。勝手で申し訳ないが、それがしが時間を決める。その前にコルトン氏から話してくれるのを待つ」

 

 コウシチはフードを被り直し、じっと立ち尽くして目を閉じる。侍がよくやる”座禅”とやらの立ち版か。瞑想自体は宗教家やカースメーカーのような者たちがするのをたまに見る。

 それはともかく、コルトンは迷った。ゲンエモンとの約束もある。一方で、コウシチへの同情も強い。第一、隠し立てする意味があるのだろうか。さっさと話せばいい。そんな思いもあった。

 考えるほどにこんがらがり、靄が生じる。どうすればいい、どうすればいい。そうしているうちに、コウシチから時間だと告げられた。

 

「さあ、時間だ。もう、少しも待つ気はない」

 

 コルトンは逃げようかと辺りを見たが、即座に追いつかれるだろう。コウシチの表情は硬く、なにがなんでもコルトンから聞きだそうとしている。コルトンは重い溜め息を吐くと、コウシチに真実を明かした。

 コウシチは三白眼を見開き、俯き、コルトン以上に動揺した。やがて、何度も小刻みに頷いたら、コルトンに背を向けて、すまなかったなと詫びた。

 

「足止めしてすまぬ。そして、ありがとう。おかげで、我が意は固まった」

 

 コルトンは聞こうとしたが、コウシチは足早に去ってしまった。我が意とはなんだ。自分がやれと定められたことをやるのか。今更、止める資格もない。ごめん、ゲンさんとコルトンは心の中で申し訳なさげに呟いた。

 

 

 

 僅かな篝火以外、明かりが一切ない深夜も大分過ぎた頃。いよいよ、五十騎による突撃誘導作戦が決行される。

 カースメーカーと偵察の報告から、いつ来てもおかしくない。暗く沈んだ一階で、深層の怪物と思しき巨大な陰影が幾つも目撃されたとのこと。

 入口から、怪物たちの咆哮が絶え間なく響き、世界樹を微かに震わし、浅い部分の雪が落ちる。

 門の前で三十騎配置。残す二十騎は、要所で三騎から五騎ずつ配し、最後は芝生と石積みの傾斜左右から四騎が飛び出す。肉汁に浸した水気たっぷりの牛や羊肉をつるし、突っ走る。

 道路はできる限り舗装されて、雪解け用に溜めておいた海水をまんべんなく撒いたかいあり、一応、凍結は防げた。

 先頭を行くゲンエモンは真紅の鎧具足で身を固めていた。

 冑から生えた一対の銀光りの大きな鹿角が目を惹く。彼自身の物ではなく、アヤネの先祖が付けていた物。アヤネから許可を貰い、シリカ商店の職人に頼み、外見の面影を残しつつ、新しい技術が取り入れられていた。その際、馬上で振るうのに適した黒塗りの槍も新調した。

 ゲンエモンはそれぞれに別れを告げた。

 

「ヘンリク、数多の怪我を治してくれてありがとう。ニッツァ、熱くなりがちだが、時にそなたの若さと勢いに押されて上手く行くこともあった」

「別れの言葉がそれですかあ?」

 

 ニッツァはふてくされた面をして、悲しい顔を見せまいと努めた。

 

「わしらは仲良しこよしなパーティではなかった。なんかつるんで、なんか上手く行けた。そんな感じだが、このような年寄りを一員として扱ってくれて、感謝しておる。頼もしい奴らと思うとる。だから、還れたら、また探索に赴こう」

 

 もちろんとニッツァは満面の笑みを浮かべ、ヘンリクは小さく会釈した。

 ゲンエモンは西側を守るヴァロジャを呼び、彼に冒険者を率いてくれと指揮権を譲った。

 

「この中では、お主にしか頼めない」

「まあ、お任せあれ」

 

 どんと胸板を叩き、ヴァロジャは不敵な笑みを浮かべた。

 怪物たちの咆哮が増して、間近に迫るのを知らせてくれる。

 内壁の門を全開、少しでも早く呼び寄せるため、内壁の冒険者と兵士達がわざとらしく叫び、喋る。幾人か入口にまで行き、大声を上げる。

 肉汁入りスープを入口と付近にぶちまける。多少、生臭いものの、良い匂いがする茹だつスープの香りが一面に漂い、ごくりと生唾を飲む音が聞こえる。匂いと声に誘われて、狂暴な樹海生物たちの声と足音が激しくなる。

 不要な人員は離れて、伏兵は雪壁の裏に隠れて、二十の馬に人が乗る。馬はどれも訓練されており、少しの物音では怯えないが、相手が相手だから、不安気に足踏みをするのもいた。

 乗り手は優しくさすり、声をかけ、馬を落ち着かせようとした。

 ゲンエモンは栗毛の馬。エドワードとの乗馬訓練で何度も付き合いがある、旋風(せんぷう)と名付けられた牡馬に乗った。旋風は一番、落ち着き払っていた。

 ゲンエモンが頼んだぞと言ったら、了解したという風に両耳を上下させた。

 入り口付近にいる者たちが悲鳴を上げて、後ずさった。樹皮を乱暴にかきむしり、狭い出入り口から自らを押し出すように出てきたのは森の王ケルヌンノス。

 山羊を思わせる頭と派手なたてがみ、鍛えた成人男子の胴回りよりも太い腕、全身に生える分厚い毛皮、辺りを睥睨する狐のごとく赤い両目、人間めいた上半身の下は筋骨逞しい山羊か馬のような四つ足。二階建てぐらいの大きさ。

 真っ赤な巨象すら捻り潰してしまう強さを秘めた二階層最強の生物。三階層に通じる階段を守護するかのように、十階にある森の回廊に出没することが多い。

 予想外の大物出現に多くの者は狼狽えた。一階層の白き魔狼と異なり、ケルヌンノスは深層へ挑む冒険者でも危ない。

 その後も、続々と深層の怪物が現れる。青熊、大サソリ、怪物鰐、冷たい凍りつく息を吹きつける大亀、骨みたいな鱗を生やした別名”死を呼ぶ竜骨”と呼ばれる白い地竜。大型級の怪物たちが大量に這い出してくる光景は悪夢としか言い様がない。怪物たちは予想に反し、真っ直ぐ突撃隊には向かわず、地上の寒さと雪に戸惑った様子であり、ケルヌンノスなどは忙しなく首を回してた。

 ゲンエモンが槍をかざして命じた。

 

「皆、叫べ! 注意を引くのだ」

 

 こっちへこーい! おーい、おーい! ウドの大木! かかってこいー!

 突撃隊が叫び回り、軽く手綱も引いて、足音を鳴らす。

 突撃隊を助けるため、投石と弓矢による支援も行われた。大した傷は与えられないが、怪物たちは疎ましく篝火に照らされる突撃隊を見やる。肉汁スープが突撃隊と門の間にぶち撒かれる。ついで、一人の放った強弓(きょうきゅう)がケルヌンノスの肩に刺さり、厚い皮膚を貫き微かに痛みを与えた。

 ケルヌンノスは肩の矢を引っこ抜き、握りつぶすと、天を仰ぎ、一声吠えたら、突撃隊へ突進を仕掛けた。

 ケルヌンノスの突進が引き金となり、他の怪物たちもつられて、あれよこれよと突撃隊の後を追いかけ始めた。

 

「進め、世界樹に集いし強者共よ!」

 

 轡をとよもすが一斉に鳴り、二十騎が怪物に負けず劣らず疾走する。

 ゲンエモン、コルトン、シショー、ドナ、ラクロワ、ブレンダン、騎手たちの面々は捕まらず、まずは門までたどり着けることを願いつつ、ときに鞭を入れ、細心の注意を周囲と後方、道路に向けて、手綱をしっかりと握って転ばぬよう心掛けた。

 背後の威圧感は言葉で表せない。ただただ、懸命に駆ける。迫る怪物たちはさながら巨大な荒波。呑まれたら最後、二度と戻れない。

 確認している暇はないが、要所の通路に隠れた騎手たちがちらと見える。多分、背後で合流しただろう。確認している暇はないが、そう思うことにする。

 ベルダの広場付近にある、数本の松明が吊るされた問題の曲がり角が来た。上から見たら、三角形になっており、がくがくと曲がらなければならない。

 ゲンエモンは前方を見据えた。彼の心に最早迷いはなく、集中力は鋭敏に研ぎ澄まされてた。

 彼はここぞというところで馬首の向きを変えた。先頭の馬に倣い、後列の馬たちも旋風の後を付いてゆく。だが、最後列から一つ、短い人馬の悲鳴が上がり、断末魔と思しき声は怪物たちの騒音に掻き消された。

 誰かが転んだと告げた。もちろん、助けられるわけない。突撃隊は最後尾の彼をいない者として突き進む。

 角を曲がり、ベルダの広場にある噴水も避けた。

 怪物たちは問答無用で広場にある噴水を叩き壊して、家の屋根や壁をどれだけ壊そうとも一向に構わず、無我夢中で未知の生物に乗る良い匂いがする奴らを捕えようとする。

 橋が下ろされて、西の大門が開かれた。敵の注意を引く為、僅かに角笛と喇叭が吹かれる。

 石積みの傾斜が見えてくる。

 前列右を走るコルトンは、右で待機する二騎の存在に気付いた。

 傾斜を下った際、何気なくちらと振り返り、左から三騎来たような気もしたが、すぐに前を向いた。左右は雪の壁で覆われており、壁の裏で何人潜み、何が行われてるか視認できない。

 今度ははっきりと悲鳴が聞こえた。最後尾の一人が森の王に捕まったのだ。馬は主人の足が手綱に絡まったせいで宙に上がり、首を握りつぶされた。

 捕えられた者は無抵抗ではやられず、握り潰される直前に短剣を爪に刺した。森の王は痛みで手をぐっと握ると、ぱっとゴミのように手放した。また一人、道半ばで斃れた。

 門に迫ると、盛大に喇叭と角笛が吹き鳴らされた。

 音はどこまでも、どこまでも野放図に響き渡り、突撃隊には活気を与えて、怪物たちは不快な音を避けようと足を速めた。気付く者はいなかった。二人減り、四八騎のはずが、四九騎なのは誰も。

 突撃隊が門を潜ると、橋の前には千は下らない敵が詰め寄っていた。

 しかし、彼らは絶叫し、突撃隊に背を向けた。怪物を味方にして率いたと思う者もいれば、突撃隊も入れて、一つの巨大な怪物が出現したと恐怖した。

 狂ったように突撃隊を追いかけた怪物たちは進むにつれて動きが鈍くなり、やがて、好き勝手に動いた。餌であり敵でもある人間達、王賊軍でありサンガット軍でもある者たちがいる塹壕に接近した。

 

 各地で警戒と悲鳴が上がり、人間対怪物。とはいうものの、エトリアの予想だしにない襲撃で浮き足立ち、相手は自身が連れて来た怪物より遥かに凶暴で手強いこともあり、怪物たちによる一方的な殺戮ショーが行われた。

 また、どういうわけか、惨劇から離れた陣営の奥からも大きな騒ぎが起きていた。

 遮二無二繰り出す槍や剣の刃は大して通じず、血飛沫と肉片、砕けた武具があちこちで飛び散る。

 この惨状もあり、突撃隊に構う者はあまりいなかった。いても、呆気なく馬上の荒武者たちに片付けられるか、背後に控えた未だ執念深く追いかけるケルヌンノスを見て、縮こまるかのいずれかだった。

 ゲンエモンが先導する突撃隊は塹壕の合い間を抜けた。

 塹壕に潜んでた兵士達は突撃隊を攻撃しようとしたが、最後尾に回ったドナが雷の術式を撃ち、前の数人が弾かれて足を止める。

 更に運悪く、標的を突撃隊から眼前のサンガット軍へと切り替えたケルヌンノスに目を付けられた。

 サンガット軍兵士は武器を放り投げ、森の王からの逃亡を試みる。森の王は塹壕に飛び込もうとした一人を握り潰して、その者の遺体を固まって逃げる者たちへ投擲した。森の王が歩む。ドミノ倒しのごとく倒れた者たちは、一瞬にして半数近くが物言わぬ肉塊と化した。

 突撃隊は敵の合い間を縫いながら、怪物が来たぞと喚起した。

 助ける気は毛頭ない。ただ、周りが見えにくい混乱した状況で敵が来たぞと促して、敵軍からの攻撃を少しでも防ごうという考えがあった。

 たまに誰何(すいか)する声は無視して、彼らは一直線にガリレオ砲のある方向を目指した。

 離れた陣営にある微かな灯りで巨大な金属の全容が明らかになってくる。十歳にも満たない子供なら、容易く飲みこめそうな太い長い砲身がある。

 厳戒態勢が敷かれてるかと思いきや、意外なほど人が少ない。

 突撃隊は西の陣営で尋常ではない火の手が上がり、剣戟の音が響くことに気が付いた。何かが起きて、そちらに人が取られてるのだろう。柵やテントを越えて、右往左往する兵士が数多いる。

 それでも、こちらを上回る騎兵と歩兵が警備していた。隊長と思しき騎手が突撃隊に何奴と問いかける、ゲンエモンは無言で進み、槍を構えた。

 

「おのれ!」

 

 歩兵が周りを固めて、間から数人が出てくる。彼らが両手をかざすと、信じられないくらい冷たい風が吹きつけてきた。敵のアルケミストだった。馬首を止めるしかない。

 

「大したことないな。一、二階層の並の冒険者程度ってとこかな」ブレンダンがにやりと怪しく笑う。

「同感」とドナ。

 

 二人のアルケミストは前に行くと、敵アルケミスト数人がかりで放つ氷の術式より強大な炎の術式を放った。敵の歩兵とアルケミストたちが後ずさる。目の前の雪が融けて、水蒸気が漂う。

 その隙を見逃すはずもない。

 鉄壁の陣にできた綻びへ突っ込み、ゲンエモンは槍で叩き、突き、払う。他の者も負けじと武器を振るい、コルトンは手当り次第、剣で切りつけて、叩いた。

 ゲンエモンは陣を強引に突破すると、体長格の男を目にも止まらない速さで突き刺した。

 旋風がいななき、背後から迫る敵兵の顔を蹴り飛ばす。たまに攻撃を受けても、厚い鎧に阻まれて、大した怪我を負わずに済んだ。

 ゲンエモンの勢いはとどまらず、近くにる者を凄まじい槍捌きで薙ぎ倒し、あっという間に三人の騎手と五人の歩兵を屠ったら、体長格の傍にいた旗手へ馬首を転じる。

 旋風が後ろ脚で立ち上がり、どんと前足を付く。旗手の男は慄いて、槍を横にして、受け止めようとする。旋風の勢いを利用して、ゲンエモンは上段から旗手を旗ごと斬り捨てた。

 国の現状を示すように、ばさりとサンガットの国旗が泥雪に塗れる。

 真紅の鎧具足という出で立ちもさることながら、命知らずな特攻に加えて、鬼神の如き強さ。全身全霊、この身が燃えよと言わんばかりなゲンエモンの裂帛(れっぱく)の気迫に押された。

 おまけに、強力なアルケミスト二人が躊躇いも無く炎の術式を撃ってくるので、巨砲付近にある火薬が引火するのではと自然に後退し、体長格も死んで、眼前で広がる塹壕辺りでの惨状も後押しして、ガリレオ砲を守る兵たちは四散した。

 右往左往してた兵士達は訳も分からず、あっち行き、こっちへ行き、少なからず立ち向かう者もいた。

 

「これを吹っ飛ばすぞ!」ゲンエモンが向かってくる敵を仕留めながら叫ぶ。

 

 巨砲から三十m離れた位置に、多少の砲弾と火薬。油も置いてあった。

 篝火が無くても、仄かに視界が良くなってる。目が慣れたのではなく、朝日が昇りかけていた。

 彼らは迅速に動いた。時に来る相手を露払いしつつ、油を巨砲へ塗りたくり、全ての火薬を砲身へぶち込む。

 準備が整うと、突撃隊は大分離れて、ラクロワなど、数名の腕が立つ射手が五十m辺りに立ち、馬が駆けると同時に振り返り、大きな火を点した矢を撃つ。

 弾かれたり、外れる矢もあったが、ラクロワともう一人が放った矢は見事に砲身へ入り、ガリレオ砲は内側から盛大に爆裂した。エトリアを脅威に陥れた要因の一つ、ガリレオ砲は破壊された。

 爆発音は戦場に奇妙な静けさをもたらした。

 人も、怪物も、戦いの手を止めて爆発の中心地から昇る黒煙を眺めた。

 そのとき、ゲンエモンは急に胸が苦しくなった。息が切れ、心臓を鷲掴みにされた感覚。疲れたのかと思ったが、なにか違う。

 僅かな静けさが過ぎると、エトリアから声援が湧き上がった。突撃隊へのも含まれているが、どちらかと言うと、西側の陣営に居る者たちへと送られてた。

 

「メティルリク! メティルリク! 逞しき鉱石掘りたち」

「エピザ・トーティ! 勇猛果敢な戦士たち」

「やっぱりね」とドナが言う。

 

 突撃隊には確認できないが、外壁に居る者たちははっきりと見えた。

 気持ちの良い澄み渡る空から差しこむ陽光の下、風で二国の旗がはためいている。サンガット軍西側の陣営からは火が上がり、テントは薙ぎ倒されて、数え切れない敵兵の亡骸が横たわる。

 とうとう、二国から援軍が送られて、エトリアと時を同じくして夜襲を仕掛けたのだった。

 

「逆転勝利っすね」

 

 ラクロワは笑顔でゲンエモンに話しかけた時、ようやく、ゲンエモンの容体に気が付いた。

 気持ち悪い汗が体中から流れて、手足が先から痺れてくる。鼓動がどんどん早まる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ゲンエモンは口の中をきつく噛み締めて、痛みで誤魔化そうとした。

 

「へ、平気だ。それに、あの大将が生きてる限り、まだ終わらぬ……。みよ!」

 

 ゲンエモンが空を指した。西と北の陣営の間を影が飛び立ち、激しい怒りを籠めて、最大のパワーで信じられないほど大きな恐怖の声が戦場に覆いかぶさる。

 エトリアは怯え、二国の援軍は声の想像を絶するおぞましさと恐ろしさに動揺した。怪物たちは混乱状態に陥り、無駄に地団駄を踏み、情けない声で吠え返した。

 反対に、逃げ惑うサンガット兵士達の足取りが落ち着き、素早く隊列を組み直し、例の不気味極まりない表情を浮かべて、二国の援軍と怪物へ向き合い、突撃隊を包囲した。

 そして、最大の翼竜に騎乗するエトゥは、あろうことか突撃隊の方を目指してくる。

 さしもの不気味な者たちも、恐ろしくも偉大な主人の飛来には面食らったのか、慌てて散る。突撃隊の者たちも、人はまだしも、馬が恐怖に耐え切れず、乗り手の声や手綱、鞭も無視して、逃げ去る。乗り手たちは振り落とされまいとしがみついた。

 ゲンエモンと旋風は逃げなかった。いや、動けなかった。旋風はかの者と翼竜の視線が注がれてるのを肌身で感じ、さしもの勇敢な牡馬も恐怖が限界に達し硬直してしまった。

 馬上のゲンエモンはというと、手足が益々重くなり、心臓の鼓動が高まり、息もし辛く、ぜぃぜぃと切れ切れな呼吸をしてた。

 外壁に居る者たちの見方は違っていた。

 

「見ろ、ゲンエモンが一人、エトゥに挑んでるぞ。さすがは冒険者の長だ」

 

 頑張れとゲンエモンに応援が送られた。当人にその応援は届かず、耳障りに聞こえた。

 不自然な容体の変化に困惑するも、意識はしっかりと空から迫りくる敵を定めてた。

 ゲンエモンは残る力を振り絞り、刀を抜いた。微かに体調の急変が治まる。名刀七福八葉を恐るべき二体へ向けるが、そこまでであった。

 全身が鉛のように重くなり、目の焦点が定まらない。

 枯れかけた老兵が持つ破邪の術を掛けた一本の刀剣では足りなかったのか、二体、正確には背に乗るかの者は怯むことなく襲いかかった。

 

          *――――――――――――――――――*

 

 オルドリッチは施薬院の窓から、外を眺めた。突撃が間近に迫る。

 シショーどうなるかはわからないが、早いか遅いかの違い。成功を願うしかない。

 そこへ、急いで訪れた者がいた。

 黒いフードを頭から被り、赤い鎖から身体に巻き付けて、金の鈴をぶら下げている。紫髪のお下げを二つ伸ばした少女と見紛う美しい幼顔の女は、間違い様がなく自身のパーティに属するキアーラだ。

 判断に迷ったのは、キアーラは淡い青色の瞳から涙を流してたから。キアーラが泣いたのは初めて見る。らしからぬ彼女の態度に、オルドリッチは冗談を控えた。

 

「落ち着いて答えろ」

 

 キアーラは目を閉じて、ふーっと一息吐くと、大きな声で話した。酷く興奮している。これもまた、彼女らしくない。

 

「オルドリッチ、来て! コウシチを探して!」

「何故、探すのだ。別れを済ました」

「説明は後。いいから、来て!」

 

 オルドリッチは近くにいた看護士に訳を話し、キアーラと共に、施薬院を出た。

 

「一体どうしたんだ。別れは済ませただろう」

「違う、そうじゃない。そうじゃないの。聞いて」

「聞いてる。だから、話せ」

「つ、ついさっき。彼に呼び出されたの」

「それで」

 

 キアーラはそこから言いよどみ、小さな声でそっと呟いた。

 

「私が……私を、一人の女として好きだって」

 

 ひゅーと口笛を吹くオルドリッチの足をキアーラは軽く蹴った。

 

「いてて、悪かった」

「私、ぼうっとしたの。だから、彼が直後に言った言葉が頭に回らなかった」

「何を言ったんだ」

「ありがとう。これで、心置きなく師ゲンエモンと共に行けるって」

 

 始めはなんのことだと思ったが、はっとオルドリッチは顔を上げた。

 

「あいつ」

「そうよ。許可なく突撃隊に加わるつもりなのよ。お願い、コウシチを止めて」

 

 オルドリッチとキアーラは二手に別れて、突撃隊の配するところへ向かうが、既に時遅く、怪物たちの咆哮が地上で鳴り響き、突撃が開始されたことを自ずと告げた。

 オルドリッチは壁に行こうとしたが、兵士達に止められた。

 

「一人、使者として赴く者が加わってるかもしれないんだ。確かめてくれ」

「ならん。一刻の猶予もない。お前の言うことが本当だとしても、代役を立てれば済む話」

「こっちには深刻なんだよ!」

 

 オルドリッチはコウシチの名を叫び、壁に押し付けられた。

 

「声を立てるな! 怪物がこっちへ来たら、作戦はぱあで、エトリアは今日で陥落するかもしれんのだぞ」

 

 オルドリッチは兵士の手を振り払い、別の地点へ向かう。どこも、とてもじゃないが声をかけられる状況では無かった。障壁の前を大型級の樹海生物がぞろぞろと進んでる。

 オルドリッチはあらん限りに走り、キアーラと合流した。

 

「彼は多分、最後の合流地点にいる」

 

 必死の思いと追っかけも虚しく、二人は間に合わなかった。

 その場にいた者の話から、少し前に来て、増員として来たと告げる者が一人いたと教えられた。以前、モリビトに捕まったときもそうだが、ブシドーなる連中はこれだから。

 

「死に急ぎやがって、馬鹿野郎」

 

 オルドリッチは崩れそうなキアーラを支えて、その場を立ち去った。

 

 


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