エトリアには街を広く大きく囲むアジロナ外壁、世界樹の周囲を高く狭く囲むトルヌゥーア内壁が建つ。緑地に黄色く染め抜かれた大木が伸びた旗は街が建てられて、国としての体裁が整った頃から国旗はためいている。
遥か昔、世界樹から見るも恐ろしい怪物たちが出現したことがあった。その怪物たちを警戒し、対抗するためにトルヌゥーアという錬金術師の子孫がエトリアのはるか内側に壁を建てた。
現代でもたまに浅層の生物が地上に出没するときがある。内壁は、怪物を街へと侵入するのを拒むのに役立っていた。
三百年ほど前、アジロナ外壁が建てられる少し前の時代。エトリアは二年間、兵士崩れの千人の悪漢共に占領された冬の時代があった。悪漢共に対抗したのが、元冒険者であり、引退後は石工職人として生きた女傑アジロナ。
千人の悪漢を尽く討ち取り、首領の首を
アジロナは、エトリアは内敵と外敵の両方に用心する必要があると執政院ラーダに意見した。地上にも怪物はいる。滅多なことではないが、怪物がエトリア領内をうろつくこともあった。
壁は造らない。言葉の意味は、来る者拒まず。その姿勢を通してきたエトリアも、千人の悪漢に実質支配されたことを重く見て、より、安全性を高める為、執政院。もとい、市民や多くのアジロナを慕う冒険者たちがその意見に賛同し、アジロナが五十の時に着工。
着工から十八年の歳月を経て、頑丈な外壁と深い堀が完成した。外壁は斜め角度であり、遠くから見た形ではじぐざぐと星のような形をしていたことから星形城壁とも呼ばれた。この造りでは敵に侵入されやすいのではないかと危惧されたが、大砲など兵器の発達に伴い、崩れにくく、多角度からの三百年後には城壁の形は理想的と評されることになる。
堀は深さ14mもあるらしく、幅も30mと広大。簡単には侵入できない。
アジロナは自分一人ではなく皆の力があるからこそ出来たといい、自分の名前を付けることを拒否したため、数年間は「エトリア外壁」とでも呼ばれていた。
アジロナが八十でこの世を去ったとき、外壁は正式に「アジロナ外壁」と改名された。世界樹の秘密を解明したわけではないが、アジロナの名は広く世に知られた。
今日、このアジロナ外壁に沿って歩く
日で焼けた作業用の白シャツに紺のズボンを履いたコルトンは、三角状に波打つ形のアジロナ外壁を沿うように歩いていた。アジロナ外壁には死角がなく、どの狭間からでも敵が攻撃できるように設計されている。
昨日の蒼き樹海で遭遇したあの化け物との戦闘で腕が鉛のように重く、自慢の盾もひしゃげてしまった。シリカ商店に鑑定してもらったら、あの怪物から取れたヒレや骨は一万エン以上の値が付き、差し引きで新しい盾も購入できたので損はしなかった。
エドワードの予想通り、シリカと鑑定職人は驚き、敬う手付きで骨やヒレを鑑定していた。シリカ商店の店主はシリカは、浅黒い肌色と危なっかしい赤い衣装で身を包んだ年端もゆかぬ少女。
小さいわりには度胸と声もでかく、舐めてかかると、間近で鐘を打つ音よりけたたましい大音量で怒鳴り散らしてくるのでおっかない。
今日は骨休めならぬ腕安めのため、こうして足の赴くがまま気ままに歩んでいた。今日は夜までいたいが、四年前から戒厳令を命じている街の規則があり、夕刻までには外壁内に戻らなければならない。
外壁の遠くで、放牧をする者たちが目に留まる。
エトリア在住の者もいれば、エドワードの噂を聞きつけて、戦火を逃れたエクゥウスの生き残り、あるいは放浪の民である者たちのごく一部が街に来て、エトリアに広がる肥沃な土地でエトリアの者たちと共に放牧と農業を生業に暮らしている。
エトリアの大地が肥沃なのは、選別した種類のミミズを使い、ミミズたちを各地にばら蒔いていると聞く。本当かどうかは定かではない。
エドワード・ウォルが世界樹の迷宮に来た目的は、ここで富・名誉を勝ち得て、母や妹などの生き残ったエクゥウス民族やその他の末裔たちをを呼び寄せ庇護下に置き、自分達の子孫と伝承を後世に残すためである。
だが、それらを行うには時間も要るが、金や何らかの力(早い話が権力や権威の類)もいる。
因みにエドワードが名で、ウォルが性である。
「誇り高く意地っ張りだが、心中は誠実で、思うことも行うことも高潔。大胆ではあるが残忍ではない。賢明であるが学問はない。本を書くことはせぬが、たくさんの歌を作って子と孫に歴史を伝える。馬と弓を司る勇ましきあらぶる戦士たちの民。私はね、自分が生まれた育んでくれた民族を愛しており、また誇りにしている。そんな彼らが馬にも乗れず、徒歩で奴隷のように歩く様は我慢ならない」
と、こんな事を語っていた。コルトンや親しい者は、かつての騎馬民族大帝国を作り上げたいかと半ば冗談半ば本気で聞いたりした。この問いに、エドワードは一概に否定した。
「それはそれ、さ。後世の奴らが戦争をおっぱじめたいというのなら、俺には止めようがない、もう死んでいるからな。しかし俺の目が黒い(青い)うちは侵略の類や戦争には一切関わらせないよ。民族の流儀を守りつつ、この街と周辺地域の国や街のやり方にも従う。まあ、今噂の集団が来て、自衛のために街と共に戦うのなら話は別だが」
エドワードは更なる冒険を求めた。それらの危険を冒すたびに自分の名は広く世に知れ渡り、その名を聞きつけた民族が一箇所にこのエトリアの地に集う。
決して真心からきているのではない。エドワード自身がその事を正しいと思い、実行しているだけなのだ。
コルトンから見れば、エドワードは自身の名が広く知れ渡る事自体を喜んでいるように思えた。
もっとも、名が知られることを喜んでいるのは自分も同じだが。
コルトンは農村出身。その農村には名がなく、お情けで東山(ひがしやま)の村とでも呼ばれていた。
少年時代のコルトンはこのままここで埋もれることを嫌がった。エトリアは絵に描いたかのような牧歌的な農業が行われているが、自分が生まれた地には王という一首独裁政権だった。
王が善人で賢ければまだしも、自分の時代の王はちょっとおつむが足りなく、甘言しか言わない官僚が実質国を治めていたので、生活は豊かではなかった。前途に何が待ち構えていようが怖くはない。成功を収め、自分だけの居を構え、もっと良い暮らしがしたい。コルトンはその生活から抜け出したくて、青年時には村を飛び出し、一旗上げるために傭兵になった。だが、傭兵は所詮雇われの身。自慢の腕っ節と体格も、見る目がある者が見てくれなければ意味がない。
傭兵は戦地で奪う物が報酬であり、少量の食事が配られるだけだった。運が悪いことに、自分が傭兵として雇われた国は戦上手の者が一握りしかおらず、戦は負けがこんでいた。
あの戦いでよく生き延びれた者だと、よくよく自分の悪運に驚嘆する。傭兵の将来性を見切ったコルトンは、世界樹の噂を聞くや、早々に傭兵業をおさらばした。いざ、世界樹を目の当たりにしたら、目的が少し変わった。
自分はそこまでさといほうでもないし、薄っぺらな奴と言われようと気にしない。例えその先に何もなくても、普通の生活だけでは飽き足らず、コルトンは大きな物を掴んでみたい夢と欲が湧いてきた。
そして、エドワードと出会った。
コルトンが彼と出会った当初、彼の髪の毛は今よりずっと短かった。彼は金鹿の酒場で一人居座るコルトンに話しかけ、率直に組まないかと持ちかけた。
「あんたと私の目的は違えど、目指す高見。深見といったほうが正しいかな? どちらでもよいか。あんたと私が目指す深見は一緒だ。俺が将来描いたパーティの前面を守るのは、コルトンという人物しかいないとピンときたのだ。どうだ、コルトンさん。しばし、二人きりの期間は続くが、俺と組んでくれ。あんたとならやれる」
コルトンはこう口説かれた。あんたの目的はなんだ? そう問えば、彼は自慢する風でも、ましてや待ってましたと興奮するわけでもなく、淡々と、真剣な眼差しで語った。
夢見がちの小僧かと思いきや、時折り見せるその眼に少なからず委縮させられた。
その眼は修羅場を潜ってきた者だけが見せる反射した鋼のような光であり、また、前途に夢と希望を想い抱く若者の眩しいぐらいの光にも充たされていた。
他からの誘いもあったが、彼はそれらの誘いを全て断り、自分より二歳年下のこの男と組むことにした。二年間、アクリヴィが来るまでは日銭稼ぎの日々も続いたが、コンビを解消する気になれなかった。
彼に魅かれたから、それだけが理由ではない。コルトンは、エドワードに申し訳ない気持ちを抱いていた。彼の参加していた戦は、実はエドワードの国と共に戦ったのだ。
コルトンの国は見逃されたが、エドワードの国は見せしめに滅ぼされた。
コルトンはエドワードの過去を聞いて、どきりとした。そして、何故か罪の意識に襲われた。
自分一人が頑張ったところで、戦いが逆転するはずもなかったが、嫌気が差して逃げた自分と勇敢に戦ったエドワードの一族。コルトンは責められてる思いがした。自分のせいではないと理解していても、罪の意識に捕われた。
コンビを組んでから半年後、エクゥウスの避難民の家族が一組、エトリアに訪れた。
避難民受け入れはそう容易い問題ではない。面倒な交渉に細々とした書類に何枚も向き合う必要がある。彼はその問題を面倒だとか言わず、当然の義務だと言って向き合い、対応した。
彼の師のような立場であるゲンエモンの協力もあって、一カ月後には難民受け入れが受理され、エドワードの目的第一段階がスタートした。あの日、あの時のことは今もよく覚えている。
エドワードの様子を近くで見ていて、彼の夢と野望と目的は全て本気だと解り、彼は口調や言っていることに反し、意外に誠実な人物だとも理解しえた。
自分達二人は決して豊かではなく、あの一家もそうだったが、エドワードは個人の財産で立て直しに図った。コルトンも及ばずながら金を貸した。
お陰で金が足りず、ごく短期間、二人は冒険者兼牧人兼農夫として一家と共に汗水を流した。不思議と不満は感じなかった。
むしろ、心は幸福で充ちた。牧歌的に働けて笑顔になれる日が来るとは夢にも思わなかった。一家に感謝されるたび、むず痒いものが背中を走る。コルトンの最大の目的は世界樹を踏破して歴史に名を刻むこと。今もその夢は変わらない。
そのついでといってはあれだが、自分以上に壮大な夢を描くこの馬鹿者に付いて行っても良こうと決めた。
そして、過去の馬鹿で臆病な自分の行いに対するせめてもの罪滅ぼしになると思った。
エドワードに自分がパーティに入った本当の理由はまだ明かしていない。
以来、コルトンはホープマンズのパラディン役として奮闘している。
こうして、コルトンはエトリアで冒険者家業で糧を得ることを選んだ。血肉を世界樹に吸わせて繁栄している点を除けば、この街の安穏な風土を気に入り、気心が知れた者たちとも知り合えて、エトリアに愛着も持てた。もう故郷に戻る気はないコルトンにとって、エトリアが第二の故郷になれた。
それだけに、このエトリアを含む周辺地域の街や国を悩ませるものは許しがたかった。コルトンだけではない。エトリア州に住まう者たちは皆、その者たちを嫌い、脅威と認識している。
エドワードも過去の苦い経験で、一部の同業者を除き、賊には嫌悪していた。他にも、同族であるカルッバスの一族が協力しているという噂もあり(エドワードたちは断固否定)、エドワードと避難民には一部から冷たい眼差しが寄せられてた。
八年前、山賊王エトゥの子孫だと名乗る者が現れ、世直しと称し、各地で小さな村や町を襲った。
山賊王エトゥは義賊として知られており、子孫もいるが、現在ではすっかり平凡な町人である。
だから、男が本物のエトゥの子孫かどうか定かではない。
各地の山賊や海賊などのならず者たちは勝手にエトゥ二世と名乗り上げる男の下に集い、大陸中を荒し回っている。
怪しい宗教紛いの手口による勧誘で、金が無い者や夢心地のぼんぼんを引き込み、他方と交流が薄い民族も騙し、世界各地におけるエトゥの勢力は日に日に増している。
現在では調子に乗ってエトゥ
風の噂では、山賊連合の勢力は数千規模にも登ると聞く。その噂の真偽は定かではないが、エトリアから徒歩一ヶ月もかかるほど離れた所にある町村が千人の馬乗る盗賊に襲われて、壊滅した惨事を聞く限り、その噂も紛い物ではなさそうだ。
生存者の話によると、襲われた日。空はすっぽりと黒い翼に覆われた。巨大な黒い影なる存在は、町村の戦士や剛毅な者すらからも戦意を摘み取り、慄えさせたと聞く。推定では、翼竜・通称ワイヴァーンの可能性もあるようだ。
ワイヴァーンはあまり力のある竜ではないが、竜も従えたとすれば、山賊王エトゥの力量はある意味底知れず。そのことが余計に彼への恐怖を増加させた。
彼は次にエトリアを狙っているらしいが、彼はエトリアとはある種の因縁があるらしい。その因縁がなんなのかまでは、誰も知る術がなかった。アジロナや多くの冒険者が立ち上がったのは、単に自分達の商売地が失われるからではなく、この街を自分の街と思えたからこそ戦えたのだろう。
コルトンも、いざ盗賊共がこの街にずかずかと乗り込んでこようものならば、エトリア流風に言えば「留まりたい者には我らの心遣いと土地で安らぎを与え、武器を向ける者には武器を」のつもりだ。
だが、盗賊共もこの街を攻めようとは思うまい。この街は頑丈な外壁で囲まれて、街を守る兵士も数百人。全土からかき集めれば、優に三千を超える。
最近開発されたマッチロック「火縄銃」なる新兵器や投石器に弩砲などの攻城用兵器も備え付けられている。新しい攻城用兵器の開発も進められている。海外が製造した大砲なる兵器も密かに導入された。時代は進むものだ。しかし、兵器が発展すれば、いずれ武芸者の行き場は無くなる。必然として世界樹のような場所にそういう者たちが集まるだろう。エトリアもしばらくは稼ぎに困らないな。
これを機に外壁の再構築をもと思われたがさして変える必要性はなかった。アジロナが建てた外壁は現代の対攻城兵器に理想的な形であり、彼女の先見性と見識は改めて評価された。エトリアの執政院は外壁の整備と補強に終始するよう命じた。
ゲンエモンやガンリューなど、一部に限り試射場見学を許された。その威力は聞きしに優るものであった。
エトリアはこの火縄銃に更なる改良を加えた。装填時間は相変わらずであるが、吐き出される煙を抑え、射程距離が伸び、狙いやすく扱いやすい構造。正に世界各国の軍隊にとっては
もっとも、エトリアはこれらの存在を公にはしてない。
エトリアはあくまで世界樹が聳える本都市を含む州全体の繁栄維持が主眼であり、戦争道具を売りつけて、世界に禍根の種となるような物を売るのを拒んだ。目下、鉄砲は自衛用の為であり、売ることは視野に入れられてない。
しばらくは安全だろう。もしも、世界樹の地下から大挙して怪物が押し寄せるような事態でも起きれば、エトゥ率いる万を越える賊連合襲来の可能性が多いにある。
そのため、内壁では常時六人、広い外壁では三十人の歩哨が目を光らせていた。
歩いているうちに夜通しまで歩こうという気持ちが薄れ、歩くだけでは手持ち無沙汰になってきたので、狭間にいる衛兵たちに会釈して、近くにある南門の橋を渡る。
草地の縦幅は百メートルもあり、外壁と街を隔てている。この草地を天然のベッドにして寝っ転がりたいが、それをすると、衛兵の叱責が飛ぶ。
暴漢共が出現する前の時代。ここでのんびりと寝転がる子供や老人をよく見かけたが、現代では衛兵の訓練場の一つに成り代わった。衛兵に混じって、青髪小僧ことロディムが剣を振るっていた。暇を持て余しているのだろう。
「今日は金鹿の酒場で一杯やろうや」
一声そうかけてやった。ロディムは左手で剣を握ったまま、小さく右手を挙げて応じた。
休日のときは教養を深めるか、寝転がるの二択。ホープマンズが拠点とする長鳴鶏の館の宿賃は月額三千三百エン(団体と二部屋借りたサービスで七百エン値下げ)。
値は張るが、その分、サービスや施設は充実しており、数少ない湯治場付きの宿である。また、朝夕のみ一杯分のスープとパン一枚は無料で食えるので、金が無いうちはこれに助けられる。長鳴鶏は三階建ての長い二棟がくっついた建物、一階の右には食堂と湯治場に荷の預り所があり、寝室は計六十間近くある。
二階は女(マルシアとアクリヴィ)、階下は男が四人詰められている。詰めているといっても、装備を置いて、自分の服や持ち物を入れられるような小棚が置けるほどのスペースはある。
正午まで外壁と街を歩き回り、そのあとは夕刻までコルトンはベッドで寝転がった。
夕刻、コルトンは金鹿の酒場に立ち寄った。
艶っぽく濡れた感じの髪、白く柔らかそうな肌、寂しげに湛える青い両眼と薄らと紅を塗った口元、思わず目がいってしまう胸元が開いた栗色の服を着た、男の冒険者たちにとっては別の意味で憧れの的である麗しき酒場の女将が「ごきげんよう」と迎えてくれた。
ロディムはまだ来てない。まだ衛兵たちと一緒に剣で遊んでいるのだろうか。
明日は、ジャンベを四階の樹海時軸に連れて行くという厳しい目的があるので、あんまり飲めない。初めはパンと水をちびりと摂取する程度にとどめておいた。
仲間内で初めにきたのはエドワードであった。満足そうな笑顔を浮かべていた。
馬屋から仔馬の時買い取り、黒曜石のような毛並を持つ立派な体躯の牡馬ブケファラスにでも乗って気晴らしでもしたのだろう。
背が大きく、武装したエドワードが乗ると一枚の絵になる。少し見たみたい気もしたが、残念手遅れだ。
「ロディムは? 初めに誘ったのはあいつなんだけど」
「俺は奴に声をかけられたよ。で、そのついでにジャンベや図書館にいる婦人方も誘おうといっていた」
婦人方とはもちろん、アクリヴィとマルシアだ。
マルシアなら当て嵌まるかもしれないが、アクリヴィに夫人なる言葉が当て嵌まるのか首を傾げる。こんなことを口にしたら、レイピアを喉元に突きつけられるかもしれないので、面と向かっては言えない。
エドワードもちょびりちょびりと水割りを啜った。陽がもう少しで見えなくなる頃、ようやくロディムは三人を連れて到着した。
「すまねぇな。街の片隅で子供に歌を教えていたジャンベを見つけるのに手間取っちまった。ささ! ともかく飲もうぜ」
エドワードは女将に五人分のエール酒大ジョッキを注文した。すると、給仕のお皿にはつまみとなる物や小料理が盛られた皿があった。
「話は他の方たちやギルド長とかから聞いているわ。あなたたち、うちとシリカ商店の常連さんたちの
エドワードがジョッキを女将のほうに小さく掲げた。
「女将さん、痛み入るよ」
「いいってことよ。あっ! でも、また食べたければ、そのときはちゃんとその分の代金を支払ってもらうからね」
そういう風に付け加えるあたり、さすが冒険者共を相手にする商売人であった。
エドワードは大きくジョッキを掲げ、他の者もそれに倣った。
「では、俺たちの勝利! 生還! 女将さんの心遣い! 今後の探索が無事に成就することを願い…乾杯!」
銘々が互いのジョッキを軽く打ちあうと、グイとエール酒を喉に注ぎ込んだ。冷たい、燃えるような活力が全身に伝わる。ただ、マルシアとジャンベは一息で飲み干せず、ジョッキの底でエール酒がまだ波打っていた。
ロディムはそんなジャンベをからかい、ジャンベはお酒を一気飲みできないのが男らしさとは関係ないと反論した。女将の心遣いである、おつまみと果物が調理された皿を六人はあっという間に平らげた。
トゥー&スリーの五人もいた。男子の双子と女子の三つ子という世にも珍しい組み合わせのパーティ。バードの長男ダルメオを筆頭に、パラディンの次男ダルカス。三つ子長女でメディックのトルニャ。ソードマンの次女フィリ。三女のジョハンナ。腕と仲の良さで有名なパーティである。
六人は彼ら五人組と卓を寄せ合い、情報交換をしつつ、ダルメオとジャンベが演奏を競い合うことにより、食事は意外な盛り上がりをみせた。
ロディム以外は中くらいのジョッキを一杯か二杯干すに止めた。明日、つまり留守役はロディムだ。
ロディムは遠慮なしに酒と食い物を飲み、酔った勢いで武勇伝を身振り手振りで酒場を訪れた冒険者や町民に語った。双子と三つ子はロディムをよいしょして、ちゃっかりと奢ってもらった。ただし割り勘でだ。全てを払わせる真似をするほど非道ではないし、第一、ロディムもそこまで間抜けではない。
昔はそうでもなかったが、エドワードやコルトンにゲンエモンら年上の冒険者の教育と、一番は医師でありお姫様でもあるマルシアのおかげもあり、飲み食いを自制することを覚えたロディムは、思考を保てる程度にできあがった状態で宿に戻った。