あと本話には性的描写が少し存在します。
ロザリア帝国。
イヴァリース最大の領土を誇り、イヴァリースの覇権を争う二大帝国の一角。
肥沃かつ豊かな大地に恵まれ、国民の総数はアルケイディア帝国の実に三倍以上に達する。
これだけならば、とても大きな国家と思えるかもしれない。
しかし、その実態は読者達の世界の中世に存在した神聖ローマ帝国に匹敵するモザイク国家である。
というものロザリア帝国の成立の原因はガルテア連邦の解体にある。
連邦解体にともない、ガルテア連邦に加盟していた諸国が分裂した。
しかしオーダリア大陸中央部に存在した諸国は肥沃な大地に存在してこともあり、解体後も友好関係を維持していた。
そしてガルテア連邦解体から4年後、マルガラス家が治めていた侯国が中心となってロザリア帝国が成立した。
その当時のロザリア帝国の体制は殆どガルテア連邦におけるガルテア家の立場をマルガラス家に置き換えただけのものだった。
当然、ガルテア連邦の頃と同様にロザリア帝国に参加した諸国の領土はそれぞれ属庭と改称されたものの諸国を治めていた氏族は領主としてマルガラス家の監督の下に治外法権が認められており、巨大な領域国家というよりは数十の国家による複数国家の連合体と言った方がしっくりくる。
ロザリア帝国は成立から約100年の間に戦争は何度かあったものの比較的平和な時代が続いていた。
だが、軍部独裁時代のアルケイディア帝国とのバストゥーク戦争にてロザリア帝国は敗北し、マルガラス家は求心力を失い、帝位を追われた。
その後、別の氏族から皇帝が即位し、直属軍の編成を強行したが、氏族達の謀略により、直属軍は皇帝直属ではなく氏族達の代表によって運営されている大本営の直属とされた。
おまけに軍の拡充を優先するあまり属庭の監督が疎かになり、各領主は自分の治める属庭の中央集権を推し進め、ロザリア帝国の属庭同士が主義主張を持って対立することとなった。
要するに各氏族の領主が属庭の王様のような存在となってしまい、誰も皇帝の言う事を碌に聞かなくなったのである。
約50年前にマルガラス家が帝位に返り咲いてからは皇帝の権力は強化されてはいるものの、まだまだ氏族達の力が強いのが現状である。
属庭領主同士による小競り合いは絶えず、属庭同士の結びつきは良いとはとても言い難い。
極端な話、長年の宿敵アルケイディア帝国の脅威と今の封建的体制のみがロザリア帝国を支えているのである。
近年はアルケイディア帝国と技術力で差をつけられ始めており、二大帝国の総合的な実力はほぼ同じだったりするのである。
ロザリア帝国皇帝直轄領帝都ルブラ。
先程入手した情報を伝える為、アダス・マルガラスは諜報部の長である遠い親戚の下に急いでいた。
長い廊下走りきって、諜報部の長官の執務室に続くドアをあけた。
すると……
「……は?」
実に美しい美女が全裸で諜報部の長にもたれかかり、艶かしい吐息を立てていた。
そして諜報部の長はその美女の背中に手を回しい手から見合っている。
その2人はまるでアダスが入ってきたことなど気づいていないかのように交わっている。
アダスは予想外の光景に暫し呆然としたが我を取り戻すと自分の懐に手を伸ばす。
そこから機工都市ゴーグから輸入した最新式の小銃を取り出し、天井に向けて発砲した。
その銃声でようやく気づいたのか、アルシドは全裸のカナートを執務室の奥にある部屋にいかせると居住まいを整えた。
「…………さて、これはどういうことか説明して貰いましょうか?」
眉間に青筋を浮かべながらアダスはアルシドを睨みつける。
その目には侮蔑と嫌悪の感情が込められている。
「なにか私が問題なるようなことをしていたか?」
「ありまくりだろうがああああああああ!!!!!!」
地震でも起こったかと思わせるほどの絶叫にアルシドは少し怯んだ。
「公務中になにをやってるんだお前は!!?」
「部下のアフターケアは公務の内でしょう」
「いったいどこにアフターケアで部下と性交する上司がいるんだよ!えぇ?おい!!」
「まったく少しは落ち着け。ゴーグ製の小銃なんか使いやがって、あれ弾だけでも高いんだぞ?」
「……それは悪かった」
ゴーグはイヴァリースで他国より百年以上進んでいると言われる機工技術で栄える都市国家だ。
政治的には中立であり、その機工技術を学ぼうとアルケイディアからもロザリアからも留学しに来る機工師は多い。
主な収入は優れた機工技術による製品の輸出である。
それ故、政府の認識せぬ所で自国の機工技術が流出することをなにより恐れており、政府の承認を得ずに入国及び出国することは喩え自国民であろうとも見つかり次第極刑に処される。
アリ一匹見逃さぬその国家体制の厳しさから周辺諸国からは監獄国家と呼ばれることもしばしばある。
そんな国の輸出品は高値で取引されている。弾一発でも千単位でギルが飛ぶのである。
「ところでなんでアレがアフターケアなのか詳細な説明を求める。長官殿」
アダスは絶対零度の目で同期のアルシドを睨みつける。
するとアルシドは落ち着き払った態度で答え始めた。
「何故、私の直属が女としての自己主張が激しい体型の人ばかりなのは知っているな?」
「お前の趣味のせいでな」
アダスは今にも目の前の上司を絞め殺してやろうかと言う目をしながらそう吐き捨てるように言った。
「ああ、それが私の直属が美女ばかりな理由の9割近くを占めているが――アダス、腰の剣を抜くのは話を聞き終わってからにしろ――残りの1割は酷く現実的な理由だ」
そこまで聞かされてアダスはほぼ手放しかけていた理性を僅かながらに取り戻した。
趣味以外の理由でアルシドが部下を美女で固めている理由に興味が沸いたのである。
「アダス。我々が集めるべき情報はアルケイディアやファラ教会のものを除くとほぼ大本営に対するものだ。そして大本営は氏族の代表者達で構成されている。彼らから情報を引き出すのは困難だ。尾行・買収・脅し・潜入……それらに対する対抗処置を氏族達は持っている。尾行を排除できる護衛・金に誘惑されない自制心・そしてマルガラス家の脅しを物理的に無効化させる属庭軍・そして間者を常に経過する猜疑心。こういったものを兼ね備えた者から情報を引き出すのがどれ程の至難の業か、諜報部に所属する者ならば分かるはずだ」
アダスは重々しく頷く。
「だが、私の経験上どういうわけか、こういった者に限って女に弱いことが多い」
「へぁ?」
変な声を出してアダスはの体中の力が一気に抜けた。
抜けすぎたせいで盛大に座っていた椅子から転げ落ちて、重力に従い床に叩きつけられる。
その様子を見てアルシドが呆然とした顔をしていた。
「どうした?アダス」
「……なんでもない」
あまりといえばあまりな答えに緊張の糸が切れただけだ。
そうだ。緊張を切らした俺が悪いのであってアルシドのせいじゃない。
アダスは心の中でそう何度も呟きながら平常心を保とうとする。
「それでカナートに強硬派であるエレウス家のバルト卿に偶然を装って接触してもらい、彼女は非常に重要な情報を入手してきてくれた」
「バルト卿って……あのバルト卿?」
バルト卿はエレウス家属庭領の要職につく男だ。
勿論その地位に就く値するほどの有能な男で有名なのだが……とにかく容姿が酷い。
貴方はシークですかと思わず問いたくなるほど、まんまるな肥満体型をしている。
常に彼の額には汗が必ず流れているという酷い理由でも有名である。
「ああ、中立派のクロイツ家を抱き込もうと違反行為を行っている。このことをクロイツ家に伝えたら、エレウス家の違反行為の証拠探しに協力してくれることを確約してくれた」
「それは喜ばしいことだが……、それと俺が入室してきたお前達の行為に何の関係が?」
アダスの疑問の声にアルシドは眉を顰めた。
「どうやって猜疑心の強いバルト卿から情報を引き出したのか……カナートの美貌も考慮すればわかるだろう」
「ああ、ハニートラップだろ。だが、それとは関係ないだろう」
「……カナートが言うには汚されたので心の洗濯をしてくださいって」
「………………嘘だろ?」
アルシドはゆっくりと首を振った。
「……」
「……」
嫌な沈黙が続く。
数分後、アルシドが咳払いし、話を戻した。
「それでいったい何の用でここに来た?」
「ああ、強硬派のバドレー将軍の情報を掴んだぞ」
アダスは懐から書類を取り出し、それを渡した。
アルシドはその書類に目を通す。
「暫くおよがせよう」
「やっぱりか」
バドレーを追い詰めるだけの材料が整ってはいたが、これは氷山の一角に過ぎない気がするのだ。
捕らえてバドレーを尋問している間に関係者は証拠隠滅に走る可能性すらある。
いや、先日の内部の問題の件も含めると……
「我がマルガラス家の中に裏切り者がいる可能性がある」
そういう予測が容易に立つ。
いる確率としては3割といったところだが、無視できる数字ではない。
「ユリウス陛下も反戦派の氏族の代表方と共に大本営で強硬派と激しい議論を戦わせている。
陛下には私から伝えるが、他の者達には決して伝えないよう徹底させろ。
それにバドレーには腕のたつ監視をつけておけ。こいつは重要な存在だ」
「ハッ」
アダスは敬礼すると、気安く話し始めた。
「無理って分かっているけどクライスさん復帰してくれないかな。
あの人がいれば、主戦派を抑えるのが楽になると思うんだけどなー」
アダスはアルシドから神都で尊敬するクライスと会ったことを聞かされているのである。
同時にセアが不老であることも教えられている。
「無理だ。あの人は今は自分の弟子と一緒にダルマスカのアーシェ王女殿下に同行している。
それに……上司に辞職願を提出した上で国外逃亡したらしいから戻りたくないとも言っていた」
「あの人、冗談みたいなことを本気でやっている一方で普通に冗談も言うから本当のことかどうか判断するのに困る」
アダスは苦笑しながらかつての上司であるクライス・セア・グローリアのことをそう評した。