不老不死の暴君【凍結中】   作:kuraisu

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第六十一話 国境封鎖

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領東ダルマスカ砂漠にて。

チョコボに曳かせた馬車が何台も連なって、砂漠を東へと進んでいる。

 

「よく乗り込めたものだな」

「ミゲロさんはラバナスタ有数の商人だし、あちこちの商隊に伝があるから上手くいったんだと思います」

 

バッシュの呟きにパンネロが答えた。

ちょうどラバナスタからナルビナに向かう商隊があって、ミゲロが彼らも連れて行ってくれないかと頼んで貰い、セア達はその商隊の馬車に乗せてもらっているのである。

東ダルマスカ砂漠には魔物が多くいるが、ダルマスカにとっては欠かすことのできない交易路なので馬車が進む事のできる程度の道は整備されている。

もっともその道であろうと砂漠の魔物は容赦なく襲ってくるのではあるが。

その為、商人たちは護衛の為についでの駄賃目当てで冒険者等が商隊に同行するのは珍しいことではない。

ただそれらは商人ギルドが信頼できる業者を通して行われるものであり、ミゲロを介したとはいえ、直接商隊と交渉して同行するのは中々ないことだ。

交渉が上手くいったのは一重にミゲロが他の商人たちに信頼されているためだ。

暫く馬車の中で思い思いに過ごしていると馬車が停止した。

 

「このキャンプで30分ほど休憩する」

 

商人の大きな声が聞こえ、馬車の中にいた商人や護衛の冒険者や傭兵が出ていく。

 

「オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「……いちいち言う必要あんのか?」

 

ヴァンがそう言って馬車から飛び出して言ったのを見て、バルフレアは顔を顰めながら呟いた。

 

「あのな。馬鹿弟子は子どもだぞ?一応な」

「子どもって……あいつ何歳よ?」

「17」

「フラン。ヒュムの17歳は子どもの内に入ると思うか?」

「微妙ね。18歳なら間違いなく大人でしょうけど」

「なんでだ?」

「だってバルフレアは18歳の時に家出して空賊になったから」

「……お前、家出少年だったのか」

 

たぶんバルフレアのキザったらしい態度を見かねた父親と喧嘩別れでもしたのだろう。

そんな予想をしたセアは哀れなものを見る目でバルフレアを見る。

セアの視線を嫌ったバルフレアはフランを恨めしそうに見た。

 

「フラン、余計なことは言わないでくれ」

「気をつけるわ」

 

フランは特に気にした様子もなくそう言った。

 

「お、そこにいるのはセアか?」

 

声が聞こえたほうにセアが振り向くと一人の男が立っていた。

セアにとっては5ヶ月くらい前に見たことある顔だった。

 

「モブ討伐の依頼者のダントロさん。集落にもどってはいなかったんですか?」

「ああ。5ヶ月前から交代が来ないからずっっっとここの番をしている」

 

ダントロはそう言ってセアを睨みつけた。

だが、睨みつけられた本人はまったく交代が来ない心当たりがなかった

 

「俺はちゃんと花サボテンの花を貴方の奥さんに届けたときにちゃんと交代を寄越してくれって伝言は伝えておきましたよ」

 

基本的には人畜無害なサボテンだが、稀に強いリーダーシップを発揮する好戦的なサボテンが生まれる。

そのサボテンは決まって頭に花が付いていることから花サボテンと呼称されている。

花サボテンは亜人種もかくやというほどの知能を持ち、他のサボテンを従え、砂漠の商人を襲ったりするのだ。

因みに花サボテンの頭の花は良い薬の材料となるので高値で売買されている。

その為、ダントロがその花サボテンをモブとして登録し、そのモブ討伐に現れたのがセアだったのである。

討伐後にセアはダントロの頼みでダントロの妻に花サボテンの花を渡し、ついでにダントロの伝言も伝えてきたのである。

 

「……ならなんで交代が集落から来ないんだ。まさか集落に何かあったんだろうか。いや、また帝国軍が演習でもしてるだけか?」

 

てっきりセアが伝言を伝え忘れたから交代がこないと思い込んでたダントロは少し集落のことが不安になったが、ヴェインが執政官に就いてから演習やらなんやらでよく帝国兵を見かけることがある為、交通封鎖でも行われているのかと思った

 

「なんだ。もし集落に寄るなら交代を寄越せって伝えといてくれないか?」

「たぶん寄らないと思うぞ。集落ってネブラ河沿いにあるだろ?目的地はナルビナだから」

「ああ……。じゃあ待つしかないわけか」

 

ダントロは脱力して丁度いい高さの木箱に腰を降ろした。

それを見たセアはダントロに深く同情した。

すると再び商隊のリーダーが休憩終了を告げ、再び商隊はナルビナへと向かい始めた。

 

 

 

 

アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領城塞都市ナルビナにて。

旧ダルマスカ王国の北の国境線近くにある城塞都市であり、ダルマスカ建国初期から国境を守る要害であったため2年前の戦争での激戦地となり、多くのダルマスカ兵がこの地で散っていった

そしてその戦争の和平協定の際に、ダルマスカ王国の国王ラミナスが停戦に意を唱えたローゼンバーグ将軍に暗殺され、ダルマスカ王国の滅亡が決定付けられた場所。

数ヶ月前にセアがこの都市を訪れた際には、そんな感慨しかなかったのだが、あの戦争の裏側の一部を知った今となってはまた違った感慨がわいてくる。

 

「またここに来るとはねぇ」

 

城門前にある手ごろな石に腰を降ろしているバルフレアはそう言ってため息を吐いた。

 

「なんだか嫌そうだな?」

「ヴァンから聞いてないのか?俺達は一時ここの地下牢にぶち込まれてたんだぞ」

「ああ、馬鹿弟子が無謀にも一人で王宮に忍び込んだ時に帝国軍に捕まってここの地下牢にぶち込まれたんだったな」

 

王宮に忍び込んだヴァンは【黄昏の破片】を盗んだはいいものの、同じものを狙っていたバルフレア達と邂逅して口論になっている最中に、執政官に着任したヴェインの首を狙う解放軍が王宮に乗り込んできてヴァン達は地下水路から帝国軍の包囲網からの脱出を試みたという。

途中でアーシェ――その時はアマリアという偽名を名乗っていたそうだが――を助けて、ダウンタウンまであと一歩というところで帝国軍に捕縛され、このナルビナに送られた。

その地下牢の最深部に囚われていたのがバッシュで彼の協力を得てヴァン達は脱獄に成功したらしい。

その間セアは帝都アルケイディスにあるドラクロア研究所で仕事をしていたので、ラバナスタに戻った時はその状況に――特にヴァンには逃げ切れないなら王宮に忍び込むなと呆れたものだ。

おかげさまであれ以来ヒマがないなとセアは思った。

 

「……国境が封鎖されているみたいですね」

 

ナブラディア地方へと続く道を封鎖している帝国軍を見て、アーシェが小さい声で言った。

 

「私達がここにいるって知られているんでしょうか?」

 

パンネロも不安そうな声で言った。

 

「いや、それはないとは思うが……」

「でも聞いてみるのが一番早いな。ヴァン……いや、パンネロ。悪いが聞いてきてくれ」

「なんでオレじゃなくてパンネロに替えたんだよ!!」

「今は黙ってろ馬鹿弟子。頼むよパンネロ」

「え? はい、わかりました」

 

パンネロはやや困惑しながらも道を封鎖している帝国軍に事情を聞きにいった。

数分後、城門前に戻ってきたパンネロが事情を説明した。

 

「帝国軍の演習か……」

 

帝国軍が国境を封鎖している理由は旧国境地帯で軍事演習を行っている為だという。

昔はナブラディア軍とダルマスカ軍が合同演習する際にもよく使われていたので、別段不思議なことではない。

ロザリア帝国の脅威が迫る今、アルケイディアも軍の錬度を上げておきたいのだろう。

 

「2週間もする予定ですって?そんなにここで時間を潰している余裕はないわ!」

 

アーシェが声を張り上げる。

事実、こんなところで2週間も足止めをくらっている余裕など今はないのだ。

 

「かと言って、うちのシュトラールが【暁の断片】のせいで動かない以上、危険を覚悟でターミナルから定期便に乗るしか方法はないぜ」

「……別ルートがないか聞いてみるか?」

 

セアの言葉にバルフレアは怪訝な顔をする。

 

「誰にだよ?」

「無論、あそこで国境を封鎖している帝国兵の奴らに」

「どうしても陸路で帝都に行きたいんですってか?怪しまれるのがオチだろ」

「幾らでも偽装できる。そこで出番だ馬鹿弟子」

「え?オレ?」

 

急に水を向けられて驚くヴァン。

 

「いいから。行くぞ」

 

セアはヴァンの手首を掴むとやや強引に引っ張って行った。

 

 

 

こちらに向かってくる青年と少年の2人を認め、帝国兵数人が彼らを囲む。

 

「悪いがここは通行禁止になっているんだ。本国領に用があるなら定期便を利用してくれ」

 

隊長である帝国兵が面頬を上げて申し訳無さそうに2人に言った。

 

「そうなんですか。じゃあナブラディア地方に行くにはどうしたらいいですかね?」

「ナブラディア? あの廃墟に用でもあるのか?」

 

青年の言葉に隊長は怪訝な顔をしながら問う。

ナブラディアはダルマスカと違って先のガルテア戦役で帝国軍の猛攻を受け、首都が謎の大爆発で消滅したこともあり、殆どの都市が廃墟と化している。

結果、ナブラディア地方は帝国の影響下にある一部の都市を除いて魔物が我が物顔で徘徊し、それを承知で帝国から逃げ込んだ犯罪者達が巣食う無法地帯と化している。

そんな場所にわざわざ好き好んで行きたがる人など殆どいないのだ。

 

「ええ。実は師匠から我が弟弟子の最終試練の監督を任されましてね。死都に行かなくてはいけないんです」

 

青年はそう言うと少年に首に腕をまわした。

そして少年が喋れなくなる程度に腕に力を入れる。

 

「死都って、あの死都ナブディスのことか?」

「ええ」

 

死都ナブディス。

ガルテア戦役でかつて栄えた美しきナブラディアの都の成れの果て。

謎の大爆発が原因で首都の街並みは不気味な湿原となり、今はミストが荒れ狂い、凶暴な亜人と死霊がさ迷う魔境となっている。

王宮だけはかろうじてその原形を留めているというがそこも死霊の住みかになっていることに変わりはない。

あんなところに行きたがるのは余程腕に自信がある者か、ただの自殺志願者だ。

 

「それくらいうちの師匠は厳しいので。かくいう自分も死都で業物を手に入れて師匠から免許皆伝されたんですけどね」

 

そう言うと青年は少年の首を絞めている腕とは反対の方の手で腰の剣を抜いた。

 

「これがその業物なんですが」

「ほ~。確かにその辺で売られてる数打ちの剣じゃないな」

「そうなんですか。隊長」

「ああ。かなりの達人の鍛冶屋じゃないとこんな剣は打てねぇよ」

 

部下の質問に隊長は快く答えた

隊長はそれなりに剣の目利きができたので、青年の剣が相当な業物(わざもの)であることがわかった。

それを聞いて部下たちがセアの赤黒い剣を見る。

 

「なるほど。事情はわかったが、ここの封鎖をとくことはできん。

だが、ネブラ河を渡ってモスフォーラ山地を越えるルートなら4日程で死都に行けるだろう」

「ネブラ河はどう渡ればいいんですかね?」

「河沿いにあるそれなりに大きい集落なら対岸に渡る為の渡し舟がある。それに乗せてもらえばいいだろう。

しかし、今からこの街から出ると砂漠で一夜を過ごすことになるぞ」

「夜の砂漠は寒いですからねぇ」

「そうだ。だから今日はこの街で一泊していくといい」

 

その説明を受けてセアはヴァンを引きずってさっきの帝国兵から距離をとるとヴァンの首を絞めていた腕を解いた。

するとヴァンから妙な視線をセアは感じた。

 

「どうした?」

「……別に」

 

よくもあんなにペラペラと嘘を吐けるなと言ってやりたかったが、そうした場合ほぼ確実にセアから稽古という名目で激しい報復を受けるのが容易に想像できたのでヴァンは何も言わなかった。

 

(今までなんで嘘があんなに上手いのか疑問だったけどロザリアの諜報部に所属してたことがあるなら当然なのかな?)

 

ヴァンはそんな風に考えたが、セアは元々一国の君主なので腹芸は昔からできる。

更に700年以上に渡って蓄積された豊富すぎる人生経験がその技量を更に向上させているのだが、ヴァンの思考はそこまで回らなかった。




本当ならこの時期なら既に国境を封鎖していた帝国兵は撤退しているんだけどまだ撤退してないことにしてしまいました。

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(創作意欲が絶賛低下中なので割と切実に)

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