とある雷神の聖杯戦争   作:弥宵

2 / 8
今回も文字数の最高記録を更新した模様。


episode.1 迫り来る運命の夜

 主従の契約を済ませた雷神トールは、改めてイリヤからサーヴァントについて説明を受けていた。

 

「セイバー、アーチャー、ランサーの三騎士クラスは、どれも高いステータスと対魔力スキルを持ってるの。あなたの魔術は対魔力の影響を受けにくいけど、それでも相性がいいとは言えないわ」

 

「確かに、アーチャーはともかくセイバーとランサーは厄介かもな。接近戦に持ち込まれると少しばかり厳しいか」

 

 雷神トールは魔術師である。逆に言えば魔術師でしかない。その肉体はあくまで常人のそれだ。サーヴァントとして現界し、本家の雷神の知名度によりステータスは向上しているものの、歴史や神話に名を残す英雄には及ぶべくもない。

 

「まあ『帯』がある以上力比べなら負けねえし、リーチじゃこっちが上だ。勝算は十分あるさ」

 

「当然よ。わたしのサーヴァントなんだもの、最強でなくちゃ困るわ」

 

「少しくらい格上がいた方が、俺としては嬉しいんだがなあ」

 

 軽口を叩きながらも、イリヤは説明を続ける。

 

「次はライダーね。このクラスは宝具の数が多いことが取り柄ね。その代わり、本人の能力値はあまり高くないことが多いわ」

 

騎乗兵(ライダー)ってくらいだから、機動力はありそうだな。動物にしろ戦車にしろ」

 

「これについては単純ね。宝具を使われる前に速攻で倒すか、」

 

乗り物(アシ)を潰すか、だな」

 

 イリヤの説明を受けて、雷神トールは戦術を組み立てていく。

 

「次はアサシンだけど、これは問題無いわね。アサシンのクラスで召喚される英霊は山の翁、ハサン・サッバーハだけだもの」

 

「イスラム教の暗殺教団か。まあ、直接やり合って負ける気はしないわな。マスターの暗殺には警戒が必要だが……」

 

 がたごと。

 

「ん?…ああ、『投擲の槌(ミョルニル)』に頼むか。俺が側を離れてる間はこいつに守ってもらえばいい」

 

「それがいいわね。『投擲の槌(ミョルニル)』、お願いね」

 

『わかったわ』

 

 対軍宝具であり、臨機応変に攻撃手段を切り替えられる『投擲の槌(ミョルニル)』がついていれば、暗殺者に寝首をかかれることはないだろう。イリヤは納得し、説明を再開する。

 

「最後のキャスターについては言うまでもないわね。魔術師のサーヴァント、あなたには取るに足らない相手かしら?」

 

「そうとも限らないぜ?俺よりも強い魔術師だって少しはいるしな。神霊が召喚できないってんなら『魔神』が出てくることは無いだろうが、『聖人』だの『ワルキューレ』だの、人外じみた奴なんざいくらでもいるぜ」

 

「……あなたの世界の魔術師について、一度詳しく聞いておかないといけないわね」

 

 この世界にも真祖やら究極の一(アルテミット・ワン)やらと人外連中は結構いるのだが、それはそれだ。

 

 

 

 と、イリヤはあることが気になった。

 

「そういえばさっき、アーチャーは敵じゃない、みたいなこと言ってたけど。何か作戦でもあるの?」

 

「言ったろ」

 

 何でもないことのように、雷神トールは続ける。

 

リーチじゃこっちが上だってな(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 最終試験とやらがあるらしい。

 召喚から一週間。アインツベルン八代目当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンから、イリヤに最終試験が言い渡された。その概要はマスターとサーヴァント、つまりはイリヤとトールの二人で森の奥からアインツベルン城まで帰還しろ、というものだ。これに合格すれば、いよいよ聖杯戦争の開催地である冬木市へと向かうことになる。

 

 そんな訳で、二人は森の奥に来ていた。ちなみに『投擲の槌(ミョルニル)』は留守番である。

 

「つーか、この試験って意味あんのか?危険な野生動物なんてせいぜい狼くらいのもんだろ。あとは多少寒いくらいで、サーヴァントを連れてりゃ何も難しいことは無いと思うんだが」

 

「むしろわたしだけでも大丈夫よ。ただ森を抜けるだけだもの」

 

 実際、この試験はサーヴァントを御しきれているかを確かめるためのものなので、難易度はかなり低い。……まあ、聖杯戦争が始まってもいない段階で裏切るようなサーヴァントなど、流石にいないだろうが。

 

「とりあえずさっさと終わらせて日本行こうぜ。こんな堅苦しい場所にいつまでもいたら気が滅入っちまう」

 

日本(むこう)でもアインツベルンのお城で暮らすから、今とあんまり変わらないわよ?」

 

「マジかよ勘弁してくれ……っと、早速お客さんだな」

 

 二人の前に現れたのは狼の群れ。数は十数匹といったところか。

 常人にとっては十分すぎる脅威。だが、ここにいる二人は常人とは程遠い。

 

「こんなのが相手じゃ肩慣らしにもならねえが……まあ、贅沢は言ってられねえか」

 

 雷神トールは小さく呟いた。

 

「『投擲の槌(ミョルニル)』……接続の最終確認。完了後に供給開始」

 

 雷神トールの目の色が、物理的な意味で変わる。その髪に、指先に、青白く淡い光が点いていく。彼が軽く右手を振ると、その五指に二十メートルほどの溶断ブレードが展開される。

 

「うわぁ……」

 

 イリヤが溜め息を溢す。理由の内訳は感嘆が四割、狼への憐れみが六割である。

 

「そら、少しは根性見せろよ?」

 

 雷神トールが無造作に右腕を薙ぐと、それに合わせて溶断ブレードが振るわれる。十匹以上いた狼たちは、一瞬で全員が焼き切られ絶命した。ついでに周囲の木が二十本ほど切り倒された。

 

「ちっ。張り合いの無え奴らだ」

 

「ただの狼に一体何を求めてるのよ」

 

 トールの呟きに、呆れたようにイリヤが返す。

 

「そもそもあの程度の相手なら、わざわざ『投擲の槌(ミョルニル)』に接続するまでもなかったでしょう?」

 

「試運転ってヤツだよ。いざ本番で使えませんじゃ洒落にならねえからな」

 

 この世界に召喚される直前の時点では、雷神トールと『投擲の槌(ミョルニル)』との接続は切れていた。召喚の経緯が特殊だったこともあり、一度調子を確認しておくべきだと判断したので、この試験の中で試運転をしてみることにしたのだ。

 

「それで、調子はどうだったの?」

 

「絶好調。むしろ普段よりいいくらいだ」

 

 前述の通り、彼は雷神トールの知名度によりステータスが向上している。必然的に魔力量も増加しているため、彼の本来のスペックを大きく上回るパフォーマンスを発揮していた。無論、『投擲の槌(ミョルニル)』との接続も問題なく完了している。

 

 さて、接続の確認も済んだことだし、後は帰るだけだ。だが周囲は木に囲まれていて見晴らしが悪く、現在地がわからない。

 

 トールがとった手段は単純明快だった。

 

「邪魔だなこの木。イリヤ、伏せてろ」

 

「え?何を……きゃぁっ⁉︎」

 

 木が邪魔ならば斬り倒せばいい(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ゴバッッ‼︎ と、右手の溶断ブレードが水平に振るわれる。いつの間にか十倍ほどに伸長していたそれは辺り一面の木を一本残さず刈り尽くし、半径二百メートルを更地に変えた。

 

「これで少しは見晴らしがよくなったか。……おっ、あっちに城が見えるな。早く行こうぜ、イリヤ」

 

「…………バ、バカーーーーーーーーー‼︎」

 

 イリヤの渾身の叫びは、誰にも反応されることなく森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで日本に到着である。

 召喚から二週間が経ち、イリヤ、雷神トール、『投擲の槌(ミョルニル)』、メイドのセラとリーゼリットの五人は冬木市にやって来た。

 道中は至って平和だった。雷神トールと『投擲の槌(ミョルニル)』は召喚の特殊性故か霊体化できないが、トールは一般人に混じっても違和感のない格好だし、『投擲の槌(ミョルニル)』は変形できるため割と何とかなった。むしろ、セラとリーゼリットのメイド服の方が目立っていただろう。

 そんな訳でさしたる問題も起こらず、アインツベルン一行は冬木市の拠点となる城に到着した。

 

日本(こっち)に来ても結局城か…しかも洋風」

 

 城なら城で、せっかく日本に来たのだからYASIKIやTENSHUKAKUが見たかった。

 

「仕方ないでしょ。ここがアインツベルン(わたしたち)に一番相性がいいんだから」

 

「それはわかってるけどさ」

 

 雷神トールも本気で不満を言っていた訳ではない。この場所に拠点を置く合理性は認めているし、何より。

 

「土地が広いってのはいいな。これなら思う存分暴れられそうだ」

 

 トールが好んで用いる溶断ブレードは、その性質上周囲のものを少なからず破壊してしまう。無用な被害が及ぶのはトールとしても避けたいので、この広大な土地は都合がいいのだ。

 

  「……ハハッ」

 

 笑みがこぼれる。昂揚が抑えきれない。赴くは未知の戦場、敵は歴戦の英雄たち。こんな夢のような戦いを前に、どうして昂らずにいられようか。

 

「いよいよだ。いよいよ始まるんだな」

 

「ええ。必ず勝つわよ、バーサーカー」

 

「任せとけ」

 

 自らの勝利は確信している。しかし、万が一。この身を打ち負かすほどの強者と出逢えたならば。

 ―――その戦いは、きっとこの上なく心踊る一戦になることだろう。

 

「待ってろよ、英雄(踏み台)共。まとめて俺が叩き潰してやる」

 

 何にせよ、自分がすべきはただ一つ。全力を以って戦うことだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 とある邸宅、その地下の一室にて。

 

「…サーヴァント・ライダー。召喚に応じ参上しました」

 

 今しがた召喚されたライダーは、自身の召喚者に目を向ける。どこか陰鬱な影を含んだ、十五歳程度の少女。彼女は何故か申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。こうして見る限り、戦い慣れした人間ではないようだ。

 まあ、それは自分が補えばいい。幸い魔術師としての才能は相当なものらしく、魔力供給は十全だ。宝具を二、三回発動した程度では、戦闘に支障をきたすことはないだろう。

 

 

 と、耳障りな老人の声が響いた。

 

「呵々、一先ず召喚は成功か。では桜よ、慎二にマスター権を譲るのじゃったな?」

 

「………はい」

 

 召喚して早々マスターを放棄するとは、一体どういうことだろうか。聖杯戦争に参加したい訳ではないということか?巻き込まれただけ、にしてはちゃんと触媒が用意されている。

 そんなことを考えていると、サクラと呼ばれた少女がこちらに声をかけてきた。

 

「……ごめんなさい。これは、わたしの我が儘です」

 

「……いえ。マスターの決定ならば、私はそれに従います」

 

 そう返すと、サクラは一層申し訳なさそうな表情を浮かべて、もう一度小さな声で「ごめんなさい」と言った。

 

「おい、桜!早く僕にマスター権を寄越せよ!」

 

 今度は少年の声。マスター権を寄越せと言っているということは、彼がシンジなのだろう。

 

「はい…令呪を以って命じます。兄さん、間桐慎二をマスターとして認めてください」

 

 サクラの右手に刻まれた令呪の一画が輝きを放ち、その手に一冊の本が生まれた。シンジがそれを受け取る。どうやら、あの本が擬似的なマスターの証となるようだ。

 

「はは……あはは、あはははははははは‼︎これで僕がマスターだ、僕も聖杯戦争の参加者になったんだ‼︎」

 

 シンジが哄笑する。マスターになれたことを喜んでいるようだが、そんなに叶えたい願いでもあるのだろうか。

 

「それで慎二よ、これからどうするのだ?先刻アインツベルンが冬木に入った。既にサーヴァントの召喚も済ませておる。聖杯戦争の幕開けはそう遠くないぞ」

 

「へえ、アインツベルンか……そうだな、まずは遠坂か衛宮に見せびらかしてやろうと思ってたけど、手土産(・・・)を持っていくのも悪くないかもね」

 

 どうやらアインツベルンとやらと事を構えるつもりらしい。正直、今の状態ではサーヴァント戦は厳しいのだが。サクラとは打って変わってシンジからの魔力供給は皆無に等しく、現界を保っているのがやっとな状況だ。宝具を一発でも撃てば消滅してしまうだろう。

 

「サーヴァント戦を行うには魔力が足りぬじゃろう。どうやって補うつもりじゃ?」

 

「そんなの、街の奴らから適当に吸い上げればいいだろ。学校でやってもいいけど、遠坂の奴に邪魔されかねないし」

 

 サクラが何か言おうとしてやめた。シンジを止めようとしたのだろうか。

 

「さあ、行くぞライダー。街の連中から魔力を集めるんだ」

 

「……了解しました、シンジ」

 

 仮とはいえマスターである以上、シンジの命令には従うべきだろう。シンジに続いて地下から出ようとした時、

 

「…ライダー、兄さんをお願いします」

 

 サクラがそんなことを言ってきた。マスターを放棄することと、身勝手な頼みをすることへの謝罪を添えて。

 

「わかりました。私の命に代えても、シンジを必ず守り抜きましょう」

 

 断る、という選択肢は無かった。彼女は自分の召喚者であり、権利を放棄したとはいえマスターであり、何より自分に似ているから。周囲の悪意によって怪物へと歪んでいく、そういう存在だから。根拠は無いが、そんな確信があったから。

 

「ライダー、早くしろよ!」

 

 苛立ち始めたシンジの後を追いながら、ライダーは思う。

 

(……サクラ。私は貴女を助けたい。貴女には私と同じ道を歩んでほしくはない)

 

 彼女は優しい子だ。少し言葉を交わしただけだが、それは十分に伝わってきた。彼女の境遇も何となく察せられた。

 彼女の苦しみを、少しでも和らげられるのならば。そのためならば自分は何でもしよう。ライダーはそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 いよいよ聖杯戦争だ‼︎

 ……と、意気込んだはいいものの、七騎のサーヴァントが出揃うまで聖杯戦争は始まらない。中にはフライングで戦闘を始める連中もいるが。

 

 日本に着いてから一週間。城の清掃やら食料の買い出しやらに駆り出されて運動こそしていたものの、雷神トールは未だに戦闘をしていない。

 

「あぁーーー暇だ……なあイリヤ、早く戦おうぜ、早く早く早く」

 

「我が儘言わないの。もうすぐだから、それまで我慢しなさい」

 

「うぁーーーい……」

 

 最早イリヤが保護者と化している。日本に着いた頃には最高潮だった雷神トールのテンションは、長い間お預けをくらったせいで最底辺まで降下していた。

 

「まずは教会へ行きましょう」

 

 イリヤ曰く、教会には聖杯戦争の監督役がおり、聖杯戦争の参加者は一言連絡を入れる決まりなのだという。

 

「電話でいいじゃねえか」

 

「うちにはそんなもの無いわ」

 

「時代遅れにも程があんだろ」

 

 魔術師は科学を嫌う傾向があるが、現代機器を一切使わない訳ではない。遠坂邸にも間桐邸にも流石に電話くらいはある。

 

「無いものは無いんだから、直接教会に行くしか―――――――っ」

 

 唐突に、イリヤの声が途切れた。

 

「侵入者か」

 

「……ええ。サーヴァントね」

 

「そうみたいだな。俺も知覚した」

 

「これを見て」

 

 イリヤが水晶玉を持ってきて、侵入者の姿を映し出す。

 そこに映るのは青い影。その右手には朱い槍を携えている。

 

 ―――――紛うことなき強者。アレは間違いなく、歴戦の大英雄だ。

 

 雷神トールの口元が吊り上がる。初っ端からこんな相手と戦えるとはついている。さあ戦おう、さあ殺し合おう、さあ俺を楽しませろ―――――!

 

「イリヤ」

 

「ええ」

 

 短く名前を呼ぶと、短く言葉が返る。

 

 

 肯定の返事が。

 

 

 許可の合図が。

 

 

 

「やっちゃえ、バーサーカー」

 

 

 

 遂に狂戦士は解き放たれた。これより先は雷神の戦場だ。

 

 

 ―――運命の夜が、幕を開ける。




聖杯戦争が始まる前に裏切るサーヴァントなどいない。
狂信者「せやな」
ファラオ「嫁が可愛すぎて生きるのが辛い」
徒歩「悪い文明滅すべし」
マッスル「叛逆叛逆ゥ!」
いないったらいない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。