とある雷神の聖杯戦争   作:弥宵

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お久しぶりです。


episode.3 剛力無双

 衛宮士郎は困惑していた。

 今日は日曜日。今は部活もない士郎にとっては当然休日である。そんな日でも朝早くやって来る後輩と姉貴分と共に朝食をとり、部活があるという後輩を送り出し、昼過ぎまで姉貴分と遊んであげた(・・・・・・)後、食材が心許ないのに気づき買い出しに出た。一通りの買い物を済ませ、後は帰るだけといったところで、その二人は現れた。

 

 雪のように白銀の髪に、宝石のような真紅の瞳。一人は二十歳前後、もう一人は十歳前後だろうか。母娘というよりは姉妹という方がしっくりくる。

 そんな二人の内の片方、小さい方の少女がこちらへと向かってきて、すれ違いざまに声を掛けてきたのだ。

 

 

「早く召喚しないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」

 

 

「………え?」

 

 言葉の内容を理解するまで、暫し士郎は呆然と突っ立っていた。いや、理解してからも動けずにいる。内容が分かっても意味は全く分からない。召喚?死ぬ?お兄ちゃん?言われた言葉の全てが理解不能だ。

 そのまま行ってしまった少女を追うように、もう一人の女性も士郎の横を通り去っていく。彼女は何やら興味深そうにこちらを見ていたが、結局会話はなかった。

 

「……何だったんだ?」

 

 士郎は戸惑いながら帰路についた。

 

 

 

 

 

 

「結局、あの少年は何だったのですか?」

 

 イリヤに追いついた雷神トールは、イリヤが唐突な行動を起こした先程の少年について尋ねていた。

 

「お兄ちゃんはお兄ちゃんよ。それから、まず間違いなくマスターの一人になるわ」

 

 イリヤの回答は曖昧なものだったが、トールは気にしない。彼にとって重要なのは家族構成ではないのだ。

 

「戦うのですか?」

 

 敵なのか味方なのか。同盟を組むのか、安全にリタイアさせるのか、本気で殺しにいくのか。お兄ちゃんなどと呼ぶ間柄ならば手心を加えるだろうかとも思ったが故の問いだったが、

 

「殺すわ」

 

 一切の躊躇なく、イリヤは言い切った。

 

「覚悟があるのならば構いませんが。ただ、マスターを殺してしまうと私が戦えないのでやめてください」

 

 マスターが決めた以上、トールとしても戦うことに否やはない。むしろ大歓迎だ。だがマスターが死ねばサーヴァントも消えてしまう。それは我慢ならなかった。

 

(…それに、見ていて気分のいいものでもねえしな)

 

 トールは戦闘狂だが、倫理観は破綻していない。魔術師といえど、見た目十歳前後の少女がいかにも素人といった感じの少年を甚振り殺すさまは、好んで見たいものではない。

 

「まあいいけど。でも戦いが終わったら殺すわよ。お兄ちゃんにはキリツグの罪を償ってもらわなきゃならないんだから」

 

 キリツグというのが誰かは知らないが、どうやら思ったより因縁は深いらしい。一つ小さくため息をついて、トールは微かな苦い感情を頭から追い出した。

 

「それで、これからどちらへ向かうのですか?」

 

「教会よ。口実とはいえ、行かなきゃいけないのには変わりないから。ところでその話し方疲れない?」

 

「超疲れる」

 

「ならやめればいいじゃない」

 

 こちらを観察する視線を黙殺しながら、トールはイリヤに連れられて教会へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふーん、あいつら教会に向かってるみたいだな。追うぞ、ライダー」

 

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 言峰教会。冬木の聖杯戦争における中立地帯であり、聖杯戦争の監督役が在住する地でもある。聖杯戦争の参加者は、参加の旨を監督役に伝えることが義務付けられている。……中には守らない者もいるが。

 とはいえ、外来のマスターならばまだしも、流石に御三家たるアインツベルンの代表であるイリヤが報告をすっぽかす訳にはいかない。そんな訳でイリヤとトールは教会を訪れていた。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。君の聖杯戦争への参加を確かに受諾した」

 

「ええ。じゃあ帰るわね」

 

 イリヤはそう告げ、早々に立ち去ろうとしたが、

 

「待ちたまえ、アインツベルンのマスターよ」

 

「……何かしら」

 

 直後に神父、言峰綺礼に呼び止められ、渋々足を止める。イリヤとしては特にこの男に思うところはないのだが、別段長居をしたい訳ではないし、何より雰囲気が胡散臭いことこの上ない。口調がやや固くなってしまうのは仕方がないことだろう。

 そんな似非神父言峰綺礼は、相変わらず薄い笑みを浮かべている。

 

「いやなに。一つ忠告をしておこうと思ってね」

 

「忠告?」

 

「そうだ。どうやら此度の聖杯戦争は、些か異常事態(イレギュラー)が発生しているらしい」

 

「……そうね。それはわたしも同感よ」

 

 教会の外で待たせている自らのサーヴァントのことが頭によぎる。何せ異世界からの召喚だ。こんな事態が平常運転とか考えたくもない。

 

「ふむ。そう断言するからには、何か根拠があるのかね?」

 

「ええ。でもあなたに話す必要はないわ」

 

 言峰の追求を躱し、今度こそ教会を後にする。

 

「喜べ。君の願いは、ようやく叶う」

 

 その言葉に一切の反応を見せず、イリヤは己の従者の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ようイリヤ。お疲れさん」

 

 イリヤを出迎えた雷神トールの第一声は、普段の彼と同じ口調のものだった。姿はセラのままである。

 

「やっぱり疲れたの?あの話し方」

 

「ああ。なんかもういいかなって」

 

「適当ね…」

 

 気の抜ける会話に、イリヤの頬が緩む。似非神父との会話で、思った以上に疲れていたらしい。

 

「じゃあ帰るか。もう夕方だしな」

 

「そうね、帰りましょう」

 

 二人揃って帰路につき、アインツベルンの敷地に到着する直前、それ(・・)は現れた。

 

 

 

「やあ、初めましてアインツベルン。僕は間桐のマスター、間桐慎二だ」

 

 間桐慎二と名乗った少年の傍には、紫色の髪をした女性が控えている。眼をバイザーのようなもので覆っており、手には鎖のついた短剣を持っている。彼女が間桐のサーヴァントなのだろう。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。それで、まだ日も暮れないうちから何の用かしら」

 

「何の用かって、そんなの決まっているだろう?聖杯戦争だよ聖杯戦争。別に夜じゃなくたって、要は人目につかなければいいんだからさ」

 

 どうやら実力に自信があるようだが、魔術師としてはどう見ても三流以下であろう男に、イリヤは怪訝な目を向ける。

 

「ふうん……それはいいけど、わざわざわたし(アインツベルン)を選ぶなんて、随分と強気なのね」

 

「最初は遠坂のところに行くつもりだったんだけどね。せっかくだから手土産を用意してやろうと思ってさ」

 

「…………へえ。言ってくれるじゃない」

 

 つまり、この男はこう言っているのだ。

 自分たち(アインツベルン)など眼中にない、と。

 そこまで言われては黙っている訳にはいかない。

 

「いいわ、そんなに死に急ぐのなら望み通り叩き潰してあげる。バーサーカー」

 

「りょーかい」

 

 雷神トールが返事をした直後、彼の変身が崩れていく。白髪紅眼から金髪碧眼へ。体格や服装までもが変貌していき、十代半ばの少年の姿に戻る。

 

「さて、やりますかね」

 

 トールが構える。ライダーは警戒しているが、慎二はトールの姿を見るや笑い出した。

 

「くっ、あははははははは!変身魔術なんて使ってるからどんな奴かと思ったら、まさかそんなガキだったとはねえ‼︎こりゃ楽勝だな、やっちまえライダー!」

 

 慎二の言葉に、イリヤは顔を顰めた。自らのサーヴァントを馬鹿にされた上、その相手が態度が大きいだけの小物だというのだから無理もない。

 

「……了解しました、シンジ」

 

 ライダーが前へ出る。放たれる殺気に反応して、数羽の鳥が飛び去っていった。

 

「うわ、ひっでぇ言い様だな。まあ、見た目に関しちゃ否定はしねえがよ」

 

 対するトールは獰猛に笑い、不敵に告げる。

 

「―――ただ、勝ちは俺が貰うぜ」

 

 二騎のサーヴァントが睨み合う。両者間の距離、およそ二十メートル。一瞬の膠着の後、互いに目の前の敵に向かって動き出す。

 

 先に仕掛けたのはトールだった。十指に五メートルほどの溶断ブレードを展開し、ライダー目掛けて振るう。

 

(この状況じゃ『投擲の槌(ミョルニル)』は使えねえ。二十メートルも伸ばしても邪魔なだけだ)

 

 普段トールが好んで使うのは、溶断ブレードを『投擲の槌(ミョルニル)』からの魔力供給によって強化・伸長したものだ。リーチと火力に大きなアドバンテージを持つため使い勝手が良く、トールの主武器(メインウェポン)となっている。

 だがこの状況、即ちイリヤ(マスター)がすぐ後ろに控えている状況では、そのリーチはむしろデメリットとなり得る。うっかり巻き込んでしまっては目も当てられない。

 そんな訳でトールは『投擲の槌(ミョルニル)』には接続せずに溶断ブレードを展開した。

 

「お……らっ!」

 

「………っ!」

 

 振るわれる溶断ブレードを、ライダーは紙一重で回避する。対魔力スキルを持たないライダーにとって、トールの溶断ブレードはかなりの脅威だ。本来よりも遥かに短い五メートルというリーチであっても、彼女の短剣にはやや勝っている。威力は言わずもがな。振るわれる速度こそ然程ではないが、一度に五本も襲いかかってくるのでは回避も容易ではない。

 だが彼女とて英霊(サーヴァント)。この程度で(たお)せる筈もない。五回ほど攻防を繰り返した後、ライダーが動いた。

 

「………シッ‼︎」

 

 小さく、しかし激しく気合を発し、ライダーは疾駆する。火力やリーチはやや劣るとはいえ、相手は華奢な少年だ。如何に英霊といえど、体格は相応に意味をなす。こちらの攻撃も、相手にとって有効打となり得る筈だ。

 ―――なってくれなければ、勝算は限りなく低くなる。

 

「――ハァァァッ‼︎」

 

 避けきれなかった溶断ブレードが身体の至る所に傷を生むが、彼女の疾走は微塵も衰えることはない。一瞬で距離を詰め、短剣の間合いに入る。至近距離では長大な溶断ブレードは本領を発揮できない。この機を逃すまいと、一撃で決めるつもりで全力で短剣を放ち―――

 

 

「残念。惜しかったな」

 

 

 ―――トールは、それを片手で受け止(・・・・・・)めた(・・)

 

「ッ⁉︎」

 

 愕然と、ライダーはバイザーの下で眼を見開く。即座に退避するものの、致命的な隙を晒したライダーをトールが逃す筈もない。五指が閃き、今度こそ無視できない深手を負ってしまう。それでも致命傷は辛うじて避けたが、戦闘続行は厳しいと言わざるを得ない。

 

「狙いは良かったんだがな。力入れすぎて軌道がバレバレだったぜ」

 

「………受けきれない威力で攻撃したつもりでしたが」

 

「力比べじゃ負けねえよ。あの帯(・・・)も締めてることだしな」

 

 楽しそうに、トールは笑う。

 

「やっぱいいな、英霊ってのは。ランサーといいアンタといい、中々骨がある。アンタは実力を出し切れてないみたいだが、それでもここまで耐えるとは大したもんだ」

 

軍神の帯(メギンギョルズ)』。雷神トールが持つ、装着した者の筋力を限界まで上昇させる破格の宝具。スピード(敏捷値)に反映することはできないが、シンプルかつ強力なその効果によって、トールの筋力値はEX(規格外)に至っている。軌道が見えているならば、大概の攻撃は容易く受け止められるだろう。

 

(正直、今のは帯がなきゃやばかったかもな)

 

 サーヴァントとの戦闘は、並の相手との戦闘とは一線を画す。体感的には『聖人』と同等といったところか。ライダー同様、トールにとっても一撃一撃が致命傷になり得るのだ。トールの耐久値はCランクと平均的なため、ライダーの全力の攻撃をまともに受けるのはかなりの危険を伴う。先程の攻撃も、『軍神の帯(メギンギョルズ)』なしで受けていれば押し切られて重傷を負っていたかもしれない。

 だが、それでこそだと。互いに命を削りあう、極限の勝負こそが望みだと、トールは獰猛に笑う。

 

「どうした、まだまだやれるだろ?さあ来いよ、今度は正真正銘の全力でなあ‼︎」

 

「―――――――――――――」

 

 その言葉に、ライダーは一瞬静止し、意を決したようにバイザーに手をかける。

 

 

 

 

 

 ―――――直後、世界が歪んだ。




軍神の帯の能力修正しました。
ステータスのランクのA+やらEXやらが色々と面倒だったので((
幹線道路投げ上げるくらいだし妥当なはず(震え声)
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