とある雷神の聖杯戦争   作:弥宵

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(FTでは)ないです


episode.4 雷神の怒号

 キュベレイ。

 それは魔眼の中でも上位に位置する、ランクにしてA+の『石化の魔眼』。

 高ランクの魔力や加護を持たない者はサーヴァントであろうと問答無用で石化させ、それを防いでも全ステータスを1ランク低下させる。目を合わせずとも相手が認識しただけで効果を発揮し、ライダー自身にすら制御のきかない強力な魔眼。

 常に魔力を消費し、周囲の物を無差別に石化させてしまうため普段は封じているそれを、ライダーは解き放った。

 

「ぐっ………⁉︎」

 

 雷神トールの魔力値はA+。石化そのものは問題なく防いだものの、全身にかかる重圧はかなりのものだ。

 

「石化の魔眼………ゴルゴーン、いやメドゥーサか?」

 

「もう見破られてしまいましたか……魔眼の効き目も薄いようですし」

 

「仮にも魔術師なんでね。このくらいはできるさ」

 

 ライダーの真名を見破ったトールだが、実のところ余裕はあまりない。筋力こそ『帯』の効果で上昇しているものの、基本的にしょっぱい彼のステータスが更にランクダウンを受けている以上、下手をすると一撃でやられかねない。

 

「――ハハッ」

 

 だからこそ(・・・・・)、雷神トールは不敵に笑う。

 己を死地に追い込む強敵に、歓喜に震えながら立ち向かう。

 

「いいぜ、そうこなくっちゃなあ!それでこそ踏み越えがいがあるってもんだ!」

 

 トールの感情に呼応するかの如く、十指の溶断ブレードの熱量が増す。荒ぶる熱は五指と共にライダーに迫りその身を焦がす。

 一方のライダーも短剣を操り応戦する。トールのステータスが低下しているためか、先程に比べるとやや勢いが出てきている。

 

「魔術師、ですか。貴方はバーサーカーと呼ばれていた筈ですが」

 

「魔術師なんてみんな狂ってんだろ」

 

「違いありません」

 

 軽口を叩きながらも二人の攻防は続く。

 溶断ブレードを躱しつつ接近し、鎖で左腕を捉える。引き寄せられる瞬間に右腕を大きく振るい、溶断ブレードが地面を抉り取る。脚を掠めるも間一髪で回避し、一息に懐へ飛び込み蹴りを放つ。

 

「がっ⁉︎」

 

 漸く有効打が入ったが、ライダーは手を緩めることなく攻め続ける。鎖を操り地面に叩きつけ、そのまま引き寄せようとして、

 

「しまっ……!」

 

「脱出完了。ちょいと欲張りすぎたな」

 

 鎖を灼き切って(・・・・・)拘束から逃れたトールに、ライダーは苦い表情を浮かべる。

 魔力の残量から考えて速攻で決着をつけるべきと判断しての猛攻だったが、それが裏目に出たようだ。

 

(……まずいですね)

 

 ライダーはかなり追い込まれていた。

 短剣は今の攻防で鎖を断たれ手元に無く、魔眼を維持する魔力も尽きかけている。このままでは五分と保たないだろう。

 

「な、何やってんだよライダー!お前、そんな奴相手に何苦戦してんだ!とっとと倒せよ間抜け!」

 

 マスター代理の煩わしい声が響く。億劫だが、本来のマスターである桜から託されている以上従う以外の選択肢は無い。

 とはいえ、ここで切り札(宝具)を使えば自分は確実に消滅する。武器を失った以上攻撃手段は他に無いのだが――

 

 

 

「――――ッ」

 

「チッ………!」

 

 

 

 突如飛来した何か(・・)を前に、互いに距離をとる。

 

 遠距離からの狙撃。二人は互いを警戒しつつ、飛来物とそれが放たれた方向へ意識を向ける。その飛来物はちょうど二人の中間の地面へ突き立ち、次の瞬間大爆発を引き起こした。

 

「うおおおおっ⁉︎ 」

 

「くっ…………ッッ‼︎」

 

 両者ともステータスが低下している身、完全に回避することはできず多少の傷を負ってしまう。

 

「オイオイ、郊外とはいえここまで派手にぶっ放すかよ……⁉︎」

 

「アーチャーの狙撃ですか……厄介な」

 

「狙撃っつーか爆撃だろこりゃ………あのビル辺りか?」

 

 アーチャーと思われる射手の位置を大まかに割り出したトールだったが、直後に先程以上の脅威を感じ取る。

 

 

 ―――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)―――

 

 

「ちっ、もう第二射が来やがる‼︎」

 

「バーサーカー!」

 

 イリヤがやや焦ったようにトールを呼ぶ。少女を不安にさせていることに、トールはふと苛立ちを覚えた。

 

 彼女が本来召喚しようとしていたのは、かのヘラクレスだったという。十二の難業をその身一つで成し遂げた、天下無双の大英雄。

 

 ここに居たのがヘラクレスならば、彼女はあんなに不安そうな顔をしていたか?

 

 ヘラクレスならば、ランサーやライダーと自分以上に戦えていたか?

 

 ヘラクレスならば、聖杯の器たる彼女(・・・・・・・・)をあっさりと救うことができるのだろうか――?

 

 

 

(……ふざっけんじゃねえ!!!!)

 

 トールはキレた。一瞬でも自分を疑ったことに激昂し、その弱気を殺し尽くすと言わんばかりに内心で吼えた。

 

(今ここに居るのは他の誰でもねえ、この俺だ、雷神トールだ‼︎だったら俺がやらねえで一体誰がやるってんだよォォオオオ!!!!)

 

 飛来する矢を見据えながら、思考だけは冷静に、それでいて周囲を燃やし尽くさんばかりの熱量を物理的に(・・・・)放ちながらトールは絶叫した。

 

 

「ミョォォォルニィィィィル!!!!」

 

 

 次の瞬間。

 矢に向けて振るわれる右手に展開された溶断ブレードが、ゴバッッ‼︎という音と共に二千倍に延びた(・・・・・・・)

 全長十キロにも達したそれは、飛来する矢をあっさりと消し飛ばし、アーチャーが陣取っていたと思われるビルの屋上を薙ぎ払い、周囲の木や街灯をまとめて両断し、膨大な熱量で大気を灼き尽くした。

 

 

 

 吹き寄せる爆風からイリヤを庇いながら、ある程度平静を取り戻したトールは思案する。

 

(……今、どうして俺はあそこまでブチギレた?)

 

 本来の自分は、あそこまで激昂することはそうそうなかったように思う。初めて上条当麻と会った時はあまりの腑抜けっぷりについキレてしまったが、あれは自分が戦いを楽しめなくなりそうだったからだ。今回のように、自分の不甲斐なさに激昂した記憶はあまりない。

 

 バーサーカーとして召喚された影響だろうか。戦いに割り込んだアーチャーへの怒りが混じっていたからか。

 それとも、この小さな主の悲しむ顔を見たくなかったからだろうか。

 

(まあ何にせよ、ひとまず状況把握が先だ)

 

 爆風で舞い上がった土煙も収まってきたところで、周囲の様子を窺う。

 

「ライダーは撤退………アーチャーも退いたか」

 

 トールが第二矢の迎撃に入った直後、ライダー陣営は離脱していた。元々逃亡を狙っていたのだろう、鮮やかな手並みだった。アーチャーの方は倒した可能性もゼロではないが、おそらく令呪か何かで退避している。

 今回の戦いはここまでということだろう。警戒こそ解かないものの、トールは張りつめていた意識を少し緩め、小さな主へ呼びかける。

 

「さて、帰ろうぜイリヤ。いつまでもここに居ても仕方ないしな」

 

「う、うん…」

 

 妙に明るい様子のトールが気になったのか、イリヤは不思議そうな顔をしている。

 

「ねえ、どうかしたの、バーサーカー?」

 

「いや、存外アンタの事気に入ってるんだなって思ってさ」

 

「ふぇ?」

 

 首を傾げるイリヤに答えず、微笑を浮かべてトールは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠坂凛はぐったりしていた。

 つい先刻まで自身のサーヴァントであるアーチャーを連れて冬木の街を巡っていた彼女だが、今はソファに突っ伏している。優雅なんてなかった。

 

「何なのよあのサーヴァント……神秘の隠匿を何だと思ってるのよ……」

 

「咄嗟の迎撃としては中々のものだったな。あれは流石に肝が冷えた」

 

「アインツベルンは好き勝手するわ、慎二はマスターやってるわ、狙撃手(アーチャー)射程(リーチ)で負けるわ、何もかも無茶苦茶じゃない……」

 

「心外だな。私とて十キロ先の狙撃は可能だぞ」

 

「そういう問題じゃないわよ……!」

 

 凛は街巡りの最後に目撃した戦闘を回想する。

 

 

 

 

 

「凛、戦闘だ」

 

 アーチャーに告げられ、凛はそれを認識した。

 凛が居るビルから七キロほど離れた郊外の土地で戦闘が起こっている。アーチャーとの視覚共有により映し出された映像の中には、二人のマスターと二人のサーヴァント。そのうち一人には見覚えがあった。

 

「…慎二?」

 

 間桐慎二。凛の同級生であり、御三家たる間桐に生まれながら魔術回路を持たない少年。そして、養子に出された彼女の妹の義兄。

 魔術回路を持たない以上、彼がマスターになることはないと踏んでいたが―――

 

「相手は……アインツベルンかしら」

 

 相対する少女は、残る御三家アインツベルンの魔術師だろう。特徴的な純白の髪をしている。

 

 続いてサーヴァントへ目を向ける。慎二の側にいるのは、紫髪の妖艶な美女。鎖のついた短剣を操っている。

 アインツベルンの側は、金髪の華奢な少年。見たところ素手だが、指先から魔術と思われる熱線を放出している。

 見たところ優勢なのはアインツベルン側だろうか。

 

「アインツベルンのサーヴァントはキャスターだと思うけれど……慎二の方はライダーかしら?」

 

「さて、魔術師であってもキャスターとは限らないのではないか?」

 

「セイバーやランサーって感じじゃないし、アサシンもまず違うでしょう?ならその二つかバーサーカーしかないじゃない」

 

 消去法で絞り込める三つのうち、可能性が高いのはやはりライダーとキャスターだろう。両者とも理性は十全に持ち合わせているように見えた。

 と、

 

「―――っ!」

 

 一瞬、凛の身体が硬直した。

 

「これは、魔眼……?これだけ離れていても効果があるなんて、相当高位の魔眼よね…」

 

「石化の魔眼……となると、間桐のサーヴァントはメドゥーサ辺りが適当か」

 

 戦闘を繰り広げるサーヴァント達の考察を行いつつ、アーチャーは凛に問いかける。

 

「それでだ、凛。介入するのかね?」

 

「そうね……貴方の実力も見たいし、とりあえず一発やっちゃって!」

 

「フッ、了解した」

 

 凛の許可が下り、アーチャーは弓と()を展開する。その剣を変形させて矢のような形状にし、そのまま弓に番える。

 

「シッ―――‼︎」

 

 放たれた矢は咄嗟に回避したサーヴァント達の中間に着弾し、

 

「―――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 大爆発を引き起こした。

 

 

 

「――――――、」

 

「凛」

 

「あっ、え、何?」

 

 凛は暫し呆然としていたが、アーチャーの呼びかけに我に返る。

 

「追撃を仕掛けるが構わんかね?首尾よく行けば、ここで一騎仕留められるやもしれん」

 

「……そうね、いいわ、やっちゃってアーチャー」

 

 一つ頷いてアーチャーが番えたのは、螺旋状に捻じれた剣。一本目よりも格段に強い神秘を内包する代物だ。

 

「―――I am the bone of my sword (我が骨子は捩じれ狂う)

 

 

 ―――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)―――

 

 

 第一矢にはなかった詠唱を行い、放たれた第二矢は空間を切り裂きながら突き進み―――

 

 

 ―――金髪のサーヴァントが展開した全長十キロの溶断ブレードによって、一瞬で蒸発した。

 

 

 そのリーチや熱量に、絶句する暇もなく。

 

「―――凛!令呪だ‼︎」

 

「―――私を連れて離脱しなさい、アーチャー‼︎」

 

 迫り来る熱線から、二人は辛うじて脱出した。

 

 

 

 

 

「あれはバーサーカーね、間違いないわ」

 

 時は戻って遠坂邸。立ち直った凛とアーチャーはその戦闘を分析していた。

 

「キャスターの線は捨てたのかね?」

 

「考えてみればそもそもキャスターは拠点防衛に特化したクラスだし、アインツベルンなら御誂え向きの城があるもの。わざわざ出てくる意味はないわ。それに、街中まで届くような馬鹿げた攻撃を素面でやってのける英雄なんて考えたくもないもの」

 

「ふむ。一騎の真名と一騎のクラス、それと多少の手傷の対価が令呪一画か」

 

「どう考えても割に合わないわね……まあ過ぎたことは仕方ないわ。あの暫定バーサーカーは要注意として、次はとりあえずキャスターを探しましょう。あれがキャスターじゃないとするなら、どこかの霊地……例えば柳洞寺辺りに拠点を置いている筈よ」

 

「了解した、だが今夜は休みたまえ。身体的にはともかく、精神的には相当参っているだろう」

 

「そうね……自覚はあるわ。今日は大人しく休みましょうか」

 

 凛は一流の魔術師であり、確かな覚悟を持ってこの聖杯戦争に臨んでいる。だが命の危機に晒されたことによる精神的疲労は、覚悟の有無に関わらず訪れる。アーチャーの提案に素直に従い、凛は休息を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて出鱈目な魔術……外部に供給源があるのかしら?」

 

 柳洞寺に陣取るサーヴァント、キャスターは使い魔を通して一部始終を観察していた。

 

「術式は北欧系……あれは火というより雷ね。ミョルニルと叫んでもいた事だし、雷神トールを元にした術式と見て間違いないでしょう」

 

 神代の魔術師であるキャスターにとって、術式の構成を見破ることなど造作もない。彼女は雷神トールが本物の神霊ではなく、それを模倣した魔術師であることを見抜いていた。

 

「あの射程(リーチ)は脅威とはいえ、神秘の隠匿を考えれば街中で使うことはないでしょう。ああ、でも門番(アサシン)とは相性が悪いかしら」

 

 自身が召喚した(・・・・・・・)サーヴァントであるアサシンは、魔術も宝具も使えない純粋な近接特化型だ。その上この土地から離れられないという事情を鑑みれば、長大なリーチを誇り刀で受け止められない溶断ブレードは非常に相性が悪かった。

 

「外部の供給源……おそらくミョルニルと呼ばれているものを破壊できれば手っ取り早いのだけれど」

 

 あのリーチと威力を実現しているであろう供給源を絶ってしまえば、あの金髪のサーヴァントはおそらく脅威たり得ない。破壊するか、自身の宝具で契約を切ってしまえばそれまでだろう。

 

「それとも―――あの子を手駒にしてしまうのもアリかしら」

 

 火力は確認済み、見た目も少女と見紛うほどに華奢で可愛らしい。当初は最優と称されるセイバーを狙うつもりだったが、あのバーサーカーも条件としては悪くない。むしろ耐魔力を持たない分、こちらの命令に素直に従ってくれるかもしれない。

 

「ふふ―――楽しみね」

 

 自らの悲願のため、消滅寸前だった自分を拾ってくれた主のため、キャスターは暗躍する。

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