「でた! ヴィヴィオのツイストサーブだ!」


気晴らしに書きました。

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インターミドル

 会場を覆う大歓声。誰もが選手達のプレーに夢中になり見入る。インターミドルチャンピオンシップ、数多に広がる次元世界から十代の若者が集まり自らの力を競い合う。管理世界最大のスポーツの祭典と言っても過言ではない。今日も今日とて熱い試合が繰り広げられる。全ての世界において多大なる人気を誇るスポーツ、そう―――

 

 

「きた! ヴィヴィオのツイストサーブだ!」

 

 

 ―――テニスが。

 

 インターミドルとは公式テニス競技会のことであり、3セットマッチで行われる個人戦の大会である。全管理世界から次元世界一を求めプレイヤーが己のテニスをぶつけ合う若き選手の登竜門である。また、有能な選手を管理局が密かにスカウトしているという噂もあり、大会屈指のビッグサーバーとして名を轟かせたクイント・ナカジマや既にプロレベルと謳われたテクニックを駆使したメガーヌ・アルピーノなどが良い例だろう。

 

「いつもより高さも曲がり方も上だよヴィヴィオ、絶好調だね」

「ありがとう。でも、リオのビッグバンも流石の威力だよ。ラケット(クリス)が弾かれちゃったし」

 

 テニスに年齢の差はなく皆平等にコートに立ち、強い者が最後に立っている。そのシンプルさと魔法などなくとも平等に楽しめる点が世界に広まっているゆえんである。また、管理外世界からも時折彗星の如くスタープレイヤーが現れることも人気の一つだろう。

 

 今から十年ほど前、群雄割拠の時代に颯爽と現れた伝説。決勝までの全ての試合において1セットたりとも落とさずに勝ち進んだ『サムライなのは』の名前は今なお関係者の間では語り草となっている。さらに伝説に拍車をかけているのは既に管理局員として働いていたために人命のかかった緊急の任務で決勝を棄権したこともあるだろう。

 

「そう言えばシャンテさんも試合があるんだよね」

「そうだね、試合が無かったら応援しに行くんだけどね」

 

 様々な会場において白熱した試合が行われている。その中でも今日行われている雷帝ヴィクトーリア・ダールグリュンVS聖王教会双剣士シャンテ・アピニオンの試合は注目だろう。不動のトッププレイヤーにルーキーがどう挑むのか、多くの者達が息を呑んで見守っていた。

 

 序盤はシャンテが攻めヴィクトーリアを押しているといった状況である。ヴィクトーリアの方はシャンテのアクロバティックなテニスに戸惑いを覚えているのか中々に攻めきれない。会場全体がまさかの大金星があるかと湧き上がってきたところでシャンテが勝負に出る。

 

「そろそろ見せちゃおうかなー、あれ」

「何をしてくるか分かりませんが早く打っていただけませんか?」

「おっと、もうコールはかかってたっけ。それじゃ、ほい!」

 

 シャンテがセンターラインギリギリにサーブを決めてくるが、ヴィクトーリアは難なくそれをベースライン上に打ち返す。シャンテもそれを返球すると同時にポーチボレーに出る。

 

「攻め時を誤りましたわね。この程度のボールならサイドラインに簡単に―――ッ!?」

「あれはシャンテ選手が二人に!?」

「幻影ですか? それなら!」

 

 解説が現状を叫ぶが観客の大半が訳が分からない。実際に試合をしているヴィクトーリアでさえ訳が分からないのだ。一体どういった理屈で―――1人でダブルスを行っているのか。サイドラインを狙って打ったボールは当然のように後衛のシャンテに打ち返されてしまう。ならば、前衛が幻影なのだろうと今度は前衛に向けて強烈な打球を放つ、が。

 

「残念、無念、また来週ー!」

 

 完璧なボレーを叩きこまれ一歩も動くことなくポイントを落としてしまう。会場に居る誰もが信じるしかなかった。シャンテ・アピニオンは幻影ではなく二人いるのだと。

 

「シャンテの奴、あれ決勝まで隠しておくとか言ってなかったっけ」

「相手の実力から解放せざるを得ないと踏んだのでしょう。あの、ステップを」

「シャンテ印のステップかー」

 

 セコンドであるセインとシスター・シャッハはあの分身の正体を知っていた。あれは高度技術を要するステップにおいて高速で移動しているのである。それが余りにも速いために二人に見えているのである。二人は一人であるがほぼ同時に存在しているために一人で二人なのである。

 

「素晴らしい技術ですわ。ですが、元々相手が二人であると思えば対処は簡単ですわ」

「上手い! 二人のちょうど真ん中にドロップショットだ!」

 

 もとより相手が二人であると割り切れば倒せないものではない。冷静に対処すればよいだけである。元々ダブルスの相手を一人でやるような練習も存在するのだ。何も難しいことはない。そう、二人(・・)ならば。

 

「シャンテバズーカ!」

 

 ベースラインに突き刺さる強烈なストローク。一歩も動かないヴィクトーリア。再び会場は信じられないものを見ることになる。シャンテが三人に増えるという不可思議な出来事を。

 

【ゲーム、アピニオン! 4-0】

 

 湧き上がる会場。ルーキーがあの雷帝を追いつめていることに誰もが興奮を隠せない。当のシャンテも流れが来たと確信したのか観客に向けてピースサインなどを出して調子づいている。そしてシャッハに頭を叩かれているのはご愛敬だろう。

 

 そんな中ヴィクトーリアは静かに執事のエドガーから受け取ったタオルで顔を拭いていた。まさかの苦戦に誰もが焦っているのだろうと思っている中、エドガーは静かに主人に声をかける。

 

「お嬢様、いつまで―――遊んでらっしゃるつもりですか?」

「別に相手を愚弄する気はありませんわ。ただ……少々甘く見ていたのは認めます」

「ならば次のゲームからはお本気でお願いします」

 

 椅子から立ち上がり自らのサービスゲームに入るヴィクトーリア。それを見て意気揚々とレシーブの構えを見せるシャンテ。このままいけば自分勝利は揺るがないと揺らがないと考えながら。

 

「くらいなさい、タンホイザーサーブ!」

 

 そのサーブもまた一言でいえば信じられなかった。テイクバックをした状態でシャンテは固まる。特別早いというわけではない。視認できないというものもない。ただ、そのサーブは―――跳ねずに転がった。

 

「三人でも四人でもかかってきなさい。何人居ようとも―――返せない球を打つだけですので」

「にゃろう……」

 

 その宣言に悔しそうに顔を歪めさせるシャンテ。ヴィクトーリアの言葉は真実であった。シャンテの分身であろうと、実際のダブルスであろうと返球できない球が来ればどこに居ようとも、何人居ようとも意味がない。

 

【30-0】

【40-0】

【ゲーム、ダールグリュン。1-4!】

 

 立て続けにタンホイザーサーブを三本決めてあっという間にサービスゲームを取るヴィクトーリア。その姿には誇り高き雷帝のオーラが漂っていた。思わずそのオーラに臆してしまいそうになるシャンテであったが何とか気持ちを入れ替えてサービスゲームに望む。

 

「もうこっちが4ゲームとってるんだ。サービスゲームを落とさないようにすれば勝てる」

 

 強烈なサーブを打ち込み流れを取り戻そうとするシャンテ。難なくレシーブを返すヴィクトーリア。そこまでは予想の範囲であった。そこから次のラリーに続けていくつもりだった。だが―――体が全く反応できなかった。

 

「先程、言ったはずですわ。返せない球(・・・・・)を打つだけと」

「今のは早すぎて返せないとかそういうレベルじゃない…!」

「お嬢様の眼力(インサイト)を甘く見てもらっては困りますね。お嬢様は相手の骨格から打ち返せぬポイントを正確に射抜きます」

 

 戦慄するシャンテにエドガーが説明を始める。人間には絶対に反応することのできない死角が存在する。それは単純に目に見えぬ位置であったり、骨格からラケットを振れぬ位置であったり多様にあるが共通点はある。それは―――決して返球できぬという点である。

 

 

「ダールグリュン王国(キングダム)。どうかご覧あそばせ」

 

 

 そこからのヴィクトーリアの猛攻は圧倒的なものであった。それも当然であろう相手は本当の意味で返すことが出来ぬのだから。あっという間に追いつき、そして追い越してしまう。その圧倒的な姿に観客はトッププレイヤーの底力を思い知り、そのテニスの美しさに思わず彼女の通り名を叫んでしまうのである。

 

『雷帝っ! 雷帝!! 雷帝っ! 雷帝!!』

【ゲーム、ダールグリュン! 5-4】

 

 宙に舞っているというのに全く軸がぶれることのない奇跡のボディバランス。彼女はスマッシュの構えを見せているだけだというのに観客はその美しさに見入る。これがダールグリュンのテニスである。

 

(わたくし)の美技に酔いしれなさい!」

「誰がそんなのに酔うかぁー!」

「シャンテの奴、ここに来てスマッシュを返した!」

「いえ、あれは……」

 

 最後の気迫を振り絞りヴィクトーリアのスマッシュを跳ね返すシャンテ。しかしながら、絶対死角を突けるヴィクトーリアに対してそのようなことは本来はあり得ない。つまり、ヴィクトーリアはワザ(・・)と返えさせたのである。

 

 スマッシュの威力により吹き飛ばされるシャンテのラケット。そしてボールは計算通りに再びヴィクトーリアの目の前に飛んでいく。相手を徹底的に叩き潰し屈服させる王者のテニス。それこそが―――

 

 

「破滅への輪舞曲(ロンド)ッ!!」

 

 

 雷帝ヴィクトーリアのテニスである。打球は容赦なくシャンテの死角で弾み照明に当たり照明を叩き落とす。それを見届けながら優雅に着陸するヴィクトーリア。

 

【ゲームセットウォンバイ! ヴィクトーリア・ダールグリュン6-4!】

 

 勝どきに手を上げて応えながらヴィクトーリアはエドガーの元に戻り、スポーツドリンクを口にする。その姿からは勝者としての自信とこの大会にかける想いが見て取れた。だが、執事であるエドガーは小言を忘れない。

 

「お嬢様、照明を破壊するのはおやめください。次の試合の迷惑です」

「今度から気を付けますわ」

 

 適当に流しながらヴィクトーリアは悔しそうにするシャンテに目を向け小さく微笑む。やはりテニスは楽しいと。

 




タイトルの割に聖王様の出番が少ないのは気になった試合をテニスで再現するのが主な目的のため。
ただ雷帝コールを出したかっただけなんです。
真田と迷ったけどお嬢様設定を生かすにはこっちだった。

気が向いたら他の試合とかシリーズを書きます。


無印:
なのは「これが私の全力全開ッ!!」
フェイト「避けらんねえ…!」

AS:
アインス「滅びよ……」
なのは「光る玉…! なんて威力なの…!」

大体こんな感じ。


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