トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。 作:袖野 霧亜
「はぁー! 楽しかった!」
ぐいーっと伸びをする折本に対してぐでーっとしている俺。あの、本当に疲れたんで帰りたいんですよ。荷物もあるからなるべくすぐに家でのんびりしたい……。
「どうする? もう帰る……って、もう比企谷はボロボロだしもうお開きだね」
「まぁそうしてくれると助かる。久しぶりにこんな出歩いてだいぶ体力が無くなっちまった」
「だよね。もうゾンビみたいになっててウケる!」
「お前自分の彼氏がゾンビ歩きしてるのを見てウケれるのか……ここまでくると一種の才能か何かだよなお前のそれって」
「遠回しに褒めて──」
「無い」
何をどう受け取れば今のを褒め言葉に聞こえるんだ。ポジティブシンキング過ぎない? 俺がネガティブ過ぎなだけ? あ、そうなの? そうなんですか……。
「よし、じゃあ行くか」
「そうだねー。比企谷も早く家に帰りたいみたいだし、ここで解散しとく?」
「え、いや、今のはお前ん家まで送るって意味で……」
と、ここではっと気づく。もしかして俺ってばでしゃばったのではないか? と。家まで送るなんて烏滸がましい行為だったか? と。
「あ、いや、別に必要じゃ無かったらいいんだ」
それに気づいた俺は咄嗟に自分の出した提案を無かった事にする為にあれこれ言葉を繋ぐ。ぐああああ! 調子に乗るな俺! まだ日が暮れてたらわかるがまだまだ日は仕事中だろうが。大丈夫、お天道様がしっかり監視してくれる!
「…………ぷっ」
「……ん?」
「比企谷慌てすぎだって……! ヤバい……ウケすぎてお腹よじれる……!」
本当におかしいのか腹を抱えてプルプルと震える折本とその姿を見て早々に家に帰り自室のベッドの中に
あー! もうやだぁ! これが黒歴史ってやつなんだな! OK、理解した! 理解したからもういいだろ? この状況から逃れる術を俺にさずけてくれ!
「くっふふふ、ごめんごめん。ぶふっ、じゃあお願いするねー」
「……へぁ?」
「ぶはっ! あっははははは! ひ、ひきがっ、こえっ、ひ〜!」
ナズェワラットゥルンディス! もういいもん八幡お家に帰る!
結論から言って折本を送ることになりました。
決して笑いすぎて涙がちょちょぎれしていて且つ笑顔だったのがかわいいかったからとかそんなチョロすぎって言われるような理由ではない。元々送る予定だったからなんの問題もない。無問題というやつだ。ちなみに無問題の読み方は「もうまんたい」だ。ここ、テストに出るぞ。いや、ホントに出たもん。俺が普通じゃなかったら解けなかったぜ。普通じゃないって自分で言っちゃうんですね……。
それにしても静かだ。あの折本が隣にいるにも関わらず、とても静かな帰り道だ。帰路についてから二人して口を閉ざしている。気まずいとかそういうのは感じはしないが、不思議な感覚が俺を襲う。
なぜそれを感じるかはわからない。ただ、いいものじゃないのはなんとなくわかる。どうにかこの空気を発散させたいんだが、どうにも俺にはそういうスキルが身についていない、いや、身につける必要性が無かったから持ち合わせていない。
それになんでこんな空気になってるのかわかんないし。わからないものはどうにも出来ん。
ちなみに言っておくが、この状況は決して折本は悪くない。
かと言って俺が悪い訳でも無い。
悪いのは空気だけで十分だ。いや、本当は空気も悪くないが空気さんには大きな器を持っていると信じて八つ当たり気味にやらせてもらおう。後で空気さんの代わりに小町に土下座する勢いで謝るから許せ。空気より小町の方が重要度が高い。誰にも否定させない。
「あ、着いたね」
どうやら俺はだいぶ考え込んでいたらしい。気が付けばいつの間にか折本の家にたどり着いていたようだ。ふむ、前来た時と変わらずの姿をしていて何よりだ。
「なんか変な事考えてない? 顔がキモくなっててウケるんだけど」
おっと、折本の家が意外と普通で驚いたとか、ネタにあふれた家だと思ってて肩透かしくらったとかそんな事を考えてたらバレたようだ。
「いや別に。てかキモいって」
「ポーカーフェイス、ちゃんと鍛えないと。今日の比企谷見ててわかったけど結構わかりやすいよ?」
「そうだな。余計な傷を増やさないためにも今後治す方向に努力をする事を前向きに検討しておこう」
「何それ! ウケる!」
「んじゃ、帰るわ」
「スルーとか酷っ! まぁ少し待ってって」
「んだよ──」
キュッと折本の左手で軽く俺の右手を握られる。ほんのりと折本の温もりが手から伝わって来る。柔らかい。そして俺よりも小さい手だった。更に折本はもう片方の手で俺の右手を包み込む様に握る。
……は? いや待て何故今折本は俺の手を握る? why? いやそれよりも近い近い! なんだなんなんだ何が起きている。
折本が暴走した、いやいつも暴走気味だったわ。だがしかし今の折本はいつもとは違う感じがする。暴走してるのは確かだが、こんなに静かな暴走は初めてじゃないか? ちゃんと話をするようになってから一週間経つか経たないかぐらいだから何知ったような口ぶりしてんだよ、と自分に言い聞かせるが、あのいつもそれある! だのウケる! だのと騒いでいる折本しか見たことのない俺にとっては本当に驚天動地とまではいかないが驚きを隠せない。まぁそれ以前に折本の急接近で顔が真っ赤になっているんだろうが。
「……ん、やっぱりポーカーフェイスはいらないかもね」
「は?」
「ひひっ! じゃあまたね比企谷! また学校で!」
「お、おう? またな」
いきなり折本のテンションが元に戻った事に驚いて声が裏返ったがなんとか最後だけでもなんとか持ち直して挨拶を済ませる。
今日は色んな折本が見れた気がして、なんと言うか、悪くない1一日を過ごせた。そんな気がした。
「ほほぉ、やるねぇかおりも」
「それにしても今日のかおりいつもよりイキイキしてたねぇ。比企谷とのデートそんなに楽しかったのかの?」
『ま、いい暇潰しにもなったし打ち上げで何か食べに行かない?』
『あ、それいーねー!』
「ホントウケるよねー。私も混ぜてほしいなー」
『『「「あっ」」』』
「…………」
『『「「…………キ、キグウダネー」」 』』
「今更とぼけられると思ってる? ウケるなー」
「は、ははっ。かおりってばいつもの発音じゃないよ? なんでそんなに平坦なの?」
「ま、まぁ落ち着くんだ。お話だけでも聞くべきだと私は思うんだよ」
『あ、あーそういえば私用事があるんだったー』
『あ、アタシもー』
「まぁまぁ。そんな固い事言わないで、
『『「「は……はい……」」』』
本当にすみませんでした!!!!!!
いや、本当にすみません。前話で投稿ペース上げるとかほざいたのにも関わらず、1ヶ月も空けてしまいました。本当にごめんなさい。
いやあの、本当に俺の残り少ない心が折れかかってしまい、療養してました。あとバイトしまくってました。お金が貯まらなくて泣きそうです。
そんなどーでもいいことはさておき、次の投稿は気分次第です。こっち書くかアナザーを書くか、はたまた息抜きの第三者の悪魔のような囁きで堕ちていく八幡を書くか、もしくは貶められて良い奴として持ち上げられるお話を書きたいな〜とか思っていたり。
とはいったものの、私も来年から未来に向かって走らなくては行けなくなってしまいます(今も活動はしてますが)。そのせいでまた途切れ途切れになるかもしれません。そうしたらまた首を長くして待って頂けると幸いです。
あぁ、そうだ。俺ガイル最新刊発売おめでとうございます。