トラウマの原因が覆されたら、その世界はどうなるか。   作:袖野 霧亜

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お久しぶりです。燃え尽きてました。またやります。ついでに全話細かいとこ書き直しました。


人を貶める行為に、穏便に済ませるという行為は相応しくない。

「葉山、お前の考えは甘すぎる」

 

 それはもうばっさりと、刻は葉山を切り捨てた。いや、実際に葉山の身体じゃなくて考え方を切ったんだからね? バトル漫画とかSchoolDaysとかじゃないんだから当たり前だけど、一応念の為な。

 それはさておき、それも刻の意見には同意だ。

 犯人を見つけないまま穏便に事を済ませる、というのは確かに平和的解決にはなるかもしれない。けど、そんなものは一時的なものだ。ちょっと止めて俺達の目に映らないところでまたコソコソとやり始めるもんだ。小学生でもやる手法だぞ。先生が居ない時を見計らって問題起こして、居ると何もしないか仲良さげな雰囲気出しながら話しかけたりするやつ。ソースは雪ノ下と俺。まぁ小学五年生になったあたりの雪ノ下はやってきたやつ等をお構い無しに叩き潰してたが。

 

「……どうしてそう思ったのか、聞いてもいいか?」

 

 一息つくために出された俺専用のコーヒーに口を付けてから葉山は刻に質問を投げかけた。

 えっ、飲めんのそれ。マッ缶並に甘いヤツだぞ……って中身全然減ってねぇ。ホントにカップの縁に口付けしただけか。なんか表現エッチだな。どこかのタイミングでこのフレーズ使おう。

 

「理由は三つ。一つ目は再犯する可能性が高い。罪を罪として認めさせ、ある程度周りに認知させないと必ずまたやる」

 

 指を一つ立てて言う。

 

「二つ目。そもそもそんな(ぬる)いやり方じゃ現行犯でも無い限り犯人を見つけられやしない」

 

 二本目の指を立てて続けた。

 

「最後に、だ。誰も止めなかったら、愉快犯が生まれ、学校全体で同じ事が起き始める。こうなった場合、被害者は留まるところを知らなくなる」

 

 三つ目の指を上げ「以上だ」と締めくくって刻はカップに口をつけて喉を潤す。

 それにしても、なるほどな。確かに刻の言う通りだ。何であれ、悪意のあるものは人に強い刺激や楽しませる要素を持つ。新しいチェーンメールが出回り始めるのは時間の問題かもしれない。

 だからこそ、刻は葉山の考えを甘いと言ったんだろう。

 

「…………」

 

 一方葉山は顔を少しだけ下げて暗くなっている。目も前髪で見えなくなり、どんな表情をしているのかわからないが、想像は出来る。大抵こういう時はショックを受けたり悲しんでる時にやるものだしな。

 そんな予想とは裏腹に、葉山は腕を机にぐでーっと伸ばしてそのままおでこから頭も乗せ始めた。

 しかも「やっぱりそうだよなぁ〜」と言い始めた。

 

「なんだ、自分でもわかってたのか」

「そりゃあな。さすがにそこまでわからないほどでも無いさ。ただ、その事実から目を逸らしたかっただけさ」

 

 それに、比企谷なら他に策を思いついてくれそうだしね。

 そう言って今度こそカップに口をつけ──いや、やっぱ飲んでねぇわ。さてはコイツ、コーヒー飲めねぇな? パッと見スタバとかでキメてそうな雰囲気なのに飲めませんとか笑うぞ。

 いや、それよりも、だ。

 

「待て。何度も言わせてもらうがあまり俺を買い被りすぎるな。少なくとも今はお前よりも能力値は低いんだぞ」

「ははは。謙遜するなよ比企谷」

「謙遜なんかしてねぇよ」

 

 昔の事を引っ張り過ぎなんだよ。今の俺は昔とは違ぇしな。あんな事はもう二度としないつもりだ。

 

「それで、この件はどうするつもりなんだ? 正直、俺達にやれる事はないと思うが」

「あぁ、それに関しては大丈夫だよ。目星は付いてるから」

「なんだよ、それを早く言えよ。てかわかってるならすぐに解決出来るじゃねぇか帰るぞ」

「待て比企谷。お前はかおりのバイトが終わるまで待たないとだろう?」

「二人して話を終わらせようとしないでくれ……。その目星が厄介だから穏便に済ませたかったんだ」

 

 なんだよ、最初からそう言えよめんどくせぇな。

 そもそも過程飛ばして答えがあるのに隠すとか害悪だろ。お父さん、そんな子に育てた覚えはないぞ! 育てた覚えも父親になった覚えも無いけどな。

 

「それで、目星は誰だ? チェーンメールに書いてあった被害者、つまりはお前の取り巻きか?」

「…………」

「刻、答えを初手から引くな。葉山が恐れなしてる」

 

 たぶん刻の事だから最初から予想はしていたんだろうけど、それにしてもおかしいだろ。絶対某ウルクの王並の未来視か某ドクターだった魔術王の千里眼かってくらいヤバい。

 

「安心しろ、理由まではわからん」

「わかってたらもう人間卒業してるからお前が安心しろ」

「そうでも無いだろう。化物語に出てくる羽川翼だってこの時点でほぼ事の顛末まで予測して解決の手を思いついている頃合いのはずだ」

「あの人は十分人間卒業してるからいいんだよ」

 

 そもそも化物語の主要人物にまともな人間は一人としていないことに気づけ。ちなみに俺の推しは……いや、今はどうでもいいか。

 

「それで原因は? 目星ついてるのか」

「いや……。それさえわかれば話が早いんだが」

「ふむ、それなら犯人の動機を考えてみよう。そこからこじつけである程度わかるはずだ」

「そうは言ってもな。そいつ等の事知らねぇし」

「同じクラスなのにわからないのか八幡……」

「ばっかお前。よく考えてみろ。ただ同じクラスなだけの奴をよく知ってる奴の方がヤバいだろ。友達でも何でもないのに好きなものとか性格とか、全部知ってる奴が目の前に現れてみろ。ストーカーだと疑われるのがオチだ」

 

 昔、雪ノ下を真似して俺の事をイジメてきた奴等の弱点を全部網羅して目の前で披露したらめっちゃ怯えられた挙句何故か先生にチクられて俺が怒られたからな。俺のイジメは無視していたのにここぞとばかりに俺にだけ怒るのは本当に解せぬ。

 

「確かにそうだな。なら葉山。そのいつものメンバーについて教えてくれないか?」

「あぁ、わかった」

 

 そう言うと葉山は制服のポケットからスマホを取り出した。少しフリックをしてからスマホに写った写真を俺達に見せながら最初に金髪の男を指さしながら説明を始める。

 

「戸部からだな。アイツは俺と同じサッカー部だ。金髪で見た目悪そうに見えるけど、一番ノリのいいムードメーカーだな。文化祭とか体育祭とかでも積極的に動いてくれる。いい奴だよ」

 

 その後、今度はかなりガタイがいい奴を指さす。

 

「次に大和だ。大和はラグビー部で、冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりとしたマイペースさとその静かさが人を安心させるっていうのかな。寡黙で慎重な性格なんだ。いい奴だよ」

 

 最後に猿っぽいやつに指さして苦い顔を作り、少し言いよどみながら続ける。

 

「大岡は野球部だ。人懐っこくていつも誰かの味方をしてくれる気のいい性格だ。上下関係にも気を配って礼儀正しいし、いい奴だよ」

 

 …………。

 

「「大岡が怪しいんだな?」」

「どうして!?」

 

 いや明らかに大岡だけおかしかっただろ。俺と刻を前にするならそういうのはしっかり隠さないとそこから考えとか読むし。え? それ人間卒業してるって? ばっか何言ってんだ。これくらい出来るに決まってるだろ。俺の周りだって顔で情報全部取り出してくるからな。つまり俺は普通だ。

 

「はぁ、わかった。でもさっきも言った通りまだ動機がわからないし、証拠も無い。俺も勘でしか判断してないから、大岡を押さえるとか出来ないぞ」

「そうだな。知ってるならわざわざこんな面倒なやり方しないからな」

「先週末から流れたものか……。なんかあるか?」

 

 男三人してうーん、と頭を悩ましていると、折本がなにか閃いたようでパンっと手を叩いた。

 

「そういえばアレあるじゃん。ほら、職業なんちゃら!」

「職業……? あー、あれか」

「それが何か原因になるのか?」

「なるって! アレって確か三人グループで回らないといけないじゃん? でもさ、隼人くんのグループ四人で一人ハブになるからさー、それが嫌だからやったんじゃない?」

 

 なるほど、と少し納得する。

 いやでも、そんな女子グループでよくありそうな事がゴリゴリの運動部の奴等がするのか? でも時系列的にそれくらいしか原因が無いならそれで確定させるしかないな。

 刻も俺と同じ考えのようで少し思考した上でコクリと首を縦に振る。そしてそのまままた思考を巡らせるように顎に手を当てて目を瞑っている。たぶん、解決方法にリソースを振り始めたんだろう。

 

「お手柄だな折本」

「ぶいっ。後でなんか奢ってね〜」

「わかった。葉山にツケといてくれ」

「オッケー」

「今さりげなく全部俺に擦り付けられた気がするのは気のせいか?」

 

 そんな風にワイワイしていると、刻がようやく目を開いてふうっ、と息を吐き出す。

 あるよな、集中を解くと口から息が出ちゃうの。俺もよくやって机の上にあった消しカス吹き飛ばして集めるの面倒くさくなるの。

 

「葉山、やはり穏便な解決方法は見つからない。諦めろ」

「そうか……。比企谷はどうかな? やっぱり──」

「無いな」

 

 キッパリと葉山の言葉を被せるように言う。いや、そもそも嫌がらせを穏便に済ませる方法とかあるわけ無いだろ。そんな方法あるならとうの昔から実施してる。

 そんな俺の言葉にガックリと葉山は項垂れ「そうだよなぁ」と一つだけ零してため息をつく。

 コイツはコイツで色々考えたんだろう。まぁ、コイツ自身根っからの善人っぽいから仕方ない、か。

 

「だがまぁ、解決は出来ないが他の方法があるぞ」

「「えっ?」」

 

 何故か刻にまで驚かれる。いや、まぁ確かにアホみたいな事ばっかしてたから説得力無いかもしれないが、俺だってそこそこ修羅場潜り抜けてきたからな? やれば出来るからな?

 

「まぁいいや。とりあえず葉山よ。俺の案に乗ってみるか?」

 

 その問いに対し、葉山はゴクリと唾を飲み込んで意を決したかのように口を開く。

 

「わかった。俺に出来る事ならなんでもやってみせる」

 

 その答えに満足し、俺も真面目な顔をして葉山にこう伝えた。

 

「そのグループから抜けろ」

 

 ってな。




ほんっとに遅れてすんませんした。軽く発狂してました。

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