翌朝、優紀は畳の敷かれた自室で床に敷布団を敷き、その上で眠っていた。相変わらず仮面を付けた状態であるが、たぬき寝入りではないだろう。
「ふぁ~ぁ」
そんな中、仮面で隠れた口から、大きな欠伸の声が聞こえる。
優紀が目覚め、その次に少しぼんやりした視界で周りを見渡す。
隣に設置された白いベッドには、優紀から渡されたパジャマを着、青紫色の髪をした曲輪が眠り、背中から生えた六本の蜘蛛の脚と、虫腹を器用にたたみ、すぅすぅと可愛い寝息を立てていた。
暑かったのか、掛け布団は地面に落ち、優紀もまた寝ている間に蹴り飛ばしたのか、少し隣に落ちている。
窓の上に掛けられた時計を見ると、午前の10時。そういえば前日、二人で住む家を大掃除していた。それに、夜に面白いバラエティ番組を見て夜ふかしをしてしまった為こんな時間まで寝てしまったのだろう。
一つ大きな伸びをし、周りをキョロキョロと見渡すと、携帯がブルルルとバイブを始めた。
こんな時間に誰だろうと思いながらも、発信先を見ず、通話ボタンを押す。
「もしもし」
曲輪の寝ている部屋から出、扉にもたれてから右耳に携帯を付ける。
『あ、優紀さんですか?』
向こうから女の声が聞こえる。
前日この家に来た他種族間コーディネーターの墨須の声だ。
「はい。どうかしましたか?」
『今日、曲輪ちゃんの私物含め、ベッド等を運ぶので』
「何時頃になりますか?」
聞いてみると、少し間を置き、そうですねぇという声が聞こえ、数瞬の後に回答する。
『13時頃だと思います』
「分かりま――――」
言葉を続けようとした時、がちゃりと音を立てて扉が内側に開いた。完全にもたれていた優紀の身体は一瞬その場に留まったが、後ろに思いっきり引っ張られるように落ちて行く。
頭から床に落ちたのか、後頭部辺りに激痛が走る。
「だ、大丈夫でありんすか!?」
隣から曲輪の声が聞こえる。
「あ、あはは・・・なんとか大丈夫・・・」
『と、とりあえず13時頃に伺いますので』
少し驚いた墨須が言うと、携帯からはツーツーという音が聞こえた。
「誰と連絡していたんでありんすか?」
「墨須さん。13時頃に曲輪さんのベッドとか運ぶんだそうです」
「そうでありんすか。だったら早くご飯を食べに行きんすよ」
言いながら少し笑みを浮かべ、少し急な階段を下りて行く。未だじんわりと痛む後頭部をさすりながら、優紀もそれに倣うように下りて行く。
時刻は変わり、午後1時を過ぎた頃、言っていた通りに物を持ち運ぶ人間がやって来る。
「あ、二階の真正面の部屋です」
その列の先頭にいた隆々とした筋肉をし、ベッドの片側を持ったリーダーらしき人間に指示をすると、その男が大声で蟻の列のように並んでいた皆に大声で告げると、掛け声とともに少し急な階段をもろともせずずかずかと上って行く。
「皆さん元気ですねぇ」
居間に戻り、座布団に正座をする。その前にいる曲輪はテレビの再放送を見ていた。世界の都市伝説を専門家達で徹底的に調べるというものだ。優紀もこれは好きなのでよく見ていた。
少しの間上の音も気にならない程夢中になっていると、居間の入り口の扉を二度のノック音が聞こえ、曲輪と共にそちらを向くと、ストレートロングの黒髪をした墨須が入って来た。
「お騒がせしてすいません」
「いえいえ」
「ところで、全体的に設置するのに1時間以上かかりますので、デー・・・お出かけしてみませんか?」
墨須がなにかをいいかけ、一度わざとらしく咳込んでから言う。
「いいでありんすね」
曲輪が嬉しそうに微笑む。
「そうですね。じゃぁ行って来ますので。終わったら連絡下さい」
墨須が分かりましたと言ったのを確認してから玄関に置かれている財布やら鍵やらの入った外出ウェストバッグを腰に巻き、曲輪と共に外を出る。
外は相変わらずの暑さ。数分動かないだけで倒れそうだ。
薄い生地の上着を肘までめくり、日光を避けるように目の少し上に手を当てながら歩いて行く。
「曲輪さんは暑くないんですか?」
既に疲れたような声を上げる。
彼女の着ている和服は足をすっぽりと隠す程ではなく、前側も開いているが、手はすっぽりと覆われている。それに、優紀も一度成人式に和服を着たが、とても暑く、夏に着るとなるともうそれは地獄だろう。
「これはわっちたちの伝統衣装のようなものでありんす。暑さには負けんせん」
自信ありげに言い返す。
「そうなんですか。いやぁ凄いですねぇ。僕だったら伝統よりも楽を優先しますよ」
言うと、はははと乾いた笑いをし、最後にはぁと溜息混じりに息を吐いた。
「そんなんではいけんせん」
「そうですかねぇ。あ、こっちです」
丁路地を左へと曲がりかけた曲輪の手を右側に引っ張る。
「こっちに店はないでありんすよ?」
少しきょとんとした声を上げる。
確かに、こっから先に店はない。民家も少なくなり、自然は自由に伸びている。木々の中を歩くと、少し向こうに廃墟もある。夜になると心霊スポットと変貌するが、昼間に行くぶんには、これといって問題はない。
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
言いながら曲輪の手を引っ張る。
少し歩いていると、曲輪も乗り気になったのか、歩幅を合わせて行く。
あれから少し歩き、足を止める。いや、自然に足は止まっていた。
自然と出来あがった木々のトンネル、その下に流れている透明度の高い水が穏やかな流れを作り、空を反射していた。少し左を向くと、少し高さのある場所から水が落ち、白いカーテンを作っていた。時折現れる岩肌や、水に沈んだ岩には苔が生え、まるで一つの絵画の世界のようだった。
10年前から変わらないこの絶景。夏、それに今日のような太陽が照りつける日でなければ見れない絶景だ。
木々のトンネルが影を作り、水の流れる音と共に、暑さを忘れさせる。
「よかったでしょう?」
腕を組み、ふふと笑うと、曲輪がこくりと頷いた。
「絶景でありんす・・・」
こちらに目を向けず、曲輪は放心状態のようになっていた。
「よかったです」
言いながら、優紀もまた、その景色を眺め始めた。
ありがとござました~。今回結構遅れました・・・すいません。だって!ようやくHR解放なんですもん!やりこんじゃうじゃん!お陰で睡眠時間減ったけどさ。
さてさて、次回なんですが、出したいキャラクターが決まっておりません。
問題点があったため、訂正させていただきます。
リクエストは活動報告、メッセージでお願いします。申し訳ありません。