でも作風は変わんないかも
カロス地方の静かな街、クノエシティにあるバーでモコシの実で作ったバーボンを飲む一人の男がいた。彼の名前はトマノスケ。10年近く前にホウエンチャンピオン・ダイゴを破り、隕石事件を解決した男だ。しかし、ある機を境にチャンピオンを返上しカロスに旅立っていったのだ。
「・・・俺は何思い出に浸ってんだ」
バーボンを飲み干し、勘定を終えると近くのジムへと足を運んだ。予想通り男共がジムトレーナー達のトレーニングを見学していた。
「ただいま。姫はいるか?」
「トマさんお疲れ様です!マーシュさんなら奥でデザイン考えていると思いますよ」
「すまんな、キリカ」
トマノスケしか使えないテレポート床に乗ると、一瞬でジムリーダーにしてファッションデザイナーのマーシュの仕事部屋にたどり着く。そこにはピンクの着物が似合う黒の長髪に、黒目が大きい女性がいた。彼女がマーシュだ。
「あ、トマさんちょうどよかった。今日の新作の発表なんやけど、ウチのボディーガード頼めるます?」
「頼めるも何も、俺は姫のボディーガードですよ」
「せやったわぁ。忘れてましたわ」
彼がマーシュのボディーガードを勤めてから、彼女に声をかける男性が減った。理由は彼のバトルの強さであり、生半可な戦い方では完封されるからだ。以前彼女におしかけたストーカーが彼の主力の一匹、トドゼルガ相手に一方的にやられたことがあった。それ以来、彼を信頼しジムに置いている。
「さぁ姫、ブティックへ行きましょう」
予想通りマスコミがブティック前に張り込んでおり、新作の発表に胸を膨らませていた。
「春物の発表するんで、いらしてくださいな」
いつもの営業スマイルでマスコミをブティックに招き入れると、ジョウト地方の桜を思い浮かべる桜色を基調にした服や帽子、果てはバックが店の真ん中に置かれていた。トマノスケは店の隅で待機しており取材に答えている彼女の様子を見守っていた。
(このまま平和に終わればいいが)
マーシュがこちらにアイコンタクトを取っている。この合図は彼に男物の新作の試着を頼む時だ。
「姫の気まぐれに応えるかな」
普段の迷彩柄とうって変わって藤色を基調にした、シックだが男性らしさを醸し出す服装に着替え、カメラの前に現れる。
「彼はマーシュさんの専属モデルですか?」
「ウチらのボディーガードどす、ウチより強いんよ」
(全く、余計なことを・・・まぁそれが姫のいいところだがな)
外から何らかの気配を感じたため、ボールを手に外に出た。予想通り挑戦者らしき男が立っていた。
「おいジム戦できねぇのか?さっさとリーダー出しやがれ!」
「待てない男はモテないぞ、かわりに俺が相手してやる。1発勝負だ」
トマノスケがボールを投げると、クロバットが出てきた。対して相手の手持ちはカイリキーだ、結果は手に取るようにわかり、一方的な戦いだった。
「なんだよ強えぇじゃねぇか・・・」
「これでよく5個もバッチ貰えたな。温い、もっと鍛えてきな」
「覚えてろこんちくしょう!」
振り向くと、マーシュではなく自分にカメラやマイクが向けられている。どうやらこちらに注目が集まったらしい。
(ホウエンのコンテスト以来か、こんなに人間寄ってくるのは)
翌日のニュースでクノエシティの特集が上がり、マーシュの新作はもちろんトマノスケのバトルの強さがピックアップされており、一躍時の人となった。もちろん本人は冷めた反応だ。
「トマさん見てや、週刊誌に心ないこと書いてるんや」
「カイリキー相手にクロバットで追い返すも、実は相手は手加減していた・・・馬鹿馬鹿しい、相手にしなくていいです。そいつはそのくらいのレベルの男なんですから」
この日は長年の相棒、ラグラージとトドゼルガを外に出しており川の様子を調べていた。最近ポイ捨てが増えたためゴミ拾いを含めた警備をしている。
「でもトマさんが」
「俺は何を言われてもいい、だが、姫の涙は見たくないんですよ」
「トマさん・・・」
うっすらと頬を火照らせていることがわかった。
「あのぅ姫、疲れてませんか?」
「大丈夫やで。ちょっと心に響いただけどす」
「?今日はジム戦挑戦者と戦闘です。無理をなされるな」
マーシュが少しご機嫌ななめになったことを、トマノスケは気づかなかった。
今日の日程が終わり、再びバーでバーボンのボトルを開けていた。この日は一人ではなくマーシュもいた。彼女はまだ10代の少女なため、酒のかわりにきのみジュースを飲んでいた。
「出会ってから数ヶ月やな、トマさん」
「あの頃の俺は自暴自棄になっていました、姫に拾われなかったら唯の危険人物になったでしょう」
「いややわぁ、トマさんがそんな人になってるなんて思いまへん。だってウチの男慣れしてないジムトレーナー全員の信頼を得ているんどす、ウチのハートも掴まれたんやから」
「・・・勘違いされますから、そんなこと公言しないでくださいね」
「罪な殿方どすな。思いを寄せる乙女が近くにいるのに気づかないなんて・・・」
彼に聞こえない声でつぶやく。
「姫?」
「ううん。夜はまだ長いで、もう少し飲もうでトマさん」
いい男を書くのは難しい限りです