アリスが寺子屋で一日だけ先生として人形作りの授業をすることになり、霖之助に手伝いを頼みにパチュリーと香霖堂へ…みたいなあらすじの話です。

caution!!
カップリング要素等ございます、閲覧の際はご注意ください。

1 / 1
器用で不器用な人形使い

雪が舞い散るある日の冬。 

 

香霖堂に、厚手のコートを羽織った二人の少女が訪ねてきた。

 

雪が溶けて二人のコートがびしょびしょに濡れてしまっていたため、

僕はそれを脱ぐように促し、それを受け取ると暖かい熱を醸す暖炉の近くに

掛けて乾かしてやったが、しかしそれでも二人はまだ寒かったのだろう、ぶつぶつ

と文句を言いながら、自らのコートと並んで暖炉に手をかざしながら寒さに

いら立った心を温めていた。

 

「ほら、これ。」

 

僕は暖かいお茶の入った湯飲みをそれぞれに差し出す。

 

「あら、ありがとう。」

 

内の一人、アリス・マーガトロイドはそう謝意を述べてそれを受け取る。

 

「あなたにしては気が利くわね。」

 

そしてもう一人、パチュリー・ノーレッジも若干とげのある言い方をしながらも、同じく湯飲みを受け取った。

 

二人の魔女が自らの息でお茶を冷ましながら、恐る恐るすすっている

のを見つつ、僕は口火を切った。

 

「それで、こんな雪の日に来るなんて、今日はなにか急な入用なのかい?」

 

「じゃなきゃこんな辺鄙なとこ来ないわよ。」

 

「…暖炉止めるぞ?」

 

僕の言葉にパチュリーは思わず顔をひきつらせた。

 

「……悪かったわよ。」

 

拗ねるパチュリーに、アリスは唇を尖らせる。

 

「ちょっと、パチュリー…今から頼みごとするんだからやめてよ…。

その、ごめんなさい霖之助さん、パチュリーちょっと苛立ってて…あはは。」

 

アリスは笑ってなんとかその場を取り繕った。

 

「…よくわからんが、とにかくまだ体が寒いだろう、必要な商品を教えてくれ、

ここまで持ってきてあげるからさ。」

 

何故かパチュリーがずっと僕を睨み付けているので、出来るだけ早く

用事を済ませたい。

 

「あ…うん、わかったわ。」

 

アリスはそういうと、僕の向かい側の方向を指さした。

 

「えーと…具体的に何が必要か教えてくれるかい?」

 

後ろを振り向きつつ、聞くと、アリスは言った。

 

「…いや、だから指してるじゃない。」

 

「でも君がさしてる方向はトイレで……ああ、トイレ行きたいのか?」

 

「なわけないでしょ…あなたよ、あなた。」

 

「…僕?」

 

僕の向かい側を指してるのかと思ったが、僕自身を指していたらしい。

 

「そう、あなた。」

 

「大胆ね、アリスったら。」

 

そう言ってニヤリと笑うパチュリーに、アリスは心底驚いて言う。

 

「ちょ、何言ってんの、パチュリー!?」

 

アリスは思わず立ち上がる。

 

「…魔理沙に殺されるわよ?」

 

パチュリーは追撃を浴びせる。

機嫌が悪いせいか、今日の彼女はいつもより若干ねちっこい。

 

「だから違うってば!!…ちゃんとあなたには話したでしょ!?

変なこと言わないでよ!!」

 

「…ふっ。」

 

「その意味ありげな笑いやめなさい!!!」

 

 

…早々に雪の降る積もる外へとお帰り頂くべきだろうか。

 

 

 

で、それから。

 

興奮したアリスは、まずは息を整えるために少々間を置いた後、

僕にこう言った。

 

「寺子屋で、人形作りの教室をやるのよ。」

 

「教室ぅ?」

 

僕は目を丸くした。

 

「なによその間の抜けた言い方。」

 

「…あぁすまん、あまりにも君らしくなくてつい。」

 

「…まぁ、自分でもそう思うけど。」

 

アリスはため息をつきつつ椅子に再び腰を下ろす。

 

「とにかく、それをあなたに手伝ってほしいのよ。

…それが言いたかっただけで、別に他意なんてないわ。」

 

そう言ってアリスはパチュリーを睨み付ける。

が、睨まれた本人は素知らぬ顔でお茶をすすっていた。

 

そんな光景を尻目に、僕は問いかける。

 

「いや、そんな事よりなんで急にそんな事に…?」

 

「…こっちが聞きたいわよ…

全く、何であんな頼み受けちゃったんだか…。」

 

お手上げ、という表情で天井を仰ぐアリスに、僕はただ首をかしげる

ばかりだった。

 

 

[newpage]

 

 

数日前の事である。

 

私は人里の小さな広場にていつも通り、人形劇の見世物を終えて客も去った後に

片づけをしていると、

 

遠くで知り合いの女性が子供一人連れて、こちらへ歩いてくるのに気が付いた。

 

「…慧音?」

 

その知り合いの名前を私が呼ぶと、その彼女、上白沢慧音は上機嫌でこちら

に手を振る。

 

「やぁ、アリス。

今日も大人気だったようだな、人形劇は。」

 

「…え、ああ、ありがとう。」

 

礼を言いつつも、私の視線は慧音ではなく慧音の足にひし、と

しがみつき私を見つめる女の子へ向いていた。

 

「ええと…あなた…」

 

私が話しかけようとすると、その子はさっと慧音の後ろに隠れてしまう。

 

「…あ、ご、ごめんなさい!驚かせるつもりじゃ…」

 

私が思わず謝ると、慧音が言った。

 

「ああいや、大丈夫だよ、この子は少しシャイでな。

…ほら、挨拶。」

 

慧音がそうせかすと、女の子はなんとか聞きとれるような小さな声で言った。

 

「…こんにちは。」

 

私は何とか精一杯の笑顔で、返してみる。

 

「…え、ええ…こんにち…」

 

ササッ。

 

「あ…」

 

女の子は怖がった様子で再び慧音の陰に隠れてしまった。

 

正直、自分が他人とのコミュニケーションが苦手だとはわかっていたが、こうも

実際目の当たりにすると、これはこれで傷つく。

 

「ああ…また…すまないアリス、この子もこれで頑張っている方なんだ。」

 

頭を抱える慧音に、私は尋ねた。

 

「いいけど…何か用事なの?」

 

「ああ、そうだった、実はな…」

 

そこまで言いかけると、慧音は女の子にちらり、となにやら目くばせした。

しかし女の子はそんな慧音に向けて激しく首を横に振る。

 

「…はぁ…まぁいい、私から話そう。」

 

慧音は両腕を組んだ。

 

「アリス、君にうちの寺子屋で人形作りの教室をやってほしいんだ。」

 

「…はい?」

 

「もちろんお金は出すぞ…日にちは来週でいいな…あとは内容なんだが…」

 

「いや…ちょ、ちょっと待ってよ慧音!?」

 

「ん?何か問題か?」

 

淡々と事を進めようとする慧音を見て、私は慌てて止めた。

 

「問題大ありよ!なんでそんなこと急に…私子供の相手なんか…」

 

「まだやってもないのに弱音とは…それにこれはこの子たっての願いだ。」

 

「はぁ?」

 

そう言って、思わずその子を見た私の表情が怖かったのだろうか、その子は

再び慧音の背後へと姿を隠す。

 

そんな彼女の頭にぽん、と慧音は手を置いた。

 

「この子はお前の人形劇が大好きらしくてな、お前が人里で人形劇を演るたびに

ここに見に来ていたらしい。」

 

「…そうなの?」

 

私が尋ねると、女の子はまだ怯えた表情をしながらも、こくりとうなずいた。

…なるほど、それで得心がいった、どこかで見たことがある子だとは思っていたのだ。

 

「いわばこの子はお前のいちファンというやつだ、そして今回、人形作りの

教室をアリスにしてほしいと私に相談してくれたのもこの子だ。」

 

「…ファン…。」

 

私はほんの一瞬唇を緩ませたが、すぐに我に返った。

…いけないいけない、慧音に乗せられるところだったわ。

 

「…でも教室だなんて無理。

…その子だけに作り方を教えるならまだしも…。」

 

「いや、最初はそういうつもりではなかったんだ。」

 

「じゃあどうしてそうなったのよ。」

 

「この間、この子が私にアリスの人形劇について楽しげに

話していた時にこの子がふと、

 

『私もあんなお人形さんいっぱい作れたらなぁ』

 

と言ったので、私が

 

『なら教えてもらえばいいじゃないか?彼女は知り合いだから

私が一緒に頼みに行ってあげようか?』

 

そう言ったところ、横でたまたま聞いていた他の生徒の女の子達数人が

 

『えー!!ずるーい!!私たちも教えてほしー!!』

 

…こう言ったので、

 

『そうか、それならちょうど今度、課外授業を何にするか考えていたところだったんだ。

人形作りの教室…うむ、いいな。』

 

…ということになってな。」

 

そこまで言い終わると、慧音は私にグーサインを向けてはにかんだ。

 

「まぁ、そういうわけで仕方なく…」

 

「いや、あんたが言い出しっぺじゃない!!」

 

こんな全力でツッコんだのは、私の長い人生で初めてかもしれない。

 

[newpage]

 

 

「それで、どうして引き受けたんだい?」

 

「つっぱねてたら、その子泣いちゃったんだもの、

…んなことされたらもうどうしようもないじゃない…!」

 

そう訴えるように僕の肩を掴み揺らす半泣きのアリスをなだめていると

店の本棚にある本を出し入れして物色していたパチュリーが言った。

 

「てことで、一人じゃ子供相手はとても無理だからって私とあなたに

泣きついてきたってわけ。」

 

僕は何とかアリスをひきはがして椅子に座らせる

 

「じゃぁ君は手伝うと決めたのか」

 

僕と一緒で普段特別な理由がない限り外へは出ないパチュリーが

人里で子供の相手をする手伝いをしてほしいなどという頼みを了

承するとは…。

そんな僕の意図を察したのか、彼女はジト目で僕を見た。

 

「アリスったら一日中私に頭下げて頼み込んできたのよ。」

 

「そりゃまたタフだな。」

 

どうやらここに来た時に不機嫌だったのは、寒さだけのせいではなかったらしい。

 

「死ぬほど面倒くさかったけど、彼女にはちょくちょく

魔法の研究を手伝ってもらってたし、仕方ないから泣く泣くOKしたのよ。

…まぁ今となっては子供の相手はあなたに任せればいいのだけれどね。」

 

「…あのね。」

 

それ以前に僕はまだ頼みを了承してないし、する気もない。

僕はアリスに言った。

 

「なぁアリス…それを僕に頼むというのは明らかに人選ミスではないだろうか?

人形なんて作ったことないし、僕が子供の扱いに慣れている社交的な人間に見えるかい?」

 

「…でもあなたには服とかの裁縫の技術はあるでしょ、子供の相手

だって霊夢と魔理沙とかの扱いに比べればましじゃない?」

 

「なら、それこそ君一人でやればいいじゃないか。」

 

「…それはまた別の話で…」

 

そう言いながらアリスはそっぽを向いて苦笑いした。

 

「…ごまかすんじゃないよ。

…ていうかその二人には頼んだのかい?僕より先にあたったんだろ?」

 

「魔理沙も霊夢も訪ねたけど、どちらも行方不明、多分またどっか異変の

解決にでも精を出してるんでしょうね。」

 

今は幻想郷なんかより私の方がピンチだっていうのに、とぼそぼそ愚痴をこぼしながら、

アリスは両手で拝むようにして僕に言う。

 

「とにかくお願い!この通り…!!何でもするから…!!」

 

「…おいおい。」

 

困り果てた僕に、本を片手に戻ってきたパチュリーが言った。

 

「ちなみに私は彼女に同じ感じで数時間拝まれてたわね。

とにかくうんと言わない限り動かないわよ、彼女。」

 

アリスは目を潤ませながら僕を見る。

 

………

 

ああもう、そんな目をするんじゃないよ。

 

「あーくそ...

わかった、分かったからもうよしてくれ。」

 

僕の言葉にアリスは思わず手を上げて喜んだ。

 

「ほ、ほんとに!?あ、ありがとう

霖之助!!」

 

 

「だがしかし、ただではやるつもりはない、僕は腐っても商人だ。

それで、今君…何でもやると言ったね?」

 

「え…?」

 

「ちょうど人に頼みたいことがあってね、もし君がやってくれるのであれば、代わりに君の頼みを受けよう。」

 

「もちろん構わないけど、具体的に私は何をやれば…?」

 

おそるおそるそう尋ねるアリスに、僕は少しニヤけた顔で言う。

 

「それは、お楽しみだよ。」

 

僕の言葉に、今日は妙に感情豊かなアリスは、まさに豆鉄砲を食らったような表情になった。

 

「お、お、お、お楽しみ!?それってその…」

 

「で…やるの?やらないの?」

 

アリスはしばらくあたふたと落ち着きのない様子を

見せた後、意を決した様子で言った。

 

「わかったわよ!!や、やってやるわよ!!」

 

「OK、それなら交渉成立だ。」

 

僕は時間がたって冷めてしまった自分の湯飲みを、一気に飲み干すと

ふっと笑ってみせた。

 

[newpage]

 

「そそそそそ…それ…じゃじゃじゃじゃ…人形のののの…」

 

「何をバグってんのよ、アリス。」

 

「ああ…ごめん。

…ええと、どこまで話したっけ、卵はかきまぜた?」

 

「料理か。」

 

「机にあるのは布と綿と裁縫道具一式だけでしょうが。」

 

「も、もちろん冗談よ!やーね二人とも!」

 

そう言いながらもアリスは完全に動揺していた。

 

それを見たパチュリーが、僕に言った。

 

「とりあえず霖之助、あんたのせいなんだからさっさと彼女を落ち着かせなさい。」

 

「なんで僕のせいなんだよ。」

 

「うるさいでくの棒…さっさとするのよメガネ。」

 

理不尽だ。

 

「…なんなんだよ全く…おいアリ…」

 

「そ、それじゃポトフの作り方の続きを細かくレクチャーするわね!!」

 

「だから料理か」 

 

人形はどこ行った。

 

 

 

…僕がアリスに協力する旨を伝えた後、とりあえずまずはアリスが僕たちに

人形の作り方を教えることになったわけだが

 

僕ら三人、椅子に腰かけ机越しに向かい合ったかと思えば、何故かアリスは

ろくに人形作りの指導がせずに上の空となってしまった。パチュリーは

こうなったのは僕のせいだというが、あいにく僕には見当が全くないので始末が悪い。

 

「ほら、戻ってきなさい馬鹿魔女。」

 

パチュリーがアリスの頬を軽く叩いてきつけをする。

するとついに我に返ったのか、はっとしたアリスは周りを見渡した。

 

「…あ、あれ、私はいったい…。」

 

「大丈夫なんにもなかった、何にもなかったのよ。」

 

不自然に真顔で諭すパチュリーを見てアリスはさらに慌てる。

 

「え、何その言い方、怖いんだけど…私何か言った?」

 

『ポトフの作り方を教えようとしてた』なんていってもどうせまた

混乱するだけだろうな。

 

「別に、ちょっと悩んだ様子で唸っていただけだよ。」

 

「…本当でしょうね?」

 

アリスが少し顔を赤らめながら、僕に詰め寄る。

 

「ああ、ほんとに本当、なぁパチュリー。」

 

僕がさりげなくパチュリーに、『合わせろ』との意味の込めた視線を送ると、

パチュリーは欠伸まじりに言った。

 

「ええ、唸り方がただ独特だったってだけよ。」

.

「…おい。」

 

合わせるのか合わせないのかどっちかにしてくれ。

 

「ほら!やっぱり私何か言ったんじゃない…ああもう!」

 

アリスは思わず目の前の机に上半身を丸める。

 

「…君も面倒な子だねぇ…別に言って気が済むなら言ってあげるが。」

 

「いい、やっぱ聞きたくない。」

 

ぴしゃりと言うアリスに、僕はため息を吐く。

 

「…じゃあ、さっさと作り方教えてくれよ、当日まで時間ないんだろ。」

 

アリスはどこか拗ねた様子を見せながらも、とりあえず

一度深呼吸して自分を落ち着かせると、目の前に

置かれた緑色の手袋のようなものを手に取って言った。

 

「はぁ…それじゃ始めるわね。」

 

アリスは一つ軽く咳をする。

 

「…まずあなたたちの前に用意したのは

私が用意したいくつかの色の布と糸とか針の

入った裁縫道具の箱が置いてあるわね。

これでこのパペット人形を作ってもらうわ。」

 

「パペット人形?あの手にはめて動かす奴かい?」

 

アリスはうなずく。

 

「そうよ、最初は上海みたいなちゃんとした人形の

作り方をって思ったんだけどね、パチュリーと話し合って

子供相手に、しかも時間の限られた中でそれは無理って事

になって比較的簡単なこれを教えることにしたの。」

 

「ちなみにそれ提案したの私ね。」

 

布をいじくりながら皮肉っぽく言うパチュリーに、アリスは

手にはめたカエルの人形の口をパクパク動かしながら言った。

 

「はいはいーもちろんー感謝ーしてるわよーパチュリーさん、には~~」

 

『には~』のところで、カエルは口を大きく開き両手を広げ、横にぶるぶると揺れる。

 

「…なにそれ、ブサイクなカエルね。」

 

「そう?私は可愛いと思うんだけど…」

 

「いったいどこがかわいいのよ、センスを疑うわ。」

 

とか何とか言いながら、パチュリーが確実に一瞬そのカエルに見とれていた事を

僕は見逃していない。

 

「これ、可愛いわよね、霖之助さん?」

 

今度は僕に人形をみせながら、アリスは尋ねた。

 

「ああ、少なくとも子供達には受けるんじゃないかな。」

 

「でしょでしょ!他にもいろんな色の布もあるから他のパペット人形だって自由に作れるのよ!

これならあの子も大喜びだわ!ねー?」

 

カエルはくるりとアリスの方を見ると、大きくうなずき、短い手を一生懸命回しながら踊った。

 

「どうでもいいけど、さっさと作り方教えなさいよ…」

 

そんな嬉しそうにはしゃぐアリスに、パチュリーはいらだった様子で言う。

しかし彼女の眼前には既にアリスの持っているカエルの人形の色と同じ、緑色の

布が机に大きく広げられていた。

 

存外二人は嫌そうにしていたように見えて、実はこの状況を

楽しみ始めているようだ。

 

 

[newpage]

 

 

そして人形教室当日。

 

一日教師となったアリスと、アシスタントの僕とパチュリーが、ついに

寺子屋の教室にて慧音の教え子の子供たちと相対することとなった。

 

「ほら、お前たち静かにしろ、いつもの授業とは違うからってはしゃぐんじゃない。」

 

慧音の鶴の一声で、先ほどまではばかることなく騒いでいた子供たちの声は小さく

なり、やがて教室が静まり返った。

それを確認すると、慧音は先生らしいはきはきとした声で言った。

 

「…先週予告した通り、このアリス・マーガトロイド先生がお前たちの為に人形教室を

開いてくれることになった…尚、これはれっきとした授業なので図工の成績として加味されるぞ。

そして今回厚意で教室を開いてくれたアリス先生には、決して失礼のないように。

…それと…」

 

そこまで言うと、さすがに飽きてきたのか生徒の内の一人の男の子が、慧音に言った。

 

「慧音せんせー話また長くなってるぞーーーー。」

 

その生徒の言葉を引き金、他の生徒がどかんと笑いだす。

 

「んな、なんだとぉ!?」

 

怒りで顔が真っ赤になった慧音を制しながら僕は横で固まるアリスに言った。

 

「アリス、慧音は抑えとくからさっさと自己紹介してくれるかい?」

 

「え…あ、うん。」

 

アリスは緊張した様子で教卓の前に立つ。

 

なんとなく気になってはいたが今日のアリスは少しだが化粧を

していた。おそらく先生として少しでも大人っぽくしようと

したのだろう。

 

そんな気合いの入ったアリスが、少し震えた声で生徒たちに言った。

 

「えと…こんばんは、アリス・マーガトロイドっていいます、今日はその、

お日柄もよく…じゃなかった、今日は人形教室という事で皆さんに思い思いの人形を

作ってもらえるように頑張りますので…その、よろしくね?」

 

最後に愛想よく笑って見せたアリスを見て、生徒たちは再び静まり返った。

何か変なことを言っただろうか、とアリスが慌ててどうにか言葉をつけ足そうとしたその時である。

 

「よろしくお願いしまーす!!アリスせんせーーーー!!」

 

子供たちの無邪気な声が、教室に響き渡った。

 

「え…あ…うん、よろしくね。」

 

アリスはきょとんとしながらも、なんと子供たちに今度は心から笑い返した。

 

「いい子達じゃないか、君んとこの生徒。」

 

僕が言うと、慧音はふん、と鼻を鳴らす。

 

「当たり前だ、私の教え子たちだぞ、挨拶だけはしっかりと教え込んでいるからな。」

 

僕と同じく、横でアリスを見守っていたパチュリーがふと思いついたように言った。

 

「…レミィとフランをここに通わせてみようかしら。」

 

「いや、そりゃまずいだろ。」

 

僕の言葉に慧音は首を傾げた。

 

「何故だ、子供たちを襲わないと約束してくれれば私は一向にかまわんぞ。

特にレミリアには前から私が個人的指導をしたかったんだ。」

 

そういうの以前に、子供たちに混ざって勉強するなんて事、あのレミリアの

プライドが許すわけない。

 

「一回咲夜に相談してみるわ。」

 

「…僕は知らないぞ。」

 

まぁとにもかくにも、今日の人形教室は何とかやっていけそうだ。

 

 

 

「さて、君たちの目の前には先ほど取っていった思い思いの色の布やフェルトと作、りたい

パペット人形の型紙、それと針と糸の裁縫道具があると思う。まずは布をその

型紙に沿って前側と後ろ側の2枚分切り取ってみようか。」

 

僕が説明係となり、アリスとパチュリーが子供たちの机を回って子供たち一人ひとりの

質問を受け付けたり、アドバイスをしたりする係に振り分けられた。

本当はアリスが説明係の方が妥当だとは思うのだが、本人が一人ひとり見て回りたい、

と希望したためこういう形になった。

やがて作業が進むにつれて、作業は細かくなり、質問が増え始める。

 

「アリス先生、あの、この縫い方難しくて…。」

 

「ええ、この縫い方はちょっとしたコツを掴めば…」

 

「…わ、ほんとだ!ありがとうございます!!」

 

「せんせーこっちもボタンのつけ方教えてよー!!」

 

「はいはい、すぐいくわね。」

 

アリスの方は少し緊張がほぐれてきたのか、女の子たちに

囲まれて難儀しながらも楽しそうに教えている。

 

一方。

 

「うおお!針に糸が通らねえぇぇ!!パチュリー先生どうすりゃいいんだ!」

 

「針の先につばつけて尖らしてみなさい、そうすりゃ通りやすくなるわよ。」

 

「縫っても縫っても糸が布から取れちまう!どうなってるんだよ!」

 

「だから玉結びしろっつったでしょうが馬鹿。」

 

「痛ぇ!パ、パチュリー先生!針が指に刺さって血が!!」

 

「唾つけりゃ直る…ほら泣かないの、男の子でしょ。」

 

縫い物などしたことのない男の子の相手を、パチュリーは

ぶっきらぼうながらきちんとこなしていた。

…姉貴肌というやつだろうか、めちゃくちゃ意外ではあるが。

 

「最初はひきこもり3人に任せて大丈夫かと心配していたが、なかなかどうして、

大丈夫みたいだな。」

 

先生という職を一時的に離れてのんびりしていた慧音が、感心したように言う。

 

「ひきこもりで悪かったな。」

 

「いや、褒めてるんだ…ただ。」

 

「ただ?」

 

慧音が指さす方向を見ると、子供たちに作り方を教えるアリスの背後で、別の女の子

が一人、おどおどとしながらアリスに話しかけようとしていた。

しかし話しかけようとする寸でのところできゅっと口をつぐむ、どうやらあまり気の強いほうではない子のようだ。

 

「あの子、アリスに聞きたいことがあるみたいだな。」

 

「彼女だよ。」

 

慧音が言う。

 

「何が?」

 

「アリスに人形の作り方を教えてほしいと頼んだ子。」

 

「へぇ、彼女が君の被害者か。お酒を片手に話をすれば盛り上がりそうだ。」

 

僕の言葉に慧音は噛みついた。

 

「被害者だと?私は教師であってあの子を特別扱いする訳にいかなかったからであって

別に課外授業の枠を埋めたかったから利用したつもりは…そう、あれはたまたまで…」

 

「そんなことよりもほら、アリスが彼女に気付いたぞ。」

 

アリスが気配に気づいて振り向き、女の子にどうしたの?と問いかける。

 

話しかけられてびっくりしたのか、女の子は逃げ出そうとアリスに背中を見せようとしたとき。

 

「待って!」

 

アリスがその子の腕を掴む。

 

「あなたも一緒に作りましょ、ほら…こっちに来て。」

 

アリスがそう言って笑顔を見せると、掴んだ手を引く。

女の子は目に涙をためながらもしっかりとうなずく。

 

やがてアリスたちの輪の中へと女の子は溶けていった。

 

 

それを見届けた僕と慧音はほっと胸をなでおろした。

 

「まぁ、結果オーライというやつだな。」

 

「あぁ、これからはあの子も積極的になっていってくれればいいんだが。」

 

「別に無理をして積極的になる必要はないさ、ただ周りなど気にせず自分のやりたい

ことを楽しめればいい。」

 

「お前が言うと説得力があるな。」

 

絶対に彼女褒めるつもりで言ったわけではないだろうが、

とりあえず好意的に受け取っておくことにした。

 

「どうも…ところで君は人形を作らないのかい?」

 

「まぁ、胸のつっかえは今取れたし、ちょうど横には先生がいるし、教えてもらおうかな。」

 

そう言うと、慧音は僕にウインクして笑って見せた。

 

「…ああ…でも僕こっちの仕事が…」

 

「作り方の説明はもうあらかた終わっただろ?

今は悩める生徒を助けるべきじゃないか…霖之助先生?」

 

「…僕をからかっても何にもならないよ。」

 

「いいや、最近お前と会ってなかったからな、リードを取り戻したいだけだ。」

 

「リードって何だよ。」

 

慧音は答えない。

 

「うるさい、ほら行くぞ。」

 

それだけ言うと、慧音は僕の手を引いた。

 

[newpage]

 

子供たちに見送られて寺子屋を後にしたその帰路、アリスが大事そうに何かを抱えていたことに

気付いた。

 

「どうしたんだいそれ?」

 

待ってましたといわんばかりに、上機嫌なアリスは僕に答えた。

 

「これ、寺子屋の女の子の一人にもらったの、猫のパペット人形。

少しほつれたところがあるけど初めてにしてはびっくりするほど

いい出来だわ…あの子きっと才能ある。」

 

おそらくさっき僕が見た子だろう、同じ猫の人形を作っていたし。

 

「そうか…その子のお願い、聞いといてよかったな。」

 

「…うん。」

 

アリスは少し恥ずかし気にそう言った後、ふと意を決したような表情に変わり

パチュリーに言った。

 

「あの…パチュリー、ちょっと私、彼と話があるからここで待っててくれる?」

 

アリスの突然の言葉に、僕は首を傾げた。

 

「え、それってパチュリーには聞かれたくない話なのかい?」

 

「あ、当たり前でしょ!いいから、こっち!」

 

「おい、ちょっと…」

 

「どうでもいいけどその前にアリス、一つ忠告。」

 

パチュリーは疲れたのか、伸びをしながら、アリスに言う。

 

「落ち込んだら、一気に吐き出す方がいいわよ、殴るとか、蹴るとか。」

 

「え、なんのこと?」

 

アリスはそう言いつつも心当たりはあるらしい、目が少し泳いでいるのがわかった。

 

「別にそれだけ、それじゃ私先に帰るから。」

 

パチュリーは手を振ってお別れのジェスチャーをした後

さっさと飛んで帰ってしまった。

 

「え、何…僕は本当にさっぱりなんだが。」

 

「いいから霖之助さんこっち。」

 

彼女に促されるまま僕達は人里の路地を抜け人気のない裏路地にたどり着いた。

 

「いったいなんなんだよ、パチュリーどころか他の人にも聞かれた

くない事なのかい?」

 

僕がそう尋ねると、アリスはこう答えた。

 

「その、まずはお礼が言いたくて。」

 

「礼?」

 

「うん、あなたとパチュリーが助けてくれたおかげで人形教室は上手くいったわ。

子供たちは皆それぞれ思い思いの自分の人形を作れたって喜んでたし。

…だからあなたにお礼をね…ありがとう。」

 

「…まぁ、役に立ったならうれしいが、僕がいなくても君はしっかりやれたと思うよ。

君は責任感のある女性だからね。」

 

僕の言葉にアリスは恐縮する。

 

「そ、そんな事ないわよ、私ひとりじゃとても…あなた達に頼んでよかったって、そう思ってる。」

 

そう言って僕を真っすぐ見つめる彼女の瞳に、僕はなぜか恥ずかしくなって思わず

目を背ける。

 

「あ、ああ…そう言ってくれるならうれしいけど。

けどやはり別にわざわざこんなところで言う必要ないんじゃないかな?」

 

アリスは首を横に振る。

 

「あ、ううん…話したいことはそれだけじゃなくて…あのね、私があなたに手伝い

がほしいと頼んだ時私言ったじゃない…助けてくれたら…その、何でもするって。」

 

「…ああ、そういえばそうだったね。」

 

「それで、あなたが私に頼みたいっていう事、今ここで、聞きたいの。」

 

「え、今?」

 

「そう今。」

 

「…いや別に今じゃなくても…ほら、君も疲れてるだろうしこんな事を頼むのも…ね?」

 

「駄目。」

 

「駄目って…」

 

僕が口ごもると、アリスは突然僕の頬に手を置いた。

 

 

 

「お願い、霖之助。」

 

 

 

掴めば消えてしまいそうな、少女の何かを求める寂しげな声。

 

 

 

「…アリス…君はそこまで…」

 

 

 

ここまでされてしまえば、僕も男だ、彼女の意思に答えなければならない。

 

 

 

僕はアリスの手をそっと握ると、そっと口を開いた。

 

 

[newpage]

 

 

 

「『魔理沙の店へのツケが溜まりすぎて僕の生活費がさすがにピンチだから僕の

代わりに取り返してくれ』…って何っなのよあのヘタレ眼鏡野郎!!」

 

アリスはそう叫ぶと、何かまだ呟きながらうなだれて机に倒れこむ。

 

酔いつぶれた彼女が私の図書館を訪れてからすでに2、3時間は経っただろうか、こいつはさっきから

ずっとこの調子で、一向に帰らない。

 

「で、結局彼を誘惑してみたけど見事に空振り、二日間も怒りと悲しみで酒におぼれ、

最後は私の図書館に転がり込んできた、と。」

 

こちらとしてはただの迷惑だから今すぐかえってほしいのだが、ここまで落ち込ん

だ様子を見るとさすがの私も無下には出来なかった。

 

「うう…いいじゃない、それに酒は戦利品よ戦利品!飲む権利が私にはあーるーの!!!」

 

彼女は飲むといつも若干酔い方が親父臭い。

それを知ってかアリスはいつも宴会の時は飲む量を抑えていたが、今回はそんなことは

気にしなかったらしい。

 

「戦利品って、魔理沙からもらったって事?」

 

荒れるアリスは酒でつぶれかけた声で言う。

 

「むかついてむかついて仕方がなかったから一日中休まず追いかけまわしてやったら

ついに降参したわ…魔理沙ったら『い、いつものアリスじゃないぜ』って言っ

て私の事を悪魔でも見る目で怯えてね、最後はツケ分のお金と彼女

の家にあった高級酒を分捕ってやったわよ!!まぁ、少しはストレスが発散できた

から良かったわ。」

 

アリスはそう早口でまくしたてると、自嘲しながら笑った。

 

完全にタチの悪い八つ当たりね、まぁでも魔理沙も悪いとこあるし何とも言えないけど。

…ついでに図書館から魔理沙が奪った本を取り返してくれたらアリスを迎える時の

待遇がもう少し変わったんだけどね。

 

「…だから言ったでしょ期待するなって。」

 

私はさっき『こあ』に持ってこさせたグラスに入った水をアリスに

差し出しながら言った。

 

 

「そりゃ私だってどうせそういう事じゃないんだろうとは思ったけど、今日の

私を見たらちょっとは考えてくれるかなって思うじゃない!?なのにあの浮気

男、慧音といつの間にかイチャイチャしてたし…私気合い入れて化粧までしたのに彼ほとん

ど気付いてなかったみたいだし…!!何なのよもう!!」

 

アリスはその水を一気に飲み干すが、彼女のうっぷんは未だ収ま

ってはいないように見えた。

 

「まぁあの馬鹿の事だから気づいてはいたかもしれないけどそれでも自分

のためにしてるなんて夢にも思わないでしょうね。」

 

そんな事期待するだけ無駄だという事が、この純情少女にはまだわからない。

こういうところだけは、アリスは魔理沙よりもずっと子供である。

 

「もう今日は紅魔館の酒を全部飲んでやるわ!!今夜はねかさないわよパチュリー!」

 

「ここは私の家だし、紅魔館の酒を全部飲んだりしたら咲夜に八つ裂きにされるわよ。」

 

私が呆れ顔でそう言うと、彼女はまた大粒の涙を流して崩れた。

 

「ううう…パチュリーまで私の事拒絶するのね…!!みんなみんな本当に

ひどすぎるわよ…」

 

アリスが目にためた涙をぬぐいながら、彼女はふと机に置いてあった犬の人形に気が付いた。

 

「これ、霖之助さんがお店で最初に作った人形じゃない、なんでここに。」

 

そう尋ねるアリスに、私は言った。

 

「は?アイツが作ったのは犬じゃなくて牛の人形でしょ?」

 

「え…いや牛の人形はパチュリーが作ったやつじゃ…」

 

「全く…明らかに頭混乱しちゃってるみたいね、近くの洗面所行って顔洗ってきなさいな。」

 

アリスの持っていた人形を私が取り返すと、図書館の扉の前で待機し

ていた『こあ』を呼び出し、千鳥足のアリスを担がせ、洗面所に運ばせた。

 

二人が図書館を出ていくのを見送ると、一人残った私は手に持った犬の

人形を手にはめる。

 

「チャンスはやったけど、この私の戦利品までやるわけないわよ…当たり前よね?」

 

私がそう尋ねると、ブサイクな犬は口を大きく開けつつ頷く。

 

「やっぱブサイクね…あいつの作ったものらしいわ。」

 

 

私の為に、手を叩いたり、頭を振ったりと、犬の人形は健気に踊り続ける。

 

 

…仕方ない、アリスが帰ってくるまで、この犬ともう少し遊んでやることにしよう。

 

 

「…しっかしまぁ、ほんと、ブサイクね。」

 

 

そう呟く私の口元は微笑んでいた。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。