もしも、サチの父親がとある八極拳士だったら。
曲を聴きながらどうぞ。
サチを生かすにはこれしかないと思いました。(小並感
もしも、サチの父親がとある八極拳士だったら。
◆
―――小さな頃、お父さんと古い映画を見た事がある。
映画のタイトルはもう思い出せないけれど、とある登場人物の最期だけは強く心に残っている。
「I've seen things you people wouldn't believe. Attack ships on fire off the shoulder of Orion.
I've watched c-beams glitter in the dark near the Tannhäuser Gate.
All those ... moments will be lost in time, like tears...in rain. Time to die…」
はにかんだ様な、子供の様な笑顔を浮かべて死んでしまうその人を見て、私はとても悲しくなって泣いてしまった。
こんな血まみれなのに痛くないの?自分が死んじゃうのに、何で笑っていられるの?
確か、そんな事を泣きながらお父さんに言ったと思う。
『彼は短命を宿命付けられた人造人間だったが、人生を生ききった一人の男だったんだ』
お父さんはうっすらと涙を流しながら私にそう答えた。
人生を生ききる。
当時の私にはお父さんの言っている言葉の意味がよく分からなかったけれど、とても大事な事だってことは何となく分かった。
『サチ、この先どんなに打ちのめされても、生ききる事を忘れるな。どんな状況でもだ。まだお前には分からないだろうが、安いプライドを持て。安いプライドだ。どんな人間でも”安いプライド”があれば戦えるんだ。何とだって、誰とだって』
『う~、よく分からないよお父さん。戦わないといけないの?わたし戦うのは嫌だよ』
『はは、いつかお前にも気付く日が来るさ、サチ。さあ!お父さんと一緒に今日も鍛錬だ!…立派な八極拳士になれよ』
―――懐かしい、遠い遠い思い出。
『BRAVE LOVE』
「サチ!一度下がるんだ!」
「うん、キリト」
―――多分、一目惚れってやつだったんだと思う。
彼を初めて見た時から、胸に熱い鼓動が聞こえてきた。この偶然の出会いで、自分の中の何かが動き始めたんだと今なら分かる。
どこか冷めたような、浮世離れしてるような印象の彼だけれど、その瞳は常に明日を見つめていた。このデスゲームに嫌気が差していた私にとって、そんな彼の瞳にはすごく勇気づけられた。
この世界に囚われても、生きようっていう意志が、ぜったいに生き残るんだっていう気持ち、勇気が彼にはあった。だからどうか、その勇気をいつまでも忘れないでほしい。私の夢はそのたった一つだけ。
この世界は夜空に星がきらめくように、当たり前のように、人が死んでいく。それがこのデスゲーム。HPが0になっただけで人は死ぬ。これが私達の運命。・・・ならいっそのこと、下に飛び降りてみようか。
「君は死なない。いつかきっと、このゲームがクリアされる時まで」
絶対現実に帰れる。約束するよ。
彼は私に毎晩そう言ってくれる。でもごめんなさい、キリト。―――私には無理だよ。未来は、キリトみたいな人の為だけにあるんだよ。君みたいな人だけを、裏切らないんだよ。
◇
「あの星が見えるか?星があるって事は、この世界にも宇宙があるってことじゃないか?」
「はあ・・・?」
「ファンタジーな世界にいるわけなんだから、こんな事を想像したっていいだろう?この銀河の海を渡って冒険する!…悪くはないと思わないか?サチ」
「格好つけすぎ・・・。しかもクサいし」
彼は一体何を考えているんだろう。最近彼と話していると、私はひどく不安定になる。何でそんなに楽観できるの?まだこのデスゲームから逃げ出せないままでいるんだよ?
何で、そんなに生き生きできるの?
「―――生ききりたいからだ」
「・・・・・え?」
「どんな場所でも、どんな世界でも、俺は後悔せず人生を生ききりたい。それだけさ」
その言葉は、
「サチ。ここでも現実でも、この先、孤独な闇が君の行く手を遮ろうとしても、君の信じている夢だけは誰にも譲らないでくれ」
遠い昔に―――
「夢なんて、そんなもの私もってない!」
この世界に囚われた時から、お父さんが家を出て行った時から、そんなものは。
「私には!夢どころか希望すら、何ももってない!キリトとは違う!」
「違わない!何故なら、君は戦っているからだ!!」
「はあ?!」
「何も持っていない人間が、今日まで戦ってこれるわけがない!!!」
違う、違う。
私はこの世界をただあてもなく彷徨っているだけ。他には、何も無いんだもの。
「これが運命だからって諦めるな」
うるさい、うるさい…!
「現実に、一緒に帰ろうサチ。約束したろう?必ず、帰れるって」
そんなちっぽけな言葉、安い言葉で!!!
『安いプライドだ』
「あ・・・・」
「未来はけして、君を裏切らないよ。サチ」
◇
『父さんの自慢は何かって?色々あるけれど・・・そうだな。 地球上で一番強い人間とストリートファイトした事がある』
『ほんとう?お父さんかっこいい!』
私の夢。遠い遠い、星屑のような思い出。
忘れていた事を思い出したよ。
・・・・本当は私、本当は、
『お父さんお父さん!
わたしね、大きくなったらお父さんみたいな人に―――』
―――どうか。この胸に勇気よ、夢よ。
ここがデスゲームだろうとも、後悔や諦観が拡がろうとも知ったことじゃない。
よみがえれ。
「クリスタル無効化エリアか・・・」
「どうする!?クリスタルがきかないなんて・・・!」
この胸に、彼への愛を。
私は、君だけを―――。
「おい!! サチ!?」
「皆、戦うよ。戦って戦って血路を開くしかない。生ききるには、敵を全員、屠ればいいんだよ」
「やるしかないか・・・!」
「お前達一体どうしたんだよ!?敵は俺達よりレベルが高いしこの数だぞ!!!」
だから、何?
「一つ、教えておいてあげるよテツオ。テツオに欠けている…足りないものだよ」
「はあ・・・!?」
「分からない? ”安いプライド”だよ。私はコイツにしがみついているの。ピンとこないかな。
どんな人間でも、安いプライドがあれば戦えるんだ。何とだって!この世界とだって!!」
瞬間、地面が人の足跡の形で潰れ、一撃で敵の一団が吹き飛ぶ。
「・・・へ?サチ?」
だらんと左腕を下げ、右手を縦拳に構え敵に対して半身の姿勢。そこからの、所謂鉄山靠の一撃。
「記録に挑戦してみようか?私の打を実際三度受けきったやつはお父さんを含めて、いない。」
「これって確か八極拳・・・?体術スキル?」
「八極拳士は一撃で相手を倒す。八極とは、大爆発の事だ」
吹き飛ぶ吹き飛ぶ敵の一群、敵の一団。蒼ざめた瞳で、私は炎を見据える。
でも、
「キリト!後ろだ!」
「ぐあ!!」
「キリトがやべえ!」
「なんだ!?奴等キリトばかり狙ってきてるぞ!サチが頑張ってるけどこの数じゃ援護しようにも・・・!」
「キリト!」
このままじゃ、キリトが死ぬ・・・?
そう思った瞬間。彼との思い出が私の中に蘇る。私と彼は、他の人達には信じられないものを見てきた。
現実の世界では見た事も聞いた事もないようなモンスター。罠がひしめいていて、強大なボスがいた危険なダンジョン。苦しかったけれど、嫌じゃなかった。 彼と一緒だったから。
そんな思い出も、時とともに消えてしまうのかな。雨の中の、涙のように。
ふいに笑みがこぼれてしまう。
多分、あの映画の男の人のような笑顔だと思う。
キリト。
私にとって、君は、暗い道の向こうでいつも私を照らしてくれた星みたいなものだったよ。君と会えて、一緒にいられて、ほんとによかった。
ありがとう。
……とか色々、君に言いたいことは…いくつか…あるんだよ。
だから彼を襲う敵なんかには、私達の仲を邪魔する敵なんかには、
私は~~・・・・・・・・・・・負けられないよね
誰だって、その道じゃ負けたくない…って事が…あるよね…
まあ・・・一言で言うなら、
テメエら
ホンキ
「本 気 に さ せ た な」
立ち上がれ、そして立ち向かえ。
未来はけして、私達を裏切らない。